閑話 伏魔殿

「なんだ……あれは……」


 第四次精霊開放遠征成功のため、ミズガルズ大陸での単独先行偵察に従事しているフローグが、岩陰から顔だけを出した状態で独り言ちる。


 場所は、ファフニールのいるミズガルズ大陸最深部と、エムルトとのほぼ中間地点。山や森といった危険地帯を避け、多勢にて最深部を目指すならば、必ず通るであろう場所。前回の精霊開放遠征では、確かに平地だった所に、ソレはあった。


「城……なのか?」


 そう、ソレは城。城門があり、土塁があり、外堀があり、物見台がある。土と石と木で建築された、野性味あふれる粗雑な城だ。


 建設途中らしいその城は、多くの作業員が協力して石を運び、それを積み上げ、土で固めていくことによって、少しづつ、だが確実に大きくなっていく。そして、それらを行なっているのは人ではない。


 ラビスタだ。


 ただのラビスタに、白い被毛のラビスタン。それに加え赤、緑、紫、茶、黒といった、色とりどりのラビスタの姿が見て取れる。


 それら初見のラビスタが大規模なコロニーを形成し、明確な意思と目標を持って、巣ではなく城と表現して差し支えないものを建築している光景に、フローグは目を見張りながら息を飲む。


 フローグは、もっと近くで城を観察するべく身を乗り出そうとして――やめた。首を小さく左右に振り、岩陰に顔をひっこめる。


 ラビスタは、縄張り意識が非常に高い魔物だ。そして、相手が格上だろうと躊躇なく攻撃を仕掛けてくる。それは、魔物に狙われにくいフローグであろうと例外ではない。


 フローグの任務はあくまで偵察。無事にエムルトに戻り、この異変を仲間に伝えることこそが肝要だ。


 ラビスタに見つからないよう静かにその場を離れたフローグは、城から十分な距離をとった後、ティルフィングの柄を強く握り、鞘を操作。菱形のサーフボードのような盾をつくり、その上に飛び乗った。

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