「3」
教室はこの蒸し暑い夏だというのに眠たい朝だというのに無駄にうるさい。
「昨日のあの番組どうだった?」
「ねえ昨日販売したゲームがさ・・・・」
「それって私が先にみつけたのに~」
はぁ。色んな人たちがいるな。
それぞれが違う考えや思いをもって生活している。
だから俺には合う奴もいれば合わない奴もいる。
それは俺だけじゃない。皆きっとそう思ってるはずだ。
俺は一番後ろの窓側の席に座り眠りにつこうとしたが、それを妨げたいのか二人の男女が俺を邪魔しにやってきた。
「よう、涼哉!」
俺に話しかけてきたこいつは
窓越しからの日差しがコイツの茶髪具合を際立たせる。
にしても相変わらずの髪セットだな。
痛んだ前髪は目にかからない程度でじれったさを残してバラバラに揃えられている。
全体的に髪は長く束ができていてコイツの微妙なのに少し濃い顔がモテる雰囲気を醸し出している。まあでもそれは俺の価値観で、制服とかもきちんと整えられていて実際は普通にかっこいいほうなんだと思う。
「おっはよう!りょーくん!」
朝なのにいつもハキハキとしたテンションで挨拶してくるなこの子。
「......相変わらず元気いいな葵は」
「へへ。褒められちゃった!......ってまたいつもと同じ返しじゃないか!」
両腕を締めて俺を叱るのは
その姿は昔と変わらずに瞳はキラキラとしていて子供ようなあどけなさを残している。
それに似合うように明るく金色のように光る髪は耳から上らへんの後ろ髪を二つに分けて括ってあり、胸までかかった毛先がフワフワとしてる。
その辺りが相変わらず昔からずっと変わらない。
そんな葵と話すといつも安心する。
無理しないで普段どおりに話せて同じ会話なのにそれが楽しく感じれてまた何も変わらない今日がやってきたって思えるからな。
でも確かに葵との朝の会話のキャッチボール、何回繰り返してんかな。
「お前も朝の挨拶一緒じゃん」
俺は眠そうに葵に伝える。
「もう、挨拶は基本でしょう?まったく......」
なんだそれ。その流れは今までになかったような。
顔を膨れっ面にしてそれになんだか頬が赤くなっている気が。
「まあまあまあ、こんなに暑い朝でも相変わらず仲がいいねえ~」
口元を緩めながらただ横で俺らの会話を傍観してた奴が急に入ってきたな。
多分俺らが話してるのを見てやっぱり我慢できなかったんだろうな。
葵も啓祐の言葉に動揺したのか背筋がピキンと伸びて啓祐に視線を移す。
その二人を見て急に懐かしさが体中からこみ上げてくる。
「やっぱりいいよな。
昔から遊んでた奴らとまたこうして同じ空間で過ごせるって」
俺と啓祐と葵は幼馴染。
三人とも家は結構近いし、お互いの家に何度も泊まったりもして。
小学校の帰りはいつも商店街の団子やさんに寄り道して食べたりして遊んだりしたな。
今とあんまり変わらないけど。見た目はやっぱ変わるもんだよな。
でも一番すごいのは小、中はともかく高校まで同じとは。でも高校一年ん時は皆バラバラで二年になって皆揃って。
変わらない毎日がまだこれからも続いてくって考えると贅沢な日常だな。
......終わってほしくないな。
「何今更しみじみと言ってんだよ」
啓祐があきれ顔で俺の思い出巡りを引きづり戻してくれた。
確かに俺なんで昔の思い出なんか思い出してんだ。
今だってほとんどあの頃と同じなのに。
何も変わらない毎日を送ってきて何も今更。
朝からほんとに不思議な気分にさせられるな。
「うん。なんでだろうね」
「なんかあったの?」
葵が俺の方に顔を覗かせてきて心配そうな顔をしながら問いかけてきたけど、
顔が近い!
少し心臓の鼓動が早くなってきてやがる。
それに最近流行の香水でもつけてきてるのか、俺の好きなマスカットの香りが顔あたりから丁度いい感じの具合でフワァーと俺の周りに色をつかせて眠気を覚まさしてくれる。
にしても本当に心配してくれんてるのかな。
俺が妙な気をしてしまうんじゃないかとありえない勘違いをしてなければいいが。
横目で啓祐の存在を確認する。
こちらに意識を移しながら違うどこかを見つめている。
微笑みながら何かを考えてるように。
「い、いやなんでもないって」
「本当?ほんとにほんと?」
「うんうん。大丈夫だって」
「......ならいいけど」
なんか心配させちゃったかもな。
俺は窓越しに見えるテニスコートの奥の森林に視線を傾けた。
木々が風に揺られ葉は踊りだし夏だけに訪れる愉快なダンスを披露している。
太陽の日差しが緑豊かな森林に色を与えてよりに活気が出ていて気を取られる。
窓にはその森林と反射して俺の顔が映る。
シャワーを浴びて乾かしてないまま登校してきたが夏の日差しによる自然乾燥によってか髪は十分に整えられてる気がする。
その後ろには俺と同じ目線にたって森林をみているのかは分からないが二人で他愛もない会話を繰り広げている。
「お前は心配し過ぎだって」
「いいじゃん、幼馴染なんだし!」
お前らも十分仲いいじゃん。
窓から見える森林と二人が重なってとても愉快さが増す。
でも、やっぱりあの場所がいいなぁ。
すると学校の始まりの合図、チャイムが教室中に校内中に響き渡る。
ああ。もう始まっちまうのか。
周りで雑談する奴らは自分の席に戻ろうとせずまだ会話に華を咲かせていた。
このクラスは朝に強いのか?
俺のすぐ後ろにいる二人もまだ何か話してる。
俺について何か会話してんのか?
まったく君たちも飽きないね。
俺は腕を丸め込んだそのの上に顎を置いて黒板の方を向いて机に突っ伏した。
一応はHRだ。この時間に眠るのはさすがにまずいし。
いちいち注意されるのはめんどくさいし、できるだけ楽な姿勢をとるか。
チャイムの音が消えすぐに先生が教室にやってきた。
いつも通り整えられた髪型。見た事もないメーカーのジャージ。
30代のくせに眉毛をきちんと揃えてる辺り。奥さんも子供もいるのに。
何を頑張ってるんだ、この人。
「よ~し。皆席につけ~」
先生が教壇へ上って一声かけた。
すると周りの雑談の声もようやく止み終え他の席にいた皆も傍にいた二人も自分の席に戻った。
この学校ってこんな校則緩かったっけ。
「えーと、いきなりですが今日からこのクラスに転校生が入る事になりました。」
先生はそう言うと、教室を出て廊下の方へと向かっていった。
ん?えっ、転校生?
教室中がワサワサとざわつき始める。
いや、それもそうだよな。この時期になって転校して来るって。普通じゃ考えられない。親の仕事関係か、その転校生の子に何か問題があるのか。
でもそこまで深く考え込まないほうが良いよな。
その子もどんな気持ちで、どんな理由で転校してくるのか俺には分からないし。
教室のざわつきがさっきよりも増していく。
先生が転校生を呼びにいってたらしく廊下の方からやってきて、
先生の後ろには微妙な距離を保ち、ゆっくりとその転校生は教室に入り壇上へと向かっていた。
多分ざわつき始めたのは転校生というワードではなくその子が女子だったからだ。
両手でクリーム色をした手提げバッグが握られている。
彼女の膝上の丈のスカートからは細い足が長く伸びて見え、
肩までかかった髪はフワフワと揺れ、ストレートで綺麗な、少し茶系が入った黒髪だ。
彼女は壇上に着ついて、俺ら側に体を向ける。
ここでようやく彼女の顔が明らかになった。
透き通った瞳をしていてお人形のように可愛らしいく、でもどこか表情が乏しい。
人とは違う何かを感じた。目の前にいる彼女は夏だというのに顔色は白く汗もかいていない。でもそれが大人びて見え美しく見える。
俺は教室を見渡した。
隣や後ろの奴と話しており相変わらずざわつきが鳴り止まない。
でも少し声量が下がっているような気もするけど。
多分彼女の姿を見ての事だろう。
俺は改めて彼女の方へ見つめ直すと先生が黒板に彼女の名前を書き出していた。
その名前を覗こうと思ったが先生の整った髪とでかい頭で確認できず、先生が名前を書き終え俺らの方へ体を向けた。
「よし、じゃあ自己紹介お願いします」
彼女の表情は変わらないままコクッと頷いて口が開いた。
「
よろしくお願いします......。」
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