閑話 3-1
「ここにもない。ねぇ左京、見つかった?」
「こっちもない。だめ右京、見つからない」
狛犬家の居間。そこで押し入れの中に上半身を入れた右京と左京が、あちこちへと手を伸ばしながらしきりに顔を動かして、あるものを探す。
二人の探しものは瓶。夜になると蒼白い光を放つ、不思議な花を生けるための、大きめの花瓶である。
「早く見つけて、お花さんに水をあげないと」
「早く見つけて、朝ご飯の準備をしないと」
こう口を動かした後、現在探している押し入れに見切りをつけ、二人は別の押し入れへと向かう。そして、その押し入れを開けると――
「「あ、あった!」」
様々な陶器と共に眠っていた、白無地の花瓶を発見。右京と左京は互いに手を取り合って喜びを表現した後、その花瓶をすぐに押し入れから引っ張り出し、早速花を生けてみた。
「「わ、ぴったり!」」
花瓶の口から伸びる細長い茎と、屋敷を吹き抜けていく風に揺れるいくつもの花を見つめながら、二人は笑顔で声を上げ、次のように言葉を続ける。
「大事にしようね、左京」
「毎日お水を変えようね、右京」
「「母上のために、今日の夜も光ってね、お花さん!」」
こう花に語りかけた後、右京と左京は居間を飛び出して台所へと向かった。
誰もいなくなった居間。その中心に置かれた座卓の上に、花瓶に生けられた不思議な花が残される。
その花は、人目がなくなってしばらくすると、自らの意思で動き出す――ようなこともなく、もちろん言葉を発することもない。
狛犬家の中で、ただただ静かに揺れていた。
どこにでもある、ごく普通の花と変わらぬ様子で、揺れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます