第132話 名実41 (91~93 東館取り調べ1)

「どうも、当時は紫雲会、駿府組両方合わせて16名の幹部が居たみたい。事務所に居たと見られてる、行方不明除く全部で17名の死傷者の中で、幹部以外に事務所に居たその他の2名は、紫雲会のペーペーの構成員だそうですわ。まさしく皆殺し的な結果ってこと。そこに更に行方不明の1人が加わりますけど、構成員については全員一応まだ生きてるから、不明に該当するのは紫雲会の幹部らしい」

「ホント酷いなあ。それで幹部の内訳は?」

「えっと……、こっちが今得てる情報では、紫雲会が、会長から全幹部9名中8名が死亡、駿府組が組長含む7名の幹部の内、6名が死亡、1人が全身やけどの意識不明でかなり重篤。行方不明は『それらしき身体の一部』が見つかったらしいから、まあ紫雲の残り1名の幹部の死者が増えるだろうって話ですわ。そして平構成員から、重傷が1名、意識不明が1人って話かな……」

幾ら相手が違法集団とは言っても、凄惨なことに変わりはなかった。ただ、その直後に西田は思わぬ言葉を須藤から聞くことになった。


警察庁組対うちだけじゃなく、消防は勿論、所轄の組対や火災犯担当やら、更に警視庁ほんちょうからも組対、火災犯担当、加えて察庁うちの警備局から外事やら公安やらまで入り乱れて、まあまあ現場は偉い混乱しとりますわ。こっちの捜査も思うようにいかなくて、情報も断片的でねえ……」

「まさか警備局まで?」

驚く西田に、

「いやホント! 嘘言うわけないでしょ?」

と答える須藤。


「事故の可能性が高いとは言え、ヤクザの事務所だけに組対が動くのは、そう不思議ではないが、警備局となるとちょっと異様ですな」

「異様は異様なんだけど、全くの畑違いってわけでもないんでね。紫雲会と駿府は、両方とも北朝鮮とコネがあるから。そういうわけで、全く無関係というわけじゃないんだけど、それにしてもねえ……」

「北朝鮮!?」

突然出てきた言葉に西田は思わず反応した。

「あれ? 西田さんは、両組織が、シャブのシノギで資金力が豊富だって情報は前に得てるでしょ?」

ここまで言われてようやく事態を理解した。

「なるほど! シャブの元は北朝鮮産なんだ!」

「そういうこと! 元々紫雲会には、在日韓国人、正確に言えば在日韓国人を装った在日北朝鮮人が幹部に居て、その絡みで北朝鮮とコネと入手ルートがあった。で、紫雲会と駿府組は、両方とも前のトップが親密だったんで、駿府組もすぐに北朝鮮とコネを持つことになった。だから北朝鮮の政府や軍部と両方とも強いコネがあって、それに絡んだことを最悪想定したことで、出張って来たんだろうとは思うけど……。それにしても、今まで表立って来なかった警備局が、この事故だか事件だかで、いきなり『表玄関』から出張ってきたってのは、ウチから見てもかなり奇異ですわ」

電話の向こうからではあったが、かなり疑問に思っている様子が伝わってきた。


「と言っても、今までも内偵のようなことも連中はやってたんでしょ?」

「外事の情報がこちらに入ってくることはほとんどないから、これまでの捜査についてはわからないけど、把握していたにせよ、普通に泳がしたままですよ。外交ルートでの取り締まりは、国交のない北相手にやっても仕方ないし……。いやいや、そもそもあっちは国家自体がシャブ作ってるわけだから……。で、日本でやる分には、麻取まとり(厚労省麻薬取締部)か、ウチの部の中の銃器チャカ薬物やく対策の連中が現実にはしょっ引くわけで、あくまで情報収集してるだけでしょうな」

「じゃあ、今回いきなりこれだけ目立つ形で出張ってきたのは、北朝鮮と関係があると言っても本当に理解出来ないわけなんだ」

「そういうこと」

そこまで聞くと、西田は須藤なりの解釈を求めた。

「須藤係長はそこをどう考えてる?」

すると、しばらく考えているように沈黙していたが、

「ちょっと小耳に挟んだ程度なんだけど……」

と前置きした上で、

「実はね、どうも官邸から指示で動いてるとか動いてないとか……。去年の年末に、北朝鮮らしい不審船の問題あったでしょ? あれが関係してるかも。とにかく秘密主義の警備局が、こっちに詳しい情報流すわけないんだけど……。そんなことを上の方が言ってたって話を、自分は上司からね……。あ、念のため言っておきますが、上司ってのは先日会った下村じゃないですから」

と歯切れの悪い言い方で回答した。


 確かに、前年の2001年・12月22日、北朝鮮の工作船と見られる不審船と、海保の間で銃撃戦があり、不審船が自爆沈没するという事件があったが、そのことと何か関係があるのかもしれないと、須藤は彼なりに考えているようだった。


 そしてその不審船は、覚せい剤の日本への密輸に関わっていたのではないかという説も根強かった。自爆直前に何かを海中に投機する映像が、海保によって撮影されていたからだ(作者注・政府により正式に北朝鮮の工作船と認定されたのは、2002年9月11日の、不審船引き上げとそれに伴った証拠物押収で、不審船の全貌が解明された後になります)。


「官邸と北朝鮮。それはどういうこと?」

西田はそこを突っ込んで聞いてみた。

「まあ、北朝鮮との関係で、新たに何か動きがあるのかなって……。国交がないところだけど、何やら交渉でもあるのかもしれない。こっちとしては何となくしかわからないんで、これ以上は憶測だけで伝えられませんわ」

須藤としては、少し自分達の立場を卑下しているかのように西田には思えた。


 それ以上の情報は出てこなかったので、次の連絡を待つと伝え会話を終えた。それから、西田は今回の事件のタイミング、ガス漏れという事故の見方、畑違いの警備局と官邸の動きを全体的に捉えようとしたが、さすがにまとめきれなかった。それ以上考えても答えが出るはずもなく、明らかに時間の無駄なので、廊下から控室に戻った。


 そこで吉村の表情を窺ったが、軽く首を振るだけで、こちらも何も進展はないようだ。厄介事を2つ同時に抱えることになった西田は、どちらにも完全に集中出来ないまま夜を迎えた。


 すると、今度は竹下から電話が掛かって来た。西田としても、竹下のブンヤとしての情報に頼ろうか迷っていた最中だったので、まさに渡りに船の連絡だった。


※※※※※※※


 やはり、竹下は紫雲会の事務所が爆発したというので、鏡の元所属事務所ということは既に知っていたこともあり、何やら不穏なモノを感じて電話してきたようだった。ただ、東館の逮捕についての情報は勿論一切知らないので、一緒に巻き込まれた駿府組については、さすがの竹下と言えども、単に巻き込まれたと言う以上の認識はなかった。


「どうもガス漏れらしいですけど、特に例の事件絡みとは関係ないんですよね?」

竹下に念を押され、西田としては曖昧な返事をせざるを得なかった。当然、竹下もそれを察知したことは言うまでもない。


 とは言っても、取材で掛けてきたのではなく、元捜査員としての心配で掛けてきたのだから、詰問調ではなく、言える部分だけ答えてもらえば良いという、軽い探りを入れるような問い掛けではあった。


「ガス漏れの件からは事故っぽいですけど、どうもそうとは言い切れない何かがある?」

「いや、そこは今のところは事故っぽいんだが、どうも動きがこっちの想像を超えるレベルらしい」

西田は、東館の情報については、正直言いたかったが言わずに我慢した。

「捜査に、通常考えられない部署ところが出張ってきてるってことですか?」

竹下は瞬時に西田の言いたいことを見抜いた。

「まあ端的に言うとそういうことだ。竹下の方は、何か情報入ってないのか?」

西田の問い掛けに、

「冗談は止してくださいよ。こっちは北海道の地方支局勤務なんですから! まあ、そうは言っても、一応は東京の五十嵐さんに昼確認してみたんですけど、事故の可能性が高い割に、ヤクザの事務所ってことで組対が動いてるって話しかしてませんでした。まあ東京支局とは言っても、残念ながら地方紙なんで、あんまり深い取材は出来てないようですね、現状」

と答えた。


「東京の五十嵐記者でもその程度か……」

西田としては少々落胆してしまった。竹下は卑下したが、道報は、地方紙としては日本でも有数の部数を誇る新聞社で、東京や関西辺りにもそれなりの取材網は持っているはずだから、ひょっとしたらという思いがあったからだ。


「なんだかそんな言い方されると、余計に気になるなあ」

そう笑った竹下だったが、

「まあ、西田さんが口ごもってるってことは、まだ言えない情報も結構ありそうだから、言えるようになってから聞いた方がいいのかな? 忙しそうだし」

と、こちらの心境を読みきったような台詞を吐くと、

「じゃあまた。折を見て電話しますよ」

と言って電話を切った。「撤収」がかなり早かったのは、西田としてはむしろ期待外れでもあったが、あちらとしてはこちらに気を使ったわけで仕方ない。


※※※※※※※


 6月28日金曜日。東館の取り調べに、ようやく直接西田が参加することになった。とは言っても、西田の独断というより、刑事部長の小藪からの指示だった。西田としては悪い提案ではなかったが、部下や北見署の捜査員のことを考えると、やや複雑な思いではあった。


 声紋分析の結果が、前日の取り調べが終わる間際の昨晩に入ってきたので、その情報を元に、テープの内容も絡めて聴取出来るため、小藪からすれば、一気に決めに行きたいという思いからの指示だったのかもしれない。だが、これまでの聴取に関わった捜査員より聴取が楽になった点が、彼らに申し訳ないという西田の気持ちに拍車を掛けていた。


※※※※※※※


 吉村と共に目の前で対峙した東館は、控室からマジックミラー越しに見ていた、見かけのふてぶてしさよりは、案外可愛げがあるように感じたが、さすがに煮ても焼いても食えないという態度をすぐに見せ始めていた。


 今までの聴取でも、東館の生まれからこれまでの半生について話すことは、日下達もしていた。しかし、最初の様子を受けて、この日の西田は、それを違う切り口から始めてみた。敢えて声紋についての話は、後回しにするつもりだった。


「お前は、岩手の大槌おおつち出身らしいな」

「しつこいねえ……あんた方も。そんな話は、もう仙台の頃から何度もされて飽々してるんだよ……。昼間っから酒ばっかり食らって、働きもしねえ、ロクでもねえオヤジとそれに耐えるお袋と、ロクに教育も受けられなかった俺や兄貴の、ヤクザにありがちな世にも不幸な物語は、言い訳にするつもりもなければ、同情してもらうつもりもねえんだよ!」

視線を向かって天井左隅に上げ、投げやりな口ぶりだが、やけに詳細な内容で返して来た。


「まあいい。しかし、親父さんについての資料を見てみたが、昔は腕の良い漁師だったそうじゃないか。ところが、ある時期から突然呑んだくれになったそうだな。お前が生まれたのが、1959年の6月。しかし翌年の1960年5月23日の夕方、チリで前日に起きた大地震で発生した大津波が三陸一帯を襲った。当然、大槌も大きな被害を受けた(作者注・参考サイトhttp://tsunami-dl.jp/document/063)って話も聞いてる。俺の推測に過ぎんが、おまえの親父さん、糞みたいな人生になったのも、津波で色々大変だったからじゃないか? だとすれば、親父さんの人柄だけを責めるのもどうかと思うぞ……」

「そう言われてもな……。実際に接してた人間にとっての不幸は、外から見てるのとは別物なんだから。確かにあんたの言う通り、船が流されてからおかしくなったとは、お袋は言ってたが、そんなことは俺に言われても意味ねえよ……」

「それもそうだな。そこはお前の言う通りだ」

西田は敢えてあっさりと相手の意見に従った。


「ただ、チリ津波の話するなんて、刑事さん詳しいじゃねえか?」

「まあこれまでの事件の捜査で色々調べることがあってな」

「ふうん。刑事が津波の捜査ねえ」

東館はそう言うと鼻を鳴らした。


 取り調べのやり方が新鮮だったか、東館はやけに西田と吉村を眺めていた。その上で西田は静かに追及を開始した。

「ところで、これも何度か聴かれているから面倒だと思うかもしれないが、お前さん、96年の頭には組抜けしてるよな? 長年やってたヤクザ辞めるにあたって、一体どういう理由があったんだ?」

この質問に対し、今まで通り黙ったままだった。


「もう既に色々と聞かれてるからわかってるだろうが、おまえさんを逮捕した車の窃盗から、組抜けはそれから2ヶ月程後だな。何か関係あるのか?」

そこまで言うと、表情をチラッと確認してみたが、東館の顔からは何も見て取れなかった。仕方ないので、西田は諦めたように、

「まあ黙ってるのは、お前さんのやり方なんだから、それについてどやしつけたところで、どうにかなる野郎たまじゃないのもわかってる。だがな、お前さんが黙れば黙る程、こっちとしてはそこに何かあるようにしか思えないんだ。そこは理解しといてくれ。俺はずっと気になってる」

とボヤく演技をすると、

「まあ俺が黙ってるのも自由なら、そっちが勝手に色々考えるのも自由だから構わんが、そんなことにこだわってる暇があるのか?」

と口を開いた。


「いや、お前の言う通り、確かにこだわってる場合じゃないかもしれんがな。でも、俺達はお前の窃盗の関与なんかもうわかりきってるから、それよりもっとデカイ、上の事件を挙げたいわけだ。だから色々聞いておく必要があるのさ」

今度は捜査の理由までボカしながらも伝えて、東館の反応を窺う。勿論、窃盗に直接絡んでいるかもやや疑問ではあったが。


「まあ、それなら好きにすればいいさ! 時間はドンドン無駄になるだけだから」

とうそぶく東館に、西田はやはり何か隠したいことがある故の反応だとは思った。同時に、具体的にそれを引き出すのは、並大抵のことではないとも感じていた。


 そんなことを繰り返していると、特に西田が宥め役というわけではなかったが、吉村が待ちきれなかったように、追及側として口火を切った。

「お前が銃撃事件の現場に当時居たことは、たまたま録音されていたテープの中の声で証明出来てるんだ」

さすがにこの発言を聞いた瞬間、東館は動揺を隠せなかった。西田としては、タイミングが早いように思ったが、今更文句を言っても始まらない。


「録音? なんだそりゃ? ハッタリなんか効かないぞ!」

このハッタリという言葉に、西田は東館の焦りを感じた。

「ハッタリじゃねえんだよなあ。これ聞いてみろ」

吉村は、書記担当の捜査員に指示して、使っているパソコンから東館と鏡の会話音声を流した。東館は目を白黒させたまま何も言えなくなった。追い打ちをかけるように吉村は、

「声紋分析でも、この中におまえの声紋と一致してる発言があると出てる。つまりお前は、当時、北見共立病院の銃撃殺害現場に居た! もっと言えばお前がその実行犯だ! 科学的にも言い逃れが出来んのだぞ! 逃走車両に残されたお前の毛髪含め、お前の犯行は黙秘しようが立件出来る。それだけのことだ!」

と怒鳴った。この期に至ってさすがにぐうの音も出ない様子の東館に、

「さすがに詰みだろ? 窃盗だけじゃ説明がつかんよな」

と西田も緩く追い打ちを掛けた。


 しかし、東館はここから再び腹を決めたか、

「そこまで自信があるなら、後は好きにすればいい。俺はあんたらに任せるよ」

と強がりか、笑みを浮かべて視線を目の前の2人とじっと合わせた。既に自分の殺害の起訴については、覚悟が出来たのだろうとは思ったが、明らかにその先が本丸だということも、どうも見越しているようだ。この短い間に、動揺から覚悟までジェットコースターのように心理が動いたわけだ。そしてそこは、簡単に口を割れない部分なのだろう。


「お前と鏡は何の縁もない北見で、3人に拳銃発射して殺った。お前も鏡も、前(歴)見てもそこまでするようには見えない。一体何がどうやったら、北見くんだりまでやって来た挙句、ああいうことを仕出かすようになるって言うんだ?」

吉村が、如何にもありがちな、机に拳を叩きつける仕草で東館を罵倒した。

「知らねえよ!」

「知らないわけがないだろ!」

吉村は怒鳴ったが、結局のところ、声紋の結果やテープの存在の話を出した所で、相撲の猫騙し的な意味はあったかもしれないが、相手を土俵の外に追い出すことは出来ずに、膠着状態に戻ってしまったようだ。残念ながらこれ以上押し続けても無駄だろう。西田はすぐに少し手を変えた。


「ところで、一緒に居た鏡についてだが……。奴の名前を知っていたのは、奴が殺されたニュースが理由とかお前は言ってたな。それはお前が、単に鏡を知っていることを上手く誤魔化したいための嘘だったのか、それとも本当にニュースで見たのか? どうせ黙秘したところで、おまえさんの関与はさっき話した声紋とテープでバレバレなんだから、それぐらい教えてくれてもいいんじゃないか? 共犯者をチクるも何も相手は死んでるし、知っての通り、もう既に犯罪に関与してるとして、最終的に不起訴とは言え、形式上書類送検もされてる。今更遠慮する理由なんて1つもない。どうだ?」

それを聞いた東館は、一度西田をじっと見ながら、一瞬薄ら笑いを浮かべると、

「本当に見たんだからしゃあないだろ?」

と真顔に変わって言った。


 鏡を知っていた理由として、事件関与そのものについては、先程同様直接認めなかったが、ニュースで見たということは強調していた。本人がどう言おうが、鏡と東館が共犯である以上、死んでニュースになる前から鏡の名を知っていたのは、お互いに全く名乗らず犯行に及んだという以外はあり得ないわけだ。また、場当たり的犯行ではない以上、その可能性もかなり低く、始めて鏡の名前を聞いたのがニュースということはあり得ない。ただ、ニュースを見たのは本当なのだろうと西田は踏んだ。


 その上で、ニュースを見たのは、本当に偶然なのかどうか。それとも抜けた駿府組周辺から、共犯の鏡が死んだということで、何か連絡が来ていたのかが気になった。そこで、西田はその周辺の話を深く掘り下げてみたいと思い、話の視点を少し変えてみたわけだ。しかしその答えは、残念ながら前と変わらなかった。仕方ないので、再び話題を変える。


「駿府組を抜けたのは何が理由だ? 不始末でもやらかした?」

「カタギになりたいと思っただけだ。極道としての先行きも見えてた。それだけの話よ」

「前から思ってたのか?」

「そうだな、組を抜ける数年前からは……」

「組を抜けるのは大変なんだろ?」

「一般的にはそうだな。俺の場合には世話になった兄貴分が尽力してくれたから、それ程困難じゃなかった」

「兄貴分は偉い立場なのか?」

「ああ、既に組のそこそこのポジションだった」

殺害関与が、組抜けの条件だったという可能性については、これだけヤバイ案件を知っている奴を野放しにするという、「バレル」危険性を考慮すれば、この事件については、まずあり得ないとは西田も思ってはいたが、この時の東館の様子から見ても、それは事件とは直接的には関係ないだろうと直感的に察した。


 勿論、そのような危険な任務が、組抜けの条件になる場合も無くはないのだが、この案件は繋がるヤバイ話が「遥か上」まで達する可能性がある以上、やはり野放しは避け、手元に置いておくのが筋と見るべきだ。


「で、そいつはなんて名前だ? そいつから鏡の件を聞いたのか?」

「名前? 余計な迷惑掛けるといけないから言わない」

この時ばかりは、東館は西田を軽く睨みつけていた。しかし、鏡の死亡について聞いたことを否定しなかった点を聞き逃すわけにはいかない。


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