intermission6:海底で眠る

 朝早く――いつもなら眠りにつく時間に、シャートはマントに身を包んで塔を出た。今朝早くに落ちた少女の星の、遺族のもとへ説明に行くと言う。少女の星はなぜか海へと落ちた。シャートだけがその真実を知っているようだ。

 本当なら、星拾い人でもこんなことはしない。けれどシャートがそうしたいと言うのなら。僕はただ黙ってシャートの隣を歩いていた。




「マイアさんの星は、自ら海へ落ちました」


 村の中でもひときわ大きな家に住む恰幅の良い男性と女性は、そら見たことかとでも言いたげに顔を歪めた。

「まったく、病人のくせにしぶとく生きていると思ったらこれかい! 本当にいい恥さらしだね! この間の、罪人を匿っていたってことだけでも恥ずかしいっていうのに」

「純情な顔をして、いい性格したもんだ。一人で何していたんだかね。一族から罪人が出たなんて恥ずかしくて話せたもんじゃない」

 少女の死を欠片も悼んでいないその様子に、僕は眉を顰めた。むしろ死んでくれて清々する――早く死んでほしかったといった雰囲気ですらあった。シャートが何一つ説明をしないうちから、こいつらは故人を罪人だと決めつけている。

「だいたいね、もとから気味の悪い子どもだったんだよ。死ぬ少し前の頃なんて、こっちが何を話してもうんともすんとも言いやしない。ただぼーっとしているだけでさ」

 病人であったはずの姪を、そんなひどい言葉で語るとは。本来ならば体調を気遣ってやるべきだろうに。

「……マイアさんは、罪人ではありませんでした。だから私は自ら海へ落ちた、と申し上げたんです」

 シャートが平坦な声で告げると、夫婦の顔は固まる。

「それだけ、お伝えするために来ました。彼女が罪人でしたら、わざわざ説明にくる必要はありませんから」

 ぺこりとシャートは頭を下げて、すぐにその場を去る。僕も何も言わずに彼女の後を追った。亡くなったマイアさんが何を思ったのかは計り知れないが、あんな遺族のもとに届けられるよりは海の底に落ちた方がしあわせなのかもしれない。

 あの夫婦のもとへ行く前に、彼女が住んでいたという家を訪ねた。遺体はまだそのままで、眠るようにベッドの上に横たわっていた。人にうつる病を患っていたと夫婦は説明していたそうだが、本当だったのだろうか。あの夫婦の様子から、そんな疑念が浮かぶ。僕には、病を理由にマイアさんからあらゆるものを奪い、あの小さな家に追いやったように思える。

「……シャート」

 胸のうちに湧き上がるなんとも言いようのない気持ち悪さを和らげるために、前を歩く少女を呼ぶ。シャートは振り返らずに、立ち止まった。

「いいの」

 凛とした声は、怒りを孕んでいるようにも聞こえる。

「私たちが本当のことを知っているから、いいの」

 それ以上は何も語らないと言いたげな様子に、僕は黙って空を見上げる。青空は星を映し出さない。なんだか切なくて、目を閉じた。水底に眠る二人には届かない空の色。冷たく真っ暗な世界の中でも、彼女たちはしあわせなんだろう。二人、ぬくもりを分け合えるのだから。

 何も語らないかわりに、僕はシャートの手を取る。ぬくもりはじわりじわりと僕の手に染み込んで、それがなんだかすごく切なかった。



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