第22話 大江戸市 霞ヶ関 元老安良神部会ビルディング
通る車も疎らな霞ヶ関 厳かな
中央分離帯に寄せ、長い駐車の改造ラシーン内から高層ビルを遠巻きに見つめる一行
階上見上げては
「この高層ビルですか 霞ヶ関見回りが多くて滅多に来ないから詳しくないですけど、このご時世に新築なんて何処に余裕あるんすかね」
窓の外のプレートを見つめる天上
「元老安良神部会、確かにこのビルで正解よ 復興策とはいえこんな立派なの作れるのね」
「厳つい名前ですね、敗戦互助団体なんでしょうか でも一向に人の出入りが無いですね」花彩様子を伺う
天上溜息混じりに
「そうね、戦後の生き証人と語る先輩達、表向きはそれ 裏では衆参合同議員にあれこれ口出すうるさい輩 人の気配も何も一般人には用は無いって事よ」
「うるさいは天上さんの主観ですよね」最上クスリ
天上苛ついては
「そんな訳ないでしょう、ユーロも煙たがってるわ、自ら戦中のレジスタンスと騙って出しゃばるって シンクタンクなら取り潰せたものの根回しが小汚いわね」
花彩凛と
「きちんと贖罪の言葉頂けますかね、きちんと清算をして頂きませんと、おじい様に報告出来ません」
階上吐息
「うわ、やはりこれ、赤穂浪士なんすか、このビル相手で大体人足りないし、それなら最後は切腹じゃないすか あーあ、死ぬ前にもっと搔き込んでおけば良かったですよ」
「何言ってるの、赤穂浪士よりかなり難しいわよ、でも安心しなさい、ギュッツと捩じ込んでみせるから」天上余裕の笑み
「もー、そのギュッツが、今迄の所行の憶測を呼んでるんですよ いいすか安易な暴力は行けませんよ、天上さん ああ、やだやだ」階上深い溜息
「その為の階上に最上よ、一気に悪党の中枢まで行けるわね」天上鼻息も荒く
「冗談じゃない、この大江戸市で機能してないとは言え警察とか全米PKOに根回ししてるんですか 後で大事になって、私、日本追放されたくないですよ、それ無理ですから」言葉が迸る階上
透かさず言い返す天上
「大丈夫、何事も準備万端よ出張ってこないわ それに階上も何言ってるの、ローマから遠く離れているからとは言え、階上も法王様から寵愛されているわよ たまには大仕事受けないと逆に心配されてるわ そう、何時迄下請けばかりするつもりなの、上家衆の名折れよ」
「名折れも何も、上家衆否応なくではなく自然とローマに吸収されましたからね でもね、何かスーッとしないんですよ 今も宗家の草上さんに面目無いとかどうとかでして」ブーたれる階上
「それは言わない事ね、二世代前の第六次インドパキスタン戦争で上家衆も解散せざる得ない状況だったのを、法王様即応部隊なのよ、そこは感謝しないと」思いを巡らす天上
階上物憂げに
「その戦争、きっかけは争奪戦、何で易々と脳移植法に関するブレインアーキテクツ奪取されたんですかね、上家衆束になったと聞きましたよ」
「そこ溝端でしょう、手強い奴よ、何れ片を付けるわ」天上従容と
「あのー第六次インドパキスタン戦争って、国境線問題では無いのですか?そのブレインアーキテクツって何ですか?」花彩思いを巡らす
「花彩さん、その件は聞かないで、未だ禍根があるから何も知らない事でお願いね」天上、頬笑むも眦キツく
花彩気圧される
「あっつ、まあはい」
一同口を噤む
長い沈黙が破られる
「そろそろ、俺が片を付けて来ますよ」最上、刀を片手に車外に出る
「おい最上、一人は無いだろう、警察も全米PKOも大江戸市で機能してないからって、絶対無茶するな いや、私は今からでも逃げようかな」階上思案気に
「階上も逃げない、成田官房長官ともツーカーだから何事も気にしないで、後で報告しておくから」天上余裕の笑み
「それ、今してくださいよ、本当根回ししてるんですか」階上捲し立てる
「ほー、日本って思ったより自由な国なんですね」花彩頬笑んでは拍手
階上目を細める
「それ、自由の使い方かなり違うよ」
敷地内から忽ち滑る様に現れる四輪独立走行の中型セキュリティーマシーンの群集、磨かれた鈍いボディーの色が警告の赤に代わり、認識センサーに赤い点滅が一斉に灯る
「やばい、刀か、皆車出ろ、」最上改造ラシーンに体を隠す
間も無くセキュリティーマシーンの群集から一斉に警報音“ビーービーービーー”
「認識センサーの赤の点滅早くなってますよ、皆さん武器は置きましょう」花彩後部ドアを開け車から飛び出す
「ねえ階上、霞ヶ関も帯刀銃器の携帯可能じゃないの、ここ法改正された日本よね」天上車から飛び出し後部ドアを閉める
「こんな自分勝手な締め付け、有り得ないですよ」階上、助手席を飛び越え車から飛び出す「最上、刀捨てろ」助手席のドアを勢い良く閉める
「一戦交える為に来たんだ、今更捨てられるか」最上、身を隠すも刀を握りしめる
セキュリティーマシーンの群集からの警報が一斉に止む
「ほっつ、助かった」階上安堵
「そうかしら」天上、階上に頬笑む
「えっつ、」階上顔を顰める
尚も磨かれた鈍いボディーの色が警告の赤のセキュリティーマシーンの群集、遂に轟音と共に中型機関砲から発砲、飛び散る薬莢が磨き抜かれた大理石の上を跳ね回る
改造ラシーンに只身を隠す一同
「うわー、マジすか、セミオートじゃなくて、フルオートで打っ放しやがる、しかも鉛って、弾数稼げる電磁銃じゃないかよ、どこまで本気だよ」階上只身を隠す
「恐らく音声も拾われてこれとはね、ますますやる気ね」天上只首を振る
「発砲なんてどこのセキュリティー会社だよ」余裕綽々の最上
「日出丸セキュリティーサービス位ね、発砲出来る三次団体は」天上余裕の化粧直し
「私も髪の毛直さないと」鞄からブラシを取り出し髪を必死にとかす花彩
「その余裕、絶対信じらんね」階上目を見張る
「階上さんもとかしますか、髪の毛浮いてますよ」花彩ブラシを差し出す
「もう分かった、後でね」階上首を振り、花彩の手を押し戻す
「そうですよね、お忙しいですよね」花彩、丹念にブラシを入れる
「しかし、殺気感じないな、セキュリティーマシーンだけか」五感を研ぎ澄ます最上
「距離100m、普通の不審者ぶっつ殺すには十分過ぎる火力だよ、場慣れし過ぎだ最上」戦闘体制の階上、ミリタリーコートを手当たり次第探るも「やっぱりあるわけないか、そもそも拳銃で応戦出来るかつーの」吠える
「そうね、この銃声の数だと、まだまだ全力で来るわね」天上尚も化粧を直しながら
最上辺りを伺う
「あのセキュリティーマシーン、ご丁寧に敷地から出ないのが、腹が立つな」
「もー中型セキュリティーマシーンの割にはガタイが良過ぎる、最上の刀じゃ間に合わないよ」階上切に「いいか最上、絶対正面突破するな、正当防衛主張してこちらに乗り込んで来るからな」
「階上も 何、全部最上にやらせる気なのよ、あなたも頑張るのよ」天上アイラインを引く
階上怒り心頭に
「冗談じゃないですよ、あいつら見た事無いエクセレント級すよ、しかも見ましたかあのガタイ、どう見ても固いでしょう、それにさっきのすばしっこさで打つけられたら吹き飛ばされて死にますって、ねえ、天上さん聞いてます、」
「そこは頭を使いなさいよ」天上コンパクトを畳む
「それ、こっちが言いたいですよ、何で、初っぱなからいきなりノープランなんですか」階上、天上に詰め寄る
「あら、臨機応変って言葉知らないの」天上只頬笑む
「素敵な言葉ですよね、何にでも応用出来ますよ」花彩笑みを絶やさず
「ほらーー」自慢顔の天上
「うううーーー」頭を抱える階上
尚も銃弾の雨霰、次第にニブい音が混じり始める
階上正面に向き直る
「うわー信じられない、この音徹甲弾も混ざり始めてるよ、さすがに二次装甲まで貫通しますって、ってこれ、こいつらどんだけ金持ってるの」
天上窘める様に
「このビルのなりを見れば分かるでしょう」
花彩頬笑んでは
「きっと、なるようになりますよ」
「大体、赴任のアジア地域全般って物騒なんでしょう、その余裕通じるんですか、たくさ」階上深い溜め息
「いいから階上、このレトロ近代風に改造してるんだろ、そこケチるなよ、もっと分厚い装甲にしとけよ」様子を伺う最上
「ふざけるな、これ以上装甲厚くしたら、100kmも出ないよ、どうやってケツまくるんだよ」吠える階上
「もう階上も慌てないの、ユーロから新しい車手配して上げるから、ビビらないの」天上余裕の笑み
「ビビるも何も、」階上嘆息「新車、ミニいや、それより日産のニュージュークもいいけど狭そうだし、いやー何にしよう、もういいですいいです、そこで手を打ちましょう、散々改造ラシーンに注ぎ込んだけど、決めました突っ込ませて自爆モードに入ろう」鞄からリモコン取り出す
「待った!」階上を押さえつける天上最上
最上、階上の顔に近づき
「お前、花彩のブローチのカメラ回ってるんだぞ、そんな非人道的な事出来るか」
「そう、大々的に放送予定よ、絶対駄目よ、許さないから」天上これでもかと階上の顔に近付く
「近いですって、もう」階上、二人を押しのけようにも押されっぱなし
「でも大晦日の番組、CMでもう知らない筈無いんですけどね」花彩、改造ラシーンのサイドの保守点検パネル開いてはモードボタンを何度か押す、【リフトアップモード】表示、車体が上がり透かさず車低へと潜り込む
「ちょっと、勝手に車体上げないで、」階上慌てふためくも「それよりマジすか、いつからカメラ回ってるの、いやこれ放送していいの、駄目でしょう」目を見開く
「プレ録画で最初からよ、兎に角特攻映像放送されたら真似する輩いるから、他の方法考えなさい、いい、」天上、階上に念を押しては袖を何度も引く
改造ラシーンの車低から潜り出て来る花彩
「あのー爆弾なら取り外しましたよ、ガソリンタンクの脇に置くなんて誘爆しますもんね」鼻の頭にはスミ、右手に万能ドライバーを、左手には小柄なC4爆縮を持ち
「早っつ、いや、どうやって解除したのよ、トラップ二つあった筈でしょう、」階上目を剥く
「旧NATO方式ですね、知ってますから全然問題有りませんよ」花彩破顔
「貸せ!」最上、花彩の手からC4爆縮奪い素早く遠投、軌跡の先には中型セキュリティーマシーンの群集、中型セキュリティーマシーンが上空に向け対空射撃連射、太陽光に隠れてはするり潜り抜けC4爆縮着地、勢い良く地面に何度も転がっては群集の中枢まで到達
「よし、」最上、改造ラシーン越しにガッツポーズ
「最上、C4爆縮はこれじゃないと起爆しないよ」階上手元のリモコンを躊躇なく押す
高層ビルのエントランスフロアが大爆発、弾け飛ぶ大理石が辺り一帯に突き刺さる、そして見る見る火の手が伝い燃え上る周辺地域
「ふー、やっちまったな最上」何故か余裕の笑みの階上
「そうじゃない」最上、気を取り直し「ふざけるな階上、自爆装置積んでるマイカーに乗せるな、」階上の頭を鷲掴み
「最上掴むなよ、そこは防犯だって、日本は物騒なんだよ」階上、漸く手を振り払う
「ほう、大理石が二次被害広げましたね」花彩頻りに頷く
「まあいいわ、華麗な花道よ、ふふふ」天上、仰け反り高笑い
「天上さん、まだ体隠して下さい、待機のセキュリティーマシーンが来ます」最上、柄に手を掛ける
「お二人、ノリノリすか」階上吐き捨てる
「これ、戦争ですか」花彩目を見張る
「ああ、これからだ」最上、改造ラシーンから顔を出しては辺りを伺う
高層ビルのエントランスと下層フロアに漸くスプリンクラーが作動、警報が外にも鳴り響く 遠巻きに眺める職と住む場所に溢れた人々の波、間も無く鎮火
息もつかぬ間に、先程の倍の数はあろうかと中型セキュリティーマシーン、磨かれた鈍いボディーが只管赤い点滅しては地下駐車場から躍り出て、整然と敷地内で隊列を整える 認識センサーの赤い点滅が隙間なく示される
様子を伺い立ち上がる階上
「よくまあこれだけ揃えるね」溜息しては呆れ果てる「しかし、あの爆発で頑丈なスプリンクラーっすね、まあ都合いいや、もう一発」鞄をまさぐってはボールを取り出す「よっと、エレクトリッククラッカー」大振りにボール投げる 透かさず中型セキュリティーマシーンが上空に向け対空射撃連射 またも太陽光に隠れ銃弾を潜り抜けたボールが地面に着弾、火花を上げては中型セキュリティーマシーン大群まで転がり続ける 遂に水浸しのエントランスフロア接触、通電、水面に火花が延々弾けと飛び、中型セキュリティーマシーンからもショート、火花、爆煙が上がる、敢え無く全滅
「あら、階上も武器あるなら早く使いなさいよ」天上事も無げに
階上深い溜め息
「ふー、スプリンクラーの噴水が無かったら、せいぜい5体ですよ、逃げる時どうするつもりだったんですか」階上、嘆息「それにしても二度もって、対空射撃プログラム弱え、センサー式手榴弾しか機能しないのかよ」
「セキュリティー会社もいい報酬貰ってるんだろ、本当ザルだな」最上漸く柄から手を離す
「大方、こんな無茶な訪問者少ないんでしょう」天上呆れ果てる
地下三階警備室 モニターに食らいつく警備オートマシーン達
「全滅…本当に表のセキュリティーマシーンが、一体も動かん」
「見とれるな、奴らビルの中に入ったぞ」
「次々突破、ここに来る」
「どうやって鍵を壊してるんだ」
「キーカードでも持ってるのか」
「いやこのビルは、アナログのもっと固い施錠だ」
“ガキン”ドアノブから鈍い音、いきなりドアが開く警備室
無意味に頬笑む階上
「あら、こんにちは、ご機嫌如何すか、ふふ」
たじろぐ警備オートマシーン達の指が直角に折れ曲がると現れる仕込み銃、躊躇なく発砲するも、腕が揺れ明後日の方向に発砲される銃弾が四方八方に跳弾、警備室のモニターと機械から次々火花が飛ぶ
狼狽える警備オートマシーン達
「何が起こった」
「自動照準が外れる分けない」
階上、真顔に
「何って、アンチシールド持っていないエージェントいないっすよね」ミリタリーコートのファスナーの赤く灯ったストラップを持ち上げる
警備室をドアの外から伺う天上
「終った様ね 外の件と合わせて、責任者に言い分聞かないと ねえそこ、この高層ビルなら誰になるかしら」
「回りくどいですよ全く 俺に任せて下さいよ、5人の指の仕込み銃全部叩き折ってやるのに」最上飛び出ては、何時でも待ち受ける仕草
恐れず身構える警備オートマシーン5体、不意に立ち止まり強制ロック
5体の警備オートマシーンからそれぞれ警告案内
「皆様方に警告します ご覧のオートマシーンの有機自立神経が強度の興奮状態 上限値を越えた為 強制スリープモードに入ります」
一斉に崩れ落ちる警備オートマシーン達
階上吐き捨てる様に
「打っ放しておいて使えねえー ビビってちびる警備オートマシーンなんて、職務怠慢じゃないすか」
「ニューラルネットワークのファイアウォール、その機能解除したら、傭兵オートマシーンよ 大体、脳移植法逸脱してこの国が認可する訳ないでしょう」天上、吐息
「えっつ、傭兵、そんなオートマシーンいるんですか、」花彩拳を固める
「花彩さんは知らなく良い事よ」天上振り返りもせず
「ああ、たまに修羅場で見るな」最上、只ウンザリ
「それより、本陣どこだよ、聞きそびれたよ、」階上唸る
花彩鞄からパンフレット差し出す
「ああ、それならここですね、受付に有りましたよ」最上階を示す
「そうね、役員室ね、分かりやすいわね」天上頻りに頷く
「50階まで素直に上がるんすか」階上目を細める
「階段だと、天上さんの足逞しくなるだろう」最上、階上の肩を叩く
「最上、気を使わせるわね」天上頬笑み、凛と踵を返す
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