第八章・齧剋城攻略編
267・第八章プロローグ とある生物学者の研究資料・ラビスタ編
この世界、イスミンスールには、世界樹と邪悪の樹を起源とする多種多様な生物が存在し、そのなかでも特筆すべきものが三種類存在する。
ドラゴン。
スライム。
そして、ラビスタ。
知っての通り、これら三種は、我々人類の進歩と発展を語る上で、決して欠かすことのできない重要なファクターである。
当書では、その三種類のなかから、ラビスタについて記したいと思う。
ラビスタは、人類の誕生から今日に至るまで、その食糧事情を支え続ける極めて優秀な食肉である。
邪悪の樹が生み出す魔物に対抗するべく、世界樹によって生み出された我々人類は、聖霊の導きに従い文明を築き、初代勇者が邪悪の樹を切り倒した際に、神の先兵としての役割と、闘争の日々から解放され、種としての繁栄のために歩み出した。
生きるとは、すなわち食うことである。だが、邪悪の樹という際限なく魔物を生み出す食糧の一大産地は、世界の平和と引き換えに永遠に失われた。
戦いに明け暮れ、魔物を主な食料としていた当時の人類に畜産の概念はなく、世界規模での食糧不足と、狩猟による動物の絶滅が懸念されたが、それを払拭したのが他でもない、ラビスタの存在だ。
ラビスタには、食肉として多くの有用性がある。
まず、分布の広さ。
ラビスタは、非常に適応力の高い生き物であり、文字通り世界中に生息している。灼熱のムスペルヘイム大陸から、極寒のヘルヘイム大陸にまで、まんべんなくだ。
次に、その凄まじいまでの繁殖力。
セーフリームニルやタングリスニによる畜産が確立するまで、数多の人類が肉と毛皮目当てにラビスタを狩り続けたにもかかわらず、絶滅どころか数が減った気がまるでしない。むしろ増えているくらいだ――という当時の記録が残っている。
そして、狩猟の容易さ。
ラビスタは、縄張り意識が非常に高く、好戦的な生き物だ。縄張りに踏み込んできた相手が、自身よりも明らかに格上の生物であっても、躊躇なく攻撃を仕掛けてくる。
一見『凶暴で家畜やペットに向かない』という短所に見えるが、見方を変えれば『発見が容易で狩りやすい』という長所になる。加えて、ラビスタには手足がない。攻撃手段は、体当たりか噛みつきかの二択であり、対応は容易だ。
人類が面倒をみるまでもなく、世界各地で勝手に数を増やし、頃合いを見てざっと歩き回り、襲いかかってきたところを返り討ちにするだけで、食肉が積み上がる。熟練の狩人などは「奴らのほうから食われにきている」とまで言うくらいだ。
これらの理由から、ラビスタは人類の胃袋を長きにわたって満たし続け、人類だけでなく多くの生物を救ったといえる。
そんな、今でこそ主要な食肉として、人類の食卓にすっかり定着しているラビスタだが、忘れてはならないことがある。それは、元を辿れば邪悪の樹によって生み出された生き物であり、かつては魔物であったということだ。
弱く、見た目は可愛らしい普通のラビスタしかしらない我々には信じがたいことではあるが、邪悪の樹が健在だったころや、アースが世界に宣戦布告した際には、その適応力の高さを武器に、姿形や特性を多種多様に変化させ、人類に牙を剥いたという。
月属性・ラビアスター
火属性・ラビブラスター
水属性・ラビオイスター
木属性・ラビバリスタ
風属性・ラビツイスター
地属性・ラビスタチュー
光属性・ラビスタン
闇属性・ラビバスター
魔物研究の第一人者たる私としては、魔物であった頃の各種ラビスタの姿を、ぜひ一度お目にかかりたいものだが、初代勇者によって邪悪の樹が切り倒され、二代目勇者によって跡形もなく粉々にされた今、タイムスリップでもしない限り不可能だろう。
しかし、万が一ということもある。
なんらかの理由で、再びラビスタが魔物化したときに備え、この生き物は都合の良い食肉でもなければ、観賞用の愛玩動物でもない。かつて我々人類と、血で血を洗う闘争を繰り広げた、極めて凶悪な魔物であったということを、後世まで語り継がなければならないだろう。
(【厄災】の折に焼失した、とある資料より抜粋)
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