最悪の華印
ロウィーナ砦の城壁の内側は驚くほど静かだった。
ヴラマンクとアテネイが起こしていた風の渦がやみ、砦をおおっていた炎は森のほうへ空気を求めたのだろう。火はすっかり消えていた。
だが、それにしては鎮火が早すぎた。そのため、“
(ロウィーナ砦に“
そう思えるほど、砦からは物音ひとつしない。ときおり、まだくすぶっていた燃えカスがはぜるだけだ。
「陛下、そろそろ教えてくれませんか? ダンセイニに眠る〈
先頭を行くペギランが振り返らずに問う。
「──あぁ。俺のほうもようやく確信が持てたしな。今のうちに話しておくか」
デグレが教えてくれた最も大事なものとは、すなわち、『情報』。
武器庫の奥にはサングリアルとダンセイニの600年にも渡る戦いのすべてを記された軍事録があり、その中に、ダンセイニに眠るという〈
──すべては600年前、サングリアルがダンセイニから『あるモノ』を奪ったことから始まるという。
「ダンセイニの地には〈
「なんなのです? それは」
最後尾のルイがあたりを警戒しながら聞く。
「〈
その“
「9千人の“
ペギランは90万よりも、9千という数字を恐れた。ポラックとの戦いで“
「その、最悪の“
「じゃ、じゃあ、その『あるモノ』を返せば戦争は終わるんじゃないですか?」
「いや、事態はそんなに単純じゃない。サングリアルが『あるモノ』を奪った理由というのもダンセイニが覇権を唱え始めたからだ、と言うし。
──それに、万が一〈
ペギランは、再び言葉を選びながら質問する。
「あのォ……、陛下はこの戦いの前に、敵の“
「──ダンセイニの根幹を支えているのが、“
「はい」
「しかし、それでもリュードの力は完全じゃないんだそうだ。リュードの相反する『不滅』の力によって〈
「そのことと“
「〈
ポラックを倒したとき、やつの“
ポラック・メルロという“
だが、“
「ダンセイニの“
「そう。敵の敵は味方、ってこったな。前に話した“つながり”によって、今の俺にはなんとなくリュードの力が感じられる。ポラックが死んでから、リュードはかなり弱っている。サングリアルに上陸した“
ヴラマンク自身も、確信を持っていたわけではない。
しかし、〈
「おーさまっ、あれ……っ!」
──突然、アテネイが鋭い声をあげる。
勘のいい少女が指差した方向──海に面する見張り塔の屋上を見上げると、くすんだ灰色のローブに身を包む、学者然とした面持ちの青年が顔をのぞかせていた。
「構えろ!」
思わず攻撃を警戒する。
──だが、男は嘲りにも似た笑みを浮かべ、奥へと消えていった。
(誘っていやがる)
おそらく、罠だろう。
みすみす飛び込むのは危険だが、今は何にせよ時間がない。
沖合にはまだ数頭の“
ヴラマンクは「いいか」と仲間たちを振り返った。
「“
全員、神妙な顔でうなずいた。
4人は一丸となって、見張り塔を駆けあがった。
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