第2話 ギャルゲー作るの止めるわ

「じゃあ、今日も引き続きギャルゲーの制作をやっていこうか!」


 メンバーが揃って、倫也は張り切って今日の活動の開始を宣言したのだが、


「やっていくのは良いけど、あんたは少しは考えてきたの?」


 張り切る倫也の出鼻をくじくように英梨々が訊ねてきた。

 昨日の作業は決して順調とは言えなかった。それは主に発案者である倫也のアイデアがまとまり切れていなかったのが原因だった。

 一晩経って、倫也の考えは決まっていた。


「それを今から話し合おうと言っている」


 他者の意見に頼るという考えだ。英梨々はあからさまに呆れた表情を見せた。


「あんたねえ」

「私に考えがあるわ」


 そんな英梨々に代わって挙手をしたのは詩羽だった。

 さすがは人気のライトノベル作家だ。絵を描くことしか能のないどこかのイラストレイターとは違う。


「はい、詩羽先輩」


 倫也は期待に胸を膨らませて彼女を指名した。詩羽の答えはこうだった。


「ギャルゲー作るのは止めましょう」

「なるほど、それは良い考えですね! さすがは詩羽先輩です! ……って、何でやねん!」


 倫也は思わずセルフ突っ込みをしていた。そして、熱く力説した。


「このサークルの目的はギャルゲーを作ることなんですよ! そこを根本から否定するのは止めましょうよ~!」

「見苦しいわよ、倫也。でも、そこまで言うからには詩羽には何か考えがあるんでしょうね」


 ありがたいことに英梨々が文句を言いながらも援護射撃をしてくれた。単に英梨々と詩羽は仲が悪いので言い返す機会を狙っていただけかもしれないけれど。

 加藤恵はそんな三人の様子に我関せずとのんびりと状況を伺っている。

 詩羽ははっきりとその理由を述べた。


「昨日とある荒野を目指す少女達のスレを見ていたんだけど、ギャルゲーはもうオワコンだと話題になっていたのよね。私もその話題に参加してこれは耳を傾けるべき意見だと納得したのよ」

「そうね。とある荒野を目指す少女達は今期一番の話題作だからあたしもチェックしていたんだけど、確かに彼らの言う事には一理あるとあたしも思ったわ」


 困ったことに英梨々もその意見に賛同してしまった。

 倫也としては冗談ではなかった。


「他人の意見に惑わされるのは止めましょうよ! ギャルゲーは浪漫なんです! 俺達には俺達の目指すフロンティアがあるんですから!」

「倫理君の目指す物って何かしら?」

「それはもちろん加藤をメインヒロインにしたギャルゲーを作ることです!」

「それって恵の良さをアピール出来れば何でもいいんじゃない?」

「何をおっしゃる澤村さん! ギャルゲーこそこの世で最も尊いジャンルなのですよ! 偉い人にはそれが分からんのですか!」

「あたしとしては一番人気のあるジャンルで一番を取りたいんだけれど」

「このミーハーイラストレイターめ! だからお前は同人ゴロと呼ばれているんだ!」


 同人ゴロとは人気のあるジャンルに寄生して荒稼ぎする連中のことだ。まさしく目の前にいる澤村・スペンサー・英梨々のような奴のことを言う。

 だが、彼女はその呼ばれ方には不服らしい。目を吊り上げて文句を言う。


「そう呼んでいるのはあんただけよ」

「加藤さんはどう思っているのかしら。ギャルゲーを作ることについて」


 英梨々と倫也が言い合っていると、詩羽が今まで無言で座っていた恵に話を向けた。


「んー、わたしにはよく分からないんだけれど……」


 恵は人差し指を唇に当てて少し考えてから答えた。


「みんなのやりたいようにやるのが一番じゃないかな」


 冴えない彼女の冴えない言葉を聞いて倫也は決断した。


「よし! それじゃあ、話し合おうじゃないか!」

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