第十二和 油揚げのベーコンチーズピザ、小松菜ソテー添え。
「お前、見た目に似合わずめちゃくちゃポジティブだよな」
「不思議とよく言われます」
「……そうか」
何なんでしょう? ため息を吐かれました。疲れているのは私で、ため息を吐きたいのも私の方なのですが。
「……ジョーカーって無能って意味もあるんだがな……」
「何か言いました?」
金髪さんはたまにボソリと何かを呟きます。陰口ならやめていただきたいものです。
「いんや、何も。それより、ほい。それがコルク抜きだから。使い方はせっかくだ、吉田に教えてもらえ」
「え、吉田……さん?」
誰ですかそれ。
「あぁ、僕の名前だよ。吉田英司って言うんだ」
「あ、そうだったんですか。では、ご指導のほど、よろしくお願いしますね? 吉田さん」
「あ……うん。任せてよ」
「そうだ、その前にトースターでおつまみが焼けていると思うので取ってきますね」
私がトースターへと向かうと、入れ替わるようにその場所に金髪さんが来て何やら会話をします。
「……お前、良い看板娘雇ったな」
「売り上げに貢献してくれるのはありがたいが、忙しくなるのは面倒だな」
「怠け者め。うちの会社でお茶くみしてほしいよ、全く」
程よく焼けて香ばしい香りと、プスプスと心地いい音を立てるピザ風油揚げの完成です。
これを持って振り返ると、お二人は何やら方やニヤケ、方や優しい笑みを向けてきます。いったい何事でしょうか?
「お二人とも、どうしたんですか?」
「なんでもないよ。それより、それは?」
「あ、これは油揚げにトマトソースを塗って市販チーズを乗せ軽く焼き、醤油でベーコンと刻みほうれん草を炒めた物を乗せて、最後に粉チーズをまぶしたんです。私の親友が昔作ってくれたものできっとワインに合うかなって」
なんか、素材が安っぽいかもしれませんが、これが手軽でありながら絶品で、とってもおいしいのです。節約上手で家族思いな莉子ちゃんの顔が浮かびます。
「へぇ、こりゃいい香りだね。ありがとう」
「そういえば、こんな話をするのも気が引けるんですが……」
「どうしたの? 何でも聞いてくれていいよ」
「その、私が勝手に作っちゃいましたけど、メニューとかにあるものでもないし、御代とかどうするのかなと気になって……」
なんだか、日本人の性質と言いますか、美徳でもあるのかもしれませんが、どうにもこういった生々しい話はし難くて嫌ですよね。ですが、こういう話を避けてトラブルになっても困りますし、何よりこれからレジ係りで会計をするときに困ります。
「あぁーそれな。じゃぁ、一万円で」
「おい、ふざけんなよ金髪。いくらなんでも吹っかけ過ぎだろ」
「まぁ、そう怒るなよ。それの代金は精々五十円として――」
「え、いや、これを大層に言うつもりないですけど安すぎませんそれ!?」
材料費にしかならない! 私の頑張り代は!? そして、これを考え出した莉子ちゃんが可哀想。
「後は見物料?」
「いや、待ってください見物料ってなんのこと言っているんですか」
「なるほど。ジョーカー……道化師だからな」
私は見世物ですか!? 此処は見世物小屋じゃないんですから! ……いや、あながちそうでもないかも。見世物と言えば見世物みたいな人ややり取りばかりだし……。
「……いや、でもちょっと高い」
「いや、吉田さんも怒ってくださいよ。何をちょっとって納得しかけているんですか。さすがの私もそこまで自分を高く買ってはいないですよ!?」
「吉田……お前の今胸に抱いた感情は、金じゃ計れないものだろ? ときめきはプライスレス、だぜ?」
「うわぁ、気持ち悪い」
今のは無いですわー……さすがにキメ顔されても薄ら寒くて鳥肌立つだけですよ。ご世間にはちょっと顔良いこの手のチャラ金髪に魅かれる人も大勢いるんでしょうけど、私にはどうにも一生解りあえそうもないです。……莉子ちゃんを除いて。
いや、でも莉子ちゃん茶髪だからセーフですね。はい。
「吉田、見たか? これが現実だ」
「いや、今のはお前が悪いわ」
「……現実って醜いな……」
醜さの塊のような人が何か仰りやがっているようです。いや、まぁ顔までは見にくいとは言いません、というより、世間的にはむしろイケメンと形容されるのでしょうけれど。
でも、近寄りがたい胡散臭さを放つ容姿には変わり在りません。
こうして、今日も殆ど仕事らしい仕事もないまま三連勤最後、日曜の仕事が終わりました。
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