第二章 「君への一歩」
「1」
あれから葉月さんともトイレがどこにあるのか教えて以来、一言も話さないまま授業の終わりのチャイムが校内に鳴り響いた。
これで後はもう帰るだけだ。
だけど葉月さんは、どうするんだろうか。
親御さんが学校に迎えに来て一緒に帰るのか、それとも一人で帰るのか。
それはないか。
でもやっぱり心配だな。
俺は気づかれないように隣の席の不思議な転校生。葉月さんを横目で確認する。
机にかかっていたバッグは上に置かれている。
今はそのバッグの中に何を入れてくのか、模索している。
手には今日配られたプリント類を持っていてそれはもう顔に近づけて凝視して、近眼なのかなと思うくらいに。
それと考えたくないがこちらをガードするように視線を遮断させられてる気もしなくもない。やっぱり今朝の俺何か変だったのかな。
かと思ったらそのプリントをバッグの中に入れて、また次のプリントを手に取り顔に近づける。絶賛お忙しい中だ。
でも、もう少し話したかったな~。
あの時の俺、結構葉月さんの姿や反応や行動に動揺しちゃったりしたかんな。
はぁ~。
もったいないような。これでよかったのか。
もう少し話したりして距離を縮めた方がこれからのためにも、葉月さんのためにもなったんじゃないんだろうか。
でも、もう先生の一人語りの自己満足な授業は終わちっまたし。
後、俺に出来る事は葉月さんに今日はどうだった?とか聞いて明日の葉月さんとの関係に準備を備えるしかないな。
......ってなんで俺はここまで葉月さんの事を気にしてるんだろうか。
今日始めてあった女の子だぞ。まあ、確かに転校生としては申し分なく可愛い外見をしているし、もうそれで男子高校生にとってはありえないほど素晴らしいシチュエーションで正直ビックリだ。おまけにその転校生は俺の隣の席。
少し出来すぎてる気もするが。
でもそんな贅沢な経験を神様は俺に選んでくれったって事なのか。
もしくはもっと大事な何かなのか。
おそらくどちらでもないと思うけど。
いずれにせよ、今朝の気疎い出来事も起こってしまって俺は彼女の事が気になってるのかもしれないな。
これから仲良くしていきたいと思うし、皆と仲良くなってほしいし。
それになんだか独特で不思議な空気を漂わせていて、今こうして彼女の隣にいるだけでその空気に気づかないうちに魅了されていく。
それにその空気は誰も寄り付かせないような、自ら発しているような、そんな気がする。
このままじゃ誰とも話さないまま卒業、なんて事も無きにしも非ずだし一人だけで生活していくには厳しいと思うしな。
─────昔の俺みたいに。
余計なお世話かも知れないけど葉月さんにはそうなってほしくない。
俺らと同じ空間にいて過ごしてほしい。
例え俺とじゃなくても他の誰かでもいいから。
そうと決まれば、早速話しかけよう。
えっと。なんだっけ。
確か、今日はどうだった?だっけか。
この質問なら問題ないだろう。
新しい学校にやってきてまだ何も知らないし慣れない環境の中で、この質問は最適で且つシンプルで相手に不快感をせずにやり通せる。
よし、行こう。
俺は心にそう決めて葉月さんの方を向いて話しかけようとしたが、
その時、転校生が座る席の後ろを通り抜ける朝の幼馴染たちと、
前からも並んでなんだかいがみ合いながら話をしている男女二人がやってきた。
サマーベストメモリー 藤岳雅依 @ryoto
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