「2」

 パッと目が覚めた。

 

 あぁ、体がだるい。


 顔を引きつらせながら左手で両目をこする。

 なんだ、もう朝か。眠い......。

 ふわぁ~と欠伸をしながら俺は腕をあげて体全体を伸ばした。


 あぁ...だめだ伸びきってない。もう一度同じ動作をしなおした。


 「はぁ」


 体を伸ばす事に成功。


 でも眠いし体はだるい。頭はごちゃごちゃしてて、それに、あれ.....。

 何か妙な夢を見たような、昔に戻ったような、そんな気がする。


 そうだ小学生だ。俺は夢ん中で小学生だった。

 まあ夢なら小学生にもなれるしな。

 夢であったのだと理解できたが少し妙な夢だ。


 慌てて俺は自分の体を確認した。

 腕はついてるのか?足は動くか?いつもの顔なのか?でも分かってた。

 今ココに存在してる俺は俺。高校二年の久遠涼哉くおんりょうやだ。とりあえず一安心。


 でも少しあの夢が気になるな。 


 内容は確か......。

 誰かと会ったんだよな。優しい声をしていて可愛らしい女の子。

 それでもって白いワンピース。黒髪のショートカット、だったような。


 なんだか変な感じがする。

 夢だってのははっきりしているのだが、妙にリアルのように思えた。

 決して現実に起きた事ではないはずが。

 変というか不思議だ。不思議な夢........。


 いや夢じゃない。確かに夢だった。

 でもあれは、だめだ。何も思い出せない。だけどあの夢、いや出来事は.......。


「涼哉!時間大丈夫なのー?」


 あっ、母さんの声だ。相変わらず家全体に響き渡る大きな声。

 いつも通りの朝、いつもどおりの母さんの声。


 さっきまで妙な不安や夢も母さんの声のおかげで記憶から徐々に薄れていく。


 気持ちが落ち着いてきた俺は枕付近にあった時計を見る。

 8時ジャスト。まだ全然余裕だ。


 「全然時間あんじゃん。脅かすなっつうのー」


 「もう仕事いくから、今日は朝ご飯つくってあるからそれ食べてってねー」

 

 仕事行くから俺を起こしたのね。もう起きてたけど。ん?朝ごはんか。

 母さんが俺のために朝食を作っていくなんて珍しい。

 時計を確認。8時3分。今日は仕事に行くのがちょっと遅いな。

 時間に余裕ができたんだろう。まっ作ってくれたんなら自分で作る手間も省けるしありがたいな。


 意味のない推理力を一人で披露したところで、母さんが玄関に鍵を掛ける音が聞こえた。

 どうやら母さんは仕事にいったっぽいな。

 親父はどうせいないだろ。


 にしても今日はあんまり暑くないかもな。でも今は七月。夏の季節だ。

 少しくらい気温が下がったとしても顔や体はぺタつくしジメジメする。


 無駄に蒸し暑い空気や窓から差し込む夏の太陽の光が部屋全体をサウナ状態にしてくれる。酷い有り様だ。でもこれが夏だ。


 俺はこのジメジメした体をシャワーで今すぐにでも拭いさるべく重いか体を起こし部屋を出て一階に降りた。

 降りた右手の奥に風呂場がある。俺はそれはもう猛スピードで走る車のように風呂場に突っ込んでいった。


 ◆


 冷たくしたシャワーを浴び終え下着を着て二階に上がり濡れた髪をかきむしりながら部屋を見渡した。

 別に理由はない。ただあまりにも早く起きてしまったために時間をもてあましているという事。


 つまり暇なのだ。


 俺はベッドに座り込んだ。

 目の前には襖があり、その中に父さんの謎の100円コレクションだったり、布団がつめられたりしてある。

 

 ベッドの横には勉強机。勉強机といってもここでは7年くらい勉強なんでしてなかった気がする。ほぼ飾りだ。


 その横にタンス。その横にテレビが置いてある。テレビは30インチで一つの部屋にしては多分贅沢なほうなんだと思う。

 

 その横にはギターだったりキャンバスだったり。

 全部昔ちょっとかじったぐらいでその延長戦上で今はたまにやっている。ほんとにたまにだけど。


 時計を確認すると1分しか経過していなかった。

 うわ、意味ない時間。

 

 でも少し散らかってる感じもするし学校から帰ってきたら掃除すっか。とりあえず着替えるか。


 ハンガーに掛かっている制服を手に取った。

 部屋の管理がなってないせいか多少ほこりがついている。

 俺は制服をベッドに投げつけた。


 その行為によって制服かベッドのシーツのほこりなのか定かではないがまだ衰えない太陽の光によって多数の小さな光りが目の前を渦巻いていた。

 

 俺はそれに少し気を取られながらもタンスの中からYシャツを取り出して着用する。

 

 少し雑に扱って申し訳ないが小さな光りを生み出したベッドの上の制服を手に取りほこりもはらって、多少マシになった制服に袖を通す。

 いつも思うんだが少し丈が短いんだよなこれ。背伸びてきてんかな。


 床においてあるサブバックを掴む。こいつもずいぶん雑に扱ってきたせいか、ちょっとぼろくなってきたのかも知れない。

 これも少し手入れしないとな。中身はノート類や携帯。携帯はいつも寝る前にサブバッグの中に入れておく。携帯を忘れて学校には登校したくないからね。


 後は陸上のジャージ、は今日は休みでいらないか。

 俺はサブバッグからジャージを取り出してベッドに放り投げた。


 なんでも雑に扱うな俺は。


 サブバッグを持ったまま部屋をでて一階に降りた。

 降りた目の前にはリビングあり、そこでやっと飯が食える。


 机の上には母さんが言ったとおり珍しく作ってくれた朝食が用意されてある。

 皿には目玉焼きとウインナー2本が盛り付けてあり横には味噌汁、その前の真ん中に空のおわんがある。


 俺はサブバックを床に置いておわんを手に取りテーブルの奥にあるキャビネットに置かれてる炊飯器からご飯をよそい、テーブルに付属してある椅子に座った。


 シャワーを浴びたおかげで案外時間も余裕もなく俺は急いで朝食に手をつけた。

 目玉焼きとウインナー二本を口のなかでかき混ぜ、その味を全体的に口の中に残しつつその勢いでご飯をたいらげる。


 久しぶりに食べた母さんが作った朝ごはん。晩飯と変わらないけどうまいな。


「ごちそうさま」


 床に置いといたサブバッグを抱え玄関のほうに向かった。

 俺は玄関前で乱列してある俺や母さんの靴を整え学校用の靴を履いてふと後ろを振り向いた。


 外からのまぶしい明かりが俺の前を廊下を照らして所々に影ができる。

 その光と影の模様によってかどうも廊下がいつもと違って寂しげを感じる。

 廊下だけではこの家全体が暗くそして切なく、感じる。

 別に悪い事があったわけではないのに、何故か辛くなる。胸が苦しくなる。

 いや何かの思い込みだろ。今朝も変を見たし。


 早く学校にいこう。前に向きなおして玄関を開ける。


 「うっわ~日差しすっげ!」


 やっばいな。眩しすぎる。


 俺は玄関を閉めて鍵を掛けた。

 想像以上だ。今日は暑くないと思ったが。さっきまでの俺は何もかも間違っていたようだ。


 普通に暑くないか。でも不思議と体はどこはひんやりとしていた。

 汗もかかずに一人だけ空気が違って流れていってるような感覚がする。これも妙な......ってもういいただろ。


 あくまでただの夢だ。あの延長線上の中で俺はまだ抜け切れていないだけだ。そうだきっと。

 妙といっても悪夢でもなんでもないしそれはあの夢自体がいま思えば変だったからそう思うだけであって。どちらかというと俺はあの女の子が気になる。

 

 閉ざされていく夢の世界で一瞬見えた、あの沢山の光りのなかに見えた一瞬の光り、笑顔だ。

 その部分だけがはっきりと鮮明ではないが記憶の階段を上ってきて、なんだろうか安心してきた。


 俺は玄関付近に佇んでいる自転車にまたがり、かごの中にサブバッグを入れた。

 こいつも多少ハンドルも汚れていてチェーンは錆びれてきている。


 こいつは、親父があとでなんとかしてくれんだろう。

 俺がチェーンを掃除しようとして手に掛けたら危うく指を怪我するところだった。

 多分色んな迷惑をこの自転車に掛けてきて怒ってるのだろう。

 ごめん、後で親父がなんとかしてくれっから。


 俺は急いで自転車を漕ぎ出して道路に飛び出していった。

 道路といってもこの街は田舎だ。この道路の車通りは非常に少ない。

 別に事故多発!という看板があるわけでもないし、いわくつきでもなんでもない。

 単純に田舎だから。それだけ。


 もちろん車は通れるスペースは十分にある。でもさすが田舎だ。この時間帯は俺一人だけの専用道路だ。

 

 道路の脇には豊かで盛んな田んぼが見渡す限りに広がっている。その田んぼの周りにはアカトンボやアゲハチョウが自由に飛び回っている。

 

 ほんとに田舎は素晴らしい。

 

 そんなゆったりとした風景を眺めて自転車を漕ぎながら暖かく通り過ぎていく風を切っていく感じがすごく心地が良い。

 夏という季節を感じ取れる最高で優雅なひと時だ。


 この自然豊かな場所を抜けると電車の音が聞こえる。

 その音はスーパーマーケットに付属しある駅からだ。

 

 結構多くの人が利用していて帰り道にここを通るといつも車が混雑していたり、バスの中は超満員でこの夏にとっては本当にきつくてつらいだろう。朝も同様だろうが。


 駅前には全長1kmの商店街が縦に伸びていて団子屋さんや定食屋さん。 

 色んなメーカーと手を取り合ったたりと有名な鯉のぼり商店。

 その周りには中小商店の他、業務ビルなども並んでいる。


 朝だからかどこも開店準備中だ。

 色んな人が手を取り合ってこの町に活気や元気を与えていく。

 俺はそんな思いをのせたこの街が好きなんだろう。


 ここも自然豊かな風景と異なってまた違った空気を吸えてこの商店街の中を走っていく。


 中間地点あたりには俺のお気に入りの場所があるのだが時間がないし今日は真っ直ぐ学校に直行だ。




 10分くらいかけてようやく学校に着いた。

 相変わらず少し田舎を感じる高校だ。

 田舎といっても十分に設備は整っていて外観は綺麗な方だ。もちろん中も。


 偏差値は普通でこの街に住む人たちはだいたいこの高校に通う。

 それほど受験が楽なのかもしれないし、俺もその一人だ。

 でも今年は何故かこの街の人間は他の高校に行ってしまった。


 多分新しい自分を見つけるため、とか俺には少し良く分からない考えをしてる人たちが多かったのだろう。


 まあ俺は普通にこの高校を選んだ。

 俺んち家からはまあまあ近いし、昔とほぼ変わらない道のりで通えるからな。


 校門の左横には地面と幅が空いて小さな森林になっている。

 その森林にはどこからか取ってきた砂丘が散らばっている。


 校門を通り抜けて右には手前と奥に分けられた校庭があり、大鉄棒や小鉄棒がある。


 左にはテニスコート。

 地面はグチャグチャなのだがよく昼休みにテニス部やそれ以外の生徒たちがよく遊んでいる。


 それらを通り抜けるとやっと校内に入れる。

 靴を脱いで下駄箱に入っている上履きに履き替え、三階の自分の教室にへと向かった。

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