第1回 ロリの使いやあらへんで!!チキチキ 絶対に笑ってはいけない大脱獄24時

猪子馬七

ロリの使いやあらへんで‼︎



 ロリが捕まった。


 罪状は強制猥褻罪。


 勿論、冤罪だ。


 ロリとは穢れ無き天使。天使が猥褻な行為などする訳が無い!

 して欲しくはあるが、する訳が無いのだ……多分!


 そして冤罪によって監獄へと収監されたロリ。己の無実を証明する為に、ロリは収監早々脱獄を企てるのであった!



 しばらくして、ロリは同じ収監者の多奈華ちゃんと共に脱獄を決行。二人はあと少しで、監獄から脱出するところまで漕ぎ着けた。


「ここを抜けたらあと少しで脱獄は成功よ、多奈華ちゃん!」


「そうね、ロリちゃん!でも私、なんか悪い予感がするのよ。脱獄がこうも上手く行くと、この先に罠があるんじゃないかって…」


「それは杞憂よ多奈華ちゃん!大丈夫、この先にあるボタンを押して扉を開けば、脱獄は間違い無く成功するから!」


 不安気にしている多奈華を励ますロリ。一人では絶対に不可能であった今回の脱獄劇。それを支えてくれた多奈華を、ロリが励ますのは当然の事と言えよう。


 ロリに励まされながら、二人は何とか扉の前に辿り着いた。あとは目の前にある大きな赤いボタンを押して、扉を開くだけである。


 しかし、ここまで来て再び多奈華がゴネりだす。


「ねえ、ロリちゃん…私ね、この大きな赤いボタンを見ると、もの凄く悪い予感がするの…」


「何よ、悪い予感って?そんな事より、早くボタンを押して脱獄しましょうよ!」


「…前にさ、ロリちゃん日本人じゃないみたいな事、言ってたじゃない?その時、聞きそびれたけど…ロリちゃん、どこの国の人?」


「え?それが今、なにか関係あるの?」


「イイから答えて!これはもの凄く大事な事なの!」


 多奈華の鬼気迫る懇願に、ロリは仕方なく答えた。



「私…タイ人だけど?」


 それを聞いた多奈華の顔は見る見る青ざめて行く。

 そんな多奈華をよそに、ロリは自分でボタンを押そうと前に出る。


「多奈華ちゃんが押さないなら、私がボタンを…」


「ダメよロリちゃん!押しちゃダメ!そのボタンは…そのボタンは罠なのよ!」


「え?今更、何を言ってるの!何でこのボタンが罠だって分かるのよ⁉︎押してみなくちゃ分からないじゃない!」


「押さなくても分かるの!私には分かるのよ!そのボタンを押したら、どれだけ酷い惨劇が待ち受けているのかを!」


「あのね、多奈華ちゃんは押さなくてイイんだよ?私が押すから、そんなに心配しなくて…」


「違うのよ!そうじゃないの!誰が押しても一緒なの!そのボタンを押したら、どこからともなく音声が流れてくるのよ!多奈華たなかぁタイキック〜ってね!!」


「いや、何よそれ?あり得ないでしょ、そんなの?確かに私はタイ人でムエタイの経験者だけど…」


「ほらっ!やっぱり罠じゃない!このボタンを押したら音声が流れて、ロリちゃんは私に容赦無くタイキックを浴びせて…ドッカンドッカン笑いが巻き起きるのよ!」


「ゴメン、多奈華ちゃん。本当に意味が分からないんだけど?なんで私が多奈華ちゃんにタイキックを容赦無く浴びせなくちゃいけないの?確かにそんな事が万が一にでも起きたら、とても面白いかも知れないけど…」


「面白く無いわよ!全然面白く無いわよ!なんで私がそんな酷い目にあわなくちゃならないのよ!絶対に押しちゃダメよ、そのボタンは!」


「そんな事を言っても、このボタンを押さなきゃ脱獄は出来ないし…」


 ロリは少し思案するが、申し訳なさそうにこう続けるのであった。


「ねえ、多奈華ちゃん…タイキック一発ぐらいだったら、何とか我慢出来るんじゃないかな?」


「え?何よそれ⁉︎なんで私がタイキックを受けることを前提に話を進めようとしてるの⁉︎ここは普通、音声が流れてもタイキックはしないって流れなんじゃないの⁉︎」


「そうは言っても、ドッカンドッカン笑いを取るなら、タイキックは必要不可欠だし…」


「だから脱獄に笑いは必要無いでしょうが!タイキックする気があるなら絶対に押しちゃダメよ!ダメ!ダメ!絶対にダメ!!」


 多奈華の凄まじい剣幕に、流石のロリも仕方なく折れた。

 たとえ音声が流れても、タイキックは無しと決めて、二人でボタンを押すことに。





「じゃあ押すわよ、ロリちゃん」


「ええ、用意はイイわよ。勿論、タイキックをしない手筈のね!」


 そう言うとロリはチラリと自分の足元を見た。

 ロリの両足には万が一に備えて、脱出用のロープでグルグル巻きになっていた。これで音声が流れてもタイキックは発動しない筈。


 準備が完了したところで二人は恐る恐るボタンに手をかけ、お互いに目で合図を送ると小さく頷き、同時にボタンを押した。


 ボタンを押すと。すぐさま身構える多奈華。しかし、予想に反して音声は流れてこなかった。

 代わりに目の前の重厚な扉が、音をたてて開き始める。


 安堵する多奈華。しかし、それが大きな間違いだった。


 ホッと胸を撫で下ろす多奈華の前に、一人のプロレスラーが扉から出てきて、立ち塞がる。


 なんでこんなところにプロレスラーが?そう思った瞬間、多奈華はプロレスラーの容赦無いビンタの洗礼を受けていた。


 倒れ込む多奈華は自身の名前を呪った。そう、自分の名前が山崎 多奈華だと言うことを。


 薄れ行く意識の中で、ドッカンドッカン笑いが巻き起こるのを感じた。

 うん、本当に脱獄には笑いは不要だと、改めて思い知らされるのであった。




終劇


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