第2話 do

「ところでそれはなんだい?」


 ふと気になったのか、渡り鳥が聞いた。


「コンビニで買った。安もんのチョコだよ」


 僕はつぶやいた。渡り鳥は続けた。僕は353円のチョコを口の中に落とした。


 あー。退屈だ。こんな茶番に付き合わされる身になってほしい。それに会話に実感がなかったし。暖簾に腕押しとかいうやつだ、きっと。とにかく、こんな状況に巻き込まないでほしかった。こんな状況をうまく言えないけど、なかなかレアなケースだと自分でも思った。早く終わらせたい。


 チョコを口に落とすまでに考えていたことがここまで。


「そうか、お嬢さん。なら安心して死ねるね」


 渡り鳥の声がした。


 チョコを噛む歯が途中で空振った。口にどろり、と何かが滴った。どこか苦くてどこか甘くて、くどい味がした。びっくりした。僕は焦りつつ、それを悟られないようにパッケージを見た。チョコだと思ってたらどうやらウイスキーボンボンだったようだ。



   酔えそうな味がした。

 死にたがりであるならば、本望だ。

 だから、言い切ってやった。



「そうか、なら死んでくれ、早く愛してやれ」

「あぁ、はやく彼女の元へ行きたい」


 僕はもう会話を閉めることにした。どうせ僕には分からない。愛するが故死にたがるのか。何故こうも簡単に愛と死を天秤にかけるのか。この死にたがりはどうかしてる。


「すまないねぇ、関係のない君に辛い思いをさせてしまうなんて」

「そう思っているなら最初からやらないでくれ」


 結構本気で言ってみた。だって関係ないから。


「でも、私は辞めるつもりがないことを君も知っているだろう?」


 あぁ、まったくだ。

 そうやって、言う必要なんてないのに、ただ言ってみただけだった。見てわかった。そんな奴はどこにでもいる。

 しばらく、沈黙が続いた。気がした。本当は短かったのかもしれない。でもそれは長い長い沈黙だった。

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