第20話

 「ハイカ」

 「俺負けたからなぁ。いやぁ、勝った人同士でやるのがいいんじゃないかなぁ」

 「ハイカ」

 「うす、やります」


 ヒスイ怖いわ。名前読んでるだけなのになんでか嫌な汗出てきてるよ俺。ていうかこの世界どんだけリアルに再現されてるんだよ。Arcadiaやべぇな。


 「じゃ、大人同士、子供同士で」


 そう行って2人が離れていき、構える。ヒスイは魔法職でありながらショートレンジでの戦いをするために開始時の2人の距離は5mほどだろうか。これはヒスイ有利じゃないか?

 カウントが始まる。そして、終わった……のだが2人とも動く気配はない。いや、実際には目線や重心の移動などの細かい部分での駆け引きをしているのだが、二人とも動き出してからでも反応できるせいであまり効果はないようだ。


 「こないのか?」

 「あなたこそ」


 言いながらも動く気配はない。ふと、違和感を感じる。なんだ……?


 「あ!開始時より2人の距離が!」


 野次馬の1人が叫ぶ。たしかに、微々たるものではあるが2人とも少しずつ前に出ている。

 先に仕掛けたのは、ハイカだった。

 不意に飛び出す。ヒスイが片目だけを瞬きで閉じた隙とも言えぬような、しかしたしかに生じた隙をつく攻撃。

 が、ヒスイはその動きを予測していたかのように魔力弾を打ち出している。


 「なぁシロ」

 「なに?」

 「なんで魔力弾なんだ?属性魔法の方が」

 「手の内晒すのは、悪手」


 なるほどね。そんな会話をしている間にも試合は動いている。すでに2人は超近距離での戦闘をしている。繰り出される拳を加速世界からみて、初動から感知し避けるヒスイ。放たれる魔力弾を全て反射的に避けるハイカ。どちらが勝ってもおかしくない、ように見えるが有利なのはハイカだ。

 いかに加速世界から見ている、とはいえ、かわそうとする動きをみて、反射的に腕を追尾させることもできるハイカの方が有利な事は明らかだろう。加えて、魔力弾はMPが尽きれば放てなくなる。近接職も体力が無くなれば動きにキレがなくなるが、そんなものはあのハイカには関係ないだろう。

 そう俺は考えていた。が、次の瞬間にはそれは間違いだったと悟ることになる。

 ヒスイが少しハイカと距離を取る。詰めようとするハイカだが、魔力弾の弾幕のせいで上手く行かない。そして、ヒスイは一際大きな魔力弾を作り出した。ハイカから見て、魔力弾の後ろにあるものが見えなくなるような巨大な物を。

 なるほど、見えなければ反射的に避ける事は不可能か。

 が、そんな事はハイカもわかっているだろう。後ろに飛びながら後ろに気を向ける。魔力弾は大きくはあるが速度がないために気にする必要があまり無いのだ。

 そして、その考えが勝敗をわける要因となってしまう。

 ハイカが自らの後ろに気を向けた瞬間、巨大な魔力弾が加速した。


 「くっ!?」


 咄嗟に両腕を交差して受け止めるハイカ。流石だな。アレを受け止めれるとか、尋常じゃない。

 が、それは悪手だった。魔力弾の中から杖が伸び、ハイカの顎の下に打ち据えられる。そして放たれる魔力弾。

 その一撃で勝負あったようだ。

 なんていうか、ヒスイの〇距離魔法の威力が頭おかしいことになってるよな。


 「『 神速夫婦』まじ神速だわ。あれなんだ?人間か?いや種族人間じゃないけどさ!」

 「はは……俺……レベル上げ頑張るよ……」

 「レベル上げても追いつける気しねぇよ……」


 なんで全員終わる度に目が虚ろになっていくんだよ。盛り上がる所じゃないの?これ。なんでお通夜みたいな雰囲気になってんの?


 「クロ兄」

 「俺らか」

 「ん」


 あの弾幕どうすればいいの俺。ちなみにすでにコートのうちに自動小銃2丁とあるものを用意している。

 野次馬から離れていき、構える。PVP申請が来たので当然のごとく受ける。

 30秒のカウント。今回は遠距離戦した方が不利になるからな。カウント中によることも出来るが……それはしたくない。兄として、正々堂々と勝つべきだと思うんだ。勝てると思わないけどな。勝負は間の50m、これをどう詰めるか。

 カウントが終わる。飛んでくる魔力弾の弾幕。集中しろ、全てをかわせ。かする程度なら無視だ。進め。

 銃は使わずに突き進んでいく。わざわざコートに腕を通さず、マントのように着ているのだ。油断してるところから頭を打ち抜く、それが勝ち道。


 「なにか狙ってる。ハイカの腕飛ばしたヤツかな」

 「さぁ、なんだろうねっ!」


 あと20m。シロは後退する気がないようだ。


 「負けるのはやだから。クロ兄、本気で行くよ?」

 「手加減とかしてんじゃねぇよシロ!」


 瞬間、弾幕の密度が上がる。もはや壁。隙間などないほどの密度の弾幕。

 これは……使わないと負けるか。最低限の隙間を作るために、撃つ。リロード中は……雷脚で弾くか。


 「これ、ハイカの腕飛ばしたヤツ……?種?」


 残り10m。行ける、かな?リロードを終えた拳銃をフルバースト。シロへの道が見える。今!!

 マントの中からSMGを取り出す。サブマシンガン、モデルはP90。装填弾数の多さからモチーフとして選んだ。


 「なっ!?けど、甘い!」


 フルバースト。仕留められなかったか!どうやって耐えたのだろうか?いや、今は気にするな。P90はリロードに時間のかかる銃だ。これはもう使えないか!

 投げ捨て、走る。体に当たる魔力弾は無視。ガリガリとHPが削られている。くそ!これはキツイ!


 「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 《練気》を使い、飛び込む。抜けた!!


 「ちぇっくめいと、シロの勝ち」


 抜けた先には巨大な魔力弾。これは、無理だ……。

 魔力弾に吹き飛ばされ、HPが消し飛ぶ。くそ、負けた。

 最初の位置に移される。うーん……たぶんこれ、システム的には死んだ扱いにはなってないんだろうな。


 「クロ兄」

 「なんだシロ」

 「シロの勝ち」


 どヤァ、そんな音が聞こえてきそうな顔で見上げてくる。うっぜぇ……!

 けどなぁ……負けるとか……つら……。兄としての威厳が!


 「もとからないぞ?」

 「ハイカうるせぇ!」

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