桃太郎の消失

@akajaaji

第1話

「桃太郎……桃太郎……」

むかしむかし、あるところに女の子が死体に泣きながらすがり付いておりました。

なんとその女の子は、鬼ヶ島で鬼を退治した桃太郎の恋人だと言うのです。

しかも、その女の子がすがり付いていた死体は桃太郎だったのです。

「桃太郎……お腹空いた……ご飯作って……洗濯物溜まってきた……洗濯して……桃太郎桃太郎桃太郎桃太郎桃太郎桃太郎桃太郎桃太郎早く起きてよ。寝坊にも程があるよ。ねぇ桃太郎。」

そんなことを嘆いても、桃太郎の息は止まったままです。

「隷子さん。今まで太郎を愛してくれてありがとう。きっとあの子も天国で貴方に愛されたことをおじいちゃんとおばあちゃんに自慢しているわ。」

桃太郎のお母さんは、そう言いました。

お母さんの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃです。

「お義母さん……これを」

女の子は、そう言ってお母さんにハンカチを渡しました。

「ありがとう。」

渡した花柄のハンカチは、とてもいい匂いがします。

まるで、桃のような匂いが。

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