第16話 美濃
永禄7年、菊が作った西洋式の鎧を日の本式に変えた鎧を着て信長は清州を出た
目指すは美濃の斎藤家の本城、稲葉山城である
まず織田軍は菊と藤吉郎が建てた一夜城、墨俣の地に行った
そこは今、侍大将になった藤吉郎が城代として小六たちと守備していた
「猿よ、墨俣の城だけでなく、半兵衛と西美濃三人衆の調略、まことに大義であった!」
織田軍が墨俣につき評定が始まると信長は藤吉郎を早速ほめた
「はっ!拙者、御屋形様のいち早い美濃奪還を願い、御屋形様の喜ぶ顔が見たく、ほめていただいた事、これ以上の喜びはございません!!」
うれしそうにひれ伏す藤吉郎に信長は鼻を鳴らしながら
「ふんっ、よく口の回るやつ愛い奴じゃ。美濃を手中に収めた時更なる手柄を立てた暁には部将への取り立てを考えてやる」
「はっ!ありがたき幸せにございまする!!」
古参の武将は苦虫をつぶしたような顔をしていたが文句が言えない位、藤吉郎の働きは比類を見ない物であった
「では評定を始める。まずは西美濃三人衆が内応する約定を取り付けた。それにあたり人質を受け取りに行かなくてはいけない。貞勝、いってくれるか?」
「はっ!かしこまりました」
信長の命にこたえる貞勝
「貞勝、此度の命は子の菊が作り上げた策と言っても過言ではない。子の手柄を親が潰してはならぬぞ」
「はっ。拙者、まだまだ若造には負けませぬ!必ずや美濃の仕置きを殿にしていただくために成功させてまいります」
信長は貞勝の言葉に満足そうにうなずいた
「うむ、まことに使える親子じゃ。皆の者、もう美濃は目と鼻の先にある。軍勢・家臣はもちろん、領主までもこの大うつけの儂よりうつけの若造。どこに負ける要素があろうか?だが決して油断するな?手を抜くな?これは桶狭間で今川が犯した最大の愚策である。どんな相手であろうと徹底的に潰し、斎藤から領民を救おうではないか!!」
「ははっ!!」
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貞勝は無事に人質を受け取ってきた
西美濃3人衆はそれぞれ砦・城を治めており、これはそれらの城が織田家の物になる事を表していた
これで斎藤家の本城稲葉山城はほぼ裸城になったも同然であった
「なぜじゃ!?なぜ斎藤家古参の者たちが皆織田家になびく!?」
斎藤家の当主龍興は評定で喚いていた
それも無理はない
今まで評定には西美濃3人衆や半兵衛が重臣の席にいたのが織田家に寝返り隙間がかなり空いている状況であったからだ
「はっ・・・されど我らがおりますれば・・・」
「ええい!?うるさいうるさい!?お前らで何ができる?織田家に寝返ったのは斎藤家でも戦の頭脳や稲葉山を守る上で必要な者たちばかり。我が祖父道三公の御恩を忘れおって・・・」
龍興は残った家臣にも当たり散らす
そこから家臣が離れていき斎藤家が滅びるまでそう時間はかからなかった
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永禄10年深夜
「龍興様!?城内から火の手が上がっておりまする!?」
家臣が龍興の眠っているところに慌てて報告に来た
「なに!?謀反か!?」
「いえ、織田家の夜襲のようでございまする!織田家は既に城門を開け攻め入っておりまする!」
龍興は顔が一気に青ざめる
「我が兵は何をしておる!?」
「はっ。夜襲にて混乱、逃げ出す兵が後を絶たず、兵として機能しておりません・・・」
「くそっ・・・くそっ・・・くそっ・・・我が斎藤家は・・・織田の大うつけに縄目にさらされるのか・・・」
龍興はがくんっとその場にうなだれた
夜襲から城が落とされるまで半日かからなかった
龍興は捕縛され縄に縛られて織田家の前に座らされる
「儂が織田信長である」
信長は龍興に向って名を告げた
「何故斎藤家を攻める!?そなたは斎藤道三公の恩を忘れたのか!?」
喚く龍興に信長は静かに言い放つ
「道三公の御恩をこの信長、一時たりとて忘れたことない。帰蝶を儂の嫁にして下さり美濃の未来を儂に任せた」
「ではなぜ、斎藤家を滅ぼそうとする!?それは大恩に背く大罪であるz・・・」
「うるさい!!」
吠える龍興に一喝する信長
「義父は儂に美濃を任せるといった。しかし道三公は謀反人義龍に殺され、美濃を奪った。お前はその義龍の子じゃ・・・つまり・・・」
信長は立ち上がり龍興の前にしゃがむ
「道三公の孫ではなく、道三公に謀反し殺した大罪人の子じゃ」
「なっ、何!?」
「さて、菊よ!!」
信長は再度立ち上がり菊に向き直る
「はい!」
「龍興をどうする?殺すか?」
信長は菊に意見を求める
「いえ、確かに大罪人ではございますが道三公の孫、殺しては殿まで他家の印象が悪くなります。ここは追放がよろしいかと存じます」
信長は菊の意見に驚く
「何!?菊よ、それはいかん。こやつを追放してはまた家臣が集まってくるかもしれん」
「ではこういたしましょう。龍興は稲葉山城攻めの時死んだ。目の前にいる者は影武者である・・・と」
「なんじゃと!?儂は正真正銘斎藤家当主の龍興であるぞ!?」
再度喚く龍興
「はて・・・本当でしょうか?半兵衛殿、半兵衛殿なら龍興の顔をよくご存じであるはず、この者は本当に龍興でしょうか?」
とぼけながら半兵衛に聞く
「うーん・・・龍興は道三公の孫、こんな何もできなそうな顔はしておられなかったかと思いますな」
菊の小芝居に乗る半兵衛
それを聞き信長は大声で笑う
「はっはっはっ!!そうかそうか、この者は影武者であったか!!確かに本物の龍興であれば義父の片鱗を受け継いでなければおかしいな!!影武者殿、追放に処する。美濃・尾張以外好きな所に行かれよ!」
「なっ!?儂は本物の龍興だt・・・」
龍興がまた喚こうとすると菊が口を挟む
「早くこの者を連れて行きなさい!」
「はっ!」
連れていかれる龍興
龍興がいなくなりこの場にいるのは織田家のみとなった
信長は皆を見回し頷きながら話し出した
「皆の者、大儀であった。此度は義父道三公の亡き怨みをはらすため、美濃を我が手中に収める事が出来誠にうれしく思う。猿!!」
「はっ!!」
藤吉郎が飛び出して来る
「此度の美濃攻め、良くやった。勝ち鬨の音頭を取れ」
「ははっ!ありがたき幸せ!!」
藤吉郎は皆の方に向き
「それでは皆様、勝ち鬨の準備を!!」
織田家武将は皆刀を鞘から抜く
菊は薙刀を手にした
「では・・・えい!えい!」
「「「「「「「おーーーーーーーーー」」」」」」」」
織田家の勝ち鬨が新しい領主を迎える美濃に響き渡った
妃の鳴らす鈴(きさきのならすスズ) @Rena-T
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