樽の鍵を守る者

 ペギランもまた、一命を取り留めていた。


 唯一、“魔風士ゼフィール”でなかったため、まだ体を起こせないらしいペギランの部屋に、ヴラマンクは1人で見舞いに行った。


「ペギラン、ありがとう。お前には色々と世話になったな」

「いえ、──今回の勝利は陛下とルイさまのおかげです」

「そんなことはない。……お前がいなかったら、どうなっていたことか」

 心の底から、そう思う。


 そして、気になっていたことを聞いた。

「なぁ、良かったのか? 確かに、ダンセイニは9000の軍勢と、“長命将軍ロンジェ・ヴィテ”たちを一気に失った。くびきを失った〈甘き死の覇王花フルール・ド・ラフレシア〉が暴れているだろうから、しばらくは身動きがとれないだろうが……、俺を起こした以上、やつらきっとまた攻めてくるぞ」


 すると、ペギランは笑った。


「ですが、それはだいぶ先になるはずです。それまでに、サングリアルは再び強靭な軍を組織して、迎え撃つ準備を整えるでしょう。パルダヤン様が、大陸との同盟交渉を進めてくださっていますし……」

 ペギランがそう言ったとき、城内騎士がパルダヤンからの報をたずさえ、2人のもとに参じた。


 短い書きつけに良い報せを読み取り、2人は笑いあう。


「それに……」ペギランは続けた。

「どうせ戦うことになるのなら、1人でも仲間が多いほうが良いでしょう?」

 気弱な、しかし、見る者を不思議と安堵させる笑みを見せ、鍵番騎士かぎばんきしは首をかしげた。


「オホン!」

 少し気恥ずかしくなって、ひとつ咳払いをする。


「それよりも、我が国の大献酌だいけんしゃくどのにひとつ相談があるんだが」

 ヴラマンクはイタズラっぽく微笑み、隠していた手の中のものを見せた。ヴラマンクの手には銀製のグラスが2つ──。


「鍵番騎士どのに、ぜひとも樽の鍵を開けてもらいたいんだけどな?」


 その言葉に、ペギランが苦笑する。


「この体で酒蔵に行くのは大変ですねぇ。私の部屋の秘蔵の酒ではどうですか、陛下?」

「もちろん。前からお前はいい酒を隠してると思ってたんだ」


 2つのグラスにペギランが葡萄酒を注いだ。


 グラスを渡し、「では、ご発声を」と言うヴラマンクは、すでに酔っているような顔をしていた。


 サングリアルの大献酌だいけんしゃく──たるの鍵と乾杯を司る王の盟友──は、自らの職務をまっとうするべく、杯をかかげ「乾杯!」と発声する。


 男2人の部屋に、銀製のグラスがぶつかる高い音が響いた。



〈第一部 ~眠れる俺と、四つの鍵~ 完〉









――――――――――――――――――――

◇お楽しみいただけたでしょうか?

本編はこれにて完結となります。

この後、作品の裏設定などに関わる番外編が二話ほどあります。

そちらもお楽しみいただけたら幸いです。


現在、カクヨムで『桃源水滸伝』という新作を連載中です

そちらもどうぞよろしく!

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054893542939

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る