第五章 剣士手習い



       一


 ルゥファナはユルノスとの稽古を始めることとなった。


 ただし、稽古と言っても、最初は剣など持たせてもらえない。基礎体力をつけるための訓練だ。

 したがって、走ることが基本となる。

 彼女は毎朝、リガオンからナルカリイの港まで、徒歩で三刻かかる道のりを走り込み、ユルノスの指定した稽古場へ通うことを約束させられた。

 ヴォルフェーの時とは異なるやつの指示に、おれは期待半分、不安半分の気持ちだった。


 稽古場はナルカリイ港の外れにある、小高い丘の上で始まる。

 潮風の止むことのないそこからは、港を一望でき、恋人同士の逢い引きに使われたり、観光客が訪れたりと、ナルカリイの名所のひとつでもあった。

 ふつうならそんな目立つ場所で、剣士修行を行うことなどあり得ない。

 しかし、ユルノスは<ふつう>で満足したりはしない。

 やつに言わせると、剣術道場での修行は単なる自己満足に過ぎないらしい。

 戦場で使える活きた剣技は、設備の整った密室の道場などで身につくもんじゃなく、人目にさらされ、その視線を感じ、ひとの存在を意識してこそ得られるんだと。


 ルゥファナはその指導に真っ向から反発し、やる気を見せなかった。

「ここで稽古することに、なにか意味でもあるって言うわけ?」

 まったく、初日からケンカ腰だ。

「いいか、山女。一回だけ言う。おれは、意味のないことは好まねえ。時間の無駄だからだ。わかったか? わかったらさっさと動け。指示のあるまで休むな」

 ユルノスはそれ以上語らず、ルゥファナをにらみつけた。仕方なく彼女は、言われたとおりに身体を動かしはじめた。

「ただ身体を動かせって言ったって」

 指示もなく、ただ動けでは、文句を言いたくなるのもわからないではない。

「勘の悪い女だな。身体中の筋肉を全部動かすんだ。順番に、そら腕!」

 おれにもそれが、無茶な指示だということだけはわかった。


 丘を訪れた観光客は、見たこともないほど大きな娘が、ぎこちなく、メチャクチャな動きで髪を振り乱すさまに目を丸くしている。

 ルゥファナは首まで真っ赤となり、ひたすら無様に動きつづけた。

 眼には涙さえ浮かんでいるようだ。


「ま、最初はこんなもんか」

 荒い呼吸で地面に手と膝をついたルゥファナを見下ろし、ユルノスはにべもない。

 意味不明の動きを数刻もつづけさせられたため、彼女は汗まみれだ。

 冬の気温はその水分を白い水蒸気に換え、衣服の開口部から煙のように立ち登らせた。

「今日はこれで終わりだ。走って帰んな。身体を冷やさねえようにしろ」

 ユルノスはさっさと丘をくだり、自分のねぐらへ戻って行く。


 そんな、稽古とも思えない修行は数日間つづいた。

 ルゥファナの不満は日増しに高まっていくようで、同時に、やつを紹介したおれへの不信もわき上がって来たのか、とうとう彼女はおれにさえ疑念の目を向け始めた。


「なんだ、その動きは! もっと気を入れやがれ!」


 来る日も来る日も同じ稽古は続く。

 ユルノスの苛立った声に、とうとう彼女の動きは止まった。

「あたし、もうやめる! 動け動けってなによ! いったいどう動けばいいのよ!」

 眉をつり上げ怒るルゥファナに、ユルノスは小馬鹿にしたような表情を浮かべる。

「なんだ、もう音を上げんのか?」

「違うわよ! ばかばかしくて! ただ動けって言われてあなた動けるの!」

 憤慨した彼女の気持ちも、いまは充分わかる。

 が、意地の悪い剣術指導者は首を振った。

「わかんねえのか、頭の悪りぃ女だ。いいか、見てろ」

 やつは息を整え、少し間をおくと、徐々に身体を動かしはじめる。

 ゆっくりと、少し素早く、またゆっくり。

 

 まるで踊りのような動き。

 違う、踊りじゃない。

 舞いだ。

 いや、舞いとも違う。

 舞いのように作られた動きではなく、肉体の自然な動きを再現している。

 

 ユルノスの動きはしなやかで美しかった。

 やつの上着やズボンもその動きに合わせ優美なしわを作り、身体にまとわりついたり、広がったりする。衣服さえ肉体の一部と化したように見えた。


 おれより小柄なユルノスと、巨大なルゥファナの言い争いを遠巻きで面白がっていたらしい観光客や若い恋人たちは、いつのまにかこちらへ近付き、やつの動きに見とれていた。それほどユルノスの動きは洗練されていて、見るものの心を魅了した。

 素早く激しく動いたかと思うと、また静かにゆるやかとなり、その動と静との調和は見事というほかない。おれはここにキリューグを持ってこなかったことを後悔した。

 やがて、その動きは完全なる静止を予感させ、結末に向かい集束していく。


 動きは、止まった。

 潮風の通り抜ける、静寂に満ちた丘の上に、そよぐ草同士のかすかな音だけが聞こえた。


 観客のひとりは、無言でいることに耐えきれなくなったらしく、激しく手を打ち鳴らす。

 拍手はあっという間に観客全体に広がり、丘の上はたちまち賛辞の声であふれた。

 ユルノスは閉じていた目を開き、感動の興奮に手を叩き歓声を上げはじめた観客たちを見回すと、おもむろに口を開いた。

「やかましい! 見せもんじゃねえ、とっとと失せやがれ! この暇人どもが!」

 周囲の観客たちは感激の余韻と、大声で投げかけられた汚いことばとの落差に声も失い、憮然としたような、惚けたような表情で次々と丘を立ち去っていった。

 丘の上にいるのはおれたちだけになった。


 周囲を取り巻く、人の気配が全て去ったのを見届け、ユルノスはルゥファナに言う。

「少しは理解したか? 山女」

「……踊りを習いたいわけじゃないわ」

 彼女は強情にもそんな憎まれ口を叩いた。

 その反応を予期していたらしく、ユルノスは薄く笑う。

「身体ってのは、自分に語りかけてくるんだ。こう動かして欲しい、こう動きてぇ、ってな。贅肉だらけのおまえは、その声も細くなっちまってて、聞こえにくいんだろうぜ」

 その挑発的な発言にも、彼女はぐっと口を結んだだけだった。

 態度は先ほどまでとは明らかに違う。


 やつは満足そうな口調で指示を出した。

「さっさとつづけな、山女。また邪魔が入らないうちにな」

 ルゥファナは無言のまま、素直に修行へもどった。


 これならもう彼女に付きそう必要もないだろう。あとはユルノスに全部お任せでいい。

 ようやくおれも自分本来の仕事にかかれるようになった。

 手始めに、金策だ。

 彼女の蓄えもそろそろ底をつきそうになっている。

 リガオンやナルカリイでいくつかの酒場に出向き、歌奏の口を探したものの、おれの演奏は酒場の客層に合わないということで断られた。

 くやしいことに、大衆酒場ではいま『ヨツラ楽団』方式の演奏が人気だと。

 得意分野での仕事を封印されたので、しようがなくおれはナルカリイの港湾職業斡旋所で日雇いの仕事を探し始めた。港の職業斡旋所と言っても、別に船乗りの仕事ばかりじゃない。ナルカリイ周辺の求人はみなここを通して行われている。

 求職者の群れをかき分けながら、斡旋所の壁四方に止め釘で打ちつけられている革紙の求人票をひとつひとつ眺めた。


 <求む! 力持ち! 軽作業中心の日雇い仕事>

 矛盾してるのを承知してか、思わず本音でも出たのか。


 <優しい人募集。報酬は要応談。ひやかしお断り>

 なんの仕事だかさっぱり分からない。


 <急募! あなたも世界の果てに挑戦しないか>

 冗談じゃない。


 割のいい、うまみのある仕事とおぼしき求人票の前には求職者が群がり、近づいてそれを読むことすらできなかった。ひとにぶつかったり、ぶつかられたりしながら上を向いて歩くのにも疲れてきた。でも、さすがに手ぶらでは帰れない。

 そんなことを考えていたおれは、一枚の革紙に目をとめた。

 周囲にあまり人はいないが、そこにワーヴァルト家の求人票を見て、一瞬目を疑う。


 <剣を扱える方募集。腕自慢、力自慢の方限定。十名ほど>


 紋章まで刻印されていても、明らかにガセとわかる求人票だ。

 ワーヴァルト公がこんなところで求人するわけはない。ケネヴきっての名門貴族なんだぞ。


 賃金を見ておれはさらに首をかしげた。

 六十ケル。

 おれのような成人男子が一日まともに働いて稼げるのはせいぜい五十ケル程度だから、たとえガセでもそれなりだ。港湾作業の額と比べても遜色はない。

 貴族の支出する額として見れば少ないのに、不思議とその額には奇妙な現実味を感じた。けれど、人気のなさそうなのは、やはりガセとわかるからだろう。募集日付を見ると、今日だった。

 拘束時間も驚くほど少ない。

 あれこれ考えつつしばらく求人票を見つめていると、脇にいた悪相の男がおれに声をかけてきた。

「興味あんのか?」

「この募集、あんたの?」

 どうひいき目に見たって、こいつは貴族の家士なんかじゃない。むしろ追い剥ぎとか、山賊とか、ともかくうさんくさい。

「先渡しで二十。残りは終わってから」

「本当に後払いはあるのか?」

「じゃ、ほかに行きな」

 やつは薄く笑い、もう興味はないという仕草で手を振る。

 ずいぶん強気だ。そんなに需要のある仕事なのか。

 おれはすぐに決断した。二十ケルだけでも、時間単価にすれば割はいい。それにガセと明白に分かるような求人票を、臆面もなく貼り付けるこいつらの無神経さに、かえって興味も増した。

 背を向け、去ろうとするそいつの肩へ手をかける。

「わかった、話を詳しく聞かせてくれ」

 男は振り返った。ただでさえ悪相なのに、その顔をさらに悪辣そうな微笑で歪めていた。

 はじめからおれが引き受けると踏んでいたんだろう。

 やっぱりやめときゃよかった。と、この時はじめて思った。


 聞いた仕事の内容は簡単で、貴族師弟の相手をするだけだという。

 要はナルカリイを訪れている、その子の剣術訓練におつきあいすればいいってことだった。

「腕自慢とかいろいろ書いてるけど、そんなに気にしなくていい。弱っちいほうが、かえって喜ばれるかもしんねえ」

 連れて行かれた先の小屋で、悪相は集まった男たちに剣を配りながら、不気味な笑顔を張り付けたまま、機嫌よさそうにそう説明した。

 渡された剣を鞘から抜いてみると、なんともなまくらでろくに手入れもされていない。

 おれは最後の十人目だった。

 周囲を見回すと求職者の半分は、かなりできそうな剣士くずれらしきやつらだ。荒んだような眼で、こちらをじろりと睨むやつもいる。かわいそうに、こんな仕事をするなんて。酒や女で身を持ち崩したのか。

 いずれにせよ、おれも含め、ここにいるのは全員どこか不幸を抱えた奴らには違いない。


 年老いてくたびれきった猛獣グマラシの曳く貨物車の荷台に全員押し込められると、目的地と称する場所まで連れて行かれた。降りてみると、いつもルゥファナと通っている、ナルカリイとリガオンの間を通る見覚えのある道沿いだ。

「もうすぐ、貴族の坊ちゃんがお出でだ。歓声を上げて出迎えてくれ」

 悪相の男の言いぐさで、ここまで来たって言うのに、突然やる気もなくなった。

 要するにやらせだ。

 暴漢になったつもりで、貴族の坊ちゃんにやられたふりをしてればいいんだろう。小さな子どもに真剣を持たせ、ぶん回させて身を守る、実戦もどきの訓練。

 貴族の子どもに度胸をつけさせるため、曲がりなりにも白刃の前に立つわけだ。まかり間違えば大怪我することだってあるかも知れない。

 たかが二十ケルのためにこんなカス仕事をしなきゃならないなんて、なんとも惨めな気持ちにもなろうってもんだろう。


「来た来た」だれかが声を上げた。

 ナルカリイの方角から、二頭立てのグマラシ車が土煙を立てて走ってくる。

 槍の穂先にも似た鋭い先端を持つたてがみを広げ、猛獣と呼ばれるにふさわしく堂々としていた。

 おれたちの乗ってきた荷車を曳くおいぼれグマラシは毛先もすっかり丸まり、そんな勢いはない。

 彼我の違いに、ますます気分は落ち込んでいくばかり。


『坊ちゃん』の乗るグマラシ車は、さすがに貴族所有のものだけあり、背中の御者台に優美な飾りをつけ、曳く客車にも立派な細工が見てとれる。

 そこに正真正銘ワーヴァルト公の紋章を見つけ、おれはまたも驚愕した。

 ――ばかな、本当の求人だったのか! 


「ぼっ、ちゃーん!」

 気の抜けたような声で、いきなりおれの隣にいたやつはわめく。

「坊ちゃーん!」

 集められたやつらもそれを合図として一斉に叫びはじめる。剣を抜いて振り上げている者までいた。わあわあ叫ぶその声は周囲に拡散し、聞き取りにくいばかりか、相手を威嚇しているようにも聞こえる。


 なにかが狂ってる。

 周囲を見ると、あの悪相の男の姿はなかった。

 グマラシ車は突然速度を増し、こちらめがけ直進してきた。

 ――やはりおかしい、これじゃまるで……

 おれたちの最前にいる求職者の剣士くずれは笛を吹いた。猛獣グマラシの苦手とする鳥笛だ。ピーという高音に、道の向こうから突進してくるグマラシ車は急激に速度を鈍らせ、やがてその歩みを止めた。

「いくぞ!」

 笛吹き男はまるでどこかの剣士団長のように合図を出し、停止した客車に向かい走り出す。

 打ち合わせをしていたわけでもないのになぜか全員その後につづいていく。

 だれかが動くと追従しちまう、いわゆる集団心理ってやつか。

 それに気づいたおれは途中で足を止め、先の様子をうかがった。見ていると客車の扉から、臙脂色の揃いの上着を着た、護衛らしき数人の剣士が飛び出してくる。



      二


 たちまち斬り合いとなった。


 指揮官然とした剣士くずれは手際よく臙脂服の護衛をひとり、二、三合で斬り倒した。血らしき真っ赤なしぶきも見えた。

 あきらかにこれは貴族子弟のためのやらせ訓練なんかじゃない。


 ――襲撃?! ……ワーヴァルト公を?


 おれはまだ事の次第をきちんと理解せず、その場に立ちつくしていた。

「貴様っ!」

 怒鳴り声で我に返ると、間近に臙脂服の護衛が突進してくるところだった。言い訳する間もなく、その一撃をなんとか受けきる。

「ま、まて、まって!」

 必死に抗弁しようとしても、相手の追撃は止まず、おれは防戦一方のまま。

 その気になれば、昔取ったなんとやらでなんとかなりそうな相手にせよ、そもそも、おれの方は相手を攻める強い動機に欠けていた。

 だいたいどうしてこうなったのかさっぱり分からない。

 だが、相手の方は違った。

 どう考えてもおれたちはグマラシ車の中にいる彼らの雇い主へ仇なす曲者だ。

 立場が違う、動機が違う、覚悟が違う、気力が違う、というわけで、あっという間におれは窮地に追い込まれてしまった。

 まだ死にたくないから、戸惑いながらもなんとか相手の剣を受けつづける。

 逃げ出せばいいとも考えついたのに、事態はこの先どうなるのかと物見遊山な気持ちが勝ち、そうしなかった。それがいけなかった。

「あ……」

 相手の強い打撃を剣刃の根本で受けた後、妙に手応えも軽くなったと思ったら、おれの借りたなまくら剣は、鍔元のところでぽっきり折れていた。

 先はどこかへ飛んでっちまったらしい。

 悪いことは重なるもので、自分の不利に、相手との距離を離そうと後ろへ飛びすさったとき、着地した足は草むらで滑った。無様にも転倒する。

 その好機を見逃すはずもなく、相手は起き上がろうともがくおれめがけ突進してきた。

「ちょっ、ちょっとちょっと!」

 われながら情けない声と台詞を出しちまう。

 剣を振り上げる相手の動きをひどく遅く感じ、急に自分の死期を悟った。

 こんなところで死ぬ羽目になる不条理に、この場所へ来たことを深く深く後悔する。

 頭部に来るはずの衝撃を予感し、思わず目をつぶった。


 <どさっ>


 音だけ。痛みもなにもない。

 

 ――?


 おそるおそる目を開けると、目の前にユルノスが立っていた。

「どっちだ?」

「え?」

 いきなり質問され、頭の中は真っ白になる。

「臙脂か、それ以外か!」

 ようやくやつの言うことを理解した。

「それ以外……たぶん」

 ユルノスは、おや、と訝しむような顔になった。

「臙脂じゃねえのか?」

「臙脂じゃない。あっちは被害者だ」

 なんとか説明しようと、説明にもならないことばを口走る。

 やつはわずかに首をかしげた。

「わかんねえな。で、どのくらいやっていいんだ?」

 その意味するところは分かった。

「死なない程度に」無駄と知りつつ、せめてもの希望を伝えた。

「そりゃ相手次第だな」

 ――やっぱりだ。なら訊くな!


 ふだん丸腰のユルノスは、おれの前に倒れている臙脂服の護衛から剣を取り、グマラシ車周辺の戦場へ向かって走り出した。

 こいつはついてる、ユルノス相手に当て身で気絶させられただけだなんて。

 倒れている護衛の息を確かめ、そう思った。

「センギィ!」

 背後にルゥファナの声を聞き、振り返る。息を切らした彼女はおれの横に走り込んできて、ぜいぜい息を吐きながらすかさず文句を言った。

「あのひと……あいつ、早すぎるわ、追いつくのが精一杯」

 その愚痴を最後まで聞いている暇はなかった。

 先方のグマラシ車周辺では、護衛の不利は明白だ。客車を見ると、求職者の剣士――たぶんそれも偽装だろう――ともかくそいつらは、中から小柄な人物を引きずり出そうとしていた。

 あれが『坊ちゃん』なのか?

 おれは立ち上がり、ユルノスの後を追った。ルゥファナの足音も背後につづいた。

 

 ところで、やつらの不幸の始まりは、相手の力量を正確に測るほどの実力もないくせに、なまじっか剣の腕に自信を持ってたってことだ。


 早足で自分へ近づく小柄で童顔の男に、そいつは剣を構えすらしなかった。

「助太刀なら止めときな、にいちゃん。死ぬぞ?」

 ユルノスは剣の柄を逆手に持ち、垂らした腕の背後に刀身を隠していたので、相手は丸腰と思って油断したのかもしれない。いずれにせよ、そいつが次のことばを思いつく前に、ユルノスは一足飛びに近づいて、首をはね飛ばした。

 切り口から噴出する血しぶきを浴びる間もおかず、すぐ横にいた次の獲物に走り寄るのが見えた。

 仲間の悲惨を嘆く暇もなく、その男は手に持つ剣ごと両手を斬り飛ばされ、慟哭にも似たな叫び声を上げた。まさしく剣鬼の技ってやつだろう。

 それでようやく、ほかのやつらは場の異変を感じ取ったようだった。

 あの指揮者役の剣士は、鋭く声を上げ、仲間を呼び集めた。

「ひとりだ! やれ!」

 臙脂服の護衛を斬り伏せた剣士はふたり、走りゆく剣鬼を追う。

 だが、速度をゆるめることなく、ユルノスはまっすぐ指揮者のもとへ向かった。

「こしゃくな!」

 自分が標的と悟ったそいつは叫び声とともに、素早く真っ向から剣を振り下ろした。

 その剣に合わせることもなく、ユルノスはその脇をただ通り過ぎた、かのように見えた。

 次の瞬間、指揮者の剣士くずれはその場に崩れ落ちる。

 どうやら、通り過ぎた瞬間、目にも留まらぬ胴払いを食らっていたようだ。


「山女! 客車だ!」

 ユルノスは再び走りだす。

 その指示に、ルゥファナも無言で客車へ走る。


「く、くるな! こいつを殺すぞ!」

 瞬く間に主力と思われる剣士三人を失い、その男はすっかり恐慌をきたしていた。さっさと逃げれば良かったのに、人質をとって客車の前に居座ってしまう。

 人質は少年だった。

 身なりからしても貴族の子弟に間違いはない。そいつの太い片腕を背後から首に巻かれ、首筋には長刀が突きつけられている。


 遅かりしながら、おれはことの次第を悟った。

 こいつらは例の貴族子弟誘拐事件と関係しているに違いない。

 そういや、以前もそんなことが起こったと入国時に聞いていたはずだった。まさか、自分がその下手人のひとりになりかけているとは。


「ぼうず、その腕をかみ切ってやれ!」

 走り寄りながら、ユルノスは少年を大喝する。

 背後にはさきほどの、敵の剣士がふたり迫ってきていた。

「ば、ばば馬鹿言うな!」

 少年を押さえつけている男は口走った。牽制のためか、迫るユルノスに向け腕を伸ばし、長刀をまっすぐ突き出す。腰も引けており、相当びびっている様子だ。

「噛め!」

 ユルノスの突然の大声に少年ははじかれたような動きで、自分の首を圧迫している邪魔な男の腕にかみついた。

「が、がき! この!」

 男は再び長刀を戻し、少年の首を突こうとしたが、それより早くユルノスの投げつけた剣は、まっすぐその頭に突き刺さっていた。

「うわ、うわっ!」

 ぴゅーと勢いよく吹き出す血糊を頭からかぶり、少年は驚きの声を上げる。

 男の死骸は頭に剣を突き立てたまま、叫びつづける少年を抱え込み、背後に倒れた。

「この野郎!」

 いよいよユルノスの背後に迫ったふたりの剣士は、相手が丸腰となったのを幸いとばかり、背中から同時に必殺の一刀を浴びせかけた。

 振り向きもせず、ユルノスは体の動きだけでその攻撃をかわし、空振りした剣を立て直そうと体を開いたふたりの剣士に、次々強烈な当て身を入れる。

 後頭部に目でもついているかのような、見事な体さばきだった。

「ぐぅ!」「ん、ぐ!」

 たまらずふたりはうめき声を上げ、体を折った。ユルノスは全く容赦なく、息を詰まらせたふたり組の後頭部を順に、肘でしたたかに打った。


 骨の砕けるいやな音がした。おそらく即死だろう。

 明白な殺意を持って攻撃を仕掛けてくる者には手加減しない。

 やつが『相手次第』と言うのは、そういう意味だ。


「……うしろに目でもついてるのか?」

 息も乱さず、返り血一滴すら浴びていないユルノスに近づき、そう言ってやる。

「ああ、ついてるぜ。身体のどこを狙ってるか、相手の視線が教えてくれる」

 にこりともせず、やつはそう答えた。


 ほかの襲撃者たちはどこかに逃げ去っていた。おそらくおれ同様、港で雇われた連中なんだろう。日当一日分程度じゃ命を賭ける気にもなれまい。


 貴族の師弟は泣きわめいていた。


 無理もない、人質になった上、刃物を突きつけられ、おまけに頭から大量の血を浴びるなんて経験は、貴族生活にそうそうあるもんじゃないからな。

 ルゥファナはその子を腕に抱き、背中を、あやすようになでさすっていた。自分の衣服が汚れるのもいとわず、優しいことばをかけ、手慣れた様子で恐怖による興奮を鎮めている。

 思い返すと、ネッケーゼ村を出て以来、いや、いたときでさえ、彼女の母性を感じる姿に触れたのは、これが初めてだ。剣を振り回す彼女には、ふだんそんなことも感じないのに、どういうわけかその仕草は彼女の本質を表しているのだという気もした。


「センギィ、だれかやってきたぜ」

 ユルノスのことばに、目を上げ道の先を見た。ナルカリイの方角から、ひとり乗りの子グマラシにまたがった男がふたり、こちらへ向かってくる。


「なんてことだ! 護衛は全滅か!」

 そいつらはおれたちのすぐ近くで子グマラシを降り、嘆き声を上げた。

 ひとりは深紅の上着を着用し、胸にはワーヴァルトの紋章をかたどった刺繍をつけていた。

 ワーヴァルト公の家士だろう。

 着衣の仕立て具合からすると、かなり高位だ。執事とか、侍従長あたりか。


 もうひとりはがっしりとした体格の、長身の男だった。

 濃紺の上着に、ごてごてした金色の刺繍と飾りボタンをたくさん散りばめている。派手な仕立で、どこか悪趣味だ。不思議なことにそいつの顔はどこかで見覚えもあった。

 どこで会ったのか、記憶を探っても確かには出てこない。


「若、ご無事でしたか、若!」

 うわずったおおげさな声を周囲に響かせ、濃紺の上着はルゥファナに抱かれた貴族子弟に駆け寄っていった。


「貴殿らは?」

 深紅の上着は、おれとユルノスを交互に、まるで品定めするような目つきで見ながら、権威的な口調で詰問してきた。

「無礼な野郎だな。礼もなしかよ」

 ユルノスは正直に感想を述べた。

 こいつに話をさせると、後々ややこしくなりそうだから、紅い上着の男には、おれが事情を話すことにした。

「おれたちは通りがかりでね。たまたま現場に出くわして、あの子を助けたってわけだ」

「おまえ、なにもしてねえじゃねえか」

 むっとするユルノスに目配せしてみても……どうせこいつにはわかりっこないか。

「失礼だが、貴殿らのお名前を伺いたい」

 ワーヴァルト公の家士は変わらず疑義のあるまなざしでおれたちを見ている。

「そっちから名乗んのが、筋だろ」

「ユルノス!」

 思わず小声でたしなめた。

 ワーヴァルト公の家士はその名を聞くと、ぎょっとしたような表情になり、急に態度を変えた。後ろに下がり、深々と礼をする。

「ユ、ユルノス……あのユルノスさまで? こ、こここれは大変失礼いたしました。私はワーヴァルト家の執事でございます。ご無礼をどうぞどうぞご容赦ください」

 あまりの手のひらの返しように、おれはただ唖然とした。

「紋章で分かってら。ちっ、最近はしつけがなってねえな、ワーヴァルトの家来もよ」

 ユルノスはあきれたような口調で、ケネヴいちの名門貴族を呼び捨てる。

 なにか特別なつながりでもあるのか。

「大変申し訳ありません」

 執事はさらにかしこまり、もう一段深く腰を折って恐縮する。


「みなさま、お助けいただいて、感謝申し上げます」

 甲高い声で、子どもがおれたちの間に割って入ってきた。

 執事の話じゃワーヴァルト公の子息だという。

 全身血まみれになりながらも、さきほどまで泣きわめいていたとは思えないほど、口調にもすっかり落ち着きを取り戻していた。さすが貴族子弟だけあり、気品ある物腰だ。


「たぶん、貴族子弟誘拐団なんだろうな、こいつらは」

 おれは場を取り繕うため、自分のことを棚に上げ、ぺらぺらとしゃべった。

「……もう少し早く来ていれば、こんな輩の手助けなど借りなくても済んだものを」

 その声の方を見ると、濃紺の上着はいつの間にかおれたちのそばへ来ていた。

 ユルノスはじろりとそいつをにらみ、執事に質問する。

「なんだこいつは? こいつも家来か?」

「こいつ? 貴様、それがしのことを言ったのか?」

 長身を反り返らせ、濃紺の上着は聞き捨てならない風に訊き返してくる。

「……いえ、この方は家士ではなく、坊ちゃまの剣術教師でして」

 あわてて執事は場をとりなした。

「剣術教師だ? こいつがか?」

 無遠慮きわまりないユルノスの言いぐさに眉をひそめながらも、濃紺の上着は胸を張り、大きな声で自己紹介する。

「いかにも。それがしはワーヴァルト公直々に、ご子息の剣術教師を仰せつかった『炎雷の剣術教師ハレルオン』と申す、しかと覚えよ!」


 ああ……そうだった。

 ありがとう、きみ。おかげでよく思い出せたよ。




       三


 執事と剣術教師は、ワーヴァルト公の子息を連れ、ナルカリイへ戻っていった。

 おれは徹頭徹尾ユルノスの連れのひとりとして振る舞い、特に怪しまれることもなく、また剣術教師を、あの『ハレェエルオーン』と認識してから、なるべく目立たないようにしていたので、モジガジの宿での出来事を思い出されることもなかった。……はずだ。


 その後、事件は結局うやむやとなり、ワーヴァルト公により闇に葬られたような形で幕を引いた。

 誘拐は未遂に終わったし、へたに下手人の追求を行うと、助力なしでは愛息ひとり守れなかったという風評も立つから、きっと貴族としての対面と体裁を整えるためなんだろう。

 ヨツラの口車に乗って、あのハレェエルオーンを剣術教師に雇ったってことのほうが、いずれ不名誉になる話だと思うんだが。


 さて、おれの方はと言うと、事件後すぐルゥファナとユルノスの詰問によって、なぜあの場所にいたのか、なにをしていたのか、あらいざらい白状させられた。

 リガオンに用事のあったユルノスはルゥファナとの練習を途中で切り上げ、ふたりとも訓練を兼ねてリガオンまで走って戻る途中、たまたま事件に出くわしたという。

 まったくおれも運がない。まてよ、運が良かったのか。


「まさに、貧すれば鈍す、だな、センギィ」

 ユルノスは愉快そうだ。

 ルゥファナはユルノス道場の薄汚れた天井を見上げ、嘆息する。

「甲斐性なし……って言うつもりもないけど、いくらお金が足りないからって」

「ああ、ふたりともあきれるがいいさ。別に生活費だけの心配をしたわけじゃない、ちょっとウーラまでいかなきゃならんから、まとまった金が必要だったんだ」

「ウーラ? ……あんなところまで? いまの季節に?」

 矢継ぎ早にルゥファナは質問してくる。


「ああ、なるほど、そういうことか。前に言ってたやつのところか……じゃあ、おれがなんとかしてやるよ」

 おれの真意を理解したつもりなのか、ユルノスはそう請け合う。

「なによ、どういうこと?」ルゥファナは怪訝そうに訊き返す。

「センギュストはな、おまえのためにはるばるウーラくんだりまで行くつもりなんだ。事情も知らねえで軽々しく甲斐性なし、なんてことばを使うんじゃねえよ、この山女!」

 またまた険悪な空気、しかもいきなり一触即発となったふたりの状況にもかかわらず、おれは素朴な疑問をユルノスにぶつけた。

「なんとかする、って、おまえ、金を用立ててくれるつもりなのか?」

「あ? なに言ってんだセンギィ。おれにそんな蓄えなんてあるわけねえだろ?」

 ユルノスはバカを見る目つきでおれを見た。哀れむような口調で言う。

「わかんねえのか? ワーヴァルトに出させんだよ、息子を助けた礼にな。むろん、その分はあとでちゃんと返してくれよ? 山女の指導料に上乗せしてな」

 これで何度目だろう。こいつと話していて、急に恥ずかしい気持ちとなるのは。


 ところで、会えば必ずと言っていいほど些細なことで言い争いになるものの、ユルノスから受ける剣技の指導に関して、彼女はすっかり従順な、やつの『弟子』となっていた。


 まして、あの貴族師弟誘拐未遂事件以来、あいつを完全に自分の師と認めたと言っていい。

 そりゃ、あんな動きを見せられれば、だれだって実力を認めざるを得ないだろう。それに、たとえ心の中でいつか過日の惜敗をそそぐ気だとしても、いまはその実力差をどうやって埋めるか、あいつ自身から学び取らなければならない。


 <自分の肉体に向けられている、他者の視線を感知する>


 <自分の肉体から発せられる『声』を聞き、その動きたい方向へ身体を動かす>


 ナルカリイの観光名所で衆目にさらされながら行う稽古は、そんな無理難題とも思えることを可能にするための基礎練習だった。周囲の人間の視線を身体に浴びさせ、だれが、どこから、どのくらいの関心を持って自分の身体のどこを見ているのか、感じ取るためだという。

 なるほど、まるで背後に目のあるようなユルノスを見れば、この非常識な理屈にも頷かざるを得ないだろう。

 ルゥファナは毎日あの丘に立ち、黙々とただ動くようになっていった。


 肉体の基礎訓練と並行し、例の隠し道場では、しばしば座学も行われていった。

「この世にあるすべての剣術や武術は単に『化かし合い』をするためのもんだ。どんな奥義も秘術も、自分が生き残るために相手の盲点を突こうとする。だから剣を使うやつはここをつかわなきゃなんねえ」

 ユルノスは自分の頭を指さし、持論を開陳する。

 ルゥファナはもはや首をかしげることもなく、それを熱心に傾聴していた。日々、なんとかユルノスの技術を取得しようと必死になっているようだった。


 しかし、おれがケネヴを出立する前夜、彼女はおれにこう質問した。

「ねえ、センギィ。どうしてユルノスを剣士として喧伝しないの? 悔しいけど、あいつならあたしよりはるかに……」

「ルゥファナ、あいつは剣士になんか絶対にならない。いや、なれない。あいつに一番似合わないのは剣士だとは思わないか?」

 世に数多いる剣士すべての行動規範『剣士の十法』はまた、剣士の徳目に関する規範でもある。

 すなわち、弱者の守護、排敵、自己犠牲などを何よりも尊ぶ。どれもあいつの柄じゃない。


「剣士になるってのは、剣技だけを磨けばいいってもんじゃない。ユルノスはたしかに強いが……もしかすると史上最強の男になるかも知れないが……あいつを主人公とした剣士伝説がどんな話になるか想像できるか? あんな英雄の話を聞きたいか?」

 ルゥファナは激しく何回も首を横に振った。


「明日から、おれは剣技以外で、きみに足りないものを調達してくる。戻ってくるまでユルノスから出来る限り学びとるんだ。強くなれ、ルゥファナ!」


 そんなわけで、おれは再び旅へ出た。


 ナルカリイを北上し、ケネヴ内陸から山脈に沿って進むと、そこはウーラとの国境だ。

 真冬のウーラはケネヴに比べるとはるかに寒い。

 商業国家として護国連合内一の富を持つこの国は、実は連合内でもっとも貧富の差の激しい国でもある。ウーラ領地に入ってから、おれは幾人もの凍死体を路傍で見かけた。飢えと寒さとに苛まれた、路上生活者のなれの果てなんだろう。


 商業街道と名付けられた幅の広い道を歩いていると、ときおり猛獣グマラシ数頭に曳かれた四輪車が、雪をかき分け猛烈な速さで脇を走り抜けていく。

 老齢化して平民に払い下げられ荷車を曳かせるのは別としても、他の国では貴族階級にだけ認められた交通手段なのに、ここでは商売に従事するものも自由に扱えるのだった。


 おれはウーラの首都イヨルを目指していた。

 そこにはおれの旧友、いまをときめく宮廷歌人ケラザが王宮に仕えている。

 やつに会うため、はるばるここまでやってきたのだ。


 王宮御用達宮廷歌人だけあり、ケラザの屋敷は首都の一等地に建っていた。取り次ぎの執事に用向きを伝え、控えの間でこの屋敷の主人を待つ。


 三十ファーブ、つまり三ファブトはたっぷりある吹き抜けの天井を見上げ、そこに描かれた壁画の作者を当てようとしたとき、扉の開く音とともにやつは姿を現した。

 おれはわざと昔のように呼びかけた。

「よう、ケラザ・ミルト!」

 ケラザは上唇に右手の人差し指を当て、おれに<しっ>と小声にささやく。

 かつて歌奏専門の吟遊詩人だったことに触れられたくないらしい。

 こいつもずいぶん偉くなったもんだ。

「……なんの用だ?」

 ケラザはよそよそしい。

「用向きはおまえの使用人に伝えたが?」

「貸しがあるとかないとか聞いたが……なんのことだ?」

「おまえ、おれに借りがないってのか?」

 おれの声は控えの間に大きく響き、周囲へこだました。扉近くにいた執事はすかさずこちらに近づこうと身構える。

「ま、まて……大声を出さないでくれ。とにかく、ここじゃまずいから……」

 顔色を変えながら、やつはその執事へ命じ、おれを自分の別宅に案内させた。


 日暮れ前には、といっていたケラザは、夜半過ぎにようやく姿を現した。

 たぶんここに来る前に女のところへ行ったのだろう。こんなうらなりのくせに、昔からなぜかこいつはモテる。まったく、世の中はなにか間違ってるよ。

「いまは何人いるんだ? おまえの恋人は」

 長い時間待たされた腹いせに、からかってやった。

「おいおい、勘違いするな、私はいま新しい楽曲の制作で忙しいんだ」


 ケラザはおれに例の『譜』を教えてくれたやつだ。

 歌人としてはもちろんだが、作詞、作曲、さらに楽団の指揮にも非凡な才能を持っている。

 最近の流行曲はたいていこいつの手になるもので、あちこちの貴族や商人、名のある剣士から作詞作曲依頼、演奏依頼もひっきりなしだという噂を聞いていた。

「おれに訪ねてこられて、迷惑そうだな?」もちろん、こいつとしちゃ大迷惑だろうな。

「……用はなんだ?」

「一緒にケネヴまで来てくれ。おまえの知識と経験をおれの剣士育成に役立ててくれ」

「バカなことを言うな。いま言っただろ? 私は い ま、手が離せないんだ」

 ケラザは不快感を露骨に顔へ浮かべる。グラスに酒をつぎ、ぐいと一気に飲み干した。

「こともあろうに、私に、この私に、あんたの抱える剣士の世話をしろだって?」

「断る気か?」

「当たり前だ! 私がいま一日いくら稼ぐと思ってんだ!」

 商業都市の拝金主義に毒された元歌奏専門の吟遊詩人は、そんな退廃的なせりふを平然と口へ出すようになっていた。

「よし、わかった、あきらめよう」

 そう言っておれは帰るそぶりをする。

「え? もう帰るの?」やつは、あっけなく引き下がることに驚いた様子だ。

「ああ、おれは旧友の大活躍を喜び、歌奏専門の吟遊詩人ケラザがいかにして宮廷歌人まで昇りつめたのか、あちこちで適当な話をまぜながら歌って日銭を稼ぎ、ケネヴに戻るよ。気が向いたら遊びに来てくれ。邪魔したな」

 さっき思いついた手だ。

 だが、おれのねらいは予想以上に効果を上げた。

「な、な、なんだって! いやそのしかしそれはその、や、やめろ、やめてくれ!」

 ケラザは思い切り動揺する。

 頭を抱え、天井を仰ぎ、身を震わせ……いくら、宮廷の舞台に立っているといっても、おおげさなんだよ、おまえは!

 芝居がかった元歌奏専門吟遊詩人の動作にあきれかえったふりで、しばらく放っておく。

 やがてやつは肩で息をしながら、おれをうらめしげに見た。

「ひどいやつだ、久しぶりに会ったと思えば、親友の私になんてことをするんだ!」

 ……いや、まだなにもしていないが。その前におまえ、おれにつけこまれすぎだぞ。

「わかった、わかったよセンギィ。頼みをきいてやる。だが、あんたとのつきあいはこれっきりにしてくれ!」


 返事をする代わり、にやりと笑ってみせた。

 経歴詐称でもあるのか、それとも他にまずい事情でもあるのか、ともかく、ケラザはおれと共にケネヴへ同行することとなる。

 この手はまた使えるな。おれはそう思った。



       四


「センギィ!」


 戦場用に仕立てた軽装の鎧をまとい、ルゥファナはおれのもとに駆け寄ってきた。

 革紐でペンダント仕立てにされた例の折れた金槌の柄は、彼女の気持ちを表わすかのように、走る動きに合わせ、革鎧の胸元で弾んでいた。


 ルゥファナは変わった。見違えるように。


 地響きでも起こるんじゃないかと思うような重々しい動きが、軽やかに洗練されていた。

 身体から余分な脂肪や無駄な肉は削ぎ落とされて、以前のような肉の壁という印象も全く消えている。それも痩身というのではなく、必要とされるところに適度な筋肉を増し、全体的にたくましさと精悍さも感じられた。

 頬や顎からぜい肉のとれたことで、もともと素性の良い顔立ちに、新しく『美しさ』という項目も加わったように見える。

 留守をした、たった半年ほどの成果としては驚くほどの仕上がりだろう。

 それにしても、この肉体を作り上げるのにユルノスはどれほど過酷な訓練をルゥファナに課し、彼女もそれに耐え抜いたのか、それを想像すると、おれの胸中に感慨深いものもこみ上げてきた。

 ルゥファナはおれの目の前で立ち止まると、急にはにかんだ様子で、小声に<おかえりなさい>と言う。それからにっこりと満面の笑みを浮かべた。

「ねえ、抱きついてもいい?」

 彼女はかがみ、許可もないままおれの肩に両腕を回すと、そのまま抱きしめてきた。

「はが、ぐ」

 おれは窒息した。

 馬鹿力も前よりはるかに強化されていた。


 リガオンの借家に戻り、さっそく関係者を全員集めると、ルゥファナの育成計画を集まった面々に披瀝する。

 最初は相互の役割分担について再度の確認だ。

 ユルノスはいままで通りルゥファナの剣技指導を行う。

 新しく来たケラザは、特にやつの経験や知識から、宮廷での所作や剣士作法、貴族の剣士がたしなむべき教養などについて、事例やゴシップを交えながら教える。

 おれはルゥファナの育成を全体的に監督しながら、彼女をどうやって剣士として売り出すか、その仕方と方法を考え実行する。またそのために、ケラザは彼女の歌を作り、おれはそれを各地で演奏し、多くの人間に彼女を印象づける。

 これこそ吟遊詩人の本来的役割でもあった。


 行きがかり上、ユルノスに紹介すると、ケラザはやつに非常な関心を示した。もと吟遊詩人としての血でも騒ぐのか、ユルノスを題材に一曲作りたいという。

 ユルノスはその話には全く関心を示さず、申し出を一刀両断した。

「おれを歌にしてえ? 寝ぼけんな、このうらなり野郎。宮廷歌人に歌われるほど、おれの人生は軽くないんだよ!」

 よせばいいのにルゥファナはユルノスへ突っかかる。

「あら、それじゃあたしの人生は軽いっていうの? このひとに歌にされるのよ!」

「山出しの重い身体にゃ、軽い歌でちょうどつりあうんじゃねぇか?」


 半年経ってもまだ、このふたりはちょっとしたことでいがみ合いを起こす。

 口論を始めたふたりを引き離し、ルゥファナをケラザに預けると、おれはユルノスと連れ立ち酒場に向かった。留守中の様子を詳しく訊くためだ。


「まあ、山女はよくやってるよ」

 思いがけぬほめことばに耳を疑う。こいつが他人をほめるとは! 

 おれはユルノスの杯に酒を増し注ぎ、話のつづきを訊いた。

 やつは首を傾け話し始める。

「最初に触診しただろ?」

「ああ」

 ルゥファナの乳房をつかんだあれだ。

「先っちょの重い棒か何かを振ってたのかと思ったんだ」

 触っただけでそこまで分かるものなのか? 素直にやつへ畏敬の念を憶えた。

「……まあ、にわか剣士が良くやるやつかと思ってさ。ほら、剣の先に石やらなにやらとか、重くして膂力を鍛えるとか。あるだろ? くだらねえ練習法がいろいろと」

「……彼女はそんな練習をしていたらしいぞ」

「だな。あとでドゥーリガン使ってたって聞いて、ああなるほどって思ったけどな」

 おれはふたたび驚く。

「知ってたのか? あれを」キスルで見た長柄の金槌を思い出した。

「みくびんなよ? ……まあ、あんなもんが伝説の豪剣かどうかはしらねえが、そんな名前の剣はたしかにあるんだ。ウーケの国営闘技場で闘奴が使ってたのを見たのさ。もっともその剣もトンカチみてえな形で、本物じゃないって話だったがな」

 ユルノスはルゥファナの筋肉のつきかたに偏りを発見し、半年間、その矯正に時間をかけたという。それにしても豪剣<ドゥーリガン>の源流はやはりウーケにあったのか。

 ユングムルトを懐かしく思い出した。


「先っぽの重い、あんな得物を自由自在に扱うのはな、やっぱり骨格からして違う、筋力のある『野郎』じゃねえと無理なのさ。女にゃどうしても手にあまっちまう。擬敵相手ならなんとかなっても、実戦じゃ隙だらけだぜ」

「それで彼女に両手剣を?」

 そういえばこいつを訪ねたあの日、ユルノスは迷わず大剣をとり、彼女に投げた。

「まあ、な。今ある筋肉を無駄にせず、女でも扱いやすい範囲で強力な一撃を生みだすんなら、あの武器が一番だ。意外性はなくとも、剣ってのは正当派が強くなる」

 こいつは的確で具体的な分析をもとに、相手の素質を活かす最適な指導を考えていた。

「それにな、両手剣なら、あんたの注文にもちょうど合うと思ってよ」

「なんのことだ?」彼女のことでユルノスになにか注文した憶えはない。

「ほら、あんた昔いってたろ? 『本職』ってのは、道具に両手を使うもんだって。伝説になるような剣士ってのは、ひとつの剣に自分の両手を預けてるもんだ、ってな。片手剣は空いた手をぶらぶら遊ばせちまうし、二刀持ちは両手使ってるようでも、都合で片方をすぐ手放せるから片手剣と変わらねえ。結局どっちも剣ひとつに自分の生命を賭けられねえ、賭けてねえから伝説にゃ絶対残らねえ、ってよ」

「……そんなこと、言ってたかな」何となく憶えている気もした。

「ああ、絶対言ってたぜ。おれはその話を聞いて、吟遊詩人ってやつらは屁理屈考え出すのが、なんてうめえんだって思ったから、間違いねえ」

 おれたちはふたりともくっくっと声を出し軽く笑った。


「ということは、ルゥファナは伝説の……になれるってことか?」

 おれは、この何気ないやりとりに含まれた、やつの深意に気づいた。

「伝説な……たしかにあの山女にゃ、なんかこう、見るもんの心を騒がせる『なにか』はあると思うぜ。あんたもそう感じたから、こんなとこまで引っ張ってきたんだろ?」

 他人に関心のないユルノスにここまで言わせるとは、たいした娘だ。

「その、『山女』ってのは、まだ返上できないのか?」

「とっくに返上していい。……だが、返上しちまうと、やる気も少し薄くなっちまう、あの性格からするとな。あんたはそう思わねえか?」

 さすがに自分の役割を熟知している。こいつにまかせて本当に良かった。

「ところで、もう、こっちのほうはやんねぇのか?」

 唐突にやつは剣の振りまねをした。

「おれか。おれはもう見切りをつけてる、そっちの方はな。この間の一件でわかっただろ?」 

 貴族師弟誘拐未遂事件における、自分の情けない姿を苦々しく思い出す。

「もったいねえ、おれが指導すりゃ……ふん、自分で自分は売りこめねぇ、か」

 ユルノスはなにかを勝手に納得し、にやけ顔で酒をちびりと口に運ぶ。

 杯をテーブルへ置いたときには真顔になっていた。

「けどよ……あんた、マーガルのことは覚えてるか?」

 思いがけずその名を聞いて、酒を飲もうとした手は止まった。

「ああ。……唐突だな。あいつのことを言い出すなんて」

「あいつはな、あんたに指導してもらえると思ってたんだとよ」

 思い出したくもない記憶を辿り、おれは首をかしげた。マーガルには何もかも教えてやったつもりだ。政治や経済のこと……最後まで身につかなかったが、ひととのつきあい方、酒の飲み方、色街での遊び方まで、知っていることはできるだけ伝えたつもりだった。

「指導? ……したぞ。いろいろと」

「そうじゃねえ、こっちを教えて欲しかったんだとさ」

 おれの考えを読んだかのような台詞を吐き、ユルノスは側の剣に手をのばした。ふだん丸腰のやつにしては珍しく、今日は剣を持っている。

 ユルノスは見事な手さばきでさやから刀身を引き出した。

「それは……おれじゃ務まらないから、おまえに任せようと紹介したんじゃないか」

 結局そのときにはもう、ヨツラに出し抜かれて就職先は決まっていたから、ふたりの天才剣士を引き合わせただけになっちまったが。抜かれた剣の切っ先を眺めながら、おれは当時のことをぼんやりと思い出していた。

「そうかねえ? ……まあ、詩人やる前のあんたの噂からすると」

 再検分するように、ユルノスは鋭い刀身をランプの明かりにかざす。

「何が言いたい?」おれは少し腹を立てた。

「おっと、怒るなよセンギィ。ただな、あの男はその噂を聞いてあんたの所に来たってことさ」

 まったくこいつはひとの心を読むことに長けているな。

「初耳だし、もしそうだとしても実際に会ってみて、失望したんだろう」

「あんたが教えてくれねえから失望したんだよ」

「いい加減にしろ!」

 とうとうおれは怒鳴ってしまった。周囲の酔客はちらりとこちらを見ただけだった。

「まあまあ落ち着けよ。このおれがほめてんだ、ちっとは喜んでくれたっていいじゃねえか」

「ほめられてる気はまったくしないがな」

 ユルノスはむくれるおれをなだめるどころか、からかうように言う。

「じゃあ、ちゃんとほめてやるよ。あんたは昔、剣士だった。でもな、いささかなまっちゃいるが、まだ現役で通用するんじゃないかとおれは踏んでる。……どうだ?」

「どうだ、じゃないぜ。そんな甘いもんじゃないだろ、この世界は」

「だから現役復帰するときゃ、おれに指導を頼みな。かつての一流に戻れるぜ」

 鼻白むおれを目の前に、この剣鬼は凄みある笑顔のまま、そううそぶいた。


 おれのところには泊まらず、港のねぐらに帰るというやつと別れ、借家に戻るとケラザとルゥファナはまだ起きていた。食堂で熱心になにやら話し込んでいる。

 扉の前で話の内容を立ち聞きしてみると、どうやらドゥルク伝説に関する異聞やら、醜聞、うわさ話で盛り上がっているようだ。ほどなくケラザは話を切り上げ、昼間の訓練に疲れたルゥファナは寝室に入った。

 おれはそれを確認し、食堂に入る。

 ケラザは上機嫌でおれに話しかけてきた。

「あの娘、すごいわよ。古詩もちゃんと理解するし、いろんなお話をせがむの」

 興奮時の癖で、すっかりおねえことばになっていた。

 ルゥファナを気に入ったようだ。

「身体の大きさはちょっとあれだけど、意外とかわいいお顔でしょ? だから、宮廷で、ばりっとした剣士姿なんか見せたら、きゃーっ、て貴族の女の子たちに大人気になるかもぉお! 明日から本当に楽しみよ! ……さあて、センギィ。あたしの寝る部屋はどこ?」


 文句垂れ流しで渋るケラザを屋外の道具小屋になんとか押し込めた。

 家屋に戻る途中、ふと、酒場を出た直後の話を思い返した。

 ユルノスから去り際に少し気がかりなことを打ち明けられたんだった。


「そういや山女、持病かなにか持ってんのか?」

 彼女は訓練中に二度ほど意識を失い、倒れたという。

「おまえ、しごきすぎたんじゃないのか?」そう確認すると、

「訓練で意識的に気絶させることはあっても、それ以外でぶったおすこたぁねえよ」

 自分の訓練に絶大なる自信を持つユルノスは、鼻を鳴らしてそう断言した。

 <山の湖畔で倒れていたのと同じことなのか?>


 うかつにも、このときおれはまだ、ことを軽く考えていた。


「あとは実戦経験だ。……こればかりはおれにもどうすることも出来ねえ」

 ユルノスは修行二年目の終わり頃、そう言った。

「実戦経験なら、してるじゃないか」おれは負け惜しみで返す。

「あんたお得意の『追いはぎ撃退』か? あんなのは山女にゃ訓練にもなんにもなんねえぜ。遊びにすらなりゃしない。うすら頭とは出来が違うって分かってんだろ? ヴォルフェーのときはそれなりに役に立った、なんて思ってんのかも知んねえが、かえって妙な自信をつけさせてよ、結局修行は打ち切り、あいつは討ち死にってことになったじゃねえか。いい加減学べよ、くされ詩人」

 ユルノスは口汚く、おれの古傷をぐさぐさ刺しまくる。しかしそれは正鵠を射ていた。ルゥファナには決定的に実戦経験が不足しているのは、おれたち共通の懸念事項だった。

「いいか、わかってんだろ? 人を斬れねぇんじゃねえかって言ってるんだぜ?」

 圧倒的な実力差もあったので、彼女は街道一帯を荒らし回っていた追い剥ぎ五人に指一本触れさせず、剣の平で彼らを打ちたたき昏倒させた。

 おれはそれでよしと考えていた。が、ユルノスはその本質を見抜いていた。

「単に就職してえ程度の剣士なら、まあそれでもいいがよ、目指すのは伝説級の本物の剣士なんだろ? だったら、いざってとき人ひとり斬れねえんじゃ、センギィ、そりゃヨツラあたりが斡旋してんのと変わんねえじゃねぇか」

 まったくこいつはひとの痛いところばかり。その対策ならおれだって考えてないわけじゃない。

「じゃあ、おまえならどうするんだ」

「ああ? 当然、山女を戦場につれてくな」

 くやしいことに、おれの考えと、やつの意見は一致していた。

 それでおれはルゥファナを連れ、争いの少なくなった護国連合諸国を出て、いまだ戦争している異国の地を訪れることにしたってわけだ。


 別れの日。

 ウーラに帰っていたケラザまでわざわざおれたちを見送りにきてくれた。

 ケラザはすっかりルゥファナに惚れ込んでいて、……というのも彼女の物覚えの良さ、頭の良さに感心し幻惑され、ひとにものを教えるってことの快感を憶えちまったらしい。

 いまはウーラで国立の音楽芸術院を立ち上げようって計画までしてる。

 ユルノスは彼女に真新しい大剣を贈った。

 他人に関心のないこの剣鬼にしては珍しい。いったいこいつはどうしちまったんだ? 

「山女、おれのもとでよく二年も辛抱したな。……おれは弟子はとらねえ。大体のやつはひと月で音を上げるから、弟子にもなれねぇ。たまに体力だけあるやつが来て、一年くらい粘るんだが、おれの基準にゃ合わねえから、おれは弟子とは思ってねぇ」

 珍しくユルノスは饒舌だ。

 あのヴォルフェーのことまで気にして、本当にどうかしちまったらしい。

 いつもはケンカをふっかけるルゥファナも、そんなユルノスのことばをしおらしく聞いている。


 おい、おかしいぞ、おまえら。


「おれの指導を一年も受けりゃそこそこの剣士にはなれる。が、おまえはその倍修行した。たぶん、だれとやろうが負けるこたぁねえ。おれ以外にはな。だからこれからおまえは、おれの弟子って、勝手に名乗っていいぜ」

「ユルノス……」

 ルゥファナは泣きそうになっている。ケラザももらい泣きだ。

 こいつらみんな狂ってるのか。

 ユルノスは彼女の肩に手を置こうとして届かないことに気づき、やむなくその二の腕あたりに手を添えた。

「山女って呼ぶのもこれで最後にしてやる。元気でやれや……その……」

 ユルノスはことばを詰まらせた。

 おれはひょっとしてやつまで泣くのかと仰天した。

 

 やつの顔はだんだん紅潮していった。

 少しの間の後、ようやくことばをひねり出す。

「……すまん。おまえの名前……なんだ?」


 完全にルゥファナの名をど忘れしていた。

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