166・再会 下

「おい、こいつら、どんなもんだ?」


 自身の左斜め後方にいる狩夜を意に介さず、光の民の男性開拓者が顎をしゃくりながらこう言うと、右隣にいた痩せぎすの男が一歩前に出て、その両目を怪しく光らせる。そして、木の民の少年少女をぐるりと見回した後、次のように答えた。


「へぇ、テイムモンスターを含めて、全員がハンドレットでさぁ。スキルの方も、てんで話になりやせん」


「っち、やっぱりか。開拓者の実力は見た目と一致しねーことがあるから、もしかしてと思ったが、見たまんまの雑魚かよ」


 どうやら、痩せぎすの男は高レベルの〔鑑定〕スキルを有しているようだ。彼の鑑定結果に忌々し気に舌打ちした光の民の男性開拓者は、次のように言葉を続ける。


「お前ら、『駆け出しハンドレット』の分際でユグドラシル大陸の外に出てきてんじゃねーよ。絶叫の開拓地スクリーム・フロンティアがどんな場所か知らねーのか? ったく、どういう教育受けてんだ。親の顔が見てみてーよ。まあ、どんな理由があるにせよ、雑魚ガキをここに送り出した時点で、人間としても、親としても失格だがな」


「「……っ」」


 この場にいない者を誹謗する光の民の男性開拓者に、狩夜とパーティリーダーの少年が、ほぼ同時に青筋が立てた。


 狩夜が剣呑な視線を光の民の男性開拓者に向ける中、パーティリーダーの少年は怒りを静めるように深呼吸をした後、こう言葉を返す。


「俺に親はいない。半年ぐらい前に、どっちも死んでる。だから、俺が今ここにいることに、両親は関係ない」


「そうかよ、そりゃ悪かったな。だけどよ、それはお前ら雑魚ガキが、ここにいていい理由にはならねぇぞ?」


絶叫の開拓地スクリーム・フロンティアがどんな場所で、俺たちが力不足だってことはわかってる。ちゃんとした保護者、俺たちを育てて、戦い方を教えてくれる先生みたいな人が他にいるんだよ。そこの開拓者ギルドで待ち合わせなんだ。なぁ、もういいだろ? 通してくれよ、おっさん」


「だから、俺はおっさんじゃねぇ。しかし、保護者か……」


「兄貴……こいつら……騙されてる……かも……」


「だな。おいガキ、その保護者とかいうやつ、本当に大丈夫か? ビギナーを騙くらかして危険地帯に誘い込んで、装備をはぎ取ったり、女を無理矢理手籠めにしちまうようなクズも、世の中にはいんだぞ?」


 太った大男の指摘に頷いた後、思案顔で忠告する光の民の男性開拓者。そして、彼が言うような犯罪に手を染めている者は、少ないが確かにいる。


 年少パーティの身を案じたであろう理にかなった忠告に、口は悪いが案外良い人かも――と、狩夜は思った。そして、そう思ったのはパーティリーダーの少年も同じであったらしく、困惑した様子で光の民の男性開拓者を見つめている。


「そいつの名前は? テイムモンスターはなんだ? どんな装備で、どんなパーティ編成だった? なんでもいいから特徴を言ってみろ」


「え、えっと……有名な人だから大丈夫……」


「あ~あ、また始まった。まどろっこしいですぜ兄貴。その保護者とやらに代わって、オイラたちが色々と教えてやりゃあいいんですよ」


 まくし立てるような質問の嵐の中、下卑た笑顔を浮かべながら痩せぎすの男が前に出た。そして、パーティリーダーの少年の脇を通り過ぎ、おもむろに右手を伸ばす。


「兄貴はそのチビジャリを、オイラは後ろのかわいこちゃんたちを――」


「――っ!? 俺の仲間に触るな!」


 不意を突かれて慌てたのか、余裕のない様子でパーティリーダーの少年が動く。パーティメンバーの間に体を割り込ませ、痩せぎすの男の右腕を力任せに跳ね除けた。


 乾いた音が大きく上がり、その場に沈黙が訪れる。


 周囲の通行人までもが足を止め、視線を集中させる中、パーティリーダーの少年と痩せぎすの男は「あ、しまった」と言いたげな顔をしており、光の民の男性開拓者は「なにやってんだ」と頭を抱えている。


「おい、ロリコンの気を出すなって、いつも言ってるだろうがよ?」


「すいやせん、兄貴。つい……」


「兄貴……皆……見てる……」


「っち、しかたねぇ。おいガキ、手を出した以上、ただじゃ済まさねぇぞ? この業界、舐められたら終わりだからな。格下のガキに噛みつかれて引き下がったとあっちゃ、俺たちの沽券にかかわる」


 周囲を威圧するように手の関節を鳴らしながら、ゆっくりと歩を進める光の民の男性開拓者。その様子に、木の民の少女たちがにわかに殺気立ち、武器構えようとするが、パーティリーダーの少年が右手を上げ、それを制した。


「やめろ、お前ら。基礎能力向上回数が違いすぎる。どう考えても勝ち目がない。おい、おっさん。抵抗しないから好きにしろよ。その代わり――」


「安心しろ、女どもに手は出さねぇ。お前が少し痛い目に合えば、それで済む」


 この言葉に恐らく嘘はない。そして、パーティリーダーの少年は、自身が大人しく痛い目に合うことで、パーティメンバーを守り、この場を収めようとしていた。


 子供とは思えない、実に見事な心意気だが、その覚悟と勇気は無駄に終わりそうである。このときすでに、狩夜の足が地面を蹴っていたからだ。


 テンサウザンドの敏捷を遺憾なく発揮し、爆発的な加速で一陣の風となった狩夜は、光の民の男性開拓者目掛けて疾駆し、跳躍。


 そして――


「僕のライバルに、なにする気だごらぁあぁぁあぁ!!」


 この言葉と共に、豪快なドロップキックを炸裂させた。


「ぐはぁぁああぁ!?」


 突然我が身に振りかかった、意識の外からの一撃。防御すらできずに脇腹で狩夜のドロップキックを受け止めた光の民の男性開拓者は、交通事故にでもあったかのように吹き飛んだ。


「「兄貴ぃ!?」」


 もんどりうって地面を転げ回る光の民の男性開拓者を、太った大男と痩せぎすの男が血相を変えて追いかける中、ドロップキックの反動を利用して宙に舞い上がった狩夜は、一回転してから体操選手のように地面に着地。その後、急変した状況に目を丸くしているパーティリーダーの少年と視線を重ねる。


 見つめ合うこと数秒、我に返ったパーティリーダーの少年が叫ぶ。


「カリヤの兄ちゃん!?」


「やっほー、ザッツ君。久しぶり」


 こうして、叉鬼狩夜と、ティールの村の住人、ザッツ・ブラン・マイオワーンは、この世の地獄で再会を果たした。

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