第6話 たまには……
暫くは友達の家を転々とした。頼れる友達は少なかったけど、それでも頼るしかなかった。
でも、そんなに長いこと家に住まわせることを好き好んでするのような人はそうそういないだろう。
実際俺も邪険にされるのに耐えかねて、友達の家に入っては二、三日で出る、そして次のアテを探して……の繰り返しだった。
そして流石にどうしようもなくなり、なんとなく、家に帰ってみる。
いつもと変わらない優太の笑顔を見るたびに、悲しい、辛いなんていう感情ばかりこみ上げてきて、どうしようもなくなった。
本当は、すぐにでも優太を抱きつぶしてしまいたいと思う。
でもそんなことができたら、こんなに苦労したり、悩んだりしてない。
それに……優太を見ると、どうしても父母の顔が浮かんできて、どうしても耐えられない。辛くて辛くて仕方がない。
「告白」という、たった二文字の行為ですら、社会的に見ると「異常」ととられることだってある同性愛であることから躊躇わなくちゃいけない。ただでさえ告白は勇気のいる行為なのに、まずスタートラインにすら立たせてすらくれないなんて、本当に神様は不平等だとつくづく思う。
だから家に帰りたくない。
優太がいつも通り俺に接していてくれていても、悲しそうな表情を浮かべていても、美味しい料理を作ってくれても、俺は悲しくなる。胸が痛くなる。
死んでしまいたくなる。
俺は、極力優太が寝るまでどこかで時間を潰し、深夜に帰る。
たまにアテがあれば友達の家に泊まる。そんな生活にシフトしていくことにした。
これならば、俺も外で凍え死ぬこともないし、優太と顔を合わせなくても済む。友達の親に邪険にされるあの嫌な視線を感じなくたっていいし、一石二鳥だか三鳥だかわからないくらいだと思ったから。
でも、朝起きると必ず優太は美味しい食事を用意していてくれる。
どうしてこんなに自分は自己中心的なんだろうと思うこともある。でもそれは仕方ないんだ、と思うしかなかった。
朝だけは同じ食卓を囲んで、同じ高校に向かう。俺は特別勉強しなくても授業についていけてるのだが、無理して合格した優太は特に心配だ。
いつかついてこれなくなって、潰れてしまったらどうしよう。
そんなことを考えていたいつもの何気ない日に、優太が俺を呼び止めた。
方をギュッとつかんで離さなかった。
「なんだよ」
「……帰ってきてよ、たまには」
目に浮かぶ涙を必死にこらえながらそう言って、急に走り出し学校に向かっていった優太を見て、どうしようもなくなりそうだった。
申し訳なさと、自分の弱さを痛感した悔しさと……
優太の可愛すぎるあの表情のせいで、俺はどうしようもなくなりそうだった。
ごめんな、優太。でも俺……帰れそうにないんだ。
静かにそう呟いて、俺もゆっくりと後を追うように学校へ向かった。
普通男子の初恋物語 春川水面 @harukawa
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