第3話 ぶっちゃけアイツの趣味じゃね?
榊原研究所に戻った飛鳥と泰造は、研究所の面々と奈津子にたいそう驚かれた。
重症を負った泰造は治療室へと運ばれ、飛鳥は検査を受けてから、奈津子の事情聴取を受けていた。
飛鳥が奈津子から話を聞いたところ、マンモス型のディザスカイが現れた所で通信機器に異常が起きたのだとか。
奈津子の考えによれば、マンモス型のディザスカイの不意打ちの一撃が、ちょうど通信機器にダメージが入りやすい角度だったのではないか、とのことだ。
それってとんだ欠陥なんじゃ、と飛鳥が聞くと、返す言葉もないとうなだれ、担当の職員に修理と改善を求めていた。
奈津子は部下に泰造の証言を取らせていたのだが、聞き比べてみると飛鳥の話と大体一致する。
さらには映像記録と音声記録が乗っていたバイクに搭載されていたカメラに録画されてあったので、それと照らし合わせても彼の証言と一致。
よって、飛鳥は嘘をついていないことが証明されたのだ。
この『ディザスカイがアーマーを装着した』という事で、すぐさまアーマーや映像記録音声記録などを分析する作業が行われることとなる。
一方で飛鳥の証言の信憑性を知った奈津子は、険しい表情だが、どこか申し訳なさそうな顔を飛鳥に浮かべる。
「あの、私がこう言うのも都合がいいって、わかってるんだけど……。泰造を助けてくれて、ありがとう」
「いえいえ、俺も泰造さんには大きな恩がありますから!」
人間の姿に戻れて有頂天な飛鳥は、大したことでもないかのように返す。
「それに、あの時の俺は結構がむしゃらでしたから。あんまりそういうの考える暇が無かったというか、なんと言いますか……」
お恥ずかしい、とでもいうかのように後頭部に手を添える飛鳥。
対して奈津子は、険しい表情を和らげはしない。
「でもね、あなたの事はまだ信用はできないの。今すぐ殺せ、とまでは言わないけどね」
その言葉を聞いて、飛鳥はホッと安心した表情を浮かべた。
「それぐらいは信用されたんですね。あー、よかった……」
表情が和らぎはしないものの、随分と落ち着いた物腰で話を聞く飛鳥に奈津子は大きく目を見開いた。
「……驚いた。行く前と打って変わって、前向きになったわね」
「泰造さんの指導の賜物です!」
自信がついたとでもいうかのように胸を張る飛鳥。
「今回連れて行ってもらったのも、俺のメンタル面を鍛える為や、この、TDG? さんから信頼を得る為でしたし!」
まるで自分の好きなジャンルの話を振られた時の子供ような反応だ、と奈津子は思った。
人間の姿という事もあるのだろうが、飛鳥の印象がまるで違って見えてる。劇的過ぎる変化に思えた。
「……そ、そうねえ」
泰造を昔から知る彼女である奈津子からしてみれば、それは違うと知っている。
結果的にはそうなったが、泰造は考えているようで考えていない。ただ、こうすれば何とかなるんじゃないか? という結果を考え、過程はさほど考えずに行動する男だ。それで大体の事を解決させてしまうのが恐ろしい。
その事を、泰造に憧れを抱いている目の前の青年に言うのは彼女には酷であり、頷くことしかできなかったのだ。
「えっと、本題はここからなんだけども……」
このままでは飛鳥が泰造の素晴らしさでも語りだしてしまうと考えた奈津子は、話をすり替える。
「先程も言った通り、アナタをすぐに殺す、という事はしません。人間に対して協力的だという事も分かりましたので、とりあえずは観察対象と言う事になります。今までのような生活は受けられないのは覚悟してください」
今後を左右する話というだけあって、飛鳥からも浮かれた表情は消えた。
「色々と質問させていただきたいのですが、いいでしょうか?」
「もちろん、アナタにはその権利があるわ」
質問を許可された飛鳥は、言葉を選びながら慎重に質問する。
「まず俺は観察対象になり、今までの生活は受けられないとの事ですが、具体的にはどうなるんでしょうか?」
「そうね……。まあ毎日が検査の日々になると思います。衣食住もこちらで管理して、娯楽品も依頼したらこちらで用意させて貰います。それと常に監視の目が光り、部屋でも監視カメラがありますが、人類の為にがまんしてください」
部屋に監視カメラ、という言葉に反応し、恐る恐る手を上げる飛鳥。
「それは、えっと、その……」
これを聞くのは恥ずかしいし、この場面で聞くことではないのかもしれない。
だが、これは聞かなければならないことだ。聞かなければ免除すらされてもらえない可能性もある。
意を決して、飛鳥はその疑問を口にした。
「……男には夜妄想にふけて爆発するする日があるのですが……?」
それを聞いて、奈津子は目を大きく見開いた。
「……その発想はなかったわ。というか貴方って自慰するの?」
大発見とでも言わんばかりに目を輝かせる。
「うわー!? ストレート! ドストレート! ハレンチ変態えっちどすけべぇ!」
その言葉に顔を真っ赤にして、講義を申し立てる飛鳥。
おかしい、と奈津子は思う。こういうのは男女反対なのではないのかと。こいつ変に乙女っぽいところがあるんじゃないだろうかと。というか、自分は大真面目だからそのノリを何とかしてほしいんだと。
咳を一つして、思考をクールダウンする奈津子。その咳を聞いて、飛鳥も委縮して静かになる。
「いえ、私は大真面目よ」
空気と文脈的に、大真面目にドスケベ、というわけではないらしいと飛鳥は理解した。
「基本的に人間以外が自慰行為なんてしないし、ディザスカイがするのであればそれはそれで大発見なのよ。というか、貴方元は人間だって話だけど、種の保存とか必要なのかしら? ディザスカイ誕生がアナタを基本とするのなら、性行為だって必要ないわけじゃない? でもあるのだとしたら欲情対象は人間? ディザスカイ? それともどっちでも行ける両党生物……? いえ、でも人間から生まれその知識と経験もあるようだし、欲情対象は……」
「タンマ! 一回タンマお願いします!」
独り言の領域に入ってきた奈津子を、飛鳥は手を大げさに振って話を遮る。
「まず! 大前提として! ディザスカイってなんなんです!? 俺は人間を襲う悪い怪人って認識しないんですけども!」
「……え? そこから? というか、私がアナタに聞きたいくらいなんだけど」
「ええええ!?」
驚く飛鳥を手で静かにとジェスチャーし、順を追って話すわね、と奈津子は飛鳥を落ち着かせるために言うと、できるだけかみ砕いて説明をし始めた。
「ディザスカイというのは、古い時代より確認されていると言われており、伝承上の怪物や妖怪などがそうだと言われています」
「……うわあ、あんなのと一緒なんだ俺」
飛鳥の頭にはぬりかべやら狼男やら吸血鬼などを思い浮かべ、苦い顔を浮かべる。
「火のない所に煙は立たたない、って日本の言葉にもあるように、伝承の通り丸々一緒とは言わないけど、その話しの元になる生物がいたんじゃないか、それがディザスカイなんじゃないかってことね」
奈津子曰く、海外でハリケーンに名前を付けるのは、海外のディザスカイが発生させているから、識別番号ではなく名前を付けるという事もあるらしい。
日本の「なまずが暴れると地震が起こる」という話も、なまず型のディザスカイが地震を起こしたことがあるのを目撃されたことがあり、古来より日本ではナマズ型のディザスカイが地震を起こしているのではないか、とも言われているらしいのだ。
いかにもそれっぽい話なので、なるほどなあと納得して飛鳥は頷いた。
「それだけ多く目撃情報があるのに、生態系については未だ解明されてはいないわ。ただ、日本を中心に活動していて、彼らにも組織のような者が存在するという事と、彼らの大体の行動目的は分かってるのよ」
その組織というのも、実体の程は全然わかってないんだけどね、と苦笑いを浮かべる奈津子。
「それで、アイツらの、ディザスカイの行動目的ってなんなんです? 毎度毎度あんなことをしてるんですか?」
怒りが混じった声で飛鳥は質問をする。
「至って簡単。人間の悪感情を引き出して、自分の力にすることよ。ここでいう悪感情っていうのは、恐怖、絶望と、憤怒とかそんな感じね」
あまり目撃はされてないけど、嫉妬とかを引き出したがるディザスカイもいるらしい。
しかし、飛鳥はどうにも信じられない。
「でも感情とかって、あんまりにも曖昧過ぎやしませんか? どうしてそんなことが分かったんです?」
それを聞かれると、奈津子は困ったような顔をする。
「アイツらの発言からの推測と、ディザスカイから採取できる結晶よ」
結晶? と飛鳥が首を傾げる。
何体かのディザスカイを倒した飛鳥だったが、どれもこれも結晶なんてものは出てきた覚えがない。マンモス型のディザスカイに至っては爆死である。
奈津子は机の引き出しから瓶に詰めてある青い結晶を取り出し、飛鳥に見せた。
「これがその結晶。マイナスクリスタルと呼ばれているわ」
飛鳥が目を凝らしてよく見てみると、それには見覚えがあった。
「これって、俺や泰造さんが身に着けたアーマーの胸部に取り付けてある奴ですか?」
飛鳥が見る限り、これは泰造が装着していたアーマーのクリスタルと瓜二つだ。
そうよ、と奈津子は頷いて話を続ける。
「実はね、あのアーマーは榊原研究所で、泰造が理論から設計まで手掛けた物なのよ?」
「泰造さんが!?」
大学で教授をやっていた、という話等を飛鳥も小耳にはさんだ記憶はあるのだが、まさか自分で作っていたとは驚きである。
しかし、『One Soul Input』というセンスは、いかにも泰造さんらしいなとも思い、これもまた納得してしまう。
必殺技というギミックも、彼らしいと言われれば彼らしいと思えた。
「ええ、大学では教授をやっててね。あの人の論文やら作ったものが認められて、TDGと連帯をしているこの榊原研究所に引っこ抜かれたってわけ」
まだTDGの詳しい説明もされていない飛鳥だったが、なんとなく秘密裏にディザスカイと戦う組織というのは分かっていたので、これについては後で言及することにしようと別の事を聞いた。
「……それは凄いですけど、なんでアーマーにクリスタルが?」
話が少しそれちゃったわねと、奈津子は話を続ける。
「あのアーマーの名前を『ディザスカイハンティングアーマー』、通称『DHアーマー』って呼ばれてるんだけど、その必殺技でディザスカイを倒すとこのマイナスクリスタルは取り出せないの。なぜなら、アーマーに取りつけられているマイナスクリスタルのエネルギーを波状にして送り出して粉々に粉砕する。そしてクリスタルに蓄えられたエネルギーが行き場を失くして暴走し、爆発するって仕組みなわけ」
「……つまり、ディザスカイを倒すにはディザスカイの力を使うって解釈でいいんでしょうか?」
こういう事に向いていない飛鳥だったが、何とか捻って自分なりに解釈してみる。
「まあ、そんな感じであってるわ」
そういうと見せていたマイナスクリスタルをしまい、今度は資料を見せて来た。
飛鳥が試しに一枚読んでみると割合フラグやら円グラフやらといった図表や、専門用語がずらずらと並べたてられた紙としか思えなかった。
じっくり読めばまだ自分なりに理解できそうなものだが、こんなモノ普通の大学生だった飛鳥には理解できない。
「これはね、マイナスクリスタルを所持した人間の脳を検査したものと、その人達に感想を聞いたときの資料よ。脳を検査した時には、脳の働きに問題はなかったわ」
一応それらしいページを開き、資料を読んでみる飛鳥だが、その事に関しては大体が『所持している場合に限る』という注釈が取り付けられていた。
さらには人間が恐怖を感じるのは、脳の中央部にある
だがマイナスクリスタルを所持して恐怖的な場面に陥った場合、働いているが所持者が恐怖などを感じない、という事らしい。
他の感情についても記載があるが、非人道的な実験についても記述があるので、飛鳥は頭を抱え始めた。
実験対象が死刑囚という注釈もあったが、そういった問題ではないと思うのだ。
さらにはTDGとはいったいどれだけの事が許される組織なのだという思考にたどり着き、自分はその胃袋の中にいるのだと思うと、なんだか怖くなった。
泰造という心の師がいなければ、今すぐ逃げ出したいところである。
「かいつまんで言うと、悪感情が触れている時に感じなくなった、という結果ね」
そんな飛鳥の気も知れず、話を続ける奈津子。
「さらにこのマイナスクリスタルのすごい所というのが、記憶の消失なの」
奈津子が飛鳥の持っている資料をめくり、該当するページを見せる。
そこを見てみると、被害者たちはディザスカイと出会ったことを災害にあったり、事故に遭ったと証言しているらしい。
これはTDGという組織が根回ししたのではなく、ディザスカイのマイナスクリスタルが影響しているというのだ。
「これはまだ科学的な証明はできてないんだけどね。魔術師や陰陽師が言うには『大きすぎる未知なる恐怖を人は許容しきれず、忘却の彼方へ葬って平静を保とうとしている』とかなんとか。まあTDGの構成員は、そういったモノに耐性があるものを選ぶ必要があるから、彼らにも選出手伝ってもらったりしてたりするんだけどね」
いきなりオカルトな話が入ってきて、混乱する飛鳥。
「……なんか今ファンタスティックな話が入ってませんでした?」
「昔からディザスカイは出るって言ったでしょ。なら時代に伴って、戦う人物もいる訳よ。彼らなりに研究した結果だから、参考程度にはなるわ。それにDHアーマーだって、彼らの助言あって作れたものだって泰造だって感謝してるしね。それに、ディザスカイの存在自体がファンタスティックでしょうに」
おかしなことを言う子ね、といわんばかりに笑い飛ばす奈津子。
そう言うモノなのだろうかと頭を悩ませる飛鳥だったが、どうやら自分はとんでもない生物になってしまったらしいという事だけは分かった。
妖怪や怪物の起源に当たる生物になるのだから、ファンタジーな話になるのもあながち間違いではないのか? と自分なりにとりあえず納得しておく。
「わかりました。もうディザスカイの行動目的と力の源とかは分かりました。別の質問させてください」
このままでは頭がパンクしてしまうと思った飛鳥は、話を変える作戦に出る。
「俺の今までの生活って、どうなるんでしょうか?」
ここで生活する、という説明を聞いて、大体わかってはいたが聞かずにはいられなかった。
その質問に少し目を逸らした奈津子だったが、首を振って飛鳥の目を見て伝える。
「……まず、死亡した扱いとなって、表の世界での生活はできないでしょう」
「……そう、ですか」
分かってはいた答えだったが、飛鳥には辛い現実だった。
仕方がないことだ。飛鳥はもう人間から迫害される存在であり、利用価値があると判断されて生かされているだけでも恵まれていると考えるべきだろう。
けれど、何も告げずに彼らから去ってしまうというのも、飛鳥にとっては辛かった。
「……せめて、家族だけにでも俺が事情を説明しに行ってはいけませんか?」
奈津子は深く考えると、慎重に飛鳥に告げる。
「それは私で一任できることじゃないわ。でも、一応は上層部に掛け合ってみます」
そこまで期待はしないでね、とも奈津子は言ったが、そこまで譲歩してくれるのであれば飛鳥は感謝しかなかった。
「ありがとうございます」
そう言って、頭を下げる。
「アナタも寝ずに事情聴取は疲れたでしょう。早速準備した個室があるから、そこまで案内させるわ」
「わかりました」
入ってきた研究員に案内され、自分への個室へと向かう飛鳥。
そして、向かう途中で重大なミスに気がついてしまった。
結局、自慰の時に監視を外してもらうことはできなかったなと、顔を蒼白させた。
○
泰造が現在いるのは病室の一つだ。
とはいっても、泰造の生活する個室も同じ建物内にあるので、本人は少し不服である。
自分の個室で寝かせてほしいと頼んだのだが、部屋が汚く医療関係者が足を運ぶのに一苦労であり、機材を持ち込むには足場的に危険すぎるとの理由で却下されてしまった。
とりあえず知り合いに本やらパソコンやらを個室から持ってきてもらい、今は読書をしながら暇つぶしをしていているところだ。
すると、部屋をノックする音が聞こえ顔を上げる。
気配から察するに奈津子だろうと思った泰造は、体を起こし、入ってどうぞと声をかけた。
「あ、起きてたんだ。頭痛とか吐き気とかしない?」
案の定入ってきたのは奈津子であり、その言葉に泰造はヘラヘラとした軽そうな笑みを浮かべる。
「だいじょぶだいじょぶ。脳震盪つっても、軽度のもんだしな」
奈津子は怪しいモノを見るように目を細め、泰造を睨む。
「嘘つくんじゃないの。飛鳥君から意識を失ったって報告あるんだし、それなりに重症でしょうが」
ぎくぅ、と口にして泰造は奈津子から目を逸らす。
相変わらずのオーバーリアクションで、そこら辺は安心する奈津子。
「軽度でも二週間ぐらいは安静してもらってたけどね。後遺症、残したくないでしょう?」
勝ち誇るように笑みを浮かべた奈津子は、ベッドの端に座り泰造の頬をつつく。
「だー! そりゃそうだけどよ、俺が復帰しないと現場ヤバいだろうに!」
「泰造が研究者なのに前線にいれる理由は、経験に勝るもの無しって豪語するからでしょー? 別にDHアーマーを着るハンターは泰造以外にもいるし、噂だとそろそろ新型も導入されるって話よ? そろそろ泰造も研究の方に精を出さないと、前線には出られなくなっちゃうかもねー」
その話に、なんだってー! と大げさに頭を抱える泰造。
しかし、奈津子はこう言っているが、当の泰造はTDGの貴重な戦力の一つである。
泰造本人の戦闘センス自体も買われており、その戦績は他のDHアーマーを着る資格を持つハンターと呼ばれる役職の中でも、随一を誇る。
彼がいなければDHアーマーという戦力は生まれなかったし、なにより腕力がディザスカイと同等になったことにより、市民が避難する為の足止めも一人でできるようになったりしているのだ。
さらには泰造が現場で活躍することによって、発見できた事柄も多い。
その為、TDGは泰造を重宝しており、泰造が研究しやすいように本部からではなく、この榊原研究所からの出動を許可しているのだ。
「後輩には負けてられねえなあ。よし、早速だけど、例の資料って持って来てくれた?」
「ああ、飛鳥君が装着した変質したDHアーマーのやつね」
そう言って懐から資料を取り出し、泰造に渡す。
興味深そうに泰造は読み進め、納得した頷く。
「なるほど。これだと、『飛鳥の中にあるマイナスクリスタルとの相乗効果で緑色に変質した』って説が有力そうだわなあ」
それに頷く奈津子だが、一つだけ疑問があった。
「それだけだと、角が二つに変化した理由にはならないのよね……」
それなら簡単だろう、と資料から顔を上げて、奈津子と顔を合わせる。
「ぶっちゃけアイツの趣味じゃね?」
「……かなあ?」
泰造因子でも感染したか、と頭を抱える奈津子であった。
「それより奈津子、アイツの目撃情報とか、見つかってないか?」
アイツ、と聞いて奈津子は顔をしかめる。
だいたい泰造がアイツという時は、何かだなんて決まっているのだ。
奈津子にはそれがわかっており、相変わらずの執着っぷりだとため息を漏らす。
「……見つかってないわ。見つかったとしても、今のあなたには教えないけどね」
そうか、と泰造は小さく頷き、自分の左腕を抑えた。
その左腕には、グルグルと包帯がまくりつけられている。
「この傷がうずくのさ……そろそろ俺は出て来るぞ、ってね」
以前も似たようなことを言っていた為、中二病でも発現したの? と聞いたら拗ねてしまったことを奈津子は思い出した。
この男、色々と有能なだけに拗ねると何をしでかすかわからないのだ。
「その根拠は?」
なので奈津子は、呆れたように頭を抱えながらも、泰造の話に乗る。
それに対して、泰造は神妙な顔つきで答えた。
「漢の直感だぜ」
「……ホント、ばかばかしい」
お大事にね、と告げて奈津子は部屋を後にした。
自分は真面目な話をしていたというのに、その反応は何だと釈然としない泰造だったが、飛鳥の資料を見て閃いたことがあり、パソコンに打ち込んでいく。
それが役立つかどうかは関係なく、その作業に没頭するのであった。
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