第13話 渚の乙女
なぎさの壊した空気をみさきが4とか出してもとに戻す。そうか、高志が見てるだけだったな。
ってほらなぎさがあんまりにも空気読まないから俺も変なことしか話せなくなったけど、
「ちょっと待て、俺せっかくあんな……」
洋の興奮して唾飛ばす癖とかほんとどうにかなんないかな、汚い。
「?国連からの日本の女性の扱いについての忠告以外になんか聞いたっけ」
「今、俺の人権が無視されてる」
「そうか?まだなんもやってないけど」
「さらになんかやる気って……どうしよう俺」
「そんなことまではしないと思うから大丈夫」
「どこまでだったらしちゃうの?」
「嬉しいこと」
「いや、うれしいかどうかは相手によるからさ」
「……私のこと嫌い?」
「どこで覚えた、そんなセリフ」
「大丈夫だから」
「なんか余計不安になってきた」
「なんだよ、もういい。ヘン、だ」
「ショタキャラ化?!」
「いいからちょっと静かにしてて……」
言うなりなぎさは洋の隣に座ると肩を掴み、俺が慌てて自分の目を手で覆ったが……別にいやらしい音はしない、どんなのがいやらしい音なんだってお前なぁ!あれだよあれ、水音とかそっち系の小説では表現されるとしか形容ができません。はい。
で、おそるおそる目を開けたら。
なぎさが洋をいい子いい子してた。
いや待て。
「なんだそれ!お前洋は幼稚園児じゃないぞ」
「そうか?」
「『そうか』じゃない!嬉しいわけないだろ!」
「でも体育会系の先輩とか、変ないみじゃなく男同士肩抱き合ったりするじゃんか」
「……そうか、お前に何かを期待した俺が馬鹿だったんだな」
洋は黙ってなでなでされてる、
「洋、お前もなんか言えよ」
「………。」
期待してたのかなぁ、でもなぎさじゃ確かに『こんなん』で精いっぱいな気もするし。まぁこんなもんかもしんないよ、え?何、なんで体育会系とかって別に変な意味じゃなく男どうしでハグしたりするかって?俺一応剣道部だから体育会系になるんだろうけど知らねぇ。変に思ったことないって言うか。
「……なぎさ、なんか言って」
洋はぼおっとしているように見える、だんだんと目を伏せて……って寝てんじゃないだろな。もし寝てたら今日からお前を
「……え?」
はいこの人何も考えてませんでした、知ってたけど。
「『え?』じゃないよ、こういうことする時ってただ黙ってじゃだめだよ、はい」
う~んそうなの?俺よくわかんないや。
「そんなこと言われても……」
「あと五秒」
なんだその謎ルール、あと頼むからこれからいい雰囲気になろうが喧嘩しようがどうでもいいからできれば俺らのいないとこでやってくれ。だってお前ら
「洋はみんなに『不良』って言われてるけどほんとうはなんにもやってないんだよな。私知ってる。性格悪いなんていつも言われてりゃ悪いように見える振る舞いだって増えるだろ、な」
あぁ、なんかどっちかって言ったら『あくまで友達として』の好きなの?判定のみさきさん?え?本人がそもそも何をもって恋愛感情と言うのかちょっと含め一回検討したい?
そうですね、なんか店員のお姉さんがこっちを見つめて(睨んで)いますし、そろそろおいとましますか。
会計しなくっていい、俺の負けだし、なぎさお前自分で頼んだぶんは払えよ。
あ、ごめん。そのジャムパンならおすすめできないな、無駄に甘い。つうか一週間ぐらいぶりだな。別にお前のこと避けるもなんも、ただ俺けっこうなペースでおにぎり続いてるから最近あんま購買来ねぇし、みろドデカ塩おにぎり。
でもほらお前ここにいるかと思って、やっぱりいたのな。
こないださぁ、ファミレスで大富豪やったときお前が「ルールしらない」とか「僕の知ってる大富豪と違う」みたいなこと言ってたから混ぜなかったけど……あ、別に気にならないか、だよな、だって負けたら全員のドリンクバーおごらされるんだぞ。
時になぎさの外泊問題はって……。
お前、しつこいなぁ!
ありゃお前、
「ホテルに行って、何もなかったで済むか!」
「だからなんでそうなんだよ、つうかお前こそなんで山野ホテルに私がいると思ったんだよ」
一回の購買からは職員室が丸見えなんだけど、ちょうどたぶん生徒会の用事かなんかで職員室から出てきたなぎさを捕まえて洋が唾飛ばしてる。お前らもうちょっと周りの迷惑にならないとこでけんかやれよ。
ほらもう外野できてるし。よっしここは俺が一つ、
「もういい、中庭に来い」
俺がなぎさの肩をたたく前になぎさが洋をけしかけた、
「じゃ中庭の、大きな桜の木を前にしたベンチな」
お前ら小学生か!……取っ組み合いのけんかする気じゃねぇだろうな。え?何だよ高志。
……大きな桜の木を前にしたベンチならカップルがよくいちゃつくために使ってる、だぁ!
あいや待たれぇ。
よし、こうはしていられない、俺ら全然関係ないし屋上へ行こう。
え?中庭行くの?見てぇ?お前なぁ。
まぁいいけど、行くか。
学校の中庭。まだ春休み前だから、大きな桜のつぼみもまだまだ。
ところで『つぼみ』って響きなかなかにエロイですな、いやぁ何をおっしゃいますか、わたくしそんな○学生とかなんてぜんぜんむしろそういう本はかわいそうになってしまいますんで、なお大学生ですんでお気に召さずに。
あぁ俺って大木センセイのいい影響を受けたんだなぁ。お前あれから大木センセイに何かいい本借りたか?……あ?なんて話かけていいかわかんねぇって……普通でいいんじゃねぇの?「最近面白かった本は?」とか、そういう、当たり障りない。
それも恥ずかしいって……まぁいい、しゃあない、女教師が教えてくださるありがたい教科書返すついでに俺も一緒に行ってやる。まったくお前それで好きな女の子とかできたらどうなんだよ、俺もあんま人のこと言えねえけど。いや、別にま○《ピー》子とか○《ピー》ち子とか言ってねぇよ俺は。ところで街子って真ん中を伏字にするととたんにいかがわしくなるな、って言っちゃってる?そりゃまた失礼。
あ、やべ、ぼやぼやしてたらあいつらのこと忘れるとこだった。
あいつらは……
「ホテルに行って、親戚の家に泊まった。そんな言い訳通じるか」
「あのな、だからホテルってそもそも泊まりにだけ行くとこなのか?」
「当たり前だ、ホテルに行って泊まらないでお食事だけしてきた?どこの女子高生がそんな言い訳すんだ。……なんかやってるだろ、絶対」
「そりゃやってるって言えばやってるけど。先生も『面白いなぁ』っていってるようなもんだし、やましいことはない」
「先生が面白がる?!誰先生だ」
「津島先生だけど」
「社会科の先生がか……待て、お前結構あの先生と仲いいよな?」
俺と高志はあいつらの後ろから聞き耳を立てる。みさきがいつからいたのか、俺らのそばに来て口の前で人差し指を立てる。
「……お前がやってるってそれ、俺でもできるか?」
「難しいだろうけど、『無理』とは言えない」
「勉強しないと駄目なことか?」
「あぁ、まぁ」
「で、うしろめたくない……」
洋は何が考えてるのか膝を組んで手にあごをのせているようだ。どっちかって言ったら俺らの方が後ろめたい、だって洋たちが座ってるここってカップルシートなんだろ?いや、カップルシートにカップル以外が座っちゃだめってこともないけど……お前、なんかうまそうなセットあるなぁってレディースセット頼んだことねぇ?俺はある。
「体はきつい?」
「ちょっとやるとくたくた」
「どんな人と会う?」
「同年代からお年寄りまで」
洋は、なぎさの仕事を絞ったらしい。
「写真撮られたことある?」
「……」
「写真撮られたことある?あと例えば、俺が同じ仕事お前に頼んだらやるか?」
「……写真は撮られたことある。同じ仕事をお前が頼んで来たら……」
するとなぎさはいい淀み、やがてはっきりとこう言った。
「私がそれで稼ぐ金。まず、お前がそれだけ払うのは無理だ」
「……そうか、わかった」
何がわかったっていうんだろう?洋がやおら立ち上がり、俺らは慌ててその辺に隠れた。高志死んだふりってなんだよそれ(笑)
「松助、みさき、高志。お前らどうせ聞いてたんだろ?今度みんなで海沿いのイタ飯屋いこう、こいつおごるって」
「な、」
「そんな稼いでて俺らにおごれねぇはなぇよな?詳しくは松助に携帯掛ける、じゃ」
何かに納得したらしい洋が、俺らに気づいてっていうか主にお前の死んだふりのせいでだけどまぁそれはそれとして、さっきからなんか周りの視線が痛いんだが……さては誰か俺とカップルシートご希望ですか。
「松助くん、邪魔、邪魔」
みさきが俺を呼び止める。うん、知ってた。
てなわけでなんかおごってくれるらしいからごちになりに行きますか、ではたまたま、じゃねぇよ間違ったまたまた~!
ってことで。
まだ三月だし海沿いは寒いなぁ。ってかなんで洋こんなとこで待ち合わせなんかにしたんだろう。
寒い寒い寒い!いやぁコート着てきてマジでよかった。まだ十時五十分とかだからまだレストランは空いてないしってことで近くのバス停からてくてく歩いてきてその辺の自販機であったかいコーヒーは飲めないしミルクティーなんてキャラじゃないしってことでもうすぐ終わるんでないかと思われます「おしるこ」をホッカイロ代わりにしてきたんですが、もう冷めました!ってことでこれを飲んだらまずそうだな、まぁいい、携帯でもやってるか。
うん、なんだお前?俺わるいけどそういうカキンっていうのはやんないよ。やってるのは主にゲーム会社の公式から落とした月額300とかのやつ。そうそう、だってゲーム会社に騙されるぐらいならARISAに貢いだ方が。
それは騙されてるってお前なぁ。それは言わない約束ではないのでしょうか、ってかお前そういやなんで星のファンなの?男で男の俳優のファンって……俺の友達って変なのいっぱいいるからもうだんだんいい感じで感覚麻痺してきて別になんとも思わないけど、なんで?
『キラキラしてかっこいいから、あぁなれたらいいな』と思って、だって?ふ~ん、そんなもんか。あと『がんばってるから』それはなぁ、なんかARISAにも通じるなぁ。
おっ、双子来たな。みさきもなぎさもGパンだしまったくいつもどうりで何より。
「おごってくれるなんて悪いなぁ」
「……おごるならまだいいよ、どうしよう、私」
「落ち込むところを見るとさほどお腹が空いているんでしょうね、待ってろもうすぐ開くから」
「……私のやってる仕事、洋に無料でやらせないとネットで『私がやってること』書かれるかもって言われた……」
あ、ごめん寝てた。何だよ洋、お前本当に悪ぶってるだけだと思ってたのに本当に悪かったの?!
「それ脅迫じゃねぇか!」
「俺は知らねぇけど、俺を怒らせるとどういうわけかそういう目にあう奴がいるんだよな。いやネットじゃ誰が書いたかなんてわかんねぇけど。だって」
「だ、だいじょうぶかおまそれなんていうか俺だめだ高志パス」
ごめん、お前だってこんな時なんていうかわかんないよな、ほらきょどってる。
「でもさ」
みさき、男をみせるなら今だ。
「僕もなぎさがなにやってるか心配だから、本当のことをしりたい。で、今日ちゃんと嫌がらず来てくれたってことは、モラルに反しないことをしてるってことでいいんだよね、なぎさ?」
みさきはふだんの
「……まぁ、ネットにあんま変なこと書かれるとまずいし、一回誤解を解いておくのもありかなって」
「誤解」
俺らは声を揃えた、
「……なんか援助交際?んなのなぁ、無いから」
よかったまだ冬だけどやっぱり空も海も青かった。歯切れの悪い言葉だけど俺らはなぎさのつぶやきをこの耳ではっきりと聞いたから、安心してレストランのショーウィンドーからめぼしい料理を選ぶことができたんだ。
ここで問題です、レストランで待ち合わせなのに俺らはなぜ海にいるのでしょう。
腹減った。おごりだってきいたからふだんのなぎさみたく遠慮なく喰いまくろうかとおもってなんと朝飯をろくに喰ってなかったことに今気づいた。
「洋」
来たと思ったら俺らを春の海というなんともはや青春もの的な、しかしてその実態は寒いだけなとこに手招いて、それきりなんにも言わない洋に俺が声を掛けた。
渚を歩く洋はくやしいけど絵になる、顔の彫りが深いから、どこで売ってんのかわかんないような黒光りする派手なコートにジーパンと相まって、なんかジーパン屋の広告みたいだ。俺?う~ん俺が渚歩いてもただの体育会系の罰ゲーム臭がするから……。
「なんでここなんだよ、みさき」
ところが俺が聞きたいことを逆に洋がみさきに聞いてきた。
「……さぁ?昨日なぎさに聞いたら『私の仕事が見たいんなら、レストランよりは海でかな』って言われただけだよ」
ふと、なぎさが見えないことに気づく。
さてはお前おごるのおしくなって逃げたなぁ!
んだよもう、
「あれ、なぎさはどうした」
「どうしたってあれだろあれ、おごんの嫌になって逃げたんだろ」
「……」
洋はちょっといらっとしたのか眉をひそめて携帯を取り出す。(携帯アプリで対戦したことがあるからわかる、もちろんちゃんとネットにつながってるやつだ)うわぁマジですかあのできればですね温厚に進めてほしいのですが、だってその
「ごめん着替え手間取った!」
俺のストライクゾーンど真ん中、清楚な白いワンピースの乙女が俺に話しかけてきた。
……どなたですか?
わたくしですねぇ、友達に飯おごるからって聞いてほいほいついてったらこのざまで、あぁそんなうまい話などそんなにないと人生について考えていたとこなんですけれど、宗教とかキャッチかなんかなら間にあってます。あ、うちパソコンないんでインターネット回線なんかのお話にはちょっと……。
「私だよ、私」
おれおれ詐欺ですか、あぁあ、詐欺じゃなきゃそこそこ…いやそれはそうなんだけどこんな娘が俺に声掛けるなんてどう考えても詐欺以外に考えられない、すいません俺生きてるのが嫌になったので春の海をちょっとダイブしてきていいですか。
「待って」
そう言われるとちょっとだけ考え直すこともできるんですが、やっぱりあなたみたいな素敵な女性にどう考えても詐欺とかどっきりとか以外には……。
「松助!私だ!ほら!」
乙女はそう言って髪をゴムで束ね、やおら手を腰に当てガニマタで立ちすくんだ。
「?」
「……」
う~ん、なんでしょうかこのデジャヴは、なんか聞いたことある声ですが
「白浜 なぎさだ!」
え?あぁそうですかどっきりのほうですか、で、カメラどこ。看板は?「どっきり大成功」とかってかいたやつ、できればもっとこう夢のあるどっきりがよかったかもなぁ、例えばだけど、ARISAのこの写真、そうこの、俺のいつも財布に入ってるやつ、あれそのままにこうさ、乙女が俺に声を掛けてきて、あ、そういや君似てるね、で、詐欺と間違えて俺が春の海に飛び込むと。
「……お前ってなんでこうさ、自分モテないモテないって決めつけるんだ。一番よくないぞ、松助」
そんなことばはあなた様には……うん?あれ?
「なぎさ?」
「お前いつだったか言ってた気になる娘だってなぁ、本当はきっと、『お前がもうちょっと自分に自信持ってくれて、なんか二人でいい感じになんないかな』なんて考えてるかもしんないぞ?」
「んな、それは聞き捨てならねぇ!俺とあの、そんなことは、あれ」
話してるこの感じ、間違いない、この乙女は間違いなくなぎさだ。
なぎさが清純な白いワンピースを着て、ちょうど俺のお宝プロマイドよろしくこっちを見てる。
俺は思った。
人生短かった。
「いや待て、なんで春の海に飛び込もうとするんだよ」
「だって人生がはかないから」
「はかなくすんのはお前じゃねぇか松助!なにがあったんだ」
「お前がARISAだ。じゃなきゃお前がそんな恰好、これはもう何か天変地異の前触れだ、地球は滅んだ、人類は終わった」
「んなわけねぇだろ!お前ほら、携帯携帯」
ピピピ、俺の携帯のアラームが鳴る。
「あ、そうだった、お昼のバラエティ生放送でARISAが」
「……な?だからそんなことはない」
「天気予報も地震測定も台風情報もなんともない、天変地異の兆しはない」
「そんな心配までありがとう、でもそれもないから」
アラームは五分前にセットしてある、俺はちょっとずつ正気に戻ろうとするのに、なぎさの白いワンピースがそれを阻む。
「うん?松助彼女誰?」
「私だ、洋」
洋とみさきもなぎさに気づいた。
「なぎさ、かわいい!……でもなんでその格好なの?」
「仕事着」
なぎさの答えは俺の予想斜め上をいっていた。そんな服着てやる仕事、だぁ?!
「へぇ、仕事着なんだ、……なんの?」
「……仕事着って」
自称仕事着ななぎさを納得しない様子で洋は舐めるような目つきでじっくりと見てる。
「駄目だ、断る」
「断るって何をだよ」
なぎさのつっこみを無視して、洋はつかつかと波打ち際を離れていく。
「そんなのは駄目だ」
「何もまだ言ってない」
洋は肩を掴もうとするなぎさを振りほどき、逆に振り向きざまなぎさの両肩を両手でぐっと掴むと向き合ってこう言った。
「現役女子高生アイドル投資家、それがお前の肩書だ。そうだろ?」
「……あ、あの」
なぎさはしどろもどろだ、どうも洋に迫られてどうこうじゃなく……
「……ちょっとだけあってる」
あ、あってんの?どの辺がぁ!?てな俺のつっこみは空へ飛んだ。
「そうか、だったら話は早い。お前俺に『そういうこと』を教えて授業料でがめつく稼ぐ気だったんだろ?」
え?それ詐欺じゃん。ひでぇ俺なぎさのこといちおう友達だと思ってたのに……。
「な、な、な」
「おごるなんて言って、ところで……なんてどこだかわかんないへんな投資先教えて!どうせゴースト会社なんだろ?で、紹介料でお前だけはぼっかり儲かるんだ」
あぁ、なんかどっかで聞いたような話だなそれ
「そうだったのかなぎさ!」
洋はつらそうな顔で勢いよくなぎさの肩から両手を離し、支えを失ってなぎさは軽くふらついた。でも心配すんのはそこじゃない。
「なぎさ、どうなの?」
みさきがなぎさを問い詰めた、洋はさっさと帰る気でもいるのか、もう砂浜をかなり陸側へと歩みを進めている。
「待てって!」
洋の後を追おうとするなぎさをみさきが先回りして前に仁王立ちになり、両手を広げてたちふさがる
「なぎさこそ待って、ちゃんと僕たちに説明して」
「みさきよくやった!」
俺は思わず大声を出す。……なんだよ高志、お前おとなしいと思ってたらこんな時に貝なんか拾って……街子にやる?んな子供じゃねぇのにそんなん喜ぶかって、ったく。
「お前の仕事のこと、教えろ、タダで」
洋は振り返って呟いた。
「……わかった、でも条件がある。ほんとうにネットに今日のこと書くなよ。書いたら」
なぎさは真剣だ、でも普段の様子からなんとなく思うだろうけど、実はなぎさ怒ってもあんま怖くはないんだけどな、せいぜいがげんこつだし……
「誰かがお前らを消しに来る」
え、何それ、超怖いんだけど。
俺が思わずギャル語になってしまうほど怖いのに特になぎさはギャグを言ってるようではなかった。
「じゃあ、誰かカメラ係やって」
「カメラ係」
洋の言ってることって全部合ってたのかなぁ?あいかわらず、嘘の下手なやつだ。
まぁいいか、もうしばらくなぎさに付き合うか、な。
え?桜貝……いいからお前もうその貝拾いやめろよ、ったく。
なぎさは真剣な顔で持ってたポーチから大きな鏡を出して髪型を直してる。
う~ん、こうしてみると確かにちょっとだけアイドルっぽいっていえばアイドルっぽいけど、なにしろ中身があれなのでときめきは全くない。断じてない。あ~あ、いいよな女って、ちょっとかわいい格好すればちやほやと優しくされるんだろ?なぎさはそんなことしないと思ってたんだけどなぁ。
「ほんとうはこういうのメイクさんがやってくれてるんだよな……」
現役女子高生アイドル投資家ってメイクさんなんかいるのかな、ってかまてまて、なぎさ、なんか化粧直しまで始めてるけど?
「おい、お前化粧品アレルギーじゃなかったっけ?」
「まぁな、でもこれは大丈夫なやつだ」
なんか俺ちょっとだけ「それ実はお前が化粧嫌いなだけじゃねぇの」と思ったぞ、まぁいいけど
「それはお前が化粧嫌いなだけだろ」
って洋何言うんだよ、
「あぁ、化粧は嫌いだしこれ以外はアレルギーでちゃうし」
認めた!本当さ、なぎさってまぁだいだいわかってるとは思うけどこういう奴だから。つうことはやっぱあれかな、アイドルかはさておき投資家なのかな、なぎさ。
「なぎさの仕事って儲かるんだろ?だから俺らにもおごってくれるわけで」
俺の空腹をどうしてくれるんだよ、なぁ?
「……あぁ、まぁ」
なぎさはたどたどしく答える、つうかさっきからちょっと後ろ向いたり両手を後ろで組んだり、なんとなく落ち着きがない、いつもだけど。
「よしっ、じゃあこれ終わったら飯にしような」
正直俺はそんな株の価値なんて野菜の
なぎさはまだカメラ係を探してる、
「そんなアイドル投資家って設定にこだわんなくたっていいだろ、もういいから飯屋いこうぜ?その株とかの話だって、お前が何やってるかそこで話せばいい」
俺が提案するのはなぎさに気を使ってじゃなく、単に腹減って寒いからだ。
「いや、ここがいい」
なぎさがせっかくの俺の提案を蹴った、
「こないだみたく、いい写真が撮れるまで喰い直しなんかさせられたらたまったもんじゃ……いいから早く、誰か写真撮ってくれよ、おい洋」
洋は何か思案顔で話しに乗ってこない、
「何ぼぉっとしてんだよ、腹減ってんならとっとと
俺が肩をたたいても知らんぷり、なんつうか心ここにあらずって感じだ。
「多分お前の携帯のカメラが一番性能いいんだよ、いいからこんな茶番とっとと終わらせて飯にすんぞ」
「……なぎさ」
洋はようやく答えた、でなんか眼がいつもの感じじゃない、なんか真剣な感じ。
「お前そこまで、俺らに自分の仕事教えたくねぇの?」
「……え?」
洋はつかつかとなぎさに詰め寄る、
「株は儲かってるんだな?アイドルごっこも楽しいんだろう、もういい、俺はこないだ考えた『あのサービス』でお前の上を行ってやる、見てろ」
そういうとなんと洋は砂浜をどんどん陸へ進み、防波堤の階段を上がった。一人でとっとと帰ってしまったようだ。
「あ?あれ?あいつ飯は?」
「……さぁ(右耳の上で人差し指を立てた手をぐるぐる)」
俺となぎさは取り残された。
「……で、投資家?いいんじゃねぇの?別にやばいことしてなければ」
俺がそんなあいまいにまとめようとしたら
「でもさ、せっかくこんなかわいい格好してるんだから一枚写真いいかな?」
とみさきが携帯を取り出した。
結局それから俺らは『イタ飯やのスパゲッティはお皿にとりわけするものでおひとりさま一杯ではない』ことを知るのだった。
まぁいいや結局全部喰ったから。
もうすぐ二年だなぁ。
ま、言っても俺ら別に何か特殊な運命背負ってたり能力に目覚めたり急に美少女が転校してきたりとかきっとないから、馬鹿のまんまだろうけど。
ってノリでお前まで馬鹿にしちゃった感じだけど、実際どうなの?
……へぇ、ってかなんだよ「真ん中」普通にいいじゃん!赤点ねぇだけすげぇよ、むしろ教えて、赤点逃れりゃそれでいいからさぁ。
でさぁ、そんなことより聞いてくれよ高志、こないだみんなで海とイタ飯屋に行っただろ?んで、写真撮っただろなぎさの、それがさぁ
「あ、ちょうどよかった、ねぇ高志くんも見るでしょう?」
みさきが上機嫌なわけってなんとなく想像つくか?つかねぇ?
「こないだの海行った時の写真~!」
嬉しそうにはしゃぐなよみさき、女子か。
「ねえほらみんなのも撮ったんだよ、それからねぇ、これがとっときのなぎさの写真」
いいか、見るな。俺は高志の目を手で覆った
「……あれ?可愛い」
か、かわうそどうなった、そうその永井川に迷い込んできた、えっ動物園いき、よかった無事で。でさぁ、バレー部の河合の名前聞いて一瞬女かと思ったやつ挙手、あ、やっぱり、なんだってなぁ、「まどか」はねぇよ「まどか」は。なんでもあれ親が女の子が欲しかったとかじゃな二人ぐらい早くに男の子に死なれて、「これは女の子です連れて行かないで下さい」って意味でつけたんだって、普通にちょっといい話じゃねぇか!皮のジャケット洋なんかが着てるけどくせぇよな。変わったものね……あのほら大人への教科書、『熟女』とかあるけどお前どう思う。変りもしない毎日いかに変化をつけるか、毎日朝と夕ご飯は闘いです。変わってこちらから気象情報です。
お前があんまりにも変なこというから俺思わずなんか人生とかについて考えなきゃいけないのかと思ったじゃねぇか!
「いいか高志!可愛いってのはこういうことだ!」
俺はかっこよく叫び、カードゲームアニメの主人公が切り札を出すみたいにいつも財布に入ってるARISAの生写真を出した。
白いワンピースを着て、渚で波と戯れてる。
しかしてみさきが撮ったっていうなぎさの写真は……。
見れないわけじゃない、いや待てこれはなぎさだ。俺の見た感じだとあのほらあるだろう?女芸人とかほんとは可愛いんじゃないかって言って化粧させたりするテレビ、そんな印象を受けるけど。
なんだろう?俺がそんな服のなぎさを見慣れないからな、なんか眼が拒否反応。
ARISAの生写真でも見て眼を清めよう、そうしよう。
「あれ?」
高志どうした、急に……ってあぁ俺のお宝ARISA生写真をどうする!
「……似てる」
高志の声に、みさきを追ってきた洋となぎさもこちらへ来た。
「何?ARISAに?それはそれは……なんとも」
「……やべぇ、ばれた」
なぜか目を輝かせた洋とは対象に、なぎさは抜き足差し足で逃げる準備。
「何がだ?」
そんななぎさの手を掴み、洋はまた壁ドン。
「お前こないだファミレスで大富豪した時俺に何したかわかってる?あんなこと好きな人にしかやらないよな?」
「……そうなのか?」
なぎさはしどろもどろだ。どうも洋に迫られてることにドキドキしてとかじゃなく……。
「つうかこんなこと前にもなかったっけ?」
なんとか逃げようとするなぎさの手を掴んで、洋は言った。
「とにかくこれではっきりしたことがある、なぎさお前、俺が好きなんだろう?」
うんだから付き合うとかそういう話は二人きりの時にやってくれよ、頼むから
「ところが俺には彼女がいるんだ、いつも弁当作ってくれる、年上のおねぇさん」
あれ?初耳だ、まて、確かにあのうさちゃん巾着の手の込んだ可愛い弁当をお前が作ってたら俺はお前の家事能力を低く見積もってたことを反省し師匠と呼ばせてもらうけど。
「まぁ、そういうわけでせいぜいがんばってくれ」
あぁなんだろうこれ、なんかいつもの日々になっただけかよ。
「お前はARISAじゃないよな?……じゃあこれは」
俺はなぎさに聞いて、ARISAのほうの写真をなぎさに見せた。
「それはARISAだから大丈夫」
大きくそう笑うなぎさは相変わらずデリカシーがなく、俺はARISAの生写真を見て
「いつかも言ったけど、この渚の乙女が、なぎさのわけないよな」
とだけ呟いた。
二年になったら、それから後で洋の考えた『サイコーのサービス』とか洋の弁当作ってくれる彼女さんとかがまた俺らの日常をかき乱すんだけど、それはまた、あとで話すな。
渚の乙女 夏川 大空 @natukawa_s
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