第52話 いつか再チャレンジみたいです

 徐々に地面が近くなり、俺は落とし穴の底に着いた。

 どうやら、落とし穴の底にもちゃんと空気があるようだ。

 …これで酸素が無かったら、俺って今頃死んでたんじゃね?

 そう思うと、すごく怖くなってきた。


「とりあえず、この近くにアイラは居るのか?」

「えーとね…この近くに三人ともいるみたいだよ!」

「そうか…じゃあ、速攻で助け出して、速攻でダンジョンを攻略するか。」

「はーい」


 そう言うと、俺はダンジョンの通路を半分ほどの力で駆け抜ける。道は一本しかないから、迷う心配がないという何ともうれしいおまけつき!

 俺の方の上でフェルが嬉しそうにはしゃいでいるが、何が面白いんだかよくわからんな。

 そのまま走り続けること約2分、薄暗い通路の中に一か所だけ光る扉があった。


「ここはなんだ?」


 そう尋ねると


「えーと、ここはこのダンジョンで死んでいった人たちのアイテムとか装備が集まる場所だね。一つのダンジョンに一つはある部屋だよ。」

「なるほど、どうりでダンジョン内で死んだ人の死体を一度も見たことがないわけだ。そりゃ死体が残ってたら環境が悪くなるだけだもんな。」

「そういうことだね!」


 そう言うと、フェルは何がおかしいのか分からないが、笑っている。


「なぁ、フェル…さっきからずっと笑っているが、何が楽しいんだ?」


 これで、俺が騙されてて命を奪われるとかいう展開にはならないでほしい…。


「私と普通に接してくれる人間がいたのが嬉しいんだ!今まであった人達はみんな私の事を見て逃げていくんだよねぇ…。だけど、ツバサは私の事を見ても逃げなかったし、友好的に接してくれたから、すっごく嬉しいんだ!」

「そうか」


 妖精も楽じゃないんだな。、この世界の妖精といえば、人の命を奪っていく死神のような奴もいるし、天罰を与える妖精もいるらしいからな。


「今の俺なら、死神とだって仲良くなれる気がするぜ。」

「ホントに!?じゃあ今度連れてきてあげるね!…あぁ、死神さんも喜ぶだろうなぁ…。」

「そ、そうか…それは嬉しいな…。」


 ついに、俺に命の危機が…


「と、とにかく、さっさとアイラたちを探さないとな。

「あの女の人たちなら、この部屋の中で休んでるみたいだよ?この部屋は人間しか開けられないからね。」

「なるほど…じゃあ、入りますか。」


 そう言って俺が扉を開けると、そこには仲良く肩を寄せ合って寝てるアイラたちがいた。


「どうやら疲れて寝ちゃったみたいだな。…まぁ、あんな穴に落とされたら精神的にダメージを負うよな…。」

「そうだね。今日はこれくらいにして、宿に戻った方がいいよ。きっとその方が、この子たちも楽だろうし…。」

「じゃあみんなでワープするか。…フェルはどうする?一緒に行くか?」

「いいの?」


 フェルは驚いた眼でこちらを見ている。


「あぁ、いいぞ。なに、一人増えたところで何も変わらないさ。」

「ありがと!ツバサ大好きぃ!」


 そう言ってフェルが抱き着いてくる。

 クンカクンカ…はぁ、イイ匂いだ…ハッ!?危ない危ない。危うく幼女に発情してしまうところだったぜ。


「と、とりあえずワープするぞ。」

「準備はオッケーだよ。」

「よし、じゃあ…『ワープ』」



 景色が一瞬で切り替わって、俺たちが泊まっている宿に転移してきた。

 もちろんアイラたちは、しっかりベッドの上に転移させてある。

 無属性魔法になった上に、何回もワープを使ったので、着地地点まで指定できるようになった。それに、やろうと思えば大人数の転移もできるのだ。


「さて、とりあえずアイラたちが起きるまで待って、それからフェルの説明をしよう。」

「そうだね。…ふあ~あ。私もちょっと寝よっと。」


 そう言ってフェルは、俺の方の上でスヤスヤと寝息を立てて寝始めた。

 …じゃあ、俺もちょっと仮眠をとるか…。

 俺もベッドに横になると、すぐに俺の意識は遠のいていった。



「--サ、ツバサ?」


 うぅ、アイラの声が聞こえる気がするが、俺はいったい何をして…あ、そっか、俺は寝てたのか…。


「おはようアイラ。」


 俺が目を開けると、俺の顔を覗き込むアイラが見えた。

 他のみんなはまだ寝ているようだ。


「…ツバサ、これはナニ?」


 そう言って指さしていたのは、俺の膝の上でよだれを垂らしながら寝ているフェルだった。


「あぁ、コイツはフェルっていってな、妖精なんだとさ。因みに、コイツがアイラたちの居場所を教えてくれたんだぞ。」

「…そう、この妖精が私たちの恩人…。」

「そうだ、だから、フェルが起きたら一応礼は言っておけよ?」

「…ん、礼儀は弁えてる…つもり。」


 絶対弁えていないだろ…とは言えなかった。

 そして、その後二人が起きてきて、アイラに聞かせたのと同じ説明をしたのち、このフェルを旅に加えるという話をしたところ、満場一致で賛成だそうだ。

 …よかったなフェル。

 そう心の中で呟くと、まるで言葉が伝わったかのようにフェルがニヤニヤしていた。

 とりあえず、フェルのよだれが付着したズボンを洗わないと…。

 そう思って、近くの川に洗いに行こうとしたところ、アイラたちが突然じゃんけんをし始めたので、そのすきにワープでこっそりと川へ転移して、さっさと洗って、またワープで帰ってくるという非常に面倒な事をしなければならなくなった。

 まぁ、こんな生活も結構気に入ってるし、別にいっか…。


 こうして俺の生活に、小さい妖精さんが加わることとなった。

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