Ⅶ-4

 夢を見る。懐かしい夢を。


 弥生のベッドに潜りこんだ夜。二人して絵本を読んでとせがむ。弥生は二人が寝つくまで、ずいぶんたくさん読んでくれた。


 暖かい布団。パジャマ越しに伝わる体温。抑揚をつけて読むやよいの声。楽しいお話。──幸也の大好きだった時間。


 真由美が字を読めるようになると、たどたどしい口調で読んでくれることもあった。はじめのころは、あまりにもペースが遅すぎストーリーもあまり頭に入ってこなかった。それでも少し舌ったらずな甘い声が耳に心地よくて。大概お話の途中で幸也は眠ってしまい、最後まで聞けることはめったになかったが、そうやって眠るのも幸也は大好きだった。


 もう少し大きくなって幸也が本をたくさん読むようになっても、やっぱり絵本を読んでもらうのは変わらず好きだった。心が暖かくなる、その時間が好きだったのかもしれない。


 弥生がいなくなり家に戻されて。悲しくて悲しくて、身動きが取れなくなってしまった幸也をすくいあげてくれたのも、真由美が読んでくれた絵本だった。なんの本だったのかは覚えていないけれど。


 それから真由美が泊まりに来るときは、いつも絵本を持ってくるようになった。幸也の中で、本は自分で読むもの、絵本は真由美に読んでもらうものという決まりがいつの間にかできていた。


 絵本は読んでくれるが、実は真由美は本はあまり読まない。幸也のように家の中にいることも少ないし、外で体を動かす方が好きなようだ。そんな真由美はいつも幸也に読んだ話の内容を聞きたがるのだ。話すことが少ない幸也も、読んだ本のストーリーを話して聞かせるのは苦手ではなかった。真由美がいつも喜んで聞いてくれるから。


「それから? それからどうなるの?」


 真由美がいつも真剣に聞いてくれるのが嬉しくてさらにたくさん本を読んでいたのかもしれない。学校では、休み時間の読書は他の生徒からの逃げ場でもあったし、本の中では幸也はなにものにでもなれたから。


 夢の中で幸也は、たくさんの本をかかえて微笑んでいる。すぐ側で真由美が目を輝かせて幸也の話を聞いている。本たちが本棚から躍り出てきて二人の周りをとりかこむ。

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