Sweet little devil

御剣ひかる

由緒正しい悪魔のエリート、のはずだった

 俺は勢いよく外の世界へと飛び出した。目的は人間界。俺の作戦を皮切りに、我ら悪魔族が支配する世界だ。

 常に雲が垂れ込める薄暗い魔界を出た俺をまず迎えたのは――。

 ま、まぶしい!

 人間界は、まっぴるまだった。いきなり太陽の陽にさらされて、まさに目潰し状態だ。

 前も見えないのでは困る。とりあえず地上に降りて目が慣れるまで休むか。

 手探り状態で、とりあえず地面であろう場所に向かう。

 すると、途中でどん、と何かにぶつかった。そしてその中に入り込んでいく感触。

 しまった。生き物にぶつかったらしい。思いもよらず憑依しちまったぞ。

 一体何に入ったのか。

 ……って、なんだこの体の状態!

 動けるのがやっとじゃないか。これっていわゆる死にかけだ。腹が減りすぎてる。つまり餓死寸前……。

 まずい、まずいぞ。

 これでは作戦の決行が……。




「よいか、おまえの使命は我々が侵攻しやすくなるように、ヤツらを混乱させることだ。大事な役だから心して取り掛かるように」

 事の発端はこの命令。

 俺は人間界への攻撃の第一歩としての大切な役割を言い付かった。悪魔の仲間の中でもようやく認められるようになって来た俺にふさわしい役どころと言えるだろう。

 ここは悪魔が集う魔界と呼ばれるところだ。広大な台地の上空には黒い雲が垂れ込め、いつも暗い世界。あぁ、時々稲光が雲の間を裂いて地上を照らすから、いつも暗いというわけじゃないか。

 人間達には来ることも見ることもできないらしいが、存在は昔から語り継がれているとか。

 悪魔と人間の関係は微妙だ。というのも、悪魔達が一致団結していないところにある。ある派閥は人間との共存を望み、またある一派は侵略を欲する。

 悪魔達が力を合わせて人間界に押し寄せればすぐに決着が着くだろうに、ややこしい限りだ。

 さて、俺の属するのは当然人間など蹴散らし踏みにじって支配すればいいと考える一派だ。たった今、作戦を実行しろと命令がくだったところ。

 そうとなればさっさと向かいたいところだが、ただ闇雲に突撃して行っても効率はよくない。俺はまず人間について詳しく調べてみることにした。

 人間界に詳しいと噂される悪魔に聞きまわったところ、人間界にはいろんな「国」があるらしい。人間界で使われているという地図も見せてもらった。

 俺がターゲットに選んだのは日本という国だ。地図によると一番右端にある国で、隣には大きな大陸がある。まずは日本を落としそこを拠点にするのがいい、と思った。我ながらいい案だと思うぞ。

 さて肝心の作戦だが。

 猛獣に憑依して動物どもを扇動し、人間界をパニックに陥れるぞ。この俺の力を持ってすればたやすいことだ。憑依した者と同化し、意のままに操ることが出来るのだからな。

 憑依する相手は何がいいかな。

 トラやライオンなんてどうだ? 調べによると、動物園というところで見世物にするために人間達にとらわれているらしいな。憐れな虜囚を解放し、野生の獰猛さを刺激してやれば暴れまわってくれるだろう。きっと不憫な思いをさせられているに違いないんだ。人間に復讐するチャンスをやればいい。

 俺の扇動作戦が成功すれば、それをきっかけに仲間達がなだれ込んでくる。一気に人間どもを蹴散らし、我ら悪魔族が人間世界を、まずは日本を支配するのだ。

 この役目を果たせば大規模作戦の立役者として仲間にも上位者にも認められる。いわゆる出世のチャンスというわけだな。

 よーし、まずは動物園を目指すぞ。

 俺は意気揚々と、二つの世界を隔てる結界を抜け出した。




 そして、今、このざまだ。

 人間界にやってきて日光の目潰しを食らい、ナゾの生物エックスに不本意に憑依してしまった。そして生物エックスは死にかけ、ときている。

 俺自身が滅することはないが、憑依したヤツが死ねば俺はかなりのダメージを負って魔界に戻される。作戦どころじゃなくなっちまう。役目を全うしての戦死ならまだほまれだが、憑依した相手が餓死したなどと口が裂けたって言いたくない。

 どうにか食い物を探さなければ。

 改めて周りを見てみる。人間どもの家が立ち並ぶ一角の、空き地になったところだ。

 俺は起き上がった。こいつは四足よつあしだな。

 ほてほてよろよろと歩いて、食い物を探す。が、見事にない。何もない。

 憑依相手の餓死により任務失敗。うわぁ、冗談じゃない!

 と、そこへ偉大なる魔王さまの思し召しか、食い物を持った人間が空き地の前を通りかかる。

 餓死寸前のこいつの脳内情報によると、あれはビニール袋に入ったパン、なのだそうだ。持っているのは人間の男の子供。小学生という部類だそうな。

 なんでもいい、あいつから袋入りパンというのを奪えばいいのだ。

 俺は精一杯の気力と体力を憑依生物エックスに注ぎ込み、人間の子の元へと歩いていく。

 ――おい! その食べ物をこちらに寄越せ!

 俺はありったけの声を絞り出した。いや、絞り出させたというべきか。

 子供はこちらを見てきょとんと首をかしげている。

 ――判らないのかっ。手に持っているパンをこっちに寄越せと言っているんだ!

 俺の魂からの叫びに、子供はぱぁっと顔を輝かせた。

「わぁ~、かわいいいネコだね」

 ネ、ネコ? 何を言う、俺は由緒正しき悪魔の……。

 っと、そうだった。生物エックスに憑依しているのだった。「x=ネコ」という式が成立したな。

 しかしネコか。同じネコ科でもトラやライオンとは大違いだ。

「おなかすいてるの?」

 男の子は手にしたパンを俺の目の前に掲げた。

 よし、チャンスだ!

 飛び掛って奪い取ろうとしたが、爪の先にビニールが触れただけにとどまり俺は地面に突っ伏した。

 くそ、死にかけではこれが精一杯か。

「あははっ、かわいいな~」

 こら、和んだ顔で笑ってんじゃねぇぞ。

「そうだ。うちのほうがいっぱい食べ物があるよ」

 人間の子は俺を抱き上げた。こら、なれなれしくするんじゃねぇぞ。

 逃げようと思ったが力が入らずに、俺はそのまま子供に連れて行かれてしまった。

「ただいまー。おかーさん、ネコちゃんがおなかすいたっ、てー」

「あらあら、りっくん。捨て猫拾ってきちゃったの?」

 りっくん、という子供の家で迎えたのは、もっと大きな人間。おかーさんということは、母親というヤツか。

「うん。とってもおなかがすいてるんだよ。パンあげるの。ミルクもあげていいよね?」

 りっくんが尋ねると、母親はちょっと困ったような顔をして、それでもうなずいた。

「ネコちゃんにはネコちゃんの食べ物があるのよ。今おうちにないから、パンと牛乳より、ちょうど昨日の残りの鮭があるからそれにしようね」

 食べやすいように柔らかくほぐした焼き魚を乗せられて、俺はそれをはいつくばって食べねばならないという、とんでもなく不名誉なことになってしまった。しかしこのネコが死んじまっては俺のクビがやばいので、今はこの屈辱に耐えるしかない。

 ……そして不覚にも、うまいと思ってしまったのだった。

 いや、これはこのネコの思考と繋がっているからだ。そうに違いないんだ。

 食い終わって、床にのびーと横になる。

「まぁ、リラックスしてるわ。可愛いのね」

 母親が笑っている。

 ――そこ、笑うな! 食うのだって体力を使うんだぞ。判ってんのかコラ。

「可愛い声ねぇ」

「ねぇおかあさん。この子うちでかってもいい?」

 りっくんが言う。飼うだと? この俺を飼う? 冗談じゃない。悪魔を人間が飼うなどと身の程知らずもいいところだっ。

 飼われるくらいなら出て行ってやる、と思ったが、二、三歩歩いたらとっても疲れてしまった。

 ……ここは、面倒を見させて体力をつけたほうが得策か。そうだ、飼われるのではない。高貴なる俺の世話を見させるのだ。ありがたく思うがいいぞ人間。

「そうねぇ。お父さんがいいって言ったらね」

 母親はおっとりとした声で答えた。

 お父さんというのは父親のことだな。そいつが飼うなというと外に放り出されるということなる。

 むむ。このネコが死んじまっては困る。ここは俺様の魅力で父親を魅了するしかないな。そして下僕として俺の世話をかいがいしくさせるのだ。

「ねぇ、このネコちゃんきれいにしてあげようよ。きたないよりきれいな方が、おとうさんもかうって言ってくれるよ」

 りっくんが俺を指差す。

 俺が汚いだと? あぁいや、このネコのなりか。まぁ餓死寸前の野良猫だからな。汚れていても不思議じゃないか。

「そうねぇ。じゃあ、おかあさんが洗ってくるわね」

 母親がまたおっとりと応えた。

 この調子ならさぞ心地よく洗ってくれるのだろう。下僕なのだから当然俺の気持ちいいようにしなければならないのだがなっ。

 ……だが、俺の期待はあっさりと裏切られた。この母親、あんなにおっとりしているくせに、行動はやたらと荒っぽい。

「汚れ、なかなか落ちないわねぇ。もうちょっとしっかりこすらなくちゃ」

 ――ぎゃーーー! こらっ、もっと丁寧にしろっ!

「ほらほら、暴れないでねぇ」

 ――ちょ、くすぐったいっ。

「あらあら、気持ちいいの?」

 ――ち、ちがっ、そこ、やめっ。ぎゃははははははははははっ!

「くねくねしちゃって、よっぽど気持ちいいのねぇ」

 ――貴様っ、覚えてろ! 人間を滅ぼす時が来たら、貴様を真っ先にやってやる!

「はい、おしまいよ」

 水気を拭かれて、水の出る場所、風呂場というらしいな、そこからぽいと外に出される。

 俺はもうへとへとで、床に突っ伏した。

 ごろんと仰向けになると、うわ、斜め上に猫がいるぞっ。なにこっち見てやがるっ。

 威嚇の意味をこめて睨みつけ、手であっちいけとやると、そこにいる猫も同じしぐさをした。

 ……ん? これ、俺か。

 白をベースに茶色と黒のぶちがある子猫だ。ちびっちゃくて、体も足もやせ細っている。

 あぁあ、なんてよわっちぃのに憑依しちまったんだ。我ながら情けないぞ。

「ネコちゃーん。わぁ、きれいになったね」

 りっくんが俺を抱き上げてさっきの部屋に連れて行った。

「これできっと、おとうさんもかっていいって言ってくれるよ」

 そう言いながらぎゅっと抱きしめてくる。

 えぇい、放っておいてくれ。おまえなんぞと馴れ合う気はないからな。

 俺はりっくんの手をするりと抜けて、部屋を出て行った。

 とんでもなく疲れた。夜までのんびりできるところで眠るとするか。

 りっくんに見つからないように外に出て、塀の上で丸まった。


 夜、お父さんとやらが帰ってきた。その頃には俺も家の中に入って休んでいた。りっくんは「しゅくだい」というものがあるとかで忙しくしていたからこちらには来なかったのだ。

 りっくんが俺を――正確にはネコをだが――飼っていいかと聞くと、父親はじぃっと俺を見た。

 ――な、なんだよ。文句あるのかこら。

 一声鳴いて威嚇したが、こいつ、何を思ったか笑いやがった。そしてマジメな顔になってりっくんをじっと見て言う。

「動物を飼うというのは、おまえが思っている以上に大変なことだよ。ちゃんと面倒見られるか?」

「うん。ぼくこの子だいじにするよ」

「……それなら、飼ってもいいよ。今言った言葉、忘れちゃだめだぞ」

 父親のお許しに、りっくんは飛び上がって喜んだ。

 よし、これで当分食いっぱぐれることはないな。人間どもよ、おまえたちは自分を滅ぼすものを助けたことになるのだ。後悔させてやるからな。せいぜいいい気になっているがいい。

「りっくん、この子に名前をつけてあげたら?」

「うん。じゃあ、ミケ」

 ミケだとぉ? なんだその貧弱で安直な名前はっ。

「ブチとどっちにしようかなって、まよったんだけど、この子かわいいから、ミケにする」

 ――だあぁ、もっとカッコイイ名前にしやがれっ!

「まぁ、ミケちゃん気に入ったのねぇ」

「みたいだな」

 母親がころころと笑う。父親もうなずいた。

 ――違うっ! 断じて違うぞっ。

 俺は一生懸命に抗議の声をあげたが通じなかった。

 くそ、悪魔族侵攻のあかつきには、この一家、まとめて滅ぼしてくれるわっ!


 そして一週間が過ぎた。

 りっくんが学校から帰ってくるまではのんびりとできるが、昼からはもうヤツとの戦争だ。

「ミケー。遊びに行こうよー」

 えぇい、やかましい。毎日毎日おまえに付き合ってられるか。

 りっくんが探しに来たが、物置にこっそりと隠れてやり過ごした。やがてあきらめて外に遊びに出て行ったようだ。これでしばらくは安泰だな。

 この一週間でミケの体力はかなり回復した。りっくんにいじくりまわされて疲れなければもっと早くに回復出来たろうに。

 ネコじゃらしを振って誘われると逆らえないし、撫でられるとつい喉を鳴らしてしまう。これぞネコの性。これがまた気持ちよくて……。

 い、いや、気持ちよいと思っているのはミケだ。俺じゃない。

 ……まぁそんなことはどうでもいい。

 そろそろ、ここを出て行ってもいいだろう、と考えた。これだけの体力があれば野良猫としてもやっていけるだろう。それに、これ以上ここにいると、ミケの意識がここに執着してしまう。もちろんこいつを支配しているのは俺だから抑え込めばいいのだが、そのために余計な気力を使わねばならないのはやっかいだ。

 よし、りっくんがいない間にこっそりと出て行くか。

 俺は物置から出て、そのまま庭と外を隔てる塀をひょいと超えた。

 ……ちょっぴり寂しさを感じる。だがこれはミケの気持ちだ。やはり早いうちに出て正解だ。

 さて、人間界にやってきた大目的である動物扇動のために、動物園を目指すか。この近くにあるはずなのだ。そこらの動植物から聞き出すのもいいし、できるならカラスなどの野鳥に憑依してもいい。憑依を繰り返すと魔力を大量に消費するからあまり頻繁に乗り換えることはできないが、猫よりは鳥の方が便利だろう。空から動物園を探すのもいい。

 百メートルかそこらか、歩いたところで飼い犬が庭につながれているのに出会った。

(おい、動物園がどこか知っているか?)

 犬に問いかけると、あっさりと場所を教えてくれた。ここから一キロぐらいあるらしい。この家の裏手の山を通っていくと近道だとか。

 ふふ、よくぞ有益な情報を渡してくれた。おまえは悪魔族がここを支配することになった時には、優遇することを約束しよう。

 さぁ、いよいよ動物扇動作戦の開始だぞ。気を引き締めていかねば。

 山には当然だが木々がうっそうと茂っている。だが予想外なことに、獣道と呼ぶにはもうちょっとしっかりとした通り道がある。人間どもが利用しているのだろうか。山の中に入ると、それまで燦々と降り注いでいた太陽の光がさえぎられ、途端に薄暗く感じる。空気もひんやりとしていて、思わずぶるっと震えた。

 ミケが寒いと訴えかけてくる。ええぃ、これくらいガマンしろ。おまえは崇高な作戦に立ちあえるのだぞ。誇らしく思え。

 二分ほど歩いた頃、奥の方になにやら気配を感じる。これは生きているものではないな。……下級な霊どもだ。この先に連中のたまり場があるのだろうか。

 まぁそんなことはどうでもいいか、と足を進めた時、唐突に後方から甲高い男の子の声が小さく響いているのが聞こえた。

「むこうの池にザリガニとかいっぱいいるんだって!」

 そんなことを言い合っている。うきうきした雰囲気が近づいてくる。

 ここで見つかって、また「かわいいネコだ」とかまわれたりして厄介だ。俺は木の上に上って子供達をやり過ごすことにした。

 しばらく身を潜めていると、網や釣竿、小さな水槽を手に三人の男の子が通り過ぎてゆく。

 ん? あれは。

 男の子の真ん中は、りっくんだ。この先の池に行くのか。

 そっちに行ったら、下級霊たちの餌食になるんじゃないか?

 だが俺には関係ない。どうせもうすぐ悪魔達に支配されるのだから。

 しかし、なんだ、このもやもやした気分は。そうかミケか。ミケがりっくんを案じているのだな。だが関係ないぞ。俺は誇り高き悪魔だ。人間なぞ助けたりしない。

 そうこうしているうちに、りっくん達は池の方へと向かっていく。

 気配が、ざわめいた。下級霊どもが獲物を見つけたと色めき立っている。

 ……ふん、下等なもの同士でちょうどいいじゃないか。

 俺は動物園へと向かおうとした。

 池のほとりで、りっくんたちが魚を取ろうとしている。そこへあまたの霊が集まっていくのが見える。まさに有象無象だ。

 俺を助けたあげくに、霊に取り込まれて終わりか、あわれだな。まぁそれも人間の定めというものだ。

 ……定めか。

 いや、それが定めだなんて納得できない。俺を助けたモノは、俺に滅ぼされるべきなのだ。そうだ、あいつら一家を真っ先に滅ぼすと決めたではないか。あれは俺の獲物だ。あのような下等な連中に俺のモノを取られてたまるか。

 今にもりっくんにとり憑こうとしている霊に向かって、ジャンプ。華麗に爪でひと裂きにしてやった。

「……あれ? ミケ?」

 りっくんがこちらに振り返って呆けた顔をしている。そこ、どけ。邪魔だぞ。

 次々にやってくる霊どもだが、俺の敵ではない。鋭い突きでしとめてゆく。

 ふふん。貴様らごとき、俺の敵ではない!

「なんか、じゃれてるねー」

「あれ、ネコパンチって言うんだぞ」

「あはは。一人でおどってるみたいだ」

「ネコは一人じゃないぞ、一匹だ」

 ――やかましいガキどもが! 誰が護ってやっていると思っているんだ!

「あ、ないた。かわいいよねー」

「ぼくのじまんのネコなんだよ」

 ――こら、誰がおまえのものになった! おまえが俺の獲物だろうが!

「いいなぁー。ぼくもネコほしくなってきた」

 ――えぇい、俺はネコじゃないってのに。

 悪態をつきながら、俺は周りの霊をすべてやっつけてやった。

 ……と。

 うぉ。からだが……。

 しまった! 霊どもを相手にして魔力を使いすぎたかっ。

「あれ? ネコがのびたよ」

「あそびつかれちゃったんじゃない?」

「ミケ、だめじゃないかこんなところでねちゃ。ぼくがつれてかえってあげるよ」

 りっくんが俺を抱き上げた。

 ああぁぁ、なんてこった! これじゃまたしばらく安静にしていないといけないじゃないか!

「おとなしくしていようねー。ぼくのベッドでいっしょにおひるねしようか」

 りっくんが頬を摺り寄せてくる。

 あったかくてふにふにしてるな。

 はっ。思わず喉を鳴らしちまった! ち、違うぞ、これはミケの反応だからなっ。

 ――くそぅ。次に魔力が回復した時にこそ、まずはおまえから支配下においてやるからなー!

 俺の叫びはミケの泣き声となって、弱々しく響くだけだった。


(了)

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