第23話 元老安良神部会ビルディング 最上階

次々施錠された関門を突破して行く一行 最上階の長い廊下は煌びやかな日本画に照らされる


「外は大騒ぎなのに、中は静かなんですね」見渡す花彩

「老いぼれがいるんだ、そんなもんだろう」最上事も無げに

「おい、少しは私を褒めろよ」階上、最上を見据える

「まあ良くやったよ、ここまではな 階上が物凄く固いエレベーターの施錠破って四回乗り継ぎしたものの、ここに至ってちょろいは頂けないがな」最上、廊下を見渡す

「そうかしら、この趣味でお分かりでしょう、豪邸気取りよ 厳重な外の警備で誰も入れないと踏んでるのよ」天上身振り手振り

「これでもかの元禄文化ですね、ここまできたら、もはや庶民派では無いと言いた気ですよ」花彩、日本画をを見てはうっとりと

「そうだ、天上さんの事だからどうせ、このビル吹っ飛ばすんですよね 一枚くすねようかな これ複製でも捌けるかな」嬉々と額を外そうとする階上

「階上さん、残念ながら全て本物です 筆遣いに躊躇が有りません」花彩淡々と「第三次世界大戦以降、隠し持っている美術品は漏れ無くウィーン古今美術年鑑に随時記載されてますので、くすねたのすぐ発覚しますよ ですけどここにある作品と、元老安良神部会名義って一つも記載されて無かったですね」

「そうなの?ばれちゃうの?」階上慌てて額から手を離す

「花彩も、よく何でも頭に入ってるよ、」最上感嘆

「天才とかではないですよ 読むのが早いので、興味あるものは何回も読み返してるだけですよ」花彩、クスリ

階上、花彩の両肩に手を置いては

「いやいや、天才かつ努力家だよ、花彩は っでさ、組み替えで誰も回ってこないから、どう一緒に働かない」

「おいおい階上物騒だな、天上さんが駄目って言うに決まってるだろ」最上、憮然と

「そう、勧誘なんて駄目よ」並ぶ絵画を丹念に回る天上「それよりこっちよ、これら間違いなく全部本物よ 国税局さえ潜り抜けて、秘匿した袖の下をここに飾るのも大した度胸ね、あとでウィーン鑑査委員会に言っておくわ」深い溜め息ついては「全く知恵が回るわね これで土足で襲撃でもしてみろ、国宝が灰だぞと言わんばかりよ」尾形光琳に見入る

「ノープランもここまで来ると、お手上げですよ、恐るべしですよ、天上さん」最上頬笑む

「ますます、天上さんやばっつ、」怯む階上

「褒められるのは良い事よ 最上も普段からもっと褒めなさい、言ってて照れてるわよ」天上、満面の笑み



最後のドア、役員室前 

苛つく最上

「階上、施錠破壊するのはいいけど、ここに来る迄乱暴すぎるだろう、これなら今からでも、もう一回警備室に行って鍵でも奪ってくるよ」

淡々と階上

「だってさ、天上さん」右手でドアノブを掴んでは感覚を研ぎすます

花彩、天上を見つめては

「でも警備室に、鍵なんて一つも無かったですよ」

「そうね、用心深いったらありゃしないわね」天上溜息をつく

「そうだよ最上、文句はノープランの天上さんに言えよ」階上、ドアノブに捻りを与えると、右手首にエーテルのリングが灯される

「失礼ねプランはあるわよ ここで発表するわね、兎に角ビビらせなさい、そうしないと一生逃げられるわよ」天上、凛と

「定石に呆れ果てました」最上溜息混じりに

「もーそれプランじゃないですよ、後先考えないカチコミがプランと言えるのかな」階上、右手首のエーテルの光りが増す

「皆さん、頼もしいんですね」花彩、何処迄も頬笑む

「それでさ天上さん、このお嬢さんをここまで連れて来て、私の勧誘も厳禁とは、まさかのスカウト候補なんでしょう 本当懲りないね、問題児ばかりで、いや花彩は上品な方かな」階上微笑、ドアから明らかな亀裂音

「問題起こさない子なんて可愛くも無いでしょう、今はスカウトの事忘れなさい 花彩さんは贖罪の為に連れて来たのよ」天上、従容と「それより階上、もっと丁寧に壊しなさい、念動力で壊したのバレるでしょう」階上を窘める

「こう見えてここ本当に固いんですよ、次もまた三重だ、とほほ」階上の右手首のエーテルのリングが大きくなる

「ほー凄い凄い、これが噂に聞くエキスパートさんなんですね」花彩頻りに感心

「階上、見世物屋台の方が儲けるぜ、知恵の輪とか売れよ」最上苦笑

階上連れて苦笑

「出来るか最上、解けない知恵の輪売ったら苦情来るだろう」

「その最上もいい加減辻商売止めなさい、アルバイトは禁止よ」天上うんざり

花彩興奮気味に

「最上さん、それ、やっぱり見たいです、武士の演目シーンは年齢制限でうちのテレビが真っ黒になるんですよ 最上さんのいるローマなら見れますか!」

「うわ、天然だ」階上、右手首のエーテルのリングが循環、ドアからまたも亀裂音

「天上さんも、ローマの広場のは辻商売じゃないですよ、観光サービスの一環ですよ、お布施なんて貰えませんよ」最上不意に抜刀、刀をドアの向こうの何かに突き刺すと、ドアの向こうから爆発音

「ほーさすが武士さんですね、しなり方が華麗です」花彩、頻りに感心

「集中させろ最上、セキュリティーマシーンにビビってるんじゃねよ、」階上の触れたドアノブの変形の度合いが増す

「張りは必要だ」最上、刀を静かに朱鞘に収める

「最上も無茶しない、虎徹持ってるからって、今からはしゃいでどうするの」天上深い溜め息「でも役員室の中にも24時間セキュリティーマシーンって、器が小さくて泣けるわね」

「それより、本当細かい固い、ぐー何これ」階上、短気になっては右手でドアノブを何度も回す「おら、、」

「階上さん、廊下の絵のセンスから行くと江戸元禄の精密鍵と思われます 接合部がガッチリしてるのはカラクリです、意外な所に仕掛けの元が有る筈です、手応えを感じて下さい これが最後のドアですよ頑張って下さいね」花彩ファイティングポーズ

「全く最後のドアって、警備室の全フロア地図を見ただけで頭に入るなんて、大昔のコンピューターみたいよね」階上、右手首のエーテルのリングの輝きが増す

花彩嬉々と

「ひょっとして階上さん、個人で大昔のコンピューター持ってるんですか?市販のコンピューターはトランジスタでとてつもなく大きいと言うのに」

階上、連れて頬笑む

「残念、持ってないよ、そんなお金あったらリンゴ農園の頭金にするよ、大体コンピューターなんて現代人に必要無いでしょう、ましてや皆が渇望してやまない携帯電話なんて何に使うのやら」苛つきも頂点「うお、本当もうどこよ、その仕掛け、」顳顬に青筋「あーーもういいや、時間の無駄、面倒臭い」右手首のエーテルのリングが集約、ドアに伝導すると、ドア全体から“バキーーン”一気に膨張「はい、固いの柔らかいの全部捩じ曲げた、ご対面ね」

目に手を当てる天上

「わわわ、こここそ丁寧にやりなさい、誰か特定されるでしょう」

「あのー天上さん、番組の見せ場上、ここカット出来ないと思いますよ」花彩頻りに頷く

「以後、気を付けまーす」階上既に飽きる



天上毅然と役員室のドアを押し開けると

「ハーイ、元老安良神部会の皆さんごきげんよう、今日来た御用件分かるかしら」


室内は最上の刀に倒れたシェパード型セキュリティーマシーンが飛び散り 壁際のもう一体が目の赤いセンサーを煌煌とさせながら、頻りに吠えては正面迄下がる 

正面の横並びの深いソファーに鎮座する、等身大の精巧な文楽人形かと見紛う煌びやかなかさねのオートマシーン五体、ドア開けた一行に焦点を合わせる


「すげえ趣味、」階上愕然と

「これはこれは役員の皆さん、始めまして松本花彩と申します これから第三次世界大戦の贖罪の時間ですよ、一日も早く真人間になりましょうね」花彩凛と言い放つ

「花彩もさ、全く真人間候補が、玄関であんなに機関銃打っ放すかよ ふっつそうだよ、あの時点では敷地に立ち入って無いから改造ラシーンの請求書回すぞ、コラッつ、」階上怒号省みず

「階上、そこの真人間候補は例外無しだ、必ず性根入れ替えて貰う」最上、正面をキリと見据えたまま

「気取るな、最上」階上、深い溜め息

「まあ階上も最上もそこまで、前に進ませてね」天上顔を凛と改める「さて元老安良神部会の皆さん、理由は追々として、贖罪した上で今日を以て解散して頂くわよ」

正面の文楽人形オートマシーン達の口が開く

「その姿、確か天上 ゴロツキもローマの連中か」 

「我々は国内の貴族院の奴らでさえもお目通りもしないのに、呑気な訪問と来たものだ」

「話は聞こう、ローマ参画政府は疎かに出来ん」

「いや、あのローマ参画政府が表立って手荒い真似する訳など無い、何の戯れだ」

「座興も度が過ぎている、気に入らん」

「帰れ天上、日本を捨てた奴など気に入らん」

文楽人形オートマシーン達、表情変わらず声に合わせて器用に口が動いて行く

花彩深い溜め息

「天上さん、この良く出来た文楽人形の様なオートマシーンの方々がお相手なんですか、器がとても小さくてがっかりですよ」

苦笑が漏れる文楽人形オートマシーン達表情変えず、淡々と

「黙れ小うるさいガキが」

「この伝統芸能も分からんとは、嘆かわしい」

「これで日本の芸能が廃れるのも分かっただろう」

天上遮る様に

「そこにいる正に死に損ない、人間を捨てた文楽人形の紛い物さん達、脳死してないからって、恐るべき延命するものね 花彩さんが対峙するまでも無いわよ」手で花彩を差し止める仕草

「いいえ下がれません、この中に位打麝広さんいらっしゃいますか 私は松本文也の孫の松本花彩と申します 位打さんがしたためたおじい様のお手紙の中に、こう書かれてましたね【この位打、身命を賭してでも御家族を探し出す】 探しに来てくれませんから、態々お会いしに来ましたよ」花彩、微笑

透かさず最上

「で、どいつなんだ位打って 嘘言っても、天上さんが直接ログ拾うから無理だぞ」

「最上もネタばらしが早いわね」天上窘めては「位打さん、あなたに用があるから名乗りでなさい」

正面から右端のソファーに深く凭れる文楽人形オートマシーンの口が開く

「ここで嘘などつけまい、隠れはせん、私です、位打と名乗っていた倉内です 松本さんとやら、その手紙は何処にあるかね」シェパード型セキュリティーマシーンを得意気に撫でながら

「はい、日記と共にサンクトペテルブルク公国に提出しました」花彩毅然と

「小娘の割には仕事が出来る」位打文楽人形オートマシーンがシェパード型セキュリティーマシーンの背中を叩くと

中央に進むシェパード型セキュリティーマシーン、目の点滅が早くなり立ち止まる、仕込みが発動、体の八方から一斉に飛び出すボーガンの矢

短距離から真っすぐボーガンの矢が天上らを射抜こうと射出するも、透かさず最上が割って入り、見えない抜刀、纏めて8本全ての矢を叩き折る

「最上こういうのは得意だな、さっさと始末しておけよ」階上一瞥もせず言い放つ

「だから、壁越しに一体破壊したろ やはり生体積んでないと見て安心したよ、こいつらは隠し芸がすぎる」最上一気に間合いに飛び込みシェパード型セキュリティーマシーンを真っ二つ、倒れる瞬間より早く元の位置に戻る 最上の足取りも美しく、神々しい刀の輝きが朱鞘に収まる

文楽人形オートマシーンの顔色は相も変わらず

「可愛がっていたのにな」

「またリースすればいい」

「また飼ってもこれでは、だから虎型が良いと言ったろ」

「訪問者が驚くだろ」

「そんな器など、ここに呼びはせん」

花彩凛と

「位打さん、これではっきりしましたね、やはり後ろめたいのですね」位打文楽人形オートマシーンをキリと見据える「おじい様を言葉巧みに会社を辞めさせ、真綿で首を締める様な仕事を斡旋し、徐々に最前線へ送り出した罪恐るべきものです 幾度もの審議を経て現在復興省自衛部でPKF派遣の徴兵有りますけど、戦中当時の日本は徴兵は禁止されてましたよね そんな方法があったのですね」

天上偉丈夫に 

「位打さん、全く無様な展開ね 松本文也さんの日記と手紙からの証言を熟慮の上、デン・ハーグ統合軍事裁判所から位打麝広さんの強制徴兵罪として戦犯訴状で貰ったわ、どうかしらこれ」訴状を鞄から恭しく取り出す「今日であなたのオートマシーンの電源、ニューラルネットワークサービス経由で切れるから、ねえいいわね」

訴状のからくり紋様を見るなり一斉に文楽人形オートマシーン達の瞳が赤く輝き、同時に警告案内

「ニューラルネットワークインターフェース強制起動、デン・ハーグ統合軍事裁判所への供述を聴取します」

位打文楽人形オートマシーンが優雅な仕草を見せる

「ふっつ恐れるに足りぬ、今更第三次世界大戦の戦犯など、司法取引でどうにでも逃れられる、世の繋がりを知らないのか」

続く文楽人形オートマシーン達

「そう、デン・ハーグ統合軍事裁判所は幾らでも言い含められる、何せ我らの方が長く生きている、正しく生き証人だよ」

「小賢しい、やはりニューラルネットワークのファイアウォールは外すべきだ、機密情報が漏れる」

「うっかりな事を喋るな、全米から問い合わせが来るぞ」

「もう日本を捨てた天上を相手にするな、それより戦後の100年計画を詰めてないぞ」

「さて、食料問題はどうしたものか」

「聞かれるとまずい、後にしよう」

天上凛と見据えたまま

「秘密会議も程々よ でも、おおよそ察しは付くわね 適正のある人間を見つけて、昔の中国みたいに無理矢理敵国の人を搔っ攫った様にオートマシーン化するつもりなんでしょう あら、これはあなた達が戦後から今も尚隠したい事よね」花彩に不意に視線を送る

「是非、続きを聞きたいですね」口を真一文字に結ぶ花彩

文楽人形オートマシーン達が忙しなく動く

「無作為に搔っ攫うなんて、そんな戦中の中国みたいな非効率な事はせん」

「その犠牲者たるも、戦争で嘆く若者に良かれと思って、進むべき方向を教えて適材適所の配置したまでだ 我々の義務だよ」

「大体あの御時世で、無鉄砲な若者の責任まで持てるかね、面倒な、正に適材適所だよ」

「それに首を取られるなど、戦国時代なら末代迄の恥だ」

「天上の口車に乗るな、口が軽いぞ」

「確かにそうかもしれんが、こいつらは世の中の事を事細かに考えておらん、指導もたまには良かろう」

「その中国 今の日中友好関係に、戦中のオートマシーンへの人攫い“人狩り”は今だ高い障壁だ、呉々も口を噤む事だ そう中国を怒らせて入管が減っては国の歳入がままならん」

「歳入か、日本の人口をどう増やしたらいいものか」

「オートマシーン化で寿命を伸ばす以外何がある」

「結論としてそうなるか 皮肉なものだ、原爆と並ぶ悲劇、オートマシーンへの人攫い“人狩り”も変遷を経て立法化されたのだから そう、いいだろう止む得ん 人口が一向に増えないのはでは、国家が、世界が、成り立たん」

「その通り、止む得ん 現在のオートマシーン人口を最高富裕層において0.01%まで引き上げる 富を永遠に回さなくては吹き溜まりが出来ては消滅する、富が紙くずになっては復興など遥か先だ、今は最高富裕層を手厚く保護すべき時だ」

「世界を見渡すと、捕縛オートマシーンが今も尚4万5千人、率先オートマシーンが今や9万人、そこに最高富裕層からの25万人が合流とは、どこかに街を用意すべきか」

「まずは試しに原爆投下から復興したグアムが良かろう 成功したら鹿児島県諸島だ、九州制圧以来恐れて入植しない鹿児島にはお似合いだ ふむ豪邸を作る為の人足がまた生まれるな これぞ戦後復興である」 

天上嘆息

「長い話の割に、全く反省の色が見えないわね、位打さんも何か言ったらどうなの」

位打文楽人形オートマシーンが重い口を開く

「天上さん、お聞きの通り誰彼問わずを無理矢理オートマシーンなどにしない 但し延命をネタに巧みに勧誘を展開するまでです、この世の楽園にご招待です いや、あの世の楽園へのチケットも沢山用意したが、果たして皆辿り着けたかな いやきっと着けた事でしょう、この私がチケットを用意したのですから」


一斉にケタケタ笑う文楽人形オートマシーン達


天上、拳に力が入る

「その勧誘の手口知ってるわよ、松本さんの日記をしっかり読んだもの そう、その昔にやったやり口そのままでしょう、えげつなく追い込んで戦地に送り込む、悪魔も驚きの所行ね」

位打文楽人形オートマシーンがまず笑いを止めると、横並びに続く文楽人形オートマシーン達

「天上さんもよく言う、私の行いが非道かね、悪魔か天使かなど比較対象は他に無いのかね」

「無いわね、その行い悪魔そのものよ」天上慄然と

果敢に前に進み出る花彩

「位打さん、松本文也の名を忘れていませんよね」

「どうかな、物忘れが激しい時があってね、実はその位打って言うのも朧げでしてね」位打文楽人形オートマシーンがさてもと首を傾げる

「位打さん、滅多に聞かない姓ですよね、朝敵みたいな偽名に凝らない方が良かったですよ」花彩見据えたまま

「何か証拠はあるのですか」位打文楽人形オートマシーン両手を差し出す

花彩淀みなく

「シンガポールから日本に入国後、シャチホコバレーの最下層アーカイブまで辿り着いて一件見つけました 日本シネマカメラのホームページの写真付き社員インタビュー、総務部安全衛生対策室シニアアドバイザー:位打麝広さん”落第点の社員は存在しません” 虚飾に満ちあふれた言葉に歓喜する人でもいるとお思いですか 得意気に名乗ったのが仇になりましたね」鞄から写真付き記事のプリントを翳す「この記事、今更読まれるまでも有りませんよね」

位打文楽人形オートマシーン、さめざめと

「おお、それは私の名刺代わりの渾身の記事なのですよ、否定されては非常に心外ですね そう、私に関わった人達は漏れ無く同意見だと、無様に勝ち誇ってましたよ、はははー」豪快に顎が揺れる

「嘘より虚栄心が勝つなんて、大概ね、本当話が進んで仕様がないわ」天上溜息

文楽人形オートマシーン達が続く

「だからシャチホコバレーは潰せと言ったんだ、新村のジジイめ」

「言うな、日本で旧インターネットサーバーが唯一生きてる都市だ あれが無ければミレニアム期の人々の嗜好分析が出来ん」

「またバブルの懐かしい話か、痛快そのものだ」

「そんなの、また起こす迄だ」

ケタケタ笑い出す文楽人形オートマシーン

花彩重なったプリントからもう一枚翳す

「位打さん、そしてもう一枚、おじい様のオートマシーンから今際の際にプリントアウトされた画像とサムネイルです これも位打さんです そしておじい様の日記の甘く切なすぎる罠のくだり 3つ証拠は完全に一致しました」

尚もケタケタ笑い出す文楽人形オートマシーン

「これはいい痛快だ、」

「倉内も詰んだか、」

「最高のストーリーだよ、」

「無様だよ倉内、しかし痛快だ、」

一人、顎が不器用に何度も揺れる位打文楽人形オートマシーン

「証拠も何も、いまや戦後だよ、すでに60年だよ、時効だよ、全てを水に流してこその新たな戦後の秩序だよ、若者のくせに情けない、後ろを振り返らず前を向いて歩きなさい 今日はここまでです はははー、残念だったね」顎が豪快に揺れる


階上目を見開き

「薄気味悪い ねえ天上さん、こいつらの電源ケーブル弾き飛ばしていいかな、扱い面倒だよ」右手を翳す

「いや、纏めて首を刎ねる、俺の役目だ」最上、柄に手を伸ばす

押し止めるかの様に手を伸ばす花彩

「いいえ皆さん、位打さん自らの贖罪の言葉を聞かない事には、煉獄で迷います それで勢い余ってまた現世に這い上がってきたらどうされます、また成敗しますか」

位打文楽人形オートマシーン、カタカタと不気味に口が動く

「知れた事を言うお嬢さんです、誰に似てるか知りませんが生意気な口は達者の様ですね、松本花彩さん だが私が誰に贖罪しろと、私にかね、私は許されたのだからここにいます、最初の東京湾原爆で爆風熱線に晒されても尚です、これを奇跡と言わず何と言います、戦争で失ったものも多いが、得た技術もあります そう私もこの体となって齢121です、それもこれもこの国に粉骨砕身、一角の肉片になろうとも身を捧げたからです その成果が日本を死の瀬戸際から回避させ、彷徨える日本人に糧を与え生き延びさせています、これは突出した業績ですよ花彩さん そうです砂漠に沈んだ中央アジアを見なさい、モンゴル・カザフスタン・ウズベキスタン等々が地図に載っていますか、いやもはやそんな国は歴史の中に埋もれました、その民は何処にいます、成す術も無く流浪の民となり地球に存在しているだけだ、全く周辺国には頭が痛い話だ、だがそれだけではない、砂漠化が進み今も尚考え倦ね青色吐息の中国も遅かれ早かれ何れ国が消えます、流浪の民と同様に食を求めてはまた懲りもせず南下してきますよ、だが私には抜かりは有りません中国と共同歩調を取り、二度と愚かな戦争などさせん、これはお約束しましょう どうですか、こんな偉業を重ねに重ねた私に、何の私怨を打つけるのです、何の仕打ちをするのです、それともまさか亡き者にしようとしますか、いや私はまだまだ死ねないのです、脳移植法の理論から導き出された400才いっぱいの寿命を何としても全うしてみせますよ そしてこの日本をもう一度繁栄させます、その先に待つは世界繁栄です、総じて恒久的な輝かしい世界平和が私達を待っています、素晴らしい未来が切り開けるのですよ そう、この未来に繋がる貴重な時間の中では君達の足掻きなど灰燼にもなりません しかしどうでしょう 君達が必死にもがいている日々今日この時間を私に預けてくれないものでしょうか、きっと輝かしい未来に名を連ねる事は間違いありません 敢えて言いましょう、そして導きましょう、私が見込んだ敬虔な者達よ、さあ跪き謝罪をするがよい、ここまでの戯れを許して上げます」

階上呆れ果てる

「まじかよ400才、ここまで上から目線なんて驚愕だよ、無駄に長生きしたくねえ」

「悪魔の囁きって、こんな感じなのかよ」最上頻りに首を振る

「ふん 悪魔だって、ここまでえげつない契約持ちかけないわよ」吐き捨てる天上

花彩尚も見据え、鋭くなる眼光

「位打さん、美辞麗句の常套手段お見事です、これなら丸め込まれ命を投げ出しかねませんね ですがあなたの時代はもう終りです、人々を権力・お金・糧・見せかけの自由で縛る時代はもうとっくに終っています お分かりになりませんか、第三次世界大戦で全てを失い、傷つき、希望さえ失った人々は、それでも前を向き歩いています、あなた達の指示も無いのにです まだ始まりの鐘が世界中に鳴り響いていませんが、私達が何度も鳴らします、何度もです、必ず世界中に轟かせてみせます、」声が一際澄み渡る

「やべ、本物だ」階上不意に潤む

「若いのに背負わせたな」最上、ポツリと

「いいえ、これがあるべき姿よ、これでいいのよ」天上、十字を丹念に切る

「残念ながら、私にはその鐘の音が雑音にしか聞こえないでしょう どうですか二の句を継げる語彙も、その若さではもはや有りませんよね」ケタケタ笑い出す位打文楽人形オートマシーン、続く笑い転げる上座に座る文楽人形オートマシーン達


天上、最上、階上、そして花彩の右手のエーテルのリングが怒りで一気に膨らむ


怒りに震える天上

「最上、階上、私が行くわ、冒涜は身を持って購って貰うわ」上座に進む

花彩、涙ながらに言い放つ

「位打さん、何と言われようと、私達はそれでも鐘は鳴らします、二度とあなた達に屈服しません、」


上座の位打に躍り出る天上

「位打さん、私がしでかす前に言うわ、懺悔しなさい、悔い改めなさい、許しを乞いなさい、虚飾に満ちた言葉はもう結構よ、さあ」

位打文楽人形オートマシーン、何度も首を振る

「ふん天上め、言葉などで贖罪を出来ると言うのですか、理想家はこれだから困る それよりまずは態度です、姿勢です、そして施しですよ 私の行いで誰かが傷ついたかもしれないが、長い目でみたら、何れも善行です、プラスマイナスゼロでは無い、確かな善行です」

「もういいわ、あなたに善の事を言わせない、この先も善たる何かを知る由も無いでしょうけど」天上の右手首のエーテルのリングが煌煌と輝く

「だけど、せめて一つ懺悔してもらうわ、さあ位打さん思い出して、松本文也を戦地に送った思いの丈をここで言いなさい」

「ふん、忘れたわ、はははー」位打文楽人形オートマシーンの嘲笑止まらず

「あらそう」天上、位打文楽人形オートマシーンの肩に触れると右手首にエーテルのリングが増々輝く「さあ懺悔よ、思い出すのよ」

途端に位打文楽人形オートマシーン激しい身震い、口がカタカタ動き出す

「いや、あの、それは、言えん言えん言えん、絶対言えん、いや言う、話さねばならない、言わずにおれない」

位打文楽人形オートマシーンへ一斉に直角に振り向く文楽人形オートマシーン達

「どうした倉内、故障か」

「睡眠時間が12時間では回復が短いか」

「活性剤を入れろ」

「違う、これはエキスパートの技か何かだ」

天上、位打文楽人形オートマシーンの髷を掴み上げては

「さあ、話しなさい!」一喝、右手首のエーテルのリングが一気に膨張

位打文楽人形オートマシーンの体中の排気口から凄まじい蒸気が排出

「ああ、ああ、ああ、松本文也君、お国の為に死んでくれ、君の血と肉はこの日本に脈々と流れ、永遠に生き続けるだろう、そして空の上から家族を見守るのだ!全ては日本の国益、私の栄誉の為だ!はははは」身震いが止まらず「よくぞ言った、よくぞ言った、これで幾千万もの人を戦地に送ってやった、はっつはっつはー、これぞ日本の国益、まさに日本の礎、違う! もう体が沸騰する、コントロール出来ん いやまだまだ購いきれない、まだまだ言う、言う、一人でも二人でもより多くの人間を戦地に送り込まねならない、日本は二度と負けてはならないのです、日本が負けては世界が大混乱する、そうです見事戦争を勝ち抜いた、この国の地形と死をも恐れない方々で不利な持久戦を勝ち取ったのです、我ながら見事、全ては数多くの英霊のお導きです、いやもう限界だ、止めろ、止めてくれ、天上、、」位打文楽人形オートマシーンの疑似涙が噴出

「おじい様、残らず恨みは晴らします」花彩一歩前へ踏み出す「天上さん、私に位打さんのオートマシーンのうなじにある主電源を切らせて下さい」

天上、位打文楽人形オートマシーンの髷を形振り構わず振り回しては

「駄目よ花彩さん、それは人殺しよ、こっちに来ないで」

「まだ何をするのか、まだ何をするのか、怖い怖い、助けてくれ、これで気が済んだろ、天上、、、もう体が熱い、熱い!いや、まだまだ言って無い事がある、言い足りん!」位打文楽人形オートマシーン激しい身震い止まらず、尚も噴出する蒸気、そして止まらぬ疑似涙

「やだやだ、オートマシーンの末期状態だよ、思った事が全部口に出てる」目を背ける階上

「そうか階上は見るの初めてか、聖職者って凄いよな」最上毅然と

「えっつ、これなの!マジ!やっぱり関わり合いたくないよー」必死に頭を隠す階上

「それ隠す場所違うぞ、人間なら、全ての穴から漏らすからな」視線が遠くなる最上

「恐怖だ、」気が遠くなる階上

「最上、階上、絶対に手は出さないでね」天上向き直り「位打さん、あなたがしでかした罪状全部言わせたいけど、それはうんざりよ、煉獄でしっかり悔い改めなさい さあ、あなたに出来る事は何か言いなさい!」右手首のエーテルのリングが唸りを発する

いよいよ位打文楽人形オートマシーンの蒸気も熱風に変わり、目から火花が散り始め、只呻く

「死にたく無い、死にたく無い、でも死を持って償うしかない、そう長く生き過ぎた、いやもう十分です、十分過ぎた、死なせてください、」

「全く火花なんて危ないわね」天上、位打文楽人形オートマシーンの髷から漸く手を離す

位打文楽人形オートマシーンから警告案内

「皆様方に通告します 脳移植法確認事項第6条 自らの死亡要望がなされ 社会的遠因に問題が発生しない場合 このオートマシーンの全ての電源が切られます 尚デン・ハーグ統合軍事裁判所からの位打麝広さんの強制徴兵罪も適用 “了承” 頭以外全関節固定 あと15秒です 14秒、13秒、12秒…」

「死ぬ、、、」位打文楽人形オートマシーンが頭以外全関節固定されるも顎だけが激しく上下に揺れ、目からは周囲に飛び散る火花、そしてついに火が噴き出す 

天上、位打文楽人形オートマシーンを見据えたまま

「今際の際よ、何か言いなさい」


位打のあの日の記憶 東京湾原爆の爆風熱線を日本シネマカメラのビルで浴びた記憶 舞い上がる紙が炎の輪を築き上げる、正に煉獄の入り口 走馬灯は終る事無く延々それだけを駆け巡る、全ての思い出が無かったかの様に


「レンゴク…」只恐怖する位打文楽人形オートマシーン 顎の激しい動きに耐え切れず外れ崩れ落ちては、顔の穴という穴から火が噴き出す

尚も位打文楽人形オートマシーンから警告案内

「…1秒 0秒 臨終です」火も噴き出し終え、位打文楽人形オートマシーンの胸のオシレーターが一直線になる

「そこから這い上がって来る事ね、アーメン」天上、十字を切る

花彩最上階上も続き

「アーメン」十字を切る

疑似涙が止まらない残った四体の文楽人形オートマシーン達

「あわわわわ、」

「これが死と言うものなのか」

「来るな、私に来るな、天上」

「悪魔なのか、」

見据える天上

「だから、」深い溜め息「安心しなさい、悪魔を見た事あるけど、まるで違うわよ」踵を返す

「おおおおーー」嗚咽する残った文楽人形オートマシーン達


「天上さん、ありがとうございます」花彩、腰を直角に折ってはお辞儀

「しっかり聞いたでしょう、ただの寿命よ、さあ帰りましょう」天上、清々しく頬笑む

「いやいやいや、凄い能力、チョーやばい、早く帰って今度こそ懺悔しないと」最上の背に隠れる

「階上、絶対言うと思ったよ」最上、安堵の溜息

「もう、ほら、終ったから帰るわよ」皆の背を押す

「きゃー触った、」泣き喚く階上

「階上あなた、一体何したのよ」苦笑する天上

「でも、電磁カッターが飛んで来なくて良かったですね」花彩、破顔も


時間が止まる役員室 残った文楽人形オートマシーンが一斉に動きを止める


「自称お偉いさん 次、絶対無いからな」最上、指を差し薮睨み

「花彩さんも、あんな短い時間で警備室のマニュアル全部読んだのね」天上嘆息

「まじですかー、こっちもそっちも手強そう」階上、花彩と天上を視線で行ったり来たり

「最上さん、壁の電磁カッター排出口壊さなくて良いのですか、ああ床も有りますかね」花彩ふわりと

「その気配か、それ位弾き返すけどな」溜息「もういいよ、器物破損になるし」最上事も無げに

「ちょっと待て!器物破損に殆どに私絡んでるだろ、ふざけるなよ、」階上、最上に詰め寄る

「大丈夫、正当防衛、いや正義ね、証拠映像もあるし、幾らでも調書取るわよ、暇そうな階上が」階上にウインク

「無理無理、説明しきれない、暫く実家の青森で身を隠します」頭を抱える階上

最上首を捻る

「階上、映像だけじゃなく音声も残ってるからな、実家に殺到するぞ」

「がーーん」目を覆う「だよね、そうだよね、ここカットで、絶対カットです」花彩のブローチ型カメラに何度も懇願

天上振り返り

「ねえ聞いたかしら、イカレタお人形さん達 全て録画したわよ、あなた達の嫌いな民意が近いうち審判を下すわね」皆の背を忙しく押す

尚も微動だにしない上座の文楽人形オートマシーン達

花彩笑みが溢れる

「皆さん頼もしいですね 天上さん、最上さん、階上さん、ありがとうございました」繰り返し一礼



事が終り沈黙する役員室 ソファーに目深に座る放心状態の顎が緩みっ放しの文楽人形オートマシーン達

「あいつらは何者だ」

「エキスパートの名簿は、アジアに公表されていない」

「ユーロの思惑は計りかねるな」

「邪魔な連中だ」

「特にローマの奴らは計り知れん、何か仕置きは出来ないものか」

「ゴロツキを雇うのは品性が落ちるぞ」

「もう止めておけ、余計な生き恥晒すぞ」

「それより、倉内の分の一人空きが出来た、招集しないと」

「100人待ちか、それが優先事項だ 早めに下の階のドナーのスリープ解除をしなければ」

「使えるドナーはいるか」

「今度は、恨みを買っていないドナーだ」

「そんな、頭が悪いドナーはおらんよ」

「しかし厄介なのが天上の捨て台詞だ、録画は厄介だぞ」

「“人狩り”は所詮都市伝説だよ」

「国営放送・民間放送6社・各報道・パラレルインターネットには、各倫理委員会で握り潰す、気にするな」

「ん、あの娘、ひょっとして『あなたの向こうで』で見た娘か、さっきのがクライマックスなのか」

「テレビなど俗物だな、何れにしても必ず握り潰す」

「それと国会対策には余念が無い、下衆な衆参合同議員にも鼻薬は利かせる」

「お飾りの首相と官房長官が少々難だな、女共は情に弱い」

「お飾りなら替えるまでだ」

「問題は海外か」

「海外が今更なんだ、ここ迄日本を見放しおいて、また無視だろ」

「やれやれ、私達がいないと日本はどうなるのだ」

「それこそ、どこかの衛星国に成り下がる」

「ふん、戦中戦後で嵩んだ借金1200兆円の日本をどこが面倒を見る」

「戦前に築き上げ、日本中の会社から絞り上げた内部留保800兆円を、あの戦争で使い切るとは愚かな事だ」

「戦争とはそんなものだ、改めて空しいものだ」

「命の重さでは無く、金勘定の方だろ」

「それは口に出すな、憚る」

「その借金だが、幾らでも日本は復活は出来る 生きている口座と休眠口座を合わせた、個人預金の2000兆円がまだある、難癖着けて徴集すれば良い」

「日本復興も人間がいればこそだよ、今は身の丈に合わせて生活すればいい」

溜息混じりに、沈黙する文楽人形オートマシーン達


一斉にビルが停電する

「なんだ、(計画停電が早まりました 蓄電池は節約モードでも3時間分しかありません 尚計画停電の再開の見込みは有りません) 全日本電力に早く連絡しろ、(電話が繋がりません 着信拒否です) ええい、奴らに幾ら便宜を図ってやってる」

「どこの横車だ(ただの計画停電です) このタイミングで計画停電などある筈無いだろう」

「やれやれ、死ぬのか」

「運が良ければ生体脳をサルベージ出来る」

「誰が助けに来るというのだ」

「今の世にヒーローがいるとでも」

「確かに、先程見放されたな」

「死ぬもまた良しか」

「今迄の議事録は女真じょしん事務会にも送ってくれ(元老安良神部会において中国は未だ交戦国扱いです お間違いでは) いやいい」

「おいおい、女真事務会とは穏やかじゃないな」

「敵に塩を送るのか」

「中国も復興しているのだ、手助けをしなくては」

「それでも、それ相応の見返りは求める」

「世界中に散らばった中国人程、扱いづらいのは無いぞ」

「そこは挙党一致だ、ローマはやはり手強い、紳士を嘗めると痛い目に合うと言う事を教えてやれ、(緊急回線使用出来ます 送信します 送信完了 これ以上は節約モードに入り各サービスが止まります) 若僧共見てろ、どうしても勝てない上がいる事を教えてやる」

「最近はどこもかしこも若僧が闊歩する、我々に悪役を押し付けると言う事か」

「計画停電はしてやられたな」

「せめて、側近に安心出来る人間を置くべきだったよ 助けも呼べん」

「オートマシーンが苦痛じゃないからと、気持ちが若ぶってるからだ」

「そうオートマシーンの筐体はまるで軽い、肉体全ての傷が嘘の様だからな」

「いや、これでいい、側近に裏切られて主電源切られたら堪ったものじゃない」

「そう、私達の幕を降ろすには潔いよ」

節約モードに入り、動きが増々鈍くなる文楽人形オートマシーン



長らく沈黙する元老安良神部会ビルディング、カラスの大群が街を覆ってはビルの高みを飛んで行く、カラスの大群の大音声


不意に役員室の沈黙が破れる

文楽人形オートマシーン達堪え切れず

「ええい、うるさい、死ぬ前の静寂を与えろ、」

「何故、せめて強制スリープモードに入らんか、生殺しか、」

「あの訴状見てからだ、ニューラルネットワークのファイアウォールが働かん、」

「いやだ、」

「こんな恐怖あるのか、」

「せめて気絶させろ」

「余りにも非人道的な処置、断固抗議する!(未だデン・ハーグ統合軍事裁判所への供述聴取中です 抗議は受け付けません)」

「やはり、まかりならん、」

「そう、我々に死などない、スリープモードを多用すれば500年、1000年は生きられる」

「そうだ、この人類が果てる迄見届けてやる義務がある」

「死とはなんだ、我々はどの生命が持つ恐怖に打ち勝ったのだ、もはや超人なんだよ」

「もっと生きられるのだよ我らは、どいつもこいつも忌々しい、若僧共ただでは済ません、」

「これだから、若僧は好かん!」

「えーい、我慢出来ん!(節約モード中に付き動けません 頭以外全関節固定)」立とうとするも全関節固定され動けず、頭だけが微かに揺れる

「この恐怖、何なのだ、沈黙はこんなに長いのか」

「冗談ではない!」

「嫌だ!」

「いやじゃ!」

「死にたく無い!」

「せめて死ぬ前に、今迄の楽しい記憶を戻してくれ、(節約モード中の情報共有は出来ません) いいから楽しい記憶をくれ!(各サービスは停止中です)」

「鮮明な記憶が欲しいのだ、頼む、(各サービスは停止中です)」

「これが老いなのか、記憶があまりにも曖昧過ぎる、」

疑似涙が飛び散り、顎が何度もカタカタと揺れる、慌てふためく文楽人形オートマシーン達 時既に遅し


全ての文楽人形オートマシーンから同時に警告案内が木霊する

「皆様方に通告します 蓄電池残量無し 節約モード終了まであと僅か 生前死亡届申請提出 3秒、2秒、1秒、0秒 臨終です」

ガクン、時が止まったかの様に凝り固まる文楽人形オートマシーン群

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