第3話 詩羽と英梨々の提案

「格ゲーを作るというのはどうかしら?」


 詩羽が最初に出してきたのはそんな冴えない提案だった。

 倫也は一笑に伏した。


「今は異能バトルも下火ですし、あの社会現象を起こした大ヒット格ゲーの新作ですら全然話題にならないんですよ。霞ヶ丘詩羽も落ちたものですね」

「で、倫理君の言うギャルゲーはその格ゲーより売れてるのかしら」

「ぐっ、痛いところを突いてきやがる」

「あたしとしては今はISテンプレが大人気だし、アクションのイラストを描く経験が積めるなら大歓迎ね」


 困ったことに英梨々が賛同してしまった。

 倫也の目指すギャルゲーは純粋な恋愛物だ。アクション要素など欠片も必要ない。

 どう反論しようかと迷っていると、当の英梨々が意見を取り下げてくれた。


「でも、全くの畑違いなのよね。人に未熟なイラストなんて見せられないし、あたしにドラゴンボールは描けないわよ」

「あら、最初からあきらめるなんてあなたらしくないわね。何事もチャレンジよ。倫理君、ちょっとそこに立ってくれる?」

「え、こうですか? あと俺は倫也ですから」


 言われながら、倫也はその場所に立った。

 詩羽も立ち上がり、流れるような動きで近づいてきたかと思ったら、その身が沈み、気が付けば倫也は顎に衝撃を食らって吹っ飛んでいた。


「昇竜拳!!」

「なんでだー!」


 天井高く舞い上がった倫也の体が床に落ちたのを見届けて、詩羽は視線を英梨々に向けた。


「どう? 澤村さん。これが昇竜拳よ。いくら無能のあなたでも見ながらだったら描けるでしょう?」

「そうね。無能というのは聞き捨てならないけど、確かに見ながらだったら描けるわね」

「それじゃあ、次はスクリューパイルドライバーをかけようかしら」

「ちょっと待ってください、先輩! ちょっと待ってくださいよ、先輩―!」


 そんな技を掛けられたら死んでしまう。襟首を掴まれた倫也は、慌ててそんな彼女の暴挙を止めようとする。

 そんな時、英梨々が助け舟を出してくれた。


「でも、あたしの描きたいのはスト2じゃなくて、ISのようなバトルなのよね」

「そうですよ、先輩! もうストリートファイターはオワコンなんです! あの英梨々ですら2で認識が止まってるんですから!」

「チッ」


 詩羽のやる気が増した気がする。もちろんやってしまう方の気だ。倫也はパニックになりながら、のんびりと状況を見ている彼女の方に話題を振った。


「加藤もそう思うよな!?」

「うーん、わたしにはよく分からないけど暴力的なのは好きじゃないかな」

「ほら! メインヒロインもああ言ってますし! 今回の話は無しね! はい、無し無し!」


 詩羽はまだ不満そうだったが、メンバーの全員にやる気が無いのでは仕方がない。

 おとなしく引き下がってくれた。



「最近ガルパンとか人気だし、ミリタリー物なんてどうかしら」


 ミーハーな英梨々が提案してきたのはそんな彼女らしい、実に流行に乗った選択だった。

 その意見を倫也は一笑に伏した。


「馬鹿だなあ、えりりんは。ミリタリーマニアはうるさいんだぞ。素人が手を出せるジャンルじゃないんだよ」

「馬鹿とは何よ。あとえりりん言うな」

「何事も否定から入るのは倫理君のよくない癖ね」


 詩羽は静かに立ち上がった。その手には物騒で黒光りする大きな銃があった。

 その銃口を倫也の眉間に向けてくる。


「ここにちょうど銃があるから、まずはこれを撃ってから考えましょう」

「何でそんな物がここにあるんですかね! 何で俺を狙ってるんですかね!」


 倫也は後ずさろうとするが、銃口を当てられては逃げられるはずもなかった。


「グリザイアの二次創作を書く参考に買っておいたのよ。あと倫理君は良い的だから」

「グリザイア反対! 俺の考えるのは純粋な恋愛物です!」

「あれも純粋な恋愛物よ。安心して。トイレに立っているところを狙撃したりはしないから」

「俺、今狙われてるんですけど! えりりん、助けて!」

「うーん」


 英梨々は何かを考えているようだった。その意見を口にした。


「バレットガールズは人気が出るコンテンツだと思うんだけど、まだ早いと思うのよね」

「そうだ! バレットガールズにはまだ早い!」


 英梨々がミーハーな奴で助かった。銃を見てそっちの方を意識してくれる奴だったことも。


「やっぱり戦車じゃないとね」

「戦争はよくないと思うな」

「戦車を買っておくべきだったわね」


 結局メンバーの反対が多数でその案も流れたのだった。

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