金色の干し大根

とり子

第1話 金色の思い出

17歳の時に、祖父は亡くなった。


私は部活のリハーサルで県の文化会館にいた。携帯電話だったかポケベルだったかは覚えてないけど、母からその知らせを聞いたのはたしかこの時だった。


私はすっかり大きくなっていて、友達との時間に夢中になっていた。

あんなに好きだった祖父の家にもあまり行かなくなっていて、亡くなった知らせを聞いた時も悲しいとは思ったが、末期ガンだし仕方ないことだと思った。

「じいちゃん、死んじゃったって連絡きた。」

と、友達に話したのを覚えてる。


葬儀は淡々と行われて、私は涙を流すことなく祖父を見送った。


祖父の死は私の頭の中に残りつつも、ひとつの思い出として自分の記憶にしまわれた。



でも、なぜだろうか。

30歳を過ぎた今、祖父との思い出がフッと頭に蘇る。

幼い私の手を握る祖父。

干した大根の甘い香り。金色の空。車も通らない田舎の静かな町を、2人で手をつないで毎日散歩した。

遊園地と呼んでいた小さい公園。おばあさんがやってた町で唯一の商店。砂糖だけでできた飴玉。虫の音。蚊帳の寝床。


父と母、兄達と離れて祖父の家で暮らしたあの時間。


あまりに鮮明に蘇る映像。

鮮やかな風景と、私を見る祖父の優しい目に、今更、涙が止まらない。


故郷から遠く離れた東京で、閉まっていた思い出を辿っていく。

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