第五節
男性の指示に従い、人混みの中を掻き分けて進むこと数十分。
トラベロの目の前には古い屋敷が立っていた。外観はそこまで廃れてはいないが、人がいなくなって久しいであろうことは窓にかかるカーテンから察することができた。
『無事着かれたようですね』
「――この中に入れば、いいんですか?」
『ええ。では電話は一旦切らせて頂きます、残りの説明は中で致しましょう』
ぶつん、と電話が途切れる。携帯をポケットにしまい、緊張を強く残した面持ちでトラベロはゆっくり扉を開けた。
大きなロビーのような広間が一面に広がり、真っ暗な中にほのかな明かりが灯る。
ボロボロの赤いカーペットの先に照らし出されたのは……
「――また会ったな。縁とは奇妙なものだ」
先程の電話と同じ低い声が響く。駅で出会った赤髪の男だった。
階段の手すりにもたれかかり、その鋭い光を放つ蒼い瞳でまっすぐにトラベロを見つめている。
「……あの声。貴方が電話をかけたんですね」
「……ん……まぁ、そういうことにしておこう。電話で話した通り少女は私たちで預かっている。
彼女を返す条件だが」
男がゆらりと立ち上がった瞬間トラベロの瞳が見開いた。
彼の身体をオーラが纏っている。鮮やかな深紅のオーラだ。
つまり彼は神秘力者……もしかしたらファナリヤを狙っている連中の一人?
いや、追手だとしたら何故最初自分たちを見逃したかの説明がつかない。いくつも疑問が浮かぶが、男の放つ威圧がその考えに思考を連れて行くことを許さなかった。
手袋をきゅ、とはめ直し、男は言った。
「私と戦え、トラベロ・ルシナーサ。お前の神秘力を私に見せてもらう」
「……え……ッ!?」
「その力で倒してみせろ。そうすれば彼女を返すと約束する」
そう言った男は真っ直ぐにこちらを見つめている。
……間違いなく本気だ。トラベロはごくりと唾を飲み込み、同じように向こう側を見つめた。手袋をはめ直した手をぎゅ、と握りしめて男は体勢を取る。
「……こないのなら、こちらが先制を取らせてもらう」
男は足を踏み込み、瞬時に駆け出し――左の拳を思いきり突き出した。
「う、わっ!」
慌てて頭を抱え、しゃがみこんで攻撃をかわすと即座に男の左足がこちらへと真っ直ぐに向かってくる。小さな悲鳴を上げてトラベロは横に転がり何とか難を逃れる。
しかしまた飛び上がり蹴りを撃ち込もうと足を伸ばし、また転がって回避する――その繰り返し。
攻撃が落ち着いた直後すぐに立ち上がり、男と距離を取った。
先程の振る舞いで格闘に慣れているのは明らかだ。近づかれたら間違いなくこちらが危ない!
「使わないのか?神秘力」
「………っ」
「使わずに勝てる程、私は甘い相手じゃないんだがな」
そんなことはトラベロ自身百も承知だ。
間違いなく神秘力を使わなければ勝てないし、ファナリヤも取り戻せない。
しかし……廃屋とは言えど室内。どうにも自分の力は使いづらい、けどそれでは勝ち目すら作れない。
――せめて大火事になりませんように!
鮮やかなオレンジ色のオーラを纏ってトラベロは右手をかざし、酸素を集め練り上げて炎を作り出す。
産み出された炎はバレーボール程の大きさの球形を形取り――
「でぇえええええいっっ!!」
トラベロが思いきり右手を降り下ろすと真っ直ぐに男目掛けて飛び出した。大気中の酸素を取り込みながら突撃してくる炎球はアクセルを踏み込んだかのようにスピードを上げていく。
(――炎か。躊躇っていたのも仕方ないな)
一方男は動じることなく冷静に炎を見つめて分析する。確かに屋内で発動するのは憚られる力だ。
これが問題ない場所であれば避けるが、そうもいかない。
ならばと男は右の拳をぐ、と力を溜めるかのように構え……
「――――はぁッ!!」
思い切り炎にめがけて突き出した。
予想外の行動にぽかんと口を開け驚愕しているトラベロの目の前で男の拳圧は炎をかき消す。
――もちろん無傷で済むワケがない。焦げた手袋から焼けただれた肌が垣間見えている。
だが男はその痛みに顔を歪めることなく立っている。まるで痛覚そのものがないかのような……
そんなワケはない、相手も人間だ。あそこまでの火傷を負って平然といられるなんてあり得ない。
「大丈夫だ。利き腕じゃないし、火傷には慣れている」
「そっ、そういう、問題ですか!?」
「これぐらいで音を上げてもらっては困る……というのは流石に無理か。
しかしこれから先――お前は嫌という程こういうことに出くわすハメになるぞ」
「……え?」
何かおかしい。
ファナリヤを連れ去り利用しようとしている割にはこちらを気にかけているように見える。
いや、そもそも利用する目的であれば対価目的以外で自分に彼女を連れ去ったことなど告げなければこうして真っ向から勝負を挑むこともない。
この男の発言も妙にこちらを気にかけているというか、試しているというか……
まるでわざと敵として振る舞っているような素振りだ。
ファナリヤを連れ去った理由は他にあるのか?
「――あぁ、そうだ。お前が力を見せたのなら私も見せるのが筋だろうな」
男の放つオーラが強さを増していく。
左手をトラベロの前に出し、彼は自らの力の名を静かに、そして強く言い放った。
「《
言葉が紡がれ終えたその瞬間、トラベロの真上から強烈な重圧が襲いかかりその場に膝をつく。
立ち上がろうと何度も試みるが、あまりにも重すぎて動けない。
体のパーツ一つ一つが数百キロ級の重りになったかのように重いのだ。
何とかして顔を男に向けるぐらいにしか動けない。
「ぐ、く……っ!」
「今はお前一人にしかかけていない、破るのは容易いぞ」
――どこがだ。 トラベロは重圧に顔を歪めて言葉にすることなく訴える。
「何のための神秘力だ。人体を介することだけが発動する方法か?
この力を発しているのは誰だ?」
……そうだ、と敵であるハズの男の言葉から発想を得る。
炎を発生させるのに、そもそも手しか使わなければいけない理由はない。
酸素さえあれば自分の力は炎を生み出せるではないか。
「……《
トラベロもまた自らの力の名を声を絞り出して叫ぶ。
その声に呼応するかのように男の周りを熱風が立ち込め……そして勢いよく炎が姿を現し、無数の火球となって襲いかかった!
一方、激しい戦いが繰り広げられる廃屋の一室では。
「……何?」
ファナリヤがはっとした表情でドアを見やる。
(……この、感じ。……トラベロさん?)
何故か彼が近くにいるような、そんな気がしてならなかった。
そして何故か焼け焦げたような匂いがする。不安そうに見つめる彼女の目の前、
机を隔てた先に立つ紫髪の青年が少し不思議そうに声をかけた。
「どうしたの?」
「……あ、いえ、その」
「遠慮しなくていいよ、何かあったなら何でも言って?」
この青年がそう言うと何故か安心して口を開ける。
この妙な安心感に少し疑問を抱きつつファナリヤは今感じたことを全て話した。
「……うーん。じゃあ、もしかしたらその人がきてるのかもしれないんだね」
こくりとファナリヤは頷いた。
「えと、他に炎を使う神秘力者の人かも、しれないんですけど。
もしかしたら、ここにきてるのかな……って」
「その通り」
声と共に突然ドアが開き、二人の人物が入ってくる。翠髪の少年と、水色の髪の男性。
雰囲気だけで青年の仲間だということがよくわかる。
「先程ここに神秘力者が訪れましてね。貴女の言う通り炎を操るようなんですが……
どうやら、私たちが貴女を連れ去り利用しようとしていると勘違いしているのですよ」
「え……っ」
自分を連れ去ったと言う炎を操る神秘力者……間違いなく彼だ、ファナリヤはそう確信した。
「心当たりがあるようですね?」
「はっ、はいっ!その、えと、きっと一緒にきて、はぐれちゃった……人、だと思うん、です!」
「そうですか。……ふむ、困りましたね」
水色の髪の男性は首を傾げる。
「今仲間の一人が対応していましてね、交戦しているんですよ。どうしたものか……」
「そんな……!」
そうだ、そう言えば彼は連れ去られたのではなく保護してもらったという事実を知るハズがない。
戦いになるのも必然と言える。だから燃えた時の匂いがこちらに漂ってきたのだ。
自分が知らせなければ、戦いが止まらないのだ。
「行っておいで」
ファナリヤの考えを見透かしたかのように少年が口を開く。
見た目は自分と然程変わらない少年なのに、優しく微笑むその顔はまるで子を見守る親のよう。
そして同時に、見た目以上に長く生きているような印象を感じさせる。
「きっと、止められるのは君しかいないよ。僕たちが言ったところで、頭に血が登りすぎて聞かないだろう」
「……い、いいん、ですか?」
「もちろん。助けにいっておいで?」
にこりと微笑み、少年はドアを開く。青年も男性も同じ微笑を湛えて送り出してくれる。
「…………ありがとう、ございます!」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げてファナリヤは飛び出した。
――嘘でしょ?
そう思わず口から言葉が漏れる。
目の前の男に対し、トラベロは驚愕の表情しか浮かべられずにいた。
一方、当の男は意平然とした顔で炎に包まれた上着を地面に投げ捨て、重力で無理やり炎をかき消す。その右腕は先ほど以上に焼けただれ、最早動くのかも怪しい。
何故こんなに平気で自分の身体を犠牲にするようなことをできるのだろう。
火傷が痛々しくてとても見ていられない気分だ。
「敵の心配はしなくていい。どうせすぐ治る」
「治……っ!? む、無理でしょうそんなの!!」
「別に傷がついても然程困らないんだ、私はな。……だがよくわかったよ。
……お前が敵に情けをかける程、心根の優しい奴だってな」
まただ。またこの男は気にかけるような発言をする。
本当に敵であればそんなことは絶対に言わない。いったい何の目的があってファナリヤを連れ去り、自分に戦いを挑んだのか。全くわからない……そもそも戦う必要は元からないのかもしれない。
だが、あちらは戦いを止める気はないだろう。
なら戦う以外の選択肢はなく、戸惑う心のままトラベロは再び身構える。
幸いにも先程の攻撃でこちらにかかっていた重力は消え失せている、
再び重力をかけられる前に決着をつけなければ。
「それでいい。勝てば彼女を返すという約束は変わらないんだ、
お前は何も考えずに挑んでくればいい」
男もまた再び構える。焼け爛れた右腕はぶらりと垂れ下がっていて全く動かないようだ。
それもそうだろう、あれだけ炎をまともに浴びて動かないワケがない…しかしそのハンデがあったとしても、トラベロからしたら男は十分な脅威だった。
体術に優れている上にあの重力を操る神秘力……扱いも非常に慣れている。
けれどここで諦めるワケにはいかない。
再び炎を生み出し、放つタイミングを測る。男も再び力を使うタイミングを見定めようとトラベロを見据え――
(――今だ!)
互いに一歩踏み出す。トラベロは炎を投げつけ、同時に男も左手を翳し、先に力を使おうと体勢を取った――
その、瞬間だった。
「やめてっ!!」
聞き覚えのある少女の叫びが響いたのは。上を見上げると、階段を降りてきているファナリヤの姿。驚いた表情で男はその手を止めるが、トラベロの手は止まらなかった……いや、止められなかったというのが正しいかもしれない。
地面に叩きつけるワケにもいかず、まっすぐに投げたその炎は硬直していた男へと向かい――
「ぐぁ……あッ!!」
男の顔に直撃する。左半分を手で抑えて苦痛の叫びを上げ、その場に蹲った。
あまりにもの痛みに立ち上がれず、ただ苦しみに呻いている。その姿にトラベロは罪悪感を抱くも、敢えて彼の方へ振り向かずファナリヤへと駆け出す。
「ファナリヤさん! 無事だったんですね!」
「トラベロさん! 違うんですっ、この人たちは……!」
ファナリヤもまたトラベロへと駆け出し、必死に口を開く。
階段を駆け登る彼と、階段を駆け下りる彼女の距離が縮まり、あと少しで手が届くところまで……
と、きたところでそれを許さないかのように一人の人物がその間に飛び降りた。
思わずトラベロもファナリヤもその場に立ち止まる。しかしそれがトラベロにとって大きな隙となった。
間に割って入った青年は一つに束ねたアッシュブロンドの髪を靡かせて、掛け声と共に大きく回し蹴りを放った。その左脚はトラベロの腹にピンポイントで命中し、そのまま勢い良く階段を飛ばされ地面に叩きつけられる。
幸いにも頭は打っていない。だが、痛い。とても痛い。体中を激痛が駆け巡る。
特に腹部の痛みはとてつもなく骨が折れているのではないかと思ってしまう程だ。
「げほっ……ごほっ!」
何とか起き上がるも、痛みで立ち上がれずただ咳き込む。
ファナリヤが名を叫び、駆け寄ろうとするが青年が顔を向けぬまま右手で静止させる。
「悪いがまだ行かせられねぇな。……こいつが勝ったらお前を返す――それが条件だ」
「そんなっ……!」
「……ほら、立てよ。第二ラウンドだ」
くい、と青年は指を動かしてトラベロを促す。
少しずつ、ふらつきながらも立ち上がり息を切らしながらトラベロは彼に問いかけた。
「何……で」
「何でって。勝負の本数に関しては何も言及してねぇぜ、相手が一人しかいなかったら一本勝負とでも思ったか?」
……してやられた。まさかもう一人いたなんて。
先程だけでも大分体力を消耗しているのに、このまま戦って勝てるとは到底思えない。
けれど諦めるワケにはいかなかった。
トラベロにとってここで諦めることはファナリヤを助けるという”責任”の放棄を意味する。
左手で腹を押さえつつ、右手で酸素を練り上げ始めるが思うように集中できず炎が中々生まれない。意識も遠くなりつつあり正直戦うなんて無謀にも等しい。けれど彼女を守るためならと必死に炎を生み出していく。
「へぇ……根性あるじゃねぇか。言っておくが、俺は赤い奴程優しくはねぇぜ」
軽くステップを踏んで青年もまた構えを取る。
トラベロが炎を練り上げる時間を与えることなく、ぐっと足を踏み込んでから一気に飛び出した。
しまったという顔を浮かべるが、避ける余裕もない、それどころかここで力を止めてしまえば攻撃のチャンスは二度とこないだろう。
ならばいっそのことカウンターを狙ってやるとそのまま動くことなく炎を練り上げ続ける。
「はっ! 本当にいい根性してるな……いいぜ、その賭けに乗ってやるよッ!!」
トラベロの起死回生の策に気づきながらも、青年はそのまま突撃し、右拳を握りしめて突き出そうと――したその時だった。
「ダメぇええええええええええええええええええええッ!!」
ファナリヤが劈くような叫びを上げて飛び出す。
次の瞬間、トラベロへと近づく青年を自らの髪で捕まえ――思い切り壁に投げ飛ばした!
青年の身体は無防備に壁に叩きつけられ、その重みで壁にヒビが入る。
ずるずると壁を伝ってその場に座り込んだ。
「今、だぁあッ!!」
勝機だと悟ったトラベロは練り上げた炎球を最後の力を振り絞って投げる。
痛みでぴくりとしか動かない青年を捉えた炎はそのまま直撃する……
……ハズだったのだが、突如もう一人の青年が間に入る。
するとどうしたことだろう、炎は彼の眼前で壁にぶつかったかのように阻まれ、
すぅ……と姿を消したのだ。
再び驚愕の表情を浮かべるトラベロを見据え、その紫髪の青年はにこりと笑い大きく息を吸い込み……
「しゅ――――りょ――――――――っっっ!!」
と、そう大きな声で叫んだ。トラベロもファナリヤもぽかん、とした顔で彼を見つめる。
「はい、この勝負これまで! もう力も度胸も十分わかったよ。だからこれでおしまい! ね?」
「……え? え?」
「もう戦わなくていいよ、その子もちゃんと返すから。本当に痛いことしちゃってごめんね」
ぺこりと青年は頭を深く下げる。
――何が何だかよくわからないが、とりあえずこれで勝ったということ、なのだろうか。
青年が嘘を言っているようには全く思えないし、無事ファナリヤを返してくれるならそれでいい。
ああ、そう思うと身体の力が抜けてきた。それにとても疲れた。
……しばらく、寝たい。
ふっ、とトラベロの意識が途切れ、その場に倒れこんだ。
「トラベロさんっ!!」
ファナリヤが急いで駆け寄り揺さぶるがトラベロは目を閉じたまま動かない。
「いや……いやっ、しっかりして!」
「お、落ち着いて! 大丈夫、気を失ってるだけだから!」
紫髪の青年がゆっくりと彼をうつ伏せから仰向けに起こす。
すやすやと寝息を立てる音が聞こえる。
気を失ったというより、寝ていると言った方が正しいのかもしれない。よかった、生きていた…と胸を撫で下ろすファナリヤに青年は申し訳無さそうに言った。
「ごめんね、彼に酷いことをしちゃって……もうこんなことしないから」
「……っ」
ファナリヤは黙りこくって何も言わない。
それが彼女の怒りを示す方法なのだろう、どんなに言葉を言っても彼女は答えもしない。
「そりゃそうだよね。君にとって大切な人に酷いことちゃったもん、怒るよね。……でも、この子を傷つけるのが目的じゃなかったんだ。それだけは信じて欲しい、だから」
す、と青年は手を差し出す。
「……この手に触れて、俺の心を読んで欲しい」
「……え?」
ファナリヤは耳を疑う。……彼は自分が《接触感知》の持ち主であることを知っていたのだろうか。しかしそれでも自ら心を読めだなんてことは……
「手を縛ってることから何となく察しがついたよ。君のと似た神秘力を持つ人はだいたいそういう風にしてるから」
「……本当に、読んで、いいん……ですか」
「大丈夫。絶対に君を拒絶しない。それに今の俺たちにはそれしか証明する手立てがないもの」
ごくりと唾を呑み込み、緊張した面持ちでファナリヤは包帯を解く。
それの白さに負けない程に白い小さな手は、恐る恐る一回り大きい青年の手に触れる。
刹那、頭の中に今彼が思っていること全てが勢いよく流れこんでくる。
トラベロと自分に対する罪悪感と申し訳無さ、そして――彼らが何者なのか。
全てを悟ったファナリヤは目を丸く見開いて青年を見た。
「……わかってもらえた、みたいだね?」
こくりとファナリヤが頷くと青年はにこりと微笑む。
「とりあえず、部屋変えようか? 彼を寝かせてあげないと」
青年はトラベロを背負うと、うずくまっている男と金髪の青年を呼ぶ。
「二人共大丈夫? スピル君が呼んでるから今から行くよー?」
「……ってぇ~……! 頭がガンガンするし。割と力あるな」
まず最初に立ち上がったのは金髪の青年だった。首を二、三回左右に振ってこき、と骨を鳴らす。
痛いとは言いながらもその身体に目立った傷や打撲の痕はなく、ぴんぴんとしている。
すたすたとふらつきのない歩きで顔を抑える男へと向かい声をかけた。
「レヴィン。終わったぜ」
……反応はない。ぴくりとも動かない。
「おい」
「っぐぅsdklfはsッッッ!?」
青年が足で右腕を軽く小突くと男――レヴィンは声にならない声を上げ、涙目で金髪の青年を見た。
「ま、待てっ、待てアキアス! 痛い! 今のは痛い!!」
「知るかよ、お前の自業自得だろうが。無理してカッコつけて痛くない振りするから」
「い、いやだって……なぁ?」
「何が「なぁ」だ。ほら行くぞ」
レヴィンの手助けをすることなく、アキアスと呼ばれた青年はファナリヤたちよりも先に階段へと向かう。
「……色々悪かったよ。お前も根性あんじゃん」
去り際にファナリヤにそう微笑んで、軽い足取りで階段を数段飛ばして上っていった。
それに続いてレヴィンが火傷を負った顔の左半分を抑えながら、ファナリヤに謝罪するように軽く頭を下げて一段ずつ階段を踏みしめていく。
「じゃ、俺たちも行こうか」
微笑む紫髪の青年に連れられて、ファナリヤもまた階段を一歩一歩と登っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます