そしてどうなった

 REIの体調はすこぶる順調のようだった。

 スランプを脱したアリアンが再び魔法を使えるようになっていたので、彼らはペガサスで水晶の谷を越えて行った。

 向こう岸に到着すると、アリアンはペガサスを降りた。

「ここでお別れだ」

 そう言う言葉にびっくりして、伊吹とREIは口々に理由を尋ねた。彼は言う。

「短いあいだだったけど、きみらからはいろんなことを教わった。勇気と知恵が、必ず状況を打開するってことをさ。だから、ぼくも一歩進んでみたくなった」

「それって、科学と魔法の融合のこと?」と伊吹。

 そうだ、と彼はうなずいた。「でもそれをやり遂げるには、ぼくひとりじゃできない。協力してくれる人がいなきゃ」

「じゃあウンディーネさんに会いに行くのね!」

 なぜかREIがうれしそうに叫んだ。アリアンは少し仏頂面になった。

「こっちから折れるわけじゃ……」と言いかけて、思い直したのか頭をかいた。「いや、そろそろ素直になろうかな。そう、彼女に協力を仰ぎに行こうと思う」

「それなら仕方ないね。もっと一緒にいたかったけど」

「ウンディーネは悪いやつじゃないんだよ。元は人間だったんだ。だけどあまりにも魔力が強大すぎたんだろうな、あるときから精霊になっちまった。彼女はひどい迫害を受けたんだ」

「そうだったのね……」

「シヴァもだ。あいつのしたことは許されることじゃない。だけど、最初にアトランティスを造ったのは、魔法使いたちの幸せのためだったはずだ。迫害を排除し、ユートピアを造りあげようとした。それがいつしか、気に入らない人間を排除しては造り直すっていう暴挙に出るようになっちまったんだろう。黄金の林檎なんてあったのが、そもそものまちがいだったのかもな」

 三人はしばらく物思いに沈んでいた。やがて伊吹が口をひらく。

「アリアンさん、あの人のことを“父さん”と言ってたけど――」

 が、アリアンはそれを遮って明るい声で言った。

「さあ、ぼくの語れることはこれで終わりだ。少年少女よ、また近いうちに会おう。数年後には、この世界に大革命が起きてるぞ」

「わたしみたいな人がいっぱい渋谷駅前を歩いてるかも!」REIが笑い声をあげながら白い機体で飛び交った。

「そうですね。それじゃあ今はお別れだ。未来のために」伊吹が言う。

 それから伊吹とREIはペガサスに騎乗した。伊吹は馬上からアリアンと握手を交わしながら、にやりと笑う。

「アリアンさん、本名はガーネッシュっていうんですね」

 アリアンは複雑な表情で鼻の頭をかいた。

「知られたくなかったんだ。あいつのくれた名前だから」

 ペガサスは天高く飛びあがった。


 日本、東京。半田玲の病室。

 伊吹は息を切らして駆けこんだ。そこには黒髪の三つ編みを胸に垂らした少女がいて、ほおをばら色に染めて微笑んでいる。白いワンピースを着た彼女は、花束を抱えていた。ちょうど今日が退院の日なのだ。

「玲!」

「お帰り、伊吹」

 玲は言い、伊吹の手をとった。その手はほんのり温かかった。

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アンドロイドとアトランティスの秘宝 青出インディゴ @aode

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