□7.セッキー関所を取り戻せ!④遅れてきたヒーロー
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┃│ 離れ(本陣)│┃
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┏━━━━━━━━━━ 北門 ━━━━━━━━━━┛ ┏━━━┛
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┃ ┌─────────┐ │🐈魔法殿 │┃
┃ 扉B 扉C★ └─────┘┃
┃ │ │✝∩✝✝柵 ✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝✝ ┃
┃ │ │ ┌──────┐┃
┃✝✝✝✝✝ 柵 ✝✝✝✝│ 牢獄 │ │ │┃
┃ │ (兼貯蔵庫) │ │ 宿舎 │┃
┃ ┌────┐│ │ │ │┃
┃ │ WC ││ │ │ │┃
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┃ └────┘│ │ ┃
┃ │ │ ┃
┃ └────扉A ───┘ ┌──┐┃
┃ │矢倉│┃
┃ └──┘┃
┗━━━━━━━━━━ 南門 ━━━━━━━━━━━━━━━━┛
★:チャットの現在地
🐈:ドラゴン(+じい)の現在地
「さあ、観念しろ、勇者ニート・ジョイン!お前の首は、この第二部隊隊長、タッコ様が頂いたタコ!」
「けっ、俺がこんな所でやられるかよ…」
魔法殿から再び飛び出したチャットは、牢獄棟の扉Cを背に、周囲を包囲されて追い詰められていた。
「あばよ!」
チャットは勢いよく戸を開いて、中に駆け込む。
「馬鹿め、牢獄棟に自ら進んで入るとは。まさに袋のネズミだタコ。第二部隊員は二手に分かれて、西と東の戸からそれぞれ突入しろ!三つの出入り口から挟み撃ちタコ!」
隊長タッコは偉そうに指示を出す。
「隊長、それは無理です。先ほどの追跡時に分かったことですが、何故か西と南の出入り口には鍵がかかっていて、開ける事が出来ません」
「なんだと?奴が鍵を持っている可能性もある…。では、西と南にはそれぞれ二、三人の兵がつき、奴が扉を開けて建物から抜け出さないか見張っているタコ!他の者は皆この東の戸から突入するタコ!」
この掛け声を合図に、凡そ二百を超えるデビタン兵が、一挙に牢獄棟へと雪崩れこむ!
三階立ての建物を、各階五十を越える人員が手分けして捜索する。が、チャットはなかなか見つからない。
「おかしい。あの太った体を隠せる場所は、そう多くはないはずタコ…」
三十分が経った。もはや、一階から三階まで、あらゆる場所を探しつくした。あと隠れられるとすれば・・・。
「地下は!?地下は探したのタコ?」
「ええ。ですが、やつれた人間が五人ほど牢に繋がれているだけで、侵入者は見当たりませんでした」
「五人?捕虜の数はそんなに少なかったタコ?……いや、そんな事はどうでもいい。とにかくニートを探せ!屋根裏、床下、壁の隙間、探せる所は全て探すタコ!」
タッコ達がこの牢獄棟に閉じ込められている事を自覚するのは、その五分後の事だった。
*
「…よし、これでばっちりだろう」
【ありがとう、いい仕事をしてくれた】
ジーファンタの戦士たちは、デビタンが扉Cから牢獄棟に雪崩れこんだ後、その外側の取っ手に長剣を
これで、外側から、鍵の無い鉄の錠を掛ける事が出来た訳だ。
残りの二つの扉に関しても、既に施錠が完了している。扉Aは、チャットが丸太小屋から牢獄棟に侵入した時に、正規の鍵で施錠した。その鍵はチャットが携帯しており、奪われない限り開くことは無い。
扉Bは、ジーファンタの囚人たちを救出した際、扉Cと同様の仕掛けを内側から施した。ただし、扉Bには縄に火薬を散布している。宿場町でドルセから頂戴した、あの危険爆発物から取り出したものである。これは、縄が炎で燃されて解かれる事を防止するためだ。縄の隙間に火薬が抜き取られた花火の包装容器を挟んでおいたから、粉末の正体が分からず、謝って爆発を起こしてしまう事もまず無いだろう。
こうして牢獄棟は、内側からは実質、密室状態になった。一応窓はあるものの、人が通れる大きさでは無いし、堅牢な外壁を突き崩すのも容易ではない。それが囚人の脱走を許さない厳重な造りであったからこそ、この密室は完成されたのだ。
「ジョインさんは大丈夫なんでしょうか?」
兵の一人が心配して尋ねる。
【大丈夫。あいつには地下の牢に入って、囚人の振りをするよう言ってある。照明器具も壊しておいたから、携帯照明の僅かな灯かりじゃ、誰だか見分けもつかない。デビタン達も、まさか逃亡者が自ずから牢に入るなんて思わないだろうから、きっとうまくやり過ごせるさ】
と、じいは自信ありげに返したが、内心すぐにバレるのではないかと、冷や冷やであった。
扉A、扉Bの前で待機していたデビタンも早々に始末した。これで、堀の南側に居るデビタンは、便所で世間話に勤しんでいるゲイ二人組を除いて、自由に行動できる者はない。
【今から、敵の本陣に切り込む!】
じい達ジーファンタ軍の士気は、頂点に達していた。
見張りの消えた石橋を難なく渡ったじい達は、最後の指示を出す。
【じゃあ手筈通り、あなた達はここで橋を見張っていてくれ。敵が来たら、直ぐに橋を爆発させる事。牢獄棟を開けられて合流されたら、一貫の終わりだからな】
「わかった、任せろ」
ジーファンタの兵は、真剣な顔で頷く。彼らを置いて、残りの者は先に進む。
離れの南方向、三十メートル。ジーファンタ軍は、やや離れた場所で、敵の本陣の様子を窺う。
「…静か、だな」
赤髪のジーペンが呟く。
【先程の騒ぎを受けても、一切動きを見せなかった。何を考えているのか全く読めないが、罠を張ってる可能性も捨てきれない。予定通り、
ドラゴンが枯れ草に火を点けて、煙を立たせる。本日三度目の、発煙行為だ。
離れの軒先で着火された枯れ草は、凄まじい量の煙幕を焚き起こし、瞬く間に離れ屋敷を覆った。煙を起こすのにはこの種の草が適当だと、兵の一人に教わっていたのだ。
「っごほっ…なんだこりゃあ!?」
「皆、外へ出ろ!中に居ては肺をやられるぞ!」
耐えかねたデビタン達が、逃げるように外へ出てくる。
【数は…三十、いや四十…多いな】
「動くか?」
【いや、やめだ。確実にいく】
小さな建物の中に、驚くほど多くのデビタン兵が隠れていた。やはり、待ち構えていたようだ。外に居たデビタン達よりも一回り体が大きく、高い戦闘能力を窺わせる者ばかりだ。
その中で、特に目立って体格の良いデビタンが一人。のしのしと、じい達の方へ歩み寄って来る。
「やってくれるじゃなイカ。この俺様を離れから引きずり出すとは」
語尾がイカの大男。やたら唇が厚くて非常に不細工だが、こいつがこの軍のボスのようだ。
「なかなか根性のある侵入者だとは聞いていたが、正直ここまでやるとは思ってなかった。外の兵はどうしたイカ?さっきから急に静かになったみたいだが、まさか全員倒したとは言うまい」
【捕まえただけだよ】
「捕まえた?」
【あの牢獄棟に入ってるよ、全員。あんたの息子もな】
「!なんだと……」
それを聞いて、イカデビタンは顔を青くする。
【これが牢獄棟の扉の鍵だ。こいつがあれば、扉を開けて、あんたの息子達を救出できる。だが、これが無ければ、そう簡単には出てこれない。中には爆薬を仕掛けてあって、いずれ仲間が着火する手筈になっている。もし息子を助けたければ、今すぐ武器を置いて、俺たちに投降しろ】
じいに促されて、兵の一人が地下牢で奪った鍵をチラつかせる。牢獄棟の建物自体の鍵では無い。つまり、ハッタリだ。
「人質…という訳か。面白いじゃなイカ。だが、俺がそんな手に屈するとでも?」
【……】
こればっかりは完全に賭けであった。息子をコネで昇格させている親バカなら、確実に息子を救いに動くとじいは思ったが、読みが外れたか。
「何をお望みですか?」
【屈するんかーい】
読みは当たっていた。
【この縄で、兵達を縛りあげさせてもらう。まずは、あんたからだ】
「ボスを最初に縛りあげようとは、少しは面子ってもんを考慮してくれてはイカがか?」
【黙って従え】
ジーファンタの兵たちは、鋭利なデビタンの爪を削ぎ切り、縄をきつく縛り上げる。これで、自力で縄を解くのはほぼ不可能だ。
【…全員縛りあげたな】
「ああ、そうなんじゃなイカ」
イカデビタンは、この期に及んでも、余裕ありげに語る。
「要求も呑んだことだし、その鍵、こっちに寄越してくれなイカ?」
【まだだ。帝都から応援がやって来て、あんたらの身を引き渡すまでは譲れない。心配しなくても、彼らの身の安全は保障する】
「保障、ねえ…」
イカデビタンは、ゆらり、と不気味に身を起こす。
【おいあんた、何勝手に立ち上がってるんだ。いい加減にしないと…】
「そんなもん、要らないんじゃなイカ?」
突如、イカデビタンの体側から、左右四本ずつの触手が伸びる!体を縛り上げていた縄は、ほつれ目に切り裂かれた!
「イカカカカカカカカカカ」
笑い声の、模様。
【くっそ、語尾通りの能力かよ…。予想つき過ぎて、寧ろ無いって判断してたわ…!】
イカ野郎の触手が、ジーファンタ兵の手から鍵を奪い取る。
「形勢逆転じゃなイカ?さあジーファンタ帝国民諸君、我が同胞の縄を切断し給え。俺様は刃物の扱いは得意じゃないもんでねえ」
【ふっ…そんな事するくらいなら、真っ向から勝負してやる!】
闘える相手はイカ野郎只一人。如何ほどの強さか知らないが、ジーファンタの戦士十人が束になれば、勝てない相手では無い!
【ドラゴン、火炎弾だ!】
「にゃっ!」
ドラゴンの二連火炎弾!
「無駄だ!」
が、イカの触手にかき消される!
【何…!?】
「イカカカカカカカカカ、序盤の敵ボスだからって、弱いと思ったか?俺はデビタン軍の中でも五本の指に入る強さを誇るスーパーエリート。俺の触手は一切の魔法攻撃を無効化する。そんな猫のひょろひょろ
「にゃあああっ」
火の玉を受け止めたその触手で、ドラゴンの体を薙ぎ払う!
【ドラゴン、大丈夫か!?】
「にゃっ…」
なんとか、体は動かせるようだ。だが、もう満足に戦えそうにはない。
「猫ども、後は任せておけ!」
「俺たちだってジーファンタの戦士!」
まだ名前も出てない、ジーペンの連れ二人がイカ男に同時に仕掛ける!
「二人同時に来れば勝てると思ったのか?俺の触手が見えてないんじゃなイカ!?」
触手の迎撃!
「ごほっ」
「ぐふっ」
あっという間に二人は戦闘不能になる。
【…まあ、見えてた結果だがな】
と、冷静に言ったものの、そう悠長に構えている場合ではない。このイカ男、本気で強い。
「ちっ…こいつ、かなりやべえぞ」
「ジーペン、無闇に動くな。触手の餌食になる。まだこっちには八人動ける者が居る。協力して動けばあるいは…」
「協力させませーん」
ボコスカッドカッ。
希望を打ち砕くかのように、イカ男は残ったジーファンタ兵を、触手で強襲する。あっという間に、残るは二人になった。
【まずい、な…】
強すぎる。どんな強力な魔法も、一切受け付けない。相手が何人居ようが、物ともしない。正に、
こんな強い敵をぶっ倒せるのは、あいつしか―。
ザッ。
「お、やってるやってる」
背後に、誰かが現れた。
渋く、哀愁漂う、男らしい声色。
それに見合わぬ、だらしない風体。
こんなアンバランスな男は、他に居ない。
「俺も混ぜてくれよ、その
ヒーローが、遅れてやってきた。
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