第四節

 がたん、ごとんと電車が揺れる。

ゆっくりとトラベロが視線を配ると、電車内にいる男性の数人から不思議なオーラが見える。

色もそれぞれ違うが、大体はその人の髪色に準じた色のようで、金髪なら黄色、黒髪なら灰色……

といったように、強弱はあるがそれでも見えない程にはっきりしないということはない。

自分の手にも目をやると明るいオレンジ色のオーラが発せられていた。見えていたかと思えば消えたり、もう一度見ようと思ったら見ることができたりと割と自由は効くようだ。

しかしこんなもの今まで見えていなかったのに……と疑問に思ったところですぐに答えが導き出された。

――自分が、神秘力者になったからだ。

試しにと自分に寄り添うファナリヤにも目を向けると、自分や他の誰よりも強く鮮やかなピンクのオーラが彼女を包んでいる。

きっと先程の男にも見えていたのだろう、だからこちらへと一目散に向かってきたのだ。

そして男がファナリヤを狙っている理由……それはファナリヤが自分にしたことが一番の割合を占めているのだろう。

あの時彼女が放った光……本人もよくわかっていないが、その光によりトラベロは神秘力に覚醒した。

(……ファナリヤさん。貴女は、いったい)

思考を巡らせようとしたタイミングでアナウンスが鳴り響く。

「間もなくイリオス、マゴニア首都イリオス中央ステーションに到着致します。

 お降りの際は列車が止まるまで席をお立ちにならないようお願い致します」

――イリオス。マゴニアの首都、世界中心国のさらに中央たる大規模な都市。

そこに団長が言っていたティルナノーグはあるという。

聞いたことがないことからして、最近できたばかりの組織なのだろうか?

そう考えている間に電車は目的地で停車され、ドアが開く。

「ファナリヤさん、足元に気をつけてください」

「は、はい……」

ファナリヤを支えつつ人が雪崩れ込む前に電車のドアをくぐる。

改札を出ると溢れ帰る人、人、人。下手に動けば間違いなくはぐれてしまう。

ひとまずは早く駅から外へ出なければと何とか通れる道を見出だして前へ進んでいく。

しかし流石は首都と言ったところだろうか、かなり広い造りになっているハズなのに、人で埋め尽くされすぎてあまりにも狭く感じてしまう。

「だ、大丈夫です? 通れます?」

「な、なんとか、だいじょうぶ、ですっ」

二人して先程命がかかった時と同じ程の切羽詰まった表情で人の波を何とか潜り抜け、

離れないように互いにしがみつきながら進んでいくとその中でも人気のないエリアに辿り着く。

「きゃ……あっ」

「ん?」

人ごみを通り抜けた時に人波に押されたのかファナリヤはバランスを崩し、止まることもできず数歩走った後どさりと人にぶつかり尻餅をついた。

相手は転びもせず立っているが、少し驚いた顔でこちらを見ている。赤い髪に蒼い瞳の男性だ。

整った顔立ちながらも強面のようでファナリヤは思わずびくりと身体を震わせた。

「え、あ、ああっ、あの、あのその、ご、ごめん……なさっ」

自分を見下ろす男性に怯えながらも謝罪を伝えようと口をぱくぱくと開く。

しかし男は怒ること無く、顔とは反対の優しい声をかけてファナリヤの前へとしゃがむ。

「いや、気にするな。怪我はないか?」

驚きの余り目を見開く。男は表情一つ変えていないが、その目はとても穏やかに優しく揺れていた。

「え、あ、えと……は、はい。だい、じょうぶ……です」

「なら構わない。次は変な奴に目をつけられないようにな」

男はファナリヤの頭を優しく撫でると立ち上がり、すたすたと彼女の横を通っていく。

ファナリヤは立ち上がって目を瞬きさせ彼を見た。

「ファナリヤさん! ……すみません、ありがとうございます」

トラベロがすれ違いざまに挨拶をすると、男がぴたりと足を止める。

その顔は何か思い当たる節があるかのような表情を浮かべた。

「あ、あの。何か?」

「いや、何でもない。お前たちはここは初めてか?」

「あ、はい。まぁそんなとこだと思います」

「ならくれぐれもはぐれないように気を付けた方がいい。この辺りは特に人が多いからな」

「え、あ、はい!ありがとうございますっ」

立ち去る男に深々と頭を下げてからまたファナリヤと合流する。

その時の顔がどうもトラベロは印象に残る。

――怖い人かと思ったら優しかったな。

確かに顔は強面、しかしかける言葉や態度はとても穏やかだ。

そしてすらりとした長身で顔立ち自体はそこらの一般人とはかけ離れていると感じる程整っている。

どこかのモデル、あるいは俳優なのだろうか。もしそうでなかったとしたら何かもったいないな、とトラベロは思考を巡らせる。

「……凄く、優しい人でした、ね」

「そうですね、いい人に会えてよかったです。でも次は転ばないように気をつけないとですね」

「は、はいっ」

行きましょうかと声をかけ、また必死の形相で人波へと足を踏み入れた。


 その光景を、先程の男は離れた距離で姿が見えなくなるまで見送る。その後携帯を取り出し電話をかける。連絡先を選び耳に当てて二秒程で相手は電話に出た。

『もしもしレヴィン?何かあった?』

「先程依頼のターゲットと接触した。とりあえずそれだけだが」

『オーケー。思ったより早かったね。滞り無く進みそうだ』

「なぁ、スピル。確か男の方は一般人だったハズだよな?」

『そう聞いてるけど』

「……逃げ出した時にはまだ何もなかったっていうことで間違いはないんだな?」

『そうだね。その人がどうかしたの?』

「覚醒している」

電話先の主――スピルの空気が一瞬にして変わる。

「いくら神秘力者と接触したからって、すぐに因子が適合されて覚醒……なんてこと早々ないぞ?」

『確率は低すぎるワケじゃないけど決して高くはないね。でもまぁ、それはそれで好都合さ!

 想定しておいてよかったぁ♪』

「……やっぱり、そのつもりなんだな?」

レヴィンと呼ばれた男は溜め息をついた。

『もっちろん! 現場指揮は全部レインに一任してあるから、作戦変更の連絡しといて。

 レヴィンたちはレインの指示に従い行動するように』

「了解。……相手側が誤解して話がこじれても知らんからな」

そう会話を終わらせて電話を切るとレヴィンは直ぐ様別の連絡先へとアクセスをかける。

「……レイン、スピルからの指示だ。作戦を変更してくれ」


 駅を出るとまたもや人、人、人。

またも単純な構造だろうに人によって入り組んでしまった道が広がっている。

「わぁ……うっわぁ……」

思わずトラベロはぐったりとした声を上げる。

「こ、これ通れるん、ですか?」

「だ、大丈夫だと信じるしかないです……ね。うん、大丈夫。とりあえず何とかして進みましょう」

……と、言って歩き始めたものの、どっちに行けば目的地なのかがわからない。というかそもそもどこにあるかすら聞いてない。

――何で一番肝心なことを聞いていなかったんだ僕は!

トラベロは今更になってその事実に気付き焦っていた。

わからぬまま手当たり次第に進んでも逆に敵の仲間に見つかるかもしれないし迂闊に行動はできない……

「あ、そうだ」

と、思ったところで頭の電球が光る。そうだ、文明の利器という素晴らしいものがあったとトラベロは歩きつつ携帯を取り出す。ファナリヤは見たことがないようで、興味深そうに携帯を見やる。

「これがあれば地図を見れますから、きっとそこまでの場所がわかりますよ」

慣れた手つきでタッチパネルを操作し、地図アプリを開く。

検索欄に目的地の名を入力しようとしたところで――

「わわ、わ、わぁっ!」

人の波に揉まれて携帯を落とし、トラベロ自身もその場にどてん、と転ぶ。先程はファナリヤが転んだが、今度は自分が転ぶとは……慣れてないのは恐ろしいと感じつつも小恥ずかしい。

人に踏まれる前に携帯を拾わなければと急いで立ち上がろうとしたら、一人の男性が彼の携帯を拾い上げた。

「大丈夫ですか?」

男性はトラベロの前に膝をつき、拾った携帯を差し出す。

あれ、どこかで聞いたことがある、と不思議な感覚を覚える。妙に聞き覚えのある声だ。

しかもつい最近聞いたばかりのような気もするが、そんなことを言っている場合ではない。

「あっ、は、はい!ありがとうございます、すみません」

「気にしないでください。私がお人好しなだけですので」

慌てて携帯を受けとるトラベロを見てにこやかに微笑んだ男の顔もまた見覚えのあるものだった。

水色のゆるやかなウェーブがかかった髪に金色の瞳――出会ったハズはないのに、この男の顔をどこかで見た気がする。他人の空似なのだろうか。

「いえ、助かりました!本当にありがとうございます。このご恩は忘れません」

「そんなに大したことはしていませんよ、どうかお気になさらず。それでは、失礼致します」

軽く会釈をして男性はその場を去り、人混みの中へ消えた。

……何か思ったより優しい人に会うな。

ここにきて敵に遭遇もしていないどころか親切な人物に出会えるのは嬉しいことだ。

とりあえず先を急ごうとファナリヤへ声をかけようと振り向くが……姿が見当たらない。

「あ、あれ……ファナリヤさん? ファナリヤさんっ!?」

後ろにも横にも姿はない。

あの時人波に揉まれたせいで離れ離れになったのだろう。

非常にまずい状況だ。もしその間に捕まりでもしたら……!

(探さなきゃ……っ!)

焦りと不安に駆られながら人混みを掻き分けてトラベロは走り出した。


 その光景を先程の男は人混みの中から見つめていた。

金色の瞳は遠く遠くへと行く青年の姿をはっきりと捉えて離さない。

「……離れ離れになるのは予想外ですね」

どうしたものかと辺りをゆっくりと見回しつつ、特定の場所を目で捉える。

そこには桃色の髪を靡かせ不安そうに歩く少女がいた。

「彼と真逆の方向、ですか。困りまし……ん?」

男の瞳が少女のさらに先を捉え、にこりと微笑んだ。

予想外の方向へずれたが、上手く軌道を修正できそうだ。

携帯を取り出して電話をかけ、数秒ほどで電話先は応答した。

『もしもしレインさん? 何かあった?』

「ターゲットが分断されました。少女の方が丁度そちらの方向へ向かっていますので……」

『悟られないように様子を見て、何かに巻き込まれたり絡まれたりしたらそれを助ける形で保護、でいい?』

「……流石エウリューダ、理解が早くて助かります。アキアスは今そこに?」

『うん、今合流したとこ。荒事にも問題なく対応できるよ』

「なら大丈夫ですね、よろしく頼みましたよ。

 保護したら最終段階へと移りますのですぐに連絡をお願いします」

『りょーかいっ! じゃ、早速行動しまーす』

ぶち、と電話が切れる。

「――さて、私もそろそろ動かなければ」

携帯を懐にしまい、踵を返して人混みに紛れた。


 「……と、トラベロ、さん?」

か細い声で名を呼びながら辺りを見回すが、あの特徴的な金髪の姿はない。

先程トラベロが転んだ際にファナリヤもまた人波に揉まれて押し出されてしまったのだ。

探そうにも人が多すぎてわからない……それに、何よりもこんな人で溢れる場所を一人だなんて怖くてたまらない。

「ど、どうしよう……っ」

なるべく人に見られないようにこっそり、こっそりと小走りで前へ進む。

しかし見ている者は見ているのだろうか、数人の男の集まりから声がかかる。

「そこの彼女ぉ! 何してんのぉ?」

後ろからの声にびくりと震え、慌ててファナリヤが振り向くと彼らは間近な距離にいた。

「どうしたのーこんなとこで。一人?」

「えっ、あ、あ……その」

「よかったらさぁ俺らと一緒に遊ばない? ねぇ?」

「え、あ、えっと……そ、その」

「ねぇいいじゃん? 遊ぼうよ」

男は笑いながらファナリヤの腕を掴む。瞬間、彼女の身体を寒気と嫌悪感が駆け巡り、悲鳴となって口から飛び出す。

「いやぁっ!!」

恐怖のあまり思わず髪を動かし、男を突き飛ばす。いで、と声を上げて男がその場に転がり、痛みに悶えているのを見てやっとファナリヤは我に帰る。

「あ、あぁ……!」

――やってしまった。衝動的とは言えどこんな場所で力を使おうものならどんな目で視られるかわかっていたハズなのに。

男たちのの気味悪がるような視線が心に深く突き刺さる。

「なっ、何すんだこの女っ!!」

男たちは傷をつけられたことに腹を立てたようで、一人が彼女を殴ろうとその拳を振り上げる。

顔に迫るその拳に怯えるも身構える余裕もなくそのまま殴られるかと思いきや――

突如別の手がその拳を止める。

「……え?」

ファナリヤの目の前にいつの間にか一人の人物が立っていた。

くすんだ金髪をひとつに束ねた奇抜な格好の青年だ。最早右半身は何もまとっていないに等しい程に肌が出ている。

「なっ、何すんだよ!」

「そいつぁこっちの台詞だ。いい歳した男がよってたかって女をいたぶるとかみっともねぇことしてんじゃねぇよ。さっさと消えろ」

「う、うるせぇよ元はと言えばそいつがキモいことしたからだだだだだだだたっ!?」

瞬間、男の腕を激痛が襲う。

目の前の青年は然程力を入れているようには見えない、しかし彼以外にこんな痛みを与えてくる奴はいない。

「――それ以上抜かしてみろ。前歯へし折るぞ」

「すすすすすすいませんすいませんでしたもう言いません勘弁してください痛いいいいいい!!」

「さぁて、どうしようか。なぁ?」

口元を軽く緩ませ青年は後ろを振り向き、やっとファナリヤの視界に彼の顔が映る。

薄紫と朱色……色の違う瞳に宿る光は力強く煌めいている。

しかしその視線はファナリヤではない方に向いているようにも見えて、え、と反応を示しその視線の向こうに目を向けると、もう一人立っていた。

金髪の青年の左目と同じ朱色の瞳に、彼とは正反対の露出のない服装、紫色の長髪。

女性かと錯覚するが、よく見たら男性の特徴が強い。

そしてそその最たる特徴である低い声でその人物はファナリヤに問うた。

「そうだねー、君はどうしたい?」

「え、あ、わ、わたし……です、か?」

「うん。この人たちねー君に色々酷いことしたでしょ? セクハラしたって言えばセクハラの罪に問えるし、いったぁ~い目に遭って欲しかったら今すぐ警察に通報もできるよ?」

「けっ!?」

思わずファナリヤは首を横に振る。

そっか、と紫髪の青年はにこりと笑い男たちに言った。

「よかったですねー! 今さっさと逃げたらなかったことにするって!」

「さっさと引き上げないとマジで通報するかもなぁ?

 ほら、こいつの気が変わらないうちにとっとと失せな!」

ギロリと金髪の青年が睨み付けると男たちはこくこくと頷き、真っ青な顔で一目散に逃げ出した。

その姿を見送ってから二人はファナリヤの方を向き、紫髪の青年がにっこりと笑って話しかけた。

「もう大丈夫だよ。怪我とかしてない?」

「え、あ、あっ、あの、その……大丈夫です。で、でもわたし、あの人たちにひ、酷いこと、したのに……その」

「アレはあいつらの自業自得、お前がぶっ飛ばしたのは正当防衛だろ? ……まぁ確かに女が一人、しかも初めてきた奴が無闇にうろつくのはやめた方がいいとは思うぜ」

「そうだねー……誰か、一緒にきた人はいないのかな?」

紫髪の青年が腰を屈めて問いかける。……何故だろうか、この青年の言葉はとても優しく感じる。

敵意などもちろんゼロだ。

これなら大丈夫だろうかとファナリヤは少し深呼吸してから口を開いた。

「そ、その。はぐれ、ちゃって」

「ありゃりゃ! それは大変だね。俺たちでよかったら探すの手伝うよ」

「えっ、あ、い、いいんです、か?」

「ここの初心者に一人で探させることなんかしねぇよ。

 それに俺たちがいた方が万が一追手がきても対応できる」

ファナリヤの目が驚きで見開く。

……何故自分が追われている身だと、断定して言っているのだろう。

初対面の人間にそんなことがわかるハズもない。

「……な、何で、わたしが、追われてるって……?」

「俺たちも人とは違うから、だよ」

そう言って微笑んだ青年は濃い紫のオーラを纏っていた。

金髪の青年も同様で、鮮やかな黄色のオーラがファナリヤの目に映る。

オーラを纏っている、即ち神秘力者。けれど彼らは自分を狙っているのとは違うような言動だ。

そうでなければ自分を助けてくれなどしないだろう。けれど……

驚き疑惑に揺れる彼女に対し、二人の青年は微笑みながらこう言った。

「安心しろ。俺たちはお前の敵じゃない」

「君を、助けにきたんだよ!」


 場所という場所を走り回り、時には街の人にも声をかけ。

息を切らしながらトラベロはファナリヤを探しまわっていた。

けれどどこにも長い桃髪の少女の姿はない。住人も見た覚えはないと言う。

手がかりのない状態はさらに彼を焦らせる。

(どこにいったんだろう……っ!)

もし離れている間に追手に見つかったら何があるかわからない。

ましてやここはあまりにも広い世界の中心たる都市、だからこそ不安と焦りをより一層募らせ、

彼を突き動かす。

――早く、早く見つけなければ。追手に見つかる前に合流しなければ彼女が危ない!

どくん、どくんと鼓動が不安で高鳴り出していくその時、ポケットに仕舞っていた携帯が着信音を鳴らす。

「電話!? こんな時に……?」

画面もろくに見ることなく、受信ボタンを押して電話に出る。

「……はい?」

『失礼致します。トラベロ・ルシナーサさん、ですね?』

出たのは先程聞いたばかりの男の声。

だがしかし出会って間もないハズの人物ならば自分の携帯番号を知っているワケがない。

間違いなく何かがある。もしかしたらファナリヤ絡みでの脅迫だろうか。

「そう、ですが」

『お聞き致しますが、床に着くほどの長い、桃色の髪の少女に覚えはございませんか?』

やはりか、とトラベロはぐっと歯を食い縛る。

『……その無言はイエスと受け取らせて頂きます。誠に恐れながら彼女をお預かりしていまして』

「……目的は何ですか?お金ですか、それとも」

『いいえ、何も頂くつもりはありません。……ただ、これからある場所へご案内致しますので、お越し頂けますか?』

「何もなしに彼女を解放するつもりは、ないんですよね?」

『そこに関しましては、着いてからご説明致しましょう。私の話していることを信じる信じないは

 貴方の自由です。信用できないのでしたらこのまま電話をお切りください。

 ただ、私としては情報がない以上――提示された可能性にしがみつくことをお勧め致しますが』

ただの脅迫ではない。脅迫にしては妙に目的がはっきりしていない。

だがファナリヤを返してもらうには何らかの交換条件があることは間違いなく、今この言葉を信じずに電話を切ればそれこそ望みを捨てることになるかもしれない。

――ならばこの声の言う通り、提示された可能性にしがみつくしか選択肢はなかった。

トラベロの無言をまたイエスととみなし、声は話を続ける。

『では、ルートを説明致します。それに従ってお進みください』

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