第4話 加藤恵と決め台詞
みんなで机を囲んで考え合う。また英梨々が何かを思いついたようだった。
「考えたんだけど、恵がみんなに認められるヒロインになれればいいのよね」
倫也の目的はギャルゲーを作ることだが、確かにそもそもの目的は恵をみんなに認められるメインヒロインにすることだった。
倫也は訊ねる。
「何か考えがあるのか?」
「だったら、ゲームを作る必要はないんじゃない?」
英梨々が言ったのはそんな身もふたも無い意見だった。
「何をおっしゃるやら、このえりりんさんは」
「考えがあるなら聞きましょうか」
「簡単なことよ。リアルで認められさえすれば、そもそもゲームに頼る必要なんてミジンコほども無いのよ」
英梨々は胸を張って言うが、倫也と詩羽はミジンコほども賛同しなかった。
「確かにそれが出来れば簡単だけどさ」
「無理ね。それは倫理君をリア充にするのと同じぐらい不可能なことよ」
「わたしってそんなに酷いのかな……」
恵はちょっと落ち込んでいるようだ。
そんな彼女をよそに英梨々の提案は続く。
「そこであたしが提案するのは決め台詞よ」
「決め台詞?」
「どんなに薄いキャラでも決め台詞があれば、それはキャラの強い個性となって輝くのよ!」
英梨々はそれを強く提案する。詩羽は静かにうなづいた。
「確かに『ひゃん』とか『消し炭にするわよ』とか何か決め台詞があれば、物語は忘れられても語り伝えられたりはするわね」
「最近だと『思い……だした!』とかですか」
「窓ガラス割れてないかとかでもいいわね」
「それでわたしは何を思い出せばいいのかな」
「そうね……」
英梨々は少し考え、メモ帳を恵に差し出した。
「ここにアニメの決め台詞を書いたメモ帳があるからこれを参考にしなさいよ」
「うん、するね」
恵は受け取って、それを静かにめくり始めた。
倫也達は彼女が選ぶのを静かに見守った。
やがて決まったようだ。
「あ、これ可愛いかも」
そんな控えめな声を呟いていた。
可愛いというのが意外だったが、確かに加藤ならかっこいい言葉より可愛い決め台詞の方が似合う気がする。
倫也は乗り気になって促した。
「さあ、その決め台詞で加藤の存在をアピールするんだ!」
「ちょっと、あたしが提案したんだから倫也は引っ込んでなさいよ」
「静かにしなさい。加藤さんが決め台詞を言えないでしょう」
詩羽に言われて二人は黙った。
みんなに見つめられて、恵は少し緊張の面持ちだった。
「じゃあ、言うね」
注目を集めながら、恵は静かに息を吸い込んだ。
そして、自分の選んだ可愛い決め台詞を言った。
「あっかり~ん」
「何でそれを選んだーーーーー!!」
倫也は思わず傍にいた英梨々にチョップで突っ込みを入れてしまっていた。
傍に英梨々がいてくれて助かった。危うく加藤に突っ込みのチョップを入れてしまうところだった。
当の英梨々が文句を言ってツインテールを振ってぶつけてくるが、今の倫也はそんなことを気にしている場合では無かった。
「加藤の存在が消えちゃうよー! 輪郭線の点線だけの存在になっちゃうよー!」
「そんなに酷いんだ」
恵は思わず苦笑いしている。詩羽の態度は冷静だった。
「これはそんな言葉を混ぜておいた澤村さんのミスね」
「だってそれを選ぶなんて思わないじゃない。インパクトを狙うなら『俺は怒ったぞ! フリーザ!!』あたりを選べばよかったのに」
「そうだよ! 『俺は怒ったぞ! フリーザ!!』でいいじゃないか」
それなら穏やかな心を持った地味な生まれの加藤でも伝説のスーパー加藤に目覚めたかもしれないのに。
その意見を加藤恵はやんわりと断った。
「わたし別に怒ってないし、可愛かったからだって言わなかったかな。みんな仲良くするのが一番だと思うよ」
冴えない彼女は相変わらずのほほんとして、実に控えめな意見を言ってくれる。
恵をリアルで目立たせるのは難しそうだった。
結局はその意見も流れて、みんなでいつも通りにギャルゲーの制作に戻るのだった。
今日は予定に無いことに時間を取られたので、昨日以上に作業が進まなかった。
明日はまた大変そうだ。
「この台詞がそんなに良いのかな」
日の沈んだ住宅街。
家に帰った恵は試しに英梨々と倫也の勧めてくれた決め台詞を言ってみたのだが、別に何かに目覚めたりはしなかったという。
冴えない彼女の育て方 二次創作 けろよん @keroyon
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