第十一和 ジョーカーは店長さんで、店長さんは…。
「お~い、店長。今開いてるかい?」
「開いてるz」
「嘘だ!!!」
私は条件反射、若しくは脊椎反射のように私自身が意図せず、無意識に叫んでしまいました。自分の思わぬ行動に驚いて口元を抑えつつ、お客さんは驚いたように呆然と扉を開けたまま立ち尽くします。
「え、なに、お店開いてないの?」
「いや、開いてるが。そして空いているが」
「だよな、うん。ところで……どこから攫ってきたの、そんなかわいい子」
店長……転調、天長、天聴、展張……脳内変換を屈指しますが、どうにも現状適切な言葉は店長のようです。ともすれば、お客様が言った対象が違うのかも。つまり、此処には私と金髪さん以外にもう一人の従業員が、
「芳美、何きょろきょろしてんだ?」
い、居ない……? では、いったい何が間違ったというのでしょう。そこそこいい大学に通い、国語知識も十二分にある私です。私の知らない意味の単語であるとは考えにくいし、ましてや私が知らずに金髪さんが知る単語なんてあろうはずもない。となると、何が違う、何がおかしいのです?
「なんか、ひどく混乱だか動揺しているみたいだけど……」
「さぁな。こいつは新しく雇ったバイトだよ。真面目そうだし、こういうのも面白いかなと思ったんだが、見ての通りなんか頭おかしい」
となると、万に一つもありそうもないはずなのですが、もしかしてもしかすると、此処の金髪さんが店長……ということに? いやいや、こんな適当で接客力皆無の人がお店やっていて、経営が続く訳無いじゃないですか。私なら絶対来ませんし、料理も値段も適当で採算もあってないだろうし、経営関係の書類仕事全くしてなさそうなのに?
「なんだ、いつも通りじゃないか。というか、寧ろここに雇われると頭おかしくなるんじゃないか? そういう病原体的な」
「失礼な事を言うな。そういうやつが集まっているだけだ」
「類を以て集まるってか。結局のところ同じようなもんじゃねぇか」
「……確かにそうかもしれない」
いや、ですが、この人は確かに毎日お店にいますし、普通の店長さんならいくら心広い御仏のような、若しくは現人神のような御仁であっても、この人ばかりは許す訳もない。となると、この人自身が経営者であるならメロスも檄おこするだろう傍若無人っぷりにも説明がつく……となると、この人はまさか本当に、て……店長!?
「納得するのかよオイ。まぁいいや、パスタで適当に一品。それといつものワインで」
とりあえず、一旦は私も納得することにしましょう。
「おう。芳美、ワインとグラス出してくれ。あと、三十秒で作れるとつまみ一つ」
「いや、いくらなんでも三十秒とか無茶振りです」
「おぉ、放心状態から回復したか。そんだけ正気に戻ればつまみの一つも作れるだろ。頼むぞ」
「ア、ハイ」
とりあえず、目の前に油揚げが未開封で転がっているので、手早くおつまみを作ることにします。
「へぇ、芳美ちゃんって言うの。可愛いね」
「そうですかね? 自分では普通くらいかなって思っているんですけど……」
「へぇ、意外だなぁ。可愛いってよく言われない?」
「えぇ、まぁよく言われます」
「……あぁ、うん。まぁ、だよね」
とりあえず、トマトソースと二種類のチーズにベーコンと小松菜を出して。
すると、お客様はワインの口を私に向けます。
「あ、ワインそそいでくれる?」
「はい。任せてください……って、あれ、このコルクのふたって固くて……取れない……」
「あはは、芳美ちゃんはコルクのふたの開け方がわからないのか。学生だよね? なら、まだ若いしお酒に縁がないのかな」
「えぇ、ピッチピチの十八歳なので」
「ばばくせぇなオイ。ジョーカーなだけに」
この推定店長はえらく減らず口です。金髪さんはもう少し、接客云々を抜きにしてお口に気を付けるべきではないでしょうか。というか、ババとかジョーカーって何のことですか。そこはかとなく馬鹿にされているのは雰囲気でわかりますけど。
「ババ臭いとかやめてくださいよ、こんな可愛らしい子捕まえて」
「お前、絶対自分で普通とか思ってないよね? 絶対自分可愛いって思ってるよね? 絶対世界一とか思ってる性質だよね!?」
「思っていませんよ。普通です。皆が可愛いと言うんです。仕方ないじゃないですか。それよりなんですかジョーカーって。あ、なるほど、切り札って意味ですね。御客が少ないこのお店の経営不振を切り抜ける切り札、そう言う事ですよね?」
流石私、的確な推理です。
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