第2話

草原を風が走ると夜の深緑色の海に波が流れていく。

それはどこまでも幻想的で、もう日本では、地球では見られないんじゃないかと思うほど綺麗な景色だった。

ユウキは景色の美しさに夜が支配する不安に吸い込まれそうな気がした。

手を動かすと、ちょんっと温度のある人肌ぐらい…人肌に触れた。

そこにいたのはエリだった。ユウキの手がエリの頬に触れたのだ。

ユウキはその赤ん坊のようなふにふにとした感触に名残惜しさを感じるけども、手を引っ込めた。

そして、エリの身体全体が目に入る。

エリの服装は結構薄手だ。何を思ったのか、彼女は転校する前の学校、双胴高校の女子制服を着ていた。

ユウキは先の事を思い出す。

エリは確実に自殺しようとした。

ユウキの中ではエリとの高校で過ごした日々が蘇っていた。

いや、もしかしたら一緒にいれた時間は少ないし、そもそも恋は叶っていないのだから、ちょっと自分の考え方は危ない奴かもしれないとユウキは自嘲するようにエリを見た。


何故、エリは自殺しようとしたのかはかなり気になる。好きな女の子だったエリだから尚更心配だった。

彼女は、確かに儚げな雰囲気を出していたけれども自殺なんてするような子じゃなかった。

それが余計に彼女に何があったのか、気になった。


エリは起きる気配がない。

表情はどことなく、泣いている気がした。


今、ユウキのエリへの想いは複雑になっていて昔のようには単純に好きという言葉では表せなくなっている。

いや、もしかしたら単純なもので、糸が数本絡まって入りだけなのかもしれないが、ユウキには彼自身のエリへの想いがもう分からなかった。

一度、果てたと思って、心の中でも清算したはずの想いはもう今となっては状況が状況で表に顔を出すことは無かった。


ユウキにとってエリの事を除いて一番疑問だったのは彼が今いる草原がどこかという事だった。


彼は冷静さを欠いてはいなかった。

普通の一般人ならば、困惑、混乱を極めもしかしたらあと数分で訳も分からず発狂してもおかしくない。そんな状況なのにも関わらず、彼はまず生きること、次に自分が何をすれば良いのかを探していた。

なぜ彼は冷静さを欠いてはいなかったのか。

それはユウキが昔抱えていたある欠点にあった。

感情が希薄なのだ。

人が銃撃されるような事件を見ても本当に何の感慨もわかない。親などに感謝の情を持とうとしてもあんまり持てない。

好きという気持ちもエリがいてくれたお陰で彼は理解する事が出来たのだ。

今となっては、人並みに感情の起伏もありアスペルガーのような病気でないとされてるものの、ユウキが焦る事態にはならなかった。

一番彼が困ったのは、世界が変わった事ではない。エリの行動。


ユウキはこのままではいけないと思い、立ち上がった。

背後は森が広がっている。

草原ではあるが、道が続いているのが見えてその先には小さな光がある。

もしかしたら、人がいるのかもしれないとユウキは思った。

未だ、エリの意識は戻らない。ユウキは彼女をそっと抱き上げて背中に回し、おぶって歩き出した。



五百メートルは歩いたのだろうか。

エリは起きず、おぶっている状態のまま、灯が灯っているのが見える場所まで来ていた。

そこは大きな村のようで、辺りを木で組んだ柵で囲まれている。

だが、家々には灯が点いているところもあり原始的なようには見えない。

囲いとなっている柵は立派なもので、二メートル近くあり侵入は無理そうである。

ユウキから正面に行ったところには門のような場所があり、鎧を着て武装した男2名が立っていた。

2人の男たちは、朗らかな表情で談笑している。


ユウキのところまではしっかり見えないが、危険は無さそうだと、ユウキは思い彼らに話しかけてみる事にした。


ユウキが彼らに近づく。


「すいません。ちょっといいですか?」


門番らしき2人は突然の声に驚き、身構えた。その手は腰の辺りに添えられている。

握っていたのは剣の持つ部分だった。


「誰だ!」


彼らは人影を見たところで、緊張で強く誰何の問いを発してしまったが、相手の状態をみてその表情は困惑に染まった。

全く見た事のない格好をした男がこれまた見た事のない服をきた女を背負っているのだ。


「お前達は、どこのものだ? その格好…。アルドレアからの難民か?」




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エリとユウキの異世界過酷生活 @yumesaki

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