02:目が覚めたら一人ぼっちでした
チュンチュン、なんてのどかな鳥の鳴き声が聞こえてくる。
朝だよね、たぶん。それとももうお昼だったりする?
ふわぁぁ、と大きくあくびをして、私は身を起こした。
いつもの習慣でベッドを下りようとして、ガクンとその場にへたり込んだ。
腰が……へなへなになってる……。
衝撃で完全に目が覚めて、同時に昨日のことが思い起こされる。
お風呂から出たら知らない部屋のベッドの上にいて。
部屋の主と思われるイケメンに押し倒されて。
そのままぺろりっとおいしく……かはわからないけど、いただかれちゃって。
昨日はお楽しみでしたね!
お約束のからかい文句を自分に対して心の中で言ってみる。
ええ、これ以上ないくらいお楽しみましたとも!
そしてヤケクソ気味にやっぱり心の中で答えてみる。
とりあえず床に座っているのも微妙なので、がんばってベッドに腰を下ろす。
すごいなぁ、こんなに身体が言うこと聞かないのなんて初めてだ。
ちなみにあんなに気持ちよかったのも初めて。イケメンはエッチも上手な法則でもあるんだろうか。
もうね、ほんとーにやばかった。全身が火をつけられたみたいに熱くなるし、焦らすのも計算のうちって感じだったし、何度果てを見たかわからない。
それなりに経験はあるほうだと思ってたんだけど、まだまだだったみたい。
めくるめく官能の世界へいらっしゃ~い、でした。
クセになったらどうしてくれようか。
昨日とは違って明るい部屋の中を、私はきょろきょろと見回す。
部屋には私以外誰もいない。昨日の男の人も。
で、結局、ここはどこなんだろう?
男の人に聞ければよかったんだけど、そんな暇もなかったし。
ゆっくり考える時間もなかったから、何もわかっていない。
そうだなぁ、たとえば。
仮説一。
昨日転んだときに頭を打って、運悪く死んじゃって、ここは天国か地獄。
……どこの世界の天国だか地獄で、あんないかがわしいことが行われるっていうんだ。
仮説二。
転んだときに頭を打って、気絶して、今の私は夢を見ている。
う~ん、寝て起きても目覚めない夢って、強固だなぁ。
仮説三。
転んで気絶しているうちに、誰かにさらわれてここに連れてこられた。
なんのために? そもそも家の鍵はちゃんと閉めてあったし、実家に住んでるから家族がいたのに、騒ぎにならなかったのはおかしい。
仮説四。
もしやこれは……。
「異世界トリップってやつ、かも?」
そう思ったのにはちゃんと理由がある。
一つはこの部屋が日本では美術館や見学できる洋館でしか見ないような造りであること。
ベッドはたぶんキングサイズだし、調度品なんかは芸術品みたいだ。
現代日本で洋館っていうと、美術館だとか博物館だとか、そうじゃなければ旧○○邸とか言われているような場所のイメージだ。
日本で洋館に住んでる人って、いるの? いるかもしれないけど少なくとも私は知らないし、近所にも洋館はない。
もう一つは、昨日の男の人が日本人とは思えない外見をしていたから。
肌の色はよくわからなかったし、髪の色は染めてる可能性があるし、瞳はカラコンってこともありえるけどね。
そしてあと一つは……そうだったらおもしろいなぁ、という願望みたいなものだ。
まあ、考えてみたところで答えをくれる人がいないんじゃわからないよね。
たぶんここは男の人の部屋なんだろうし、待っていればいつかは帰ってくるはず。
そうしたら、気づいたらこの部屋にいたことを説明して、ここのことを教えてもらおう。
……教えて、もらえるかなぁ?
偏見かもしれないけど、イケメンっていうのは話が通じないイメージがある。
普通の人とは違う次元に生きているような感じ。
高校とか大学で見知ったイケメンがそうだったっていうだけなんだけどね。
あの人はそういうタイプじゃないことを願いましょう。
さてと、そろそろ動けそうだ。
まだ足というか腰というか、言葉にしちゃいけない場所に違和感はあるんだけど。
違和感以外に身体がギシギシするのは、たぶん筋肉痛かな。
動けないってほどじゃない、はず。
「ちょっとお借りしま~す」
そう誰にともなく言いながら、ベッドからシーツをはいで、身体に巻きつける。
昨日のバスタオルが見当たらないんだからしょうがない。
あれ、しかめっ面したうさぎのムーさん柄で、お気に入りのやつだったんだけどな。
できたら取っといてありますように。
そして声を出して気づいたんだけど、少し声が枯れてる。
そりゃああんだけ喘げばね……。
ベッドから下りて、広い室内を探検してみる。
ベッドのすぐ近くに書机があって、その上はきれいに整頓されている。
試しに、とまとめられているうちの一つの本を手に取って、開いてみた。
見たことのない文字。なのに、意味が自然と理解できる。
……はい、これは異世界トリップで決定ではないでしょうかね。
しかも自動翻訳つきのようですよ。便利ですね。
昨日の男の人の言葉も理解できたもんね。というか私には日本語にしか聞こえなかった。
次に会ったら、口の動きを見てみようかな。たぶん日本語を話しているわけじゃないんだろう。
本を片して、今度はあまり大きくない窓の外を覗いてみる。
ええと、緑しか見えません。木、木、木。ここは森の中ですか。
と思ったら、おお、向こうに人が見える。
つっ立ってるだけに見えるけど、あれかな、警備とかってやつなのかな。
距離があるから大丈夫だと思うけど、気づかれる前に窓の前から退避した。
お次は二つある扉。まずはなんとなくしっかりしているように見えるほうから。
出たところに人がいてばったり、なんてことがないように、扉に耳をつけて、外の音を聞いてみる。
うん、大丈夫、物音は何もしない。
ガチャリ、と開けてみると、そこはテーブルとソファーがあって、お客さんをもてなせそうな部屋。
なるほど、寝室と応接室が別になっているのか。
ホテルで言うならスイートルーム? あの男の人、いい暮らししてるなぁ。
もう片方の扉も、何も音がしないことを確認してから開けてみる。
あ、洗面所! そして……!
「お風呂っ!」
あの、実はですね、私、今猛烈にお風呂に入りたくてしょうがないのです。
汗やら、とても口には出せないようなものやらで身体がベトベトしているのですよ。
お風呂……お借りしちゃダメですか? 借りちゃいますよ? いいですよね?
返事をする人がいないのをいいことに、私は脳内一人会議でお風呂に入ることを決定した。
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