渡り鳥の恋
第1話 What
「お嬢さん。君は私を殺そうとしたのかい?」
灰色の狭い部屋だった。狭い部屋に窓がひとつ。うっすらと暗くなった空。一羽と一人だけ。ただ、冷たさが張り詰めていた。この部屋には、暖房も冷房もないが、それが不快でも無かった。
そこで、渡り鳥は朗々と語った。
「あぁ、そのつもりだった」
だから僕は答えた。そして、ポケットから菓子の小包を取り出しながら、
「この長い首を切り落とせば……」
「殺せると思ってた……んだろう?」
渡り鳥は僕の言葉を続けた。僕は小包の袋を破いた。
「でも、上手くいかなかったようだね」
「まさか首があんなに切れないとは思わなかったんだ」
僕は素直な感想を伝えた。
「この首は見た目よりもうんと固いんだよ」
「固いっていうか、綺麗に切りにくいんだ」
「まぁ、君のはなかなか綺麗には切れなさそうな選択だがね」
渡り鳥はやれやれと首を振った。
******
白くて、長い首をして、大きな羽を持っている、黄色のくちばしがアクセントの、大きな渡り鳥。
きっと僕が僕ではなくて、例えばもっと一般的感覚を持つ人ならば、こいつのことを「白鳥」だとか「スワン」だとかこいつを指差して、そう言っているのだろうか。そうかもしれない。
だが、僕は実際に白鳥を見たことはなかった。見たことのないものは存在しないことと似ている。それに、渡り鳥が僕と初めて会った時に「自分は渡り鳥だから、渡り鳥と呼んでくれ」と言っていたから、結果として僕は「渡り鳥」と呼んでいた。
******
「それは余計なお世話だな」
僕は苦笑いした。
「しかし、お嬢さん。人生上手くいくことのほうがずっと少ないよ。上手くいかないことばかりだ。気にしちゃだめだよ」
「殺される側から慰められる思わなかったな」
「基本なんでもそうだろうね。大体の物事はいくら考えたところで結果が見えてこないままであり、実際に動いて何かを成し遂げようと思っても、上手くいかないことばかりだよ、お嬢さん」
そんなものなのかと妙に納得した。僕は口の上にチョコを持っていった。
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