第二和 都会は人をれでぃに変えますが、莉子ちゃんは暴力的です。
「で、本題は」
莉子ちゃんは私の頭をたたき終えると、座り直して問い直します。
私も、頭を押さえていた手を膝に置くと、背を伸ばして表情を真剣なものとします。
「そ、そうでしたそうでした。えっと、せっかくなので田舎っぺな私に、都会っこ、いや、超都会れでぃーな莉子ちゃんに、都会で生きていくアドバイスをしてほしくて」
「なんか、無性に腹が立ったんだけど、あんた何かバカにしてない?」
「ナイナイ」
莉子ちゃんは気が強いのに、どこか小心者で、人を疑う性格をしています。その疑心暗鬼を、少しでも払ってあげられたらなと思うのですが、数年間一緒にいても改善の様子は見られませんでした。
むしろ、悪化しているような気もします。
「……まぁ、良いけどさ。私はこんなんだから良いけど、あんたのんびりしてるから、都会にほっぽりだすのは怖くて仕方ないのよね……騙されたりして、危ないところとか連れて行かれそうで……」
心配性のお母さんみたいに、頬に手を当て、若干首を傾げて不安げな顔をします。私は、そんなお母さんの心配を取り除くために、胸を叩いて言うのです。
「任せて! 大丈夫! 迷ったら莉子ちゃんに何でも聞くようにするよ!」
「あんたはちったぁ自立しろやぁ! 三年でどれだけ成長したかと思えば、中学のまんまかおい!」
「えっへへ~」
「ほめてない!」
莉子ちゃんは、出身地を間違えたんじゃないかと思えるほどに、鋭いつっこみを入れる。将来、漫才師を目指せば売れそうなのに。
「童心って大切だと思うんだ」
「それは一度成長した人間のセリフだぁぁあああ!!」
「痛い!」
なぜかチョップを受ける私。頭を押さえつつ莉子ちゃんの顔を見上げるとせーはーぜーはー息をついている。何で怒られたのかわからないけど、莉子ちゃん不思議な子です。
莉子ちゃんはお茶を飲み干し、再び私の分にもお茶を注ぐと、息を整えて真剣な表情をする。
「それで、都会で大事なことだけど、まずはお金ね。物価もそうだけど、何より人付き合いでお金を使うわ。なにするにもお金あってよ」
「そっかー、お金かぁ。物々交換じゃ生きていけない世界なんだね」
さすが都会。早速、文化の違いを感じます。
なぜか、呆けたように大口を開ける莉子ちゃん。どうかしたのかな。
「いや、いっとくけど、そんな世界うちらの地元でもあんたの周りだけだったからね?」
「え?」
「というか、あんたとだけだからね、みんな」
「ん~?」
「……もういいや。後は、人付き合い。大学とか、バイトとか、サークルとかでいろんな人間関係増えるからね。高校だけでも大変だったのに、私たちはこれから大学生になるんだから、悪い奴とかも増えるから、付き合う相手は選ぶのよ?」
「選ぶ?」
さすが、超都会れでぃーは言うことが違います。確かに、今まで以上に、いや今までより異常にそういった人間関係は増えるかもしれません。面倒ごとに巻き込まれないように生きるべく、処世術を体で覚えた人だからこその、言葉の重みが違った気がします。
「大学はもう決まってるけど、サークルとか、ゼミとか、バイトとかは、楽しそうだと思っても、中にいる人所属する人を見て選ぶの。表面の紹介文だけなぞったって、いかようにでもなるんだから。あんたは特に、騙されたり誑かされそうだから要注意ね」
「うん、わかった。ありがとう莉子ちゃん!」
厳しいことも多いけど、なんだかんだ優しい莉子ちゃんといると、つい笑顔になってしまいます。同じお仕事とかできたらいいんだけど……私には無理だよね。
「……別に、礼なんかいいけど。今度あんたの家にも誘いなさいよ」
「うん、莉子ちゃんの好きなカツカレー作っておくね! しばらく食べてないでしょ?」
「うん。お願いするわ」
私の引っ越した家の住所を紙に書いてから、私は帰路に就いた。
まだ肌寒い夜風の中、電柱の明かりに照らされながら月を眺めた。
「よし、都会暮らしで一人暮らしを始めようって言うのに、いつまでも仕送りに甘えてちゃだめだよね。まずはバイトを探そう!」
こうして、私の奇想天外な大学&バイト生活が幕を開けたのである。
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