第9話 思い描いたのは幻想か、理想か

僕にとって知ってることが本当にいくらもないことは、わかっているつもりだったけれど

せめて、自分の人生の主役くらいは…、主人公としての輝きくらいは許してほしいと真に思う。

みな、それぞれがそう思うのは当然のことであろうが、僕にとっての主人公はもっとヒーローのようなものなのだ。

まぁ、そんな理屈ではなく、実際の話をしよう。

「教えてほしい、吉見のこと、菅野くんのことも」

なんというか、ただストレートに言い放った。

という表現なのだろうか?

僕は相談しにきたであろう吉見さんの話が始まるまえに言った。

「えっと、うん

私もいろいろ聞いて欲しくて、こうしてきてもらったわけなんだけどね…」

なんだか困ったように頬を人差し指で抑えていた。

なぜ、吉見さんの相談があるとわかっていながらそんなことを言ったかというと、まぁ意味は実際には殆どなくて、ケジメだと、決意のようなものである。

僕にとって、知らないことが多すぎる。

たとえ、僕の思うヒーローが幻想であろうが、叶うはずのない理想であろうが抗ってみせると。

「宮本くんの彼女さん…?に婚約者がいるなんて私、知らなかった。」

どこから話せばいいのかわからないように本当に困ったようにボソッと呟いた。

正直、僕には彼女の言っていることがよくわからなかった。

というか、吉見さんがなぜそんなことを知っているのかだとか、なぜそんなことを言ったのかだとか。

兎にも角にも、いまは僕の中の理解を超えていたように思う。

言葉が出てこなかった。

「菅野くん、その婚約者、なんだって」

硬い声だった。

「……え?」

空いた口が塞がらない、なんて言うが、こんな時なのかなと、どこか他人事のように思った。

……

…………

「あのー、ご注文は?」

少し怪訝な店員さんの声でハッとした。

聞かれて、気がついた。

僕らはまだ何も注文していなかった。

時間の感覚がわからなくなったように感じてどのくらいそのままでいたのかは分からなかったけど、多かった客は少し減り、少し暇そうにしている店員さんがいたりするレベルだった。


僕は何様なんだろうか

自分を問う言葉はとても冷たかった

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