第2話 道場、炎上

「えぇっ!? 忍者やめちゃうのォ?」

 高校からの帰り道。いっしょに下校していた昴の幼なじみの少女・根津凛那が素っ頓狂な声をあげた。しかし、昴は彼女をジト目で見つめながら言った。

「……おまえ、そんなに驚いてないだろ」

「うん。だって、何回も聞いてるもん。昴が忍者やめる! っていうの」

凛那はケロッとした顔で言い放つ。

そう、これまで昴はことあるごとに「忍者をやめる」と言い続けてきたのだ。

「でもさ、もったいないじゃない。せっかく家業があるのに継がないなんて」

 まるで忍者道場を和菓子屋か農家のような感覚で言う凛那。昴はあきれた声で反論する。

「家業って言ったってなぁ……よりにもよって忍者だぞ、忍者」

「いいじゃない。子供のころから道場に通ってたから、高校生で資格も持ってるし」

「”望月流忍者・中忍”なんて、どう履歴書に書けって言うんだよ!」

「運転免許とかといっしょに書けばいいじゃない」

 凛那の言葉で昴は思わず、就職試験の面接を想像する。

(「えぇと、望月昴さん。資格のところに、忍者とありますが」「ウチはカルチャーセンターじゃないんですよ」「ふざけないでください」「帰ってください」「帰れ!」)

 ……ダメだ。どう考えてもサラリーマンの資格に忍者はいらない。そう考えた昴は、ますます気が重くなった。

「あかん……やっぱり忍者はやめなきゃ……」

「いいと思うんだけどなぁ。まぁ、先のことなんてわからないんだから、もう少し希望をもったほうがいいんじゃない。だいたい、昴はネガティブすぎるんだよ」

 あっけらかんとした顔の凛那に、昴は言う。

「ネガティブか?」

「うん。ネガティブ」

 断言された。

「まぁ、忍者は影に生きるものだから、ネガティブなのはしょうがないと思うよ」

「だから、忍者はやめるっての!」

「あれ、そうだっけ? まぁ、いいじゃん!」

 そんな話をしているうちに、2人は凛那の家の前に到着していた。

「じゃ、ここで。あ、そうそう。最近運動不足だし、夕方からの稽古に顔を出すから、おじさんにもよろしく伝えておいて! じゃ!」

 凛那は一方的に稽古への参加を告げると、昴の返事を待つことなく扉の向こうへと消えていった。

「うちはスポーツジムじゃないっての……」

 やれやれ、とは思いながらも、昴は凛那のポジティブさにあてられたのか、少し元気を取り戻していた。

「……これじゃ、アイツの思い通りだな」

 苦笑いをしながら、昴は再び歩きはじめた。

 先のことなんてわからない。

 ぐうの音も出ないくらい正論だ。それに、凛那のようにスポーツジム代わりに忍者をやるくらいならいいだろう。

 そんなことを思いながら歩いていると、ふと焚火のようなにおいがした。直後、昴の背中に悪寒が走る。

(……まさか!)

 昴は走り出した。

 決して信じたくはない。けれども、昴は昔から”嫌な予感”ばかり当たることが多かった。

 そして、予感は確信に変わっていく。なぜなら、自分の家に近づくたびに少しづつにおいが強くなっていくのがわかってしまったから。

 家の前についた昴が見たもの。それは、炎に包まれた自分の家だった――。

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鬼斬忍者スバル かつらぎ鶏次 @kulordia

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