サマーベストメモリー

藤岳雅依

第一章 「誰も知らない夢」

「1」

 気がつくと俺は一人ぽつんと突っ立っていた。

 視界がぼやけていて見えづらく目の前に何があるのか、ここは一体どこなのか、

 まったく何が何だか分からない。


 少し暗ったくて蝉の豊かな合唱やらなんだか湿った空気のせいでジメジメする。

 そのせいで、暑くて体は汗でびっしょり......ってわけでもないのな。

 

 だいたいこのぐらいの暑さなら部活で運動したり家でゲームもしくはただぼけーっとして暇を持てあましていても自然と体の中で体温調節をして一定の体温を保とうとしてかきたくもない汗をかくのだが、何故かいまはそんな人間の通常の身体構造は通用しないらしい。


 非現実的で不思議な体験をしているなぁ。

 ここはまさかとは思うけど、なんかのドッキリなのか?

 気がついたら視界も安定していなくてどこなのかもはっきりしないし。

 

 だとしても一般市民をテレビ局のスタッフさんが俺を眠らせてこの場所に放置して何か得でもあるのだろうか。そんなの視聴率以前の問題で誰も見ないしましては興味もまかないだろう。だからドッキリじゃあない。


 じゃあ、なんだ他に考えられるとすれば......無いな。

 

 いつのまにかこの場所に立っていた。

 十分理にかなってるんじゃん。

 それで納得つかないか。


 いや、まったくもってつかないだろう。

 おそらく相当不安でたまらなく焦ってそれを隠しちまってる。

 こんな不思議な事は無いしな。

 自分でいうのもなんだが無理もない。


 足はもたつくし、なんだかすごい高熱が出たときみたいなフワフワとした状態になっている。でも熱があるなら知らん行動をしていても、それなりには納得がいく気もするけど。


 なんて頭ん中で思考を張り巡らせながらも、とりあえずは落ち着く事だ。

 気持ちを落ち着かせて楽にしないと状況判断もできないで気が迷うだけだ。


 

 


 ......よし。少し不安も残るけどまあ大丈夫だろう。


 

 

 一人語りしていて気づかなかったが暗暗いな。夜って事か。

 夜でもなんとなくだけど回りにはポツンポツンと光りが差し込まれている。

 多分街灯だと思う。

 

 

 そんな夜という事なのか、テンションがあがっているのだろうか、やはりフワフワとした状態が気になって仕方がない。それに軽くてなんだか自分が小さいような気が。

 

 小さいか。身長でも縮んだのか。

 別に何かそういう薬を飲んだわけでもないし、勝手に飲まされたわけでもないし。

 ちょっとあんな世界も体験してみたい、なんて心の中で少し思ってる自分もいるけど。


 あれ?何考えてんだ俺。


 「はぁ......俺、疲れてんのかな。」


 自分の置かれている状況について判然としないが俺はふと考えるのをやめ、

 視線を空に向けた。

 

 一段と大きな輝きを見せる月。それを囲むように沢山の星がそこにはあった。どれもが同じ形をしていて同じ光を放っているように思えた。実際はそれぞれが違う個性を持っていて形もバラバラなんだろうが。


 星座とかどれがなんていう星とか確認したかったけど、

 よく見えないしそんな余裕なんかないし。


 だからというわけではないけれど俺は指で空に浮かぶ沢山の星が何個あるのか数える事にした。きっと好奇心というやつだ。


 

 ......好奇心?


 星を指してる自分の指を見てみた。

 それはごつくてでこぼこした豆がついてるのかと思ったが、そんなものは綺麗さっぱり消えていて昔懐かしい何の傷もない幼い小学生くらいな小さな手をしている。

 

 小学生って。もしかしてやっぱりこれって......

 駄目だ。色んな意味で思い出せない。

 それに思い出そうとしても記憶が混合してしまってよく思い出せない。

 

 頭のネジも爆発しそうだ。そこまで俺の脳は正常じゃなくなったのか?


 とりあえず俺は星を数えるのをやめた。

 そりゃあそうだ。頭の回転も回らないし今の状況もそうだし当たり前だが星は無数にある。そんないくつかあるのかと思って始めたが何もメリットもない。 

 

 到底数え切れるわけがないのに、ほんとに俺の考えは幼稚かもしれない。


 それにそんなことをやるよりもココが一体どこなのかを確認しないと。

 俺はどんな所にいるのかあたりを見渡してみた。

 地面は草原で緑一色。所々茶色に変色してる部分もあるけれど綺麗に緑だ。


 その周りにはよく分からない従来のジャングルジムじゃなくて平らに広がってるアレはジャングル、なんて名前なんだろうか。他にはスベリ台があったりその隣にはブランコで、えっと......。


 あぁダメだ。やっぱりぼやけていてよく見えない。目が悪いわけではない。

 できればちゃんと確認をしたいができない。

 できなくて、目に厚みをかけて目の前の風景を確認しようと集中するのだが、はっきりいって何も意味も無いし、逆にそのせいなのかさっきよりもぼやけていってしまっているような気がする。


 まるで自分自身で今この目の前にある状況を閉ざして分からないようにしてしまっているかのように。何か訴えようとしてるのにも関わらずそれを自分の意思で隠してしまって結局なにも見えなくて、分からなくて。

 

 でも地面と離れて少し高いところに位置する場所にいるような気がする。

 はっきりとは分からないけど自分の体が軽いせいというのもあるのかもしれないけど、なんとななく上のほうにいる気がする。

 そうでなきゃこんなにも夜空が星が、こんなにも手に届いてしまうかもしれないほど近くにあるわけがない。

 

 でも、久しぶりだな。こんなに改まって夜空や星を眺めたのは。

 今も眺めてるほうだけど昔のほうがなんでか星に惹かれてたのか、ふと夜空を見上げて星を眺めてたな。


 そんな感じで恥ずかしながらも自分で酔いしれながら突然声が聞こえた。


 「あっ......。ねえ?」


 んっ.....?

 

 俺は一瞬体が固まった。

 俺しかいないと思っていたこの場所で、しかも夜だし遅い時間だろう。

 なのに誰かいる?

 こんなよく分からない場所に。それは俺自身が勝手に思っている事か。


 今もその声は頭の中で響き渡っているが、よくよく集中するとさっきまで考えて不信感が徐々に消えていく。

 

 それは縛られた紐がだんだんほどかれていくように。

 体の神経や緊張が緩んでいく。

 それは、とてつもない怖い不審者か犯罪者が俺に話しかけて来たのかなと思ったけど。それは違かった。

 

 なんでかっていうと、ごつい声と勝手に頭の中で解釈してしまっていたためで、

 本当はそれとはまったく反対にとても透き通った可愛らしい声だったからだ。

 きっと女の子。それに大人なしめで優しい小さな声。

 

 小さいのはこの際あまり関係ないので気にすることもないのだがとりあえず俺は誰かいたのかと、それに女の子だったんだと安心して躊躇せずに後ろを振り向いた。


 するとそれと同時に風が俺らに向かって、ひゅーっと吹いてきた。

 なんだかやわらかい風だ。それに暖かい。

 暖かくて、なんでか懐かしく感じる。

 それに自然に吹いたような風じゃなくて人為的に吹いた不可解な感じもした。


 でも、それでもなんだか懐かしい風で不安もなにも逆に安心してしまった。


 でも俺は顔を覆うようにして片腕を顔の前に突き出した。

 それは静かに通りすぎていくと思ったその風はだんだんと俺らを包み込むように強くなっていったからだ。

 

 そのせいで腕でガードしていても風は勢いよく向かってくるし、顔は多分はえげつない顔をしている。


 体が軽いせいか足がもたついて倒れそうになる。

 

 突き出した腕の間からは目の前にいる子が顔を覆うように腕を突き出してるのが見える。やはり女の子。


 さすがに俺みたいに風を防げるわけでもないのに片腕を突き出さないで、両手で顔を覆ってしっかりと顔をガードしている。でも彼女は俺みたいにまったくぶれずに芯が体にしっかりと通っているのかまったく微動だにしないで風をけっていた。


 結構体感がしっかりしてるんだと思う。

 俺はもう地面から離れそうで、空に飛んでってしまいそうな勢いだ。


 風は静かに止み、俺らがいるこの場所に不思議と小さな余韻を残していった。

 体が軽いせいかでまだ足がぐらつく。

 おれは腕をさげ目の前にいる子を確認するとそこにいたのはやはり女の子だった。

 背は俺と同じくらい.....って、


 俺と同じ、なのか?

 それってもしかしてほんとに俺は薬を飲まされ.....のわけが無い!


 ほんとに身長が縮んでいる。

 俺と同じぐらいだからまあまあでかいのかなと思ったけど周りの風景と比較してみてみるとやはりすごく小柄で小さい。

 それで俺と同じってのは、もう訳が分からん。


 俺は気持ちを落ち着かせるために彼女を眺めた

 白いワンピースを着ていて髪は肩ぐらいまでのショートカットで顔は......。

 よく見えない。でもさっき聞いた大人しめでやさしい小さな声に沿った可愛らしい子のように見える。



 こんな女の子この町にいたのかな。


 「あの......」


 下を向きながらさっきよりもさらに小さく少し弱弱しい声で俺に聞いてきた。


 「どうしたの?」


 俺も心配になり一歩近づいてそう答えた。彼女との間が縮まる。

 それでも何故か俺と彼女の距離はまだ遠くに感じた。


 俺の問いに少し時間が経ってから彼女の口は動き出した。

必死に何かを伝えるように握りこぶしをつくり腕は左右にふられ、彼女の頬は赤くなり瞳には夜空に浮かぶ星たちの光に反射して輝きを見せていた。


 その必死さに俺は思わずに微笑んだ。いや微笑むしかなかった。

その時だけ彼女の声も蝉の合唱もジメジメとした空気さえも感じ取れなくなり全てが無音の状態になっているからだ。でもなんで?


 なんで、どうして今こんな事に......。


 いや......。これって " 自分で声も空気も閉じ込めんてんじゃないのか? "

 でもなんだってそんな事を。

 超能力なんざあそんなもん俺には備わっていないのに。


 でも俺は、彼女は、この場所は。


 ただの、そう。ただの......。


 視界がだんだんとフェードアウトしていく。


 刹那、視界が閉ざされていく中、彼女の顔がうっすらと見えた気がした。

 さっきのほほえ・・・・いや今の俺の微笑みにつられたのか。


 ─────彼女は、笑っていた。

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