第2話 自分の正しさを貫き通せ!

「えーっと……」


 奈津子は考える。目の前を惨状について考える。

 その光景はとても奇妙なものだ。専門的な知識を持っていなくても、一般的な価値観しか持っていないとしても、この光景の異常さは伝わるだろう。

 だが、考えても考えても分からない。経緯は聞いていたが、それでもなお、どうしてそうなったのかが全く分からない。というか理解したくない。


 奈津子の恋人である泰造は、人型の恐竜のような化け物ディザスカイに対し、生身で腕を組んでビールを飲み交わす光景であった。そんなわけのわからない光景がそこに実在した。

 自分が何を見ているか奈津子はわけがわからない。なお、酒を用意されたのもまた奈津子である。


「男がめそめそ泣くんじゃねえ! 男なら、自信もって胸張って、正しいと思うことをやれ! 生きるってのはそういう事さ」


 アルコールで顔を真っ赤にしながら語り、気のいい会社の上司に恐竜のディザスカイに絡む泰造。


「俺に、俺にできるでしょうか……。俺は、化け物になった。現代社会になじめるとは、到底思えません。前より明るい未来が見えません。とっても暗い未来しか見えないんです……」


 対して恐竜のディザスカイはめそめそと、涙と鼻水をまき散らしながら泰造と話している。とがった尻尾も、萎れたように垂れ下がっているのが見える。


「はっはっは! 最初の一歩は俺が何とかしてやるよ! それによぉ、未来なんざどれもこれも暗いもんだろ! 明るい未来なんざありはしねえ! 暗い未来だからこそ、明るく照らす今があるのさ。未来より今だぜ。今が無けりゃ未来もねえ! まず今何をするかが一番大事だ!」


 恐竜のディザスカイと肩を組み、大いに語る泰造。

 お前も飲めと言わんばかりに、ビールを恐竜のディザスカイの口に注ぎ込む。


 だが、この恐竜のディザスカイ(つまり飛鳥は)、アルコール特有の熱さと高揚感を感じることはできなかった。


「……なんか、酔えないっぽいです」


 ただの人間だった時から酒には強かったが、酔えないという事はなかった。

 その飛鳥の言葉を聞いて、泰造の目から涙があふれる。


「……なんて悲しい運命背負ってんだお前は! すまねえすまねえマジですまねえ! お前さんが酔えねえんじゃ、こんな酒なんて意味がねえ!」


 今まで飲んでいたビールをテーブルの上に置く。


「奈津子ー! これ片付けてコーラ持ってきてコーラ! 別のシュワシュワっとしたヤツでもいいから!」


 その異様な光景を眺めている奈津子に、泰造は片付けと新しい注文を出す。


「えっと……もう私からも言わせてもらってもいいかしら?」


 若干苛立ちを込めた声な奈津子。


「おう、その前にコーラ。もしくはシュワシュワ持ってきて」


 泰造の飲みかけていた残りのビールを奈津子は一気に飲み干し、ビールを片付けて炭酸水とコーラを律儀に持ってくる。

 さんきゅー、と泰造が言い切る前に、奈津子がテーブルを叩いた。


「なんでディザスカイを連れて来てんのよ! このバカ!」


 突然の怒鳴り声に委縮する飛鳥。体格が大きい恐竜の様な化け物が震える姿も、これはまた異様な光景である。


「バカァ!? 失礼な。これでも俺は大学で教授をやってたんだぞ!」


 こんな状況だというのに、飛鳥は熱血漢である泰造がかなりの知的系だったことに驚愕していた。

 どんな事を教えていたのか少し気になったが、どうにも聞ける雰囲気ではなかったので、取り敢えずは胸の内にしまっておく。


「そういう意味じゃないわよバカ! いい? ディザスカイは人類を滅ぼす化け物よ! こいつだって例外じゃないわ! 貴方が一番よくわかってるでしょ!?」


 こいつ、というところで飛鳥を指さし、言われた本人は驚愕せざるを得ない。

 本人には人類を滅ぼす気なんてさらさら無いからである。

 けれど、それと同時に化け物となってから初めて会ったサラリーマンに、恐怖を持たれたことを思い出した。


 俺は、化け物になった。だから泰造さんに拾われる価値もなかったのかもしれない。

 飛鳥は段々とそうなのだと思えてきた。


「俺が一番よく知ってるからこそ連れてきた。こいつは今までのディザスカイとは全く違う。大体お前も聞いただろ。こいつは人間だってよ」


 飛鳥をここに連れてくるまでに、通信しながら飛鳥が化け物から人間へとなった二人の会話は聞いていた。


 もちろん奈津子とこの研究所の仲間達はは通信で連れて来るな、ディザスカイであるならば殺せと説得したのだが、だからなんだそれがどうしたバカ野郎! と、帰り道を封鎖しても急行突破して帰ってきてしまったのだ。

 ならせめて監禁をしろという話にもなったが、それが助けを求めるやつにする対応かと一蹴し、自分が面倒を見ると言ってこの部屋に連れてきた。とはいっても、ここは奈津子の仕事場なのでそういった意味でも迷惑しているのだが、泰造はいつもの事と言わんばかりに居座っている。


「……確かにそれが本当なら、大発見かもしれないけどね。そいつが嘘をついてる可能性だってあるでしょう?」


 怪しいモノを見るような目で飛鳥を見る奈津子。

 こんな姿では言葉も信じて貰えないのかと、どれだけ言葉を紡ぐっても信じて貰えないのかと、飛鳥は聞いてて悲しくなってきた。


「無いね。こいつは人間だ。姿を変えられて、身体が他人より強いだけの人間だ。俺にはその確信がある」


 絶対の自信を持って断言する泰造。


「その自信はどこから来るわけ?」


 奈津子の当然の疑問に、お前も聞いただろうと口を開く。 


「こいつは助けを求めていた。たった一人で心の暗闇に迷い泣いていた。どうしようもなく泣いていた。人がいいと泣いていた。怪物は嫌だと叫んでいた。ならこいつは人間だ。だから俺はこいつを助けた。それだけの十分すぎる理由だ」


 絶対に譲らないと言わんばかりに一人腕を組む泰造。そこに一点の迷いもなかった。


「でも悪逆に走り出して人を傷つけるかもしれないわ。人類をディザスカイの魔の手から守るTDGとしては、許してはいけないわ。上層部だって許しちゃいないわよ」


 正式名称TTerritoryDDefenseGGuardianFederation、日本語記名『人類領域防衛保護連合』とは、後述するディザスカイを撲滅し、人類を守るために国連が極秘に結成された極秘組織だ。一般人に知られてはいない理由は幾多もあるが今は言及しないでおく。

 TDGは先進国のほとんどに設置されており、発展途上国でも年々設置されている。彼らの活動は世界の人類を守ることであるため、ディザスカイの関与する事件又は類するとされる事件には、警察や軍隊を超越した捜査権や軍備を行使することが許されている。

 簡単に言ってしまえば、ディザスカイ退治の専門家の集団だ。


「悪逆とか人を傷つけるとか、そんなもん人も一緒だろ」


 ディザスカイとは、正体不明の人類に大きな損害をもたらす驚異的な化け物たちの事を指す。

 日本の怪異や、他国の伝承に出てくる怪物なども、全てディザスカイの事を指すのではないか? という研究も、この界隈では考察されていたりもする。


 世界各地で頻発した自然災害の発生源と呼べる存在で、いわばディザスカイは目に見える災害だ。脅威の塊。故に国もTDGに協力の要請に従わなければならない。従わなかった場合、滅ぶのは自分の国だからだ。

 そのディザスカイを、泰造は人間と同列視している。それが奈津子にはさっぱりわからなかった。


「規模が違うでしょ! ディザスカイは人類を滅ぼすだけの力があって、人が殺せるのなんて精々一人だし、理性がそれを邪魔するわ」

「規模が小さけりゃ人間様は何してもいいってのか?」


 泰造は奈津子の反論に顔をしかめ、何を言っているんだと意図を理解していない表情を表す。


「違う! そういう話はしてない! こいつは危険だって言ってるの! いつ理性が無くなるか分かったもんじゃないわ!」

「なんで理性が無くなる前提なんだよ。そこがおかしいだろうが」

「あら、全然おかしくないわ! 中には理性失くして暴れるやつもいるでしょう!」


 奈津子の言葉に泰造は記憶の中でそんな事例があったことを思い出す。

 確か新人がディザスカイの撲滅中に調子に乗って煽った結果、ディザスカイが理性を失くし体が肥大化して、新人一人では手に負えなくなったという話があったはずだ。


「ありゃ精神的に追い詰めた結果だろうが。むしろお前今言ってる事わかってる? こいつの精神追い詰めてるんだぜ? もうちょっと気楽にできんのか?」

「その前に殺せって言ってるだけでしょ!」


 二人の会話は飛鳥の理解が追い付ける範囲を超えて生き、段々と加速していく。

 他人事ではない。むしろ自分を中心としている会話だと飛鳥も分かっている。

 だが、どうもこの二人の会話が痴話喧嘩染みていると思ってしまうのは、不謹慎なのだろうかと飛鳥は自分の思考に呆れる。

 彼自身、気が着いていないだけなのか、泰造の激昂のお蔭で心に余裕が生まれてきたのかもしれない。


 ふと、飛鳥に何者かが語り掛けてきた。


「ん?」


 振り向くがそこには誰もいない。

 飛鳥が何だったんだろうと疑問に思ったちょうどその時、アラームが鳴り響き放送が入った。


【エリア2E地点89にディザスカイ出現。過去に事例があり、マンモス型の超パワータイプとのこと。脅威度は軍隊級との事です】


 それを聞いた泰造は、面白そうだとほくそ笑む。


「よーし決めた。奈津子がそこまで言うなら決定的な証拠ってやつを見せやる」


 立ち上がってデバイスを手にし、開いている片方の手で飛鳥を引っ張って部屋から移動する飛鳥。


「ええ!? どんな怪力してるんですか泰造さん!」


 自分でも体が通常よりはるかに重くなっているのはなとな管がわかっている。だというのに、生身の人間に片手で引きずられ、飛鳥は驚愕を隠せなかった。


「お前ぐらいの重さを引きずれなきゃ、コレ装着する資格ねえのよね」


 さすがは泰造さんだ。鍛え方が違うぜ! と目を輝かせる飛鳥。すっかり泰造の漢気に惚れこんでしまっている。


「ここまで鍛えるのはアンタぐらいしかいないわ……って、それよりそいつをどうするつもりよ! 今の放送聞いてたでしょ! 出番よ出番!」


 んなもんわかってるよー、と奈津子に向かってデバイスを掴んだ手を振り、泰造は部屋を出て歩く。もう片方の手で飛鳥を引きずりながら。

 さすがに痛いので立って歩いて付いていく飛鳥だったが、どこに行くかわからない。

 さらに後ろから奈津子が走ってついてくる。この二人、常人と比べると歩くのが早かったりするのだ。


「お前はオペレーションの準備してろよ奈津子」


 泰造の言葉に驚いて目を見開く奈津子。


「え? 何? ちゃんと出撃はするのね」


 奈津子のその言葉には、安堵の色があった。

 もしかしたらこのディザスカイを元気づける為、どこか別の所へ行こうとしてたんじゃないかと思っていたからである。


「出撃しないわけねーだろ? 俺は飛鳥と一緒にちゃんと行くって」


 その言葉に、え? と奈津子と飛鳥の二人が声を漏らす。

 奈津子は正気かという思いが入っており、飛鳥はなんだかわからんけどやばそうだと思った声だ。

 不思議そうにしている二人に、言って無かったかな? と泰造は首を傾げる。


「まあ、社会科見学兼進路相談の時間だぜ」


 それだけの話だと言わんばかりに頷き、飛鳥を連れてムーブルームに向かおうとする泰造。


「つまりディザスカイの討伐に着きあわせるってわけ!? それこそ正気!?」


 奈津子が怒鳴りだし耳を抑える男性陣二人。


「まるまる正気だぜ俺は。別に問題ないだろう」

「問題大ありよ! それこそそいつが途中で今回のディザスカイと手を組んで襲ってきたら大変じゃない!」


 泰造は不敵な笑みを浮かべ、奈津子の顔に近づく。

 突然距離が近くなり、顔を赤くして驚く奈津子。


「んじゃ、そうなったらお前の言い分の勝ち。そうならなかったら俺の言い分の勝ちでいいな?」

「え、ええ。いいわよ?」


 若干パニック状態の奈津子だったが、確かに肯定したのを確認する泰造。


「うし、そんじゃ行くぞ」


 飛鳥の背中を押して、今度こそと泰造はムーブルームへと向かう。

 詳しい事情は分からない飛鳥だったが、話の流れで大分マズい事になっているんじゃないかと察し、これからどうなるんだと心の中で頭を抱えた。


  ○


 ムーブルームで整備士達に奇異な目で見られながら、飛鳥はバイクに設置されたサイドカーに乗り、乗るバイクで連れられ、トンネルの中を装甲し『現場』へと向かう。

 バイクで走っているというのに、大きな音を飛鳥は感じなかった。余程洗練されたマシンだということが、素人の飛鳥にでもわかった。


「あー、お前にいうのもお門違いだってのはわかるんだけどな?」


 走行中、泰造が話しかけてくる。


「奈津子やアイツらも、お前が嫌いで言ってるわけじゃねえんだ。ただ、まだお前の事をまだ知らないだけだ。だから怯えちまう。お前の事を皆が知れば、誰もが受け入れてくれるさ」


 わかってます、と飛鳥は返事をするが、どこか不安な色を感じ取れた。


「奈津子さんの事は、仕方がないと思ってます。……でも、その為には、俺はどうすればいいんでしょうか。俺、今自分が置かれている状況も分からなくて、何にもわからないんです」


 飛鳥は不安だった。泰造が傍にいてくれても、不安は完全にはぬぐえない。

 先程いた研究所で、飛鳥は奇異な目で見られた。中には怯える者もいた。

 そんな自分が、いったいこれから何ができるのか、何をすればいいのか分からない。

 教科書にもそんな事は載ってはいないし、どうすればいいとも教えられなかった。

 彼らの会話を聞く限り飛鳥自分の様な化け物の前例もなさそうだ。


「それ以前に、俺はTDGという組織に、どうされてしまうんでしょうか……」


 自分は彼らにどう扱われてしまうのだろうか。泰造が守るにも、上司の命令を全部逆らう事はできないだろう。となると、最終的に彼らは飛鳥をどうするのか。

 大きな組織だという事は感じ取れた。人類に貢献する素晴らしい組織だとも思った。そんな彼らが飛鳥にかけた言葉は、殺せという胸に刺さる言葉だった。


 ならば、最終的に飛鳥は処刑されてしまうのではないか? そう結論付けてしまい、自分は人類の敵になってしまったんだなと思う。

 それだけで、胸が苦しくなり、涙がこぼれて来そうだった。


 そんな飛鳥に、泰造は声をかける。


「ぶっちゃけると、俺もここからどうすりゃいいか、さっぱりわからん」

「ええー!?」


 泰造のまさかのカミングアウトに驚愕する飛鳥。

 あれだけ自信ありげだったというのに、考えなしだったというのだ。驚きもするだろう。


「まあ何とかなるなる。お前まだ若いんだし」

「そんなてきとうな! 助けてくれるんじゃないんですか!?」


 焦る飛鳥に泰造は豪快に笑い飛ばし、不適な笑みを浮かべる。


「そんなに心配するなって。大丈夫大丈夫。最終的には出たとこ勝負でなんとかしてやるからよ」

「出たとこ勝負って言ってる時点でもう万策尽きてますよね!?」


 この先が不安であることが変わらない飛鳥だった。

 だがあまりにも泰造があっけらかんとしているので、意外と何とかなるものなのかもしれないと、少しだけ楽観視することができたのだ。


  ○


 バイクがトンネルを抜けて、朝日を浴びる。どうやらあの研究所にいた時間は、かなり長いモノであったらしいと飛鳥は思う。

 すると、飛鳥の耳に人々の悲痛な叫びが聞こえてくた。それと同時に、親しみのある何かを感じた。悲痛な叫びと親しみのある何か、矛盾したものが混在する場所へと、バイクは向かっている。

 その感覚が、飛鳥にはとても気持ち悪く感じられたのだ。


「……さあ、ついいたぜ」


 バイクが止まった先には、魑魅魍魎が跋扈する地獄絵図が広がっていた。

 能の面の様に顔の表面なめらかな異形の怪人達が暴れ、人々を襲い、建物を瓦解させている。


「――――誰か、誰か助けてくれ!」

「いやあ! もうやめて!」


 そんな惨状に、人々は泣きわめきながら逃げるか、現実から逃避し諦めたように座りこんでいる者に分けられている。

 泰造はおかしいとあたりを見回す。こうならないように、ディザスカイの出現がわかった時点でTDGの職員たちが非難させているはずなのだが、それにしては人が残り過ぎている。

 彼らの身に何かあったのではないかという予感が、泰造の頭によぎった。


「な、なんだこれ……!?」


 初めてみる光景に目を疑い、足が震えだしてしまう飛鳥。

 あの有象無象の怪人も、自分と同じディザスカイなのか? 自分と同じ種を司る者達は、なぜこんなにも悪逆非道な真似ができるのか? 自分もアイツらの様に、人を傷つけるために生まれ変わってしまったのだろうか?


「俺は、あんなひどい奴らと同類なのか……?」


 震える声で、恐怖を口にする飛鳥。


「んなことはねえさ」


 バイクを停めて、すぐさま降りる泰造。

 その手にはデバイスが握られており、この地獄絵図を見ても笑って見せる。

 だが、それは歓喜のものではない。自分の恐怖を紛らわす為の、苦い笑みだ。


【承認コードをどうぞ】


 デバイスから音声が発せられ、泰造は怒りを込めた声で叫ぶ。


「装着!」


 いつものプロセスを言い終えて、すぐさまベルトのバックル部分にデバイスを取り付けて、ディザスカイの群へと走り出した。


【OK.Battle Armorを転送します】


 その瞬間、黒いアンダースーツが泰造の身体を包み、赤と白銀の装甲が取り付けられ、赤い一本角の鉄仮面を被る。


「お前らの行いは、この俺が許さねえ!」


 胸にあるクリスタルと一本角の鉄仮面のアイシールドが青く輝き、近くのなめらかな顔のディザスカイが、その気迫に圧倒され倒れ込む。

 飛鳥もその気迫に圧倒され、思わず縮こまってしまった。


 装着を終えた泰造はすぐさま近くに転がるディザスカイ達を蹴飛ばし、一人で全員を相手取る。

 ディザスカイ退治の専門家は伊達ではない。荒々しく見えるが、的確に急所に拳と脚を叩き込み、無駄なく戦いを繰り広げていた。


「飛鳥! お前、どう思う!?」

「は、はい?」


 戦っている泰造が飛鳥に声をかけてきた。

 何のことをいっているか具体的には分からず、首を傾げてしまう飛鳥。


「お前はこの惨状、どう思う!?」


 襲ってきたディザスカイを投げ飛ばし、地面に叩きつける。

 それでもディザスカイは無尽蔵とでもいうかのように、段々と湧き出てくる。


「見てのとおり、人々はディザスカイに襲い掛かっている! 罪無き人々を、アイツらは襲い掛かっている! それについて、どう思う!?」


 どう思うか? そう言われて、飛鳥は改めて辺りを見回す。

 なめらかな顔をしたディザスカイが、人々に爪を立てて傷つけようとしている。

 助けてと、許してと、人々の悲痛な叫びが聞こえる。

 ふと、ここで飛鳥は思った。


「……俺は、なにやってるんだ?」


 足だけではない、飛鳥の身体が震えだす。恐怖からではない。委縮しているわけでもない。

 段々と、身体の奥底で熱い感情が湧き上がってくるのを飛鳥は感じていた。

 この熱を飛鳥は知っている。一度湧き上がってきたものは、もう止まることはない。

 もう言うまでもない。この熱の正体は『恥』だ。


「俺は、化け物になった」


 自分の手を見る。そこには人特有の柔肌ではなく、不気味な鱗と忌々しい突起物でできている。

 飛鳥は知っている。この手には、大きな力があることを。

 醜い身体には、この耳に聞こえる悲痛な叫びを、救うことができるかもしれないという可能性があったのだ。

 だというのに、飛鳥はサイドカーに縮こまり、何もせずに上からかわいそうだなと眺めるのみ。

 ――――これを恥と言わずに、なんだというのか。


「そうだ。だけどお前の心は、化け物なんかじゃない! お前の心は、お前だけのものだ。それだけは誰にも奪えない、たった一つの自由なものだ!」


 どこからともなく取り出した剣で、自分を囲むディザスカイを滅多切りにしなが飛鳥にら熱く語りかけてくる泰造。

 無論そんな余裕は欠片もない。だがここで激昂を送らなければ、飛鳥をここに連れてきた意味はないと泰造は思っていたのだ。


「化け物だから。それがどうした。だからなんだ! お前はお前だ! 自分の正しさを貫き通せ!」

「……はい!」


 泰造の激昂に感化された飛鳥は、すぐさまサイドカーから飛び出して、襲われている人々を助けに入る。


「こっちを見ろ!」


 振り向いたなめらかな顔のディザスカイを殴り飛ばし、「大丈夫ですか?」と声をかけて手を伸ばす。


「ひぃ!? ば、化け物!」


 しかし、その人には手を跳ね除けられ、逃げられてしまった。

 傷つかないといえば嘘になる。

 けれど、それは誰かを助けない理由にはならない。

 心の闇を燃え払った飛鳥に、もう迷いはなかった。


「お前は私達と同じディザスカイだろう。なぜ邪魔をする!」


 殴られたディザスカイがよろめきながら立ち上がり、飛鳥を糾弾する。


「俺は、お前らのやってることが正しいと思えない。それだけだ!」


 その言葉を聞いた周りのディザスカイ達が、飛鳥を敵対するものだと判断し容赦なく襲い掛かる。


「来るなら来い! 俺は自分の正しさを、貫き通すだけだ!」


 心の闇を正義の炎に燃え上がらせた飛鳥は、迷いなくディザスカイ達に戦いを挑んでいく。

 殴られようと、蹴られようと、斬りつけられようとも、飛鳥がくじけることはない。

 がむしゃらに拳を振い、荒々しく蹴り飛ばす。

 ただそれだけの喧嘩の様な戦い方だったが、そこには確かに人間の尊厳があった。

 姿形が人でなくても、感謝などされなくても、彼は人間の在り方を見失いはしなかったのだ。


 それを戦いながら見ていた泰造は、飛鳥を囲むディザスカイを切り伏せ、すぐさま飛鳥に背中を預ける。


「いいぞ飛鳥。その調子だ」

「はい! 泰造さん!」


 泰造は背中越しに自分の持っていた剣を飛鳥に渡して、再び徒手空拳で戦い始める。

 戦いや扱いに慣れない飛鳥はがむしゃらに剣を振う事しかできなかったが、それでもディザスカイの怪力で切り付ければ強力だ。襲い掛かるディザスカイ達は、飛鳥の剣によって瞬く間に倒れていく。

 飛鳥の取りこぼしたディザスカイは、一発一発的確に泰造が拳を貫き通してカバーする。


 戦いの風向きは依然良好。

 そんな時だった。

 泰造はとてつもない殺気を感じ取り、その方向に振り向いた。


「ぐあああああ!?」


 その瞬間、泰造は衝撃によりあっけなく吹き飛ばされてしまう。

 なんとかガードが間に合ったおかげで泰造自身に大きな怪我はないが、壁に叩きつけられる。


「泰造さん!?」


 飛鳥はすぐさま泰造のところに駆けつけようとするが、背後から肩を掴まれる。


「おい、お前。何をしている」


 飛鳥が振り向けば、そこには毛皮を全身に纏いその上から鎧を着込んでいる、マンモスの様なディザスカイの姿があった。腰には二本の剣を携え、背中には長い槍を背負っている。

 身長は二メートルを優に超えており、その巨体から凄まじい威圧感を感じた。


 そういえば、と飛鳥は記憶の中から警報の言葉を掘り起こす。


 ――――【過去に事例があり、マンモス型の超パワー級とのこと】


 そう、マンモス型と言っていた。だが飛鳥たちが相手取っていたのは、なめらかな顔をしたディザスカイ達。マンモスとは似ても似つかない。

 あの警報の本命は、これに違いないと飛鳥は結論付けた。


 一方で泰造はマンモス型のディザスカイがやってきた方向の、遠くを見る。

 TDGのロゴを戦闘服に付けた職員たちが、所々で屍と化して横たわっているのが見えた。

 職員たちはマンモス型のディザスカイに襲われていたのかと、納得する泰造。

 そして、怒りが込みあがってきた。


「なるほど、数で攻めてくる卑怯者の大将ってのはお前か。お前の様なディザスカイは初めてだぜ」

「ほざけ。人間も数で攻めてくるだろうに」

「俺は基本一人だぜ!」


 拳を鳴らしながら立ち上がり、おぼつかない足ですぐさまマンモス型のディザスカイに殴りかかる泰造。


 この時泰造は幾つかの不利な点があった。


 雑魚とはいえ多くのディザスカイ相手に一人で戦いを挑み、体力を消耗していたこと。

 参戦してきた戦闘の素人である飛鳥のフォローに意識を向けていて、自分対する警戒が少し怠っていたこと。

 その隙にマンモス型のディザスカイに、大きな一撃を食らってしまい意識がもうろうとしていたこと。

 さらには通信で泰造をなだめていた奈津子の声が、機器の故障で雑音にしか聞こえなかったこと。


 これらの要因が、泰造を不利たらしめた。


「甘いわ!」


 すぐさま剣を引き抜かれ、鞘を走った刃で泰造を斬りつける。

 意識が朦朧とし、足がおぼつかなかった泰造が避けられるわけが無く、まともにその斬撃を喰らてしまう。


「ガホッ!?」


 そのまま泰造は壁に叩きつけられ、動かなくなった。

 さらにはその衝撃でベルトが外れ、装着していたアンダースーツやアーマーが消えてしまう。


「泰造さん! 泰造さん!」


 呼びかけるが返事はなく、向かおうにもマンモス型のディザスカイの方を掴む力が強くて振りほどけない。


「落ち着け。私達はお前を迎えに来たのだ」

「俺を、迎えに来た?」


 飛鳥はマンモス型のディザスカイを睨みつけるも、それに気づかずにマンモス型のディザスカイは話を続ける。


「そうだ。お前は我らが同胞の希望の星であり、殺戮のエリートとなる逸材だ」


 その言葉に首をかしげる飛鳥。


「なんで俺がお前達の同胞になるんだ?」


 キツイ言い方だったが、マンモス型のディザスカイは快く答えてくれる。


「それはお前がディザスカイとして覚醒したからだ。人を超えた存在となった我らは、人間を脅かし、支配する使命がある」

「……支配する、使命?」


 吐き気がする言葉だった。それが当たり前だと言わんばかりの、高慢に満ち溢れた物言いだった。


「そうだ」


 飛鳥が復唱し気を良くしたのか、笑みを浮かべて頷くマンモス型のディザスカイ。


「ふざけるな! それに何の意味がある!」


 尻尾を動かし、自分の肩を掴んでいる腕を払う。

 思わぬ行動だったお蔭もあるのか、マンモス型のディザスカイのは茫然として手を離してしまった。

 自由になった飛鳥は、すぐさま泰造の傍に寄り添う。


「泰造さん! しっかりして下さい! 泰造さん!」


 慣れない硬い肌の手では脈などは感じ取ることは難しいが、息遣いは聞こえる。気を失っている様だ。

 飛鳥はこの状況で当てはまる症状を脳震盪しか知らない。だとすると、このままだと危ないかもしれないと飛鳥は判断した。


「なぜこの手を取らない! お前はディザスカイだ! 人に疎まれるために生まれた存在だ! こちらに来れば、お前を疎まう者は存在しないのだぞ!? なぜ人間の味方をする!」


 それでもなお飛鳥を呼びかけるマンモス型のディザスカイに、飛鳥は睨みつけて宣言する。


「俺は泰造さんに、心から救われた。そして、俺に生きる意味を見つけさせてくれた。そして何より、お前達のやってることが気に喰わない。それが理由だ!」


 これが正しいと信じた飛鳥は、真正面からマンモス型のディザスカイの言葉を突っぱねた。


「……よろしい。貴様のような裏切者には、死を与えてやろう!」


 飛鳥の物言いで言葉で論じるのは無理だと悟ったマンモス型のディザスカイは、二本の剣を手に持って飛鳥を倒す方針へと変えた。


 飛鳥も構えるが、先程肩を掴まれただけで力は自分の方が弱いとわかっていた。さらには泰造をも軽くあしらう実力と来た。

 なめらかな顔のディザスカイは飛鳥よりも弱かったので力で押せばなんとかなったが、このマンモス型のディザスカイ相手に戦うには自分の力は弱すぎる。

 先程の様に、尻尾で手を払うような奇策が必要だ。それが無ければ正気はない。


 何かないかとあたりを見回していると、落ちたベルトが目に入った。


「……出たとこ勝負だ!」


 それを見た瞬間、めちゃくちゃだがアイディアが思い浮かんだ飛鳥は、すぐさまベルトとデバイスを拾い、ベルトを腰に巻き付ける。

 時間が無い。思ったらすぐに行動に移さなければ、殺されてしまう。


「まさか貴様!?」


 驚愕の表情を浮かべるマンモス型のディザスカイ。


「そのまさかさ!」


 泰造から借り受けた剣を地面に突き刺し、デバイスを構える。


【承認コードをどうぞ】


 デバイスから音声が発せられ、飛鳥は熱意を込めて言葉にした。


「装着!」

【OK.Battle Armorを転送します】


 黒いアンダースーツを身に纏い、その上から白銀を基調とした赤いアーマーを身に付ける。

 最後に赤い一本角の鉄仮面を顔に取りつけて、全プロセスを完了する。

 だが、終わりであるはずのプロセスの他にも、変化があった。


「――――うおおおおおおおお!!」


 機械的な戦士となった飛鳥のアーマーの隙間から煙が吹きあがり、徐々に形状が別のものへと変化している。

 青く光るはずだったアイシールドと胸のクリスタルは、エメラルドの様な緑色へと輝き、鉄仮面の一本角が二本に割けて二本角の鉄仮面と化す。


 変化はそこで終わり、アイシールドと胸のクリスタルは、より一層緑色に輝いた。

 装着して、飛鳥はこのアーマーが熱を帯びていることに気がついた。

 まるで自分の心の炎の様に熱く、この身も燃えてしまいそうだ。


 次に気がついたのは視界の良さだ。理由は不明だがアーマーから蒸気が噴出している。

 だがその中でも視界を確保でき、戦闘に支障はないだろうという事がわかった。

 身体の調子も良好だ。戦闘するにあたって、絶好調のポテンシャルだと言える。


 あらかた確認できた飛鳥は、緑色の眼光をマンモス型のディザスカイに飛ばした。


「……待たせたな! 行くぞ!」


 蒸気を噴出させながら、ディザスカイ達の中心に飛び込む飛鳥。

 スピードもパワーもディザスカイとアーマーとの相乗効果で、今までに感じたことのない向上を見せる。


「――――っ! 敵は一人だぞ! 囲んで袋叩きだ!」


 飛鳥がアーマーを装着することを予想していなかったのか、はたまた恐怖していたのか、その言葉で硬直を解いて自分の手下に命令を下す。


「――――うおりゃあああああああ!!」


 殴り、蹴り、投げ飛ばす。

 どれもこれも荒々しさの抜けないものだったが、あっという間になめらかな顔のディザスカイ達を全てねじ伏せた。

 マンモス型のディザスカイが背後から襲い掛かってくるが、飛鳥はカウンターで回し蹴りを腹に叩き込む。


 その衝撃にマンモス型のディザスカイはよろめき、膝を地面につける。


「貴様、人間の力で俺と戦うか……!」


 怒りに震えた声で剣を斬りつけるが、戦い慣れてきた飛鳥は剣の側面を殴りつけて対処した。


「皆を守れるなら、化け物だってそれぐらい使うさ!」


 追い打ちと言わんばかりに、膝を屈したマンモス型のディザスカイの腹を蹴り上げようとする。

 だがマンモス型のディザスカイもそうたやすくはなく、鼻を長くして飛鳥の足を絡めとった。


「鼻が伸びるなんて反則だろ!?」

「尻尾を使うお前が言うセリフか!」


 マンモス型のディザスカイは立ち上がりながら、鼻を振り回して地面に飛鳥を何度も何度も叩きつける。

 さらには両手で斬りつけられ、飛鳥はまさに生きるサンドバックだ。


「ぐ、あああ……!」


 だが飛鳥もただ地面に打ち付けられているわけではない。

 頭が叩きつけられる角度を調整し、鉄仮面の二本の角を地面に突き刺させた。


 勝利を確信したマンモス型のディザスカイは上に引き上げようとしたが、二本の角が上手い事突き刺さって抜けはしない。

 突然の事に気が緩み、鼻の握力も弱まった。


 その隙を飛鳥は逃さず、力技で足を引き抜いた。そのまま腕で角度を調整し、角を引き抜いてバク天の要領で起き上がる。

 近くに泰造から借り受けた剣は突き刺さっていたのを見つけて、すかさず柄を握って構えを取った。


 両手に剣、鼻に槍を握ったマンモス型のディザスカイが襲い掛かり、飛鳥も真正面から相手取る。

 このアーマーを装着した状態だと、尻尾が生えておらず手数では負けているのは分かっていた。

 だが、スピードでは遥かにこちらが上回っていることに、飛鳥は気がついていたのだ。


 二つの斬撃と一つの突きを受けながらも、力技で無理やり逸らし、懐に入り込む。

 これはアーマーから噴出される蒸気が、マンモス型のディザスカイの視界を多少邪魔していたことからできた荒業だ。普通の状態であれば、成功できるか怪しいところだ。

 この勝機チャンスを、飛鳥は逃しはしない。


「こいつは、どうだああああ!」


 懐に潜りこんだ飛鳥は、型もクソもない、獣の様な荒々しい斬撃。

 それを一撃だけではなく、何度も何度も、絶え間なく叩き込んでいく。

 反撃のチャンスは与えない。ただひたすらに斬るのみ。


「お、おのれ……!」


 マンモス型のディザスカイもなんとか斬撃から逃れようとするが、飛鳥の気迫に圧倒されてしまい防御するので手いっぱいだ。

 最後に全身全霊を込めた一撃を叩き込み、マンモス型のディザスカイを吹き飛ばす。


 壁にたたきつけられたマンモス型のディザスカイは、そのまま壁を突き抜けてトンで言った。

 しかし、まだ倒れた気配はしない。まだ生きていると飛鳥は感じて取れる。

 どうしたものかと迷っていると、後ろから声がかかった。


「飛鳥……デバイスで、フィニッシュムーブだ」


 泰造によるものだった。意識が回復したのだ。


「フィニッシュ、ムーブ?」


 その言葉の意味が解らず、首をかしげる飛鳥。


「ヒーローの最後の締めったら、必殺技だろうが! デバイスを剣にセットしろ!」


 自分の方が辛いというのに、飛鳥に激昂を送る泰造。


 ふと、なぜ自分に彼がここまでしてくれるのだろう、と飛鳥は考える。

 飛鳥に助言を送って、何か得があるわけではない……いや、ある。ディザスカイを倒すという得がある。

 だが、それを差し引いても、彼はそう言った損得で自分に激昂を送っているとは思えなかった。

 ただ飛鳥にわかるのは、その言葉に、胸の内にある情熱と言う炎を燃え上がらせる作用があることだけ。

 けれども、今の飛鳥には突き進むには過剰すぎるほどの理由になった。


「……はい!」


 サムズアップで返し、飛鳥はベルトからデバイスを引き抜く。


【OK! Finish Move!】


 飛鳥と泰造の声に反応し、デバイスが音声を発する。さらにそのデバイスは、可視できる程の帯電をし始めた。

 泰造から借り受けた剣にベルトと似たような差込口があるのに気がつき、デバイスを装填する。

 胸のクリスタルから、剣を持つ両腕に緑色に輝くじぐざくの線が剣の刃先まで走り、これでもかと輝いてみせた。


【One Soul Input!】


「許さん……! お前の裏切りを、我々は許さんぞォ!」


 マンモス型のディザスカイが建物から姿を現し、武器を構えた。


「それなら、俺と泰造さんは、お前らの行いを許さない!」


 剣をマンモス型のディザスカイに向けて、より一段と蒸気を噴出させている飛鳥はまっすぐ走り出した。

 マンモス型のディザスカイも武器を構えて受けて立つ。


「うおりゃあああああああ――――!!」


 壁とも思えるほどの壮大なる敵に、飛鳥は怯むことなく剣を振う。

 勝負は一瞬。互いに全身全霊を懸けた一撃が交差する。

 大きな斬撃音が鳴り響き、太陽にも負けず劣らない青い輝きが刹那にその場を照らす。


 泰造の視界が晴れた時、二人とも互いに背を向けて残心の構えを取っているのを視界に捉えた。


 崩れ落ちたのは、マンモス型のディザスカイ。

 砕けるような音を鳴り響かせながら、マンモス型のディザスカイは大きな爆炎と化して散る。


 飛鳥は自分の背に放たれる殺気が無くなったと分かり、肩の力を抜いた。

 彼自身が振り返って確認すれば、マンモス型のディザスカイの姿はない。


「泰造さーん! 俺! やりました! やりましたよ!」


 勝利を確信した飛鳥は、ベルトを外して装着していたアーマーを解除する。

 泰造が驚いたような顔で飛鳥を見ていたが、すぐに笑みを浮かべてサムズアップを飛鳥に送った。

 いつの間にか人間の姿に戻っていた飛鳥は、それを自分では気がつかないまま、笑顔を浮かべて泰造に力強いサムズアップを送り返す。


 その笑みを見て、泰造は思う。

 ああ、こいつはデカくなるぞ、と。


 ――――男の物語は、まだはじまったばかりである。

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