可憐な魔道士イグナイト

jugger

第1話「伝説の出会い」

七月のこと―。

夏と呼ぶにふさわしい日差しに照らされ、その街には汗を流しながら働く人や、半袖で歩く若者の姿で溢れかえっていた。

『またメタトロン学園の勝利です!もはやこの地区において、この学校を止められる勢力はないのでしょうか!?』

商店街に並ぶテレビから、歓声と共にそんな声が鳴り響く。

テレビの映像には、コロシアムのような場所で戦っている少女達の姿があった。

『解説の平田さん、今回の魔道士の勝因はどこにあったんでしょう?』

実況に話を振られた解説の男は、自信満々とした声で答える。

『やはり、あの立派な胸!ひきしまった腰!そして大きなお尻!それこそが、間違いなく勝因ですね!』


※この世界には、魔法という概念が認知されている。


「まっまずはおおおお落ち着きましょう!!」

明らかに落ち着いていない声を上げながら、その女の子は叫んでいた。

店内にいる人間すべてが、大声を上げた彼女の方を見て、驚愕する。

「お、おい…見ろよあの身体」

「なんてデカいおっぱいだ!」

「ケツもかなり大きいぞ!」

「ヤバい!このプロポーションはヤバい!」

ざわつく店内の中で、チンピラ風の男が答えを求めるように呟いた。

「まさかテメェ…魔道士なのか!」


※この世界には、魔法を操る魔道士というものが存在する


この騒動が起きる少し前のこと、赤松宏美はとある学校の門の前に立っていた。

幼さの残る顔立ちに茶髪のロングヘア、乱れの無い制服姿をしており、育ちの良ささえ感じる清楚な見た目をしているのが彼女の格好だ。

しかし最大の特徴は、学生とは思えないほどに発達しすぎた胸と尻である。清楚というイメージを叩き割ってしまうくらいに抜群のプロポーションを誇っていたのだ。

「私も、ここに入りたい……」

そんな彼女は、魔道士として入学したいがために、オープンハイスクールが行われているメタトロン学園へと来ていた中学生の一人だった。

メタトロン学園は全寮制の女子高として町外れの広大な土地に佇んでいる。

指折りの名門として知られ、偏差値もそれなりに高い。

何よりも、魔道士専門の学科を保有する数少ない学校であり、彼女もそこに入りたいがために上京してきたのだが―

「とてもじゃないけど、あなたは魔道学科ではやっていけないわよ」

お昼過ぎ、とある教室から追い出されてしまう宏美の姿がそこにあったのだ。

彼女は失意のまま街へと戻り、大きな封筒を抱えて街をトボトボと歩いていた。

そんな時に一件のファミレスが、彼女の目に止まったのである。

(…コーヒーでも飲んでいこうかな)

気を紛らわすためか、休憩を取るために彼女は店内へと入っていった。


※魔道士になれるのは、ごく一部の女性のみである


「んだとコラァ!」

店内では恫喝が鳴り響いていた。

「テメェの不注意でこっちはヤケドしたんだろうがよぉ!」

「も、申し訳ありません」

気弱そうな女性店員に怒鳴り散らしていたのは、ガラの悪そうなチンピラだった。

店内には客も多数いたが、飛び火しないように見て見ぬふりを決めているようである。

宏美はとんでもない店に入ってしまったと直感で思った。

出来ることなら関わりたくないと感じたからだ。

「教育がなってねぇよなぁ?」

「きゃっ!」

しかし、そのチンピラが女性店員の腕を掴んだところで彼女の余計な正義感が働いてしまったのだ。

「ま、まま待ってください!」

女性店員とチンピラの間に強引に割って入り、彼女は両手を広げた。

「乱暴はダメです!」

「なんだテメェ?ガキはすっこんでろ!」

「まっまずはおおおお落ち着きましょう!!」

明らかに落ち着いていない声を上げながら、その女の子は叫んでいた。

店内にいる人間すべてが、大声を上げた彼女の方を見て、驚愕する。

「お、おい…見ろよあの身体」

「なんてデカいおっぱいだ!」

「ケツもかなり大きいぞ!」

「ヤバい!このプロポーションはヤバい!」

そして、とある客が宏美の持つ封筒に気付いた。

「お、おい!あの手に持ってる封筒…『メタトロン学園 魔道学科』って書いてあるぞ!」

「メタトロン学園の魔道学科って言えば、エリート魔道士しか入れない名門校じゃねえか!」

実際のところ、宏美はオープンスクールに行っただけの中学生なのでメタトロン学園の生徒ではないのだが、店内の誰もが宏美を学園の生徒だと信じてしまっていた。

更にざわつく店内の中で、チンピラ風の男が答えを求めるように呟く。

「まさかテメェ…魔道士なのか!」


※一般的に、胸と尻の大きい魔道士ほど、強大な力を保有するということが知られている。


「お、おおおお願いします!ここには家族連れの方もいますし、ひひひ一つ穏やかにしませんか?」

宏美が胸をゆさゆさと揺らしながら、やっとの思いでそう告げる。

しかし、引くに引けなくなったのか、チンピラは彼女に掴みかかっていた。

「なっ、何が魔道士だぁ?そんなもんにこの俺がビビると思ってんのか!」

それを見た男性客がチンピラに向かって叫ぶ。

「やめとけ!魔道士に逆らったら返り討ちに合うぞ!」

「うるせぇ!やれるもんならやってみろよ…!」

他人の意見も聞かないチンピラに対し、店内の客は次第に宏美に味方するようになった。

「魔道士さん、そいつをやっちゃいなよ!」

「いけいけ!はっ倒してしまえ」

「うわー、魔法が生で見れるのか?」

まるでスポーツ観戦でもするかのように店内が盛り上がるが、宏美は締め上げられたまま苦しそうにしているだけだった。

「ぐ、ぐぐっ…」

「魔道士なんか怖かねぇぞ!ほら、やってみろよ!」

(で、でも……私の魔法は……)

宏美が何かを迷っていた、次の瞬間。

遠くのテーブルがバン!と叩かれた。

「行くよ、美香!」

「わかったわ」

そのテーブルに座っていた二人の女子高生が、突然立ち上がってチンピラの方に向かって走ってきたのだ。

「あぁん?なんだぁ……っ!」

チンピラが反応するとほぼ同時、美香と呼ばれたタレ目の女子高生が右手を前に差し出して叫んだ。

「スプラッシュ!」

瞬間、彼女の右手から水蒸気のようなものが発生し、店内を霧で包む。

「えぇっ!?」

おろおろする宏美の腕を、ツリ目の女子高生が引っ張っていった。

「ほら、さっさと逃げるわ!走るのよ!」


※幼少期に魔法に目覚めた少女は、少なからず魔法を専攻している学校を目指す。


人気の無い公園に着いたところで、三人は走るのをやめた。

「あ、ありがとうございます…」

お礼を言う宏美に対して、ツリ目の女子高生が寄ってくる。

「お礼なんて全然いいわ。それよりもあんなのに絡んだら駄目じゃない」

「あっ…ごめんなさい」

まずいことをしたと理解したのか、宏美は口に手を当てて謝った。

その様子を見たツリ目の女子高生は怒りを表すように腕を組む。

「ふん、メタトロン学園の生徒かなんだか知らないけど、あんなトラブルに突っ込むのはやめなさいよね。チンピラといえど一般人なのよ?魔法使えるからっていい気になっちゃダメよ!」

「す、すみません……でも……」

ツリ目の女子高生が責め立てるように言うと、宏美はその剣幕に押されてしまい言葉が出てこなくなってしまう。

しかしそこで、隣にいたタレ目の女子高生・美香が何かに気づいた。

「あらぁ?ねぇねぇ奈々ちゃん。この子の制服…メタトロン学園のものじゃないわよ?」

「えっ?」

奈々、と呼ばれたツリ目の女子高生が宏美の服をまじまじと見つめる。

彼女がメタトロン学園の封筒を持っていたことも合わせて、宏美がオープンスクール帰りの中学生であると気付くのに時間はかからなかった。

「な、なによ紛らわしいわね!あんた中学生だったの?」

「は、はい……すみません」

「中学生にしては良い身体をしているのねぇ~」

タレ目の美香が関心するように宏美の身体を眺める。

それを見たツリ目の奈々もふん、と鼻を鳴らした。

「確かに魔道士としては立派そうな身体ね。これだけいいモノ持ってるんなら魔道士の強豪高校と言われるメタトロン学園のオープンスクールにも行けるわね……」

「えっ、あっ、それは……」

しどろもどろしている宏美の肩を、美香がぽんと叩く。

「別に謙遜しなくてもいいのよ。私達魔道士は、胸や尻が大きいほど強力な魔法が使えるんだもの〜」

立派なプロポーションを誇る宏美に対し、奈々や美香の胸や尻は年相応のサイズなために、比較すると随分と小さく見えてしまう。

ただし、胸の大きさにおいては美香もそれなりに発達しており、奈々だけが貧相な胸囲をしていた。

「私は蜂須賀奈々、この近くのシルバイス女学院の二年生よ」

奈々というツリ目の女子高生は自らの名を名乗ると、肩まで伸ばした金色の髪の毛を雑にかき分けた。その仕草からは何となくガサツな印象を受ける。

「私は飛田美香、同じく二年生よ。よろしくねぇ。あなたは?」

隣にいたタレ目の女子高生こと、美香も自らの名前を名乗る。

ふわっとした深緑色のウェーブヘア、その仕草や発言から総じておっとりとした印象だった。

「あっ、私は赤松宏美といいます!よろしくお願いします!」

そう挨拶をして深々とおじぎをすると、その胸がさらにゆさゆさと揺れた。

それを見て奈々が聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで「ちっ」と舌打ちをする。

「それで、あなたはメタトロン学園に受験するの?」

美香がそう尋ねると、宏美は黙ったまま下を向き、しばらくして小さく答えた。

「ダメだったんです」

「えっ?」

「確かに私はメタトロン学園のオープンスクールに行きました……でも、そこの魔道学科で先生の人に言われたんです。『あなたはこの学科じゃ、やっていけない』って」

その発言に奈々が驚いた表情を見せる。

「えぇっ!あ、あんたほどの身体でもダメなの?だってあんた、強力な魔法が使えるんでしょ?」

「えっと……それは」

宏美が何かを言う前に、美香があらゆる角度から彼女を眺め終え、ぽんと手を叩いていた。

「うん、いけるわぁ。いけるわよ奈々ちゃん、これはまたとないチャンスよ」

「えっ?ほ、本気で言ってるの……?時間がないとはいえ、私は反対なんだけど!」

そんな奈々の意見は聞かず、うんうんと頷いた美香は彼女にこう告げた。

「ねぇ宏美ちゃん、私達と一緒に魔導大会に出ましょうよ」

「え……えぇーっ?!」

この出会い、そして誘いが、彼女だけでなくこの世界の運命も大きく変えることになる。

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