Ⅸ-4

 日曜日には、幸也は佳代といろんな話をした。

 仔猫の世話をしながら、一日中。とりとめもなく。

 触れ合うことはできなかったけれど、語り合うことで今までの空白を埋めていった。


 幸也は、これからは思ったこと、感じたことをできるだけ話すことにしようと決めた。今まで何も話してこなかったから。佳代が、優しく微笑みながら話を聞いてくれるから。


 翌日も幸也は佳代に積極的に話しかけた。


「今朝、登校中に太一に会ったんだ。えっと、昨日話した僕と友達になりたいっていった子だよ」


 幸也は登校中に太一の後ろ姿を見つけた。声をかけようかどうしよかと考えていると、信号で立ち止まったときに他の子が太一に声をかけた。


「おはよう」

 振り向いて

「ああ、おはよう」

 と返事は返すが不機嫌そうな顔。

 と、幸也の存在に気づきぱっと顔つきが変わる。ばつの悪そうな顔。


「おはよう」


 幸也から言ってみる。小さな声ではあったけど。

 太一は幸也の方から声をかけてくれたことに驚いて目を瞠る。


「おはよう。悪い……俺、朝弱いんだよ」


 頭を掻いて照れ笑いする。


「前は、びくびくしてた頃は緊張してたのか、しゃきっと起きてたんだけど。こっち来てから、朝なかなか起きられなくて」


 言いながらあくびをする。


「不機嫌さを隠さなくてもいいからかなぁ。……恰好悪いな」

「そんなこと、ないよ」


 太一は幸也が普通に話してくれることが嬉しかった。幸也も、太一が素直に自分をさらけ出してくれているようで、なんだかくすぐったかった。



「太一は朝弱いんだって」


 夕食を食べながら話をしてくれる幸也を柔らかい笑顔で佳代が見つめている。



「それから昼休み。太一が来たから一緒に食べたんだけど、僕の食べる量を見て驚いてた。『そんなので足りるのか?』って。僕も太一の見てびっくりしたけど。……僕の倍以上あったかも」

「体が大きいのよねぇ」

「僕もあんなに食べたら大きくなるのかな」

「なるかもしれないわね。お父さんも小さい方ではないし。これからこんな風にたくさん食べてたらね」


 その日幸也はいつもよりたくさん食べていた。



 放課後、約束通り太一と幸也は中学校の体育館に顔を出した。


「よろしくお願いします」


 二人揃って頭を下げる。幸也の少しはにかんだ笑顔とでかい図体をしてしゃちほこばって言う太一の様子に部員たちは大騒ぎする。


「きゃー、可愛い!」

「マミの弟?」

「ちっちゃ~い」

「色白い~」

「大きいねぇ。何センチあるの?」

「毎日来るの?」

「靴のサイズは?」

と二人とももみくちゃにされてしまった。


 その日は初めてということで、ランニングをした後、ボールの持ち方からはじまりドリブルとパスの基本を教えてもらった。



「みんな、いい人たちみたいだったよ」


そんな他愛無い会話が二人ともとても嬉しかった。9年間の隙間が少しずつ埋まっていく気がした。 

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