第59話
「それは本当のことなのか」
「はい。たしかに聞きました。」
「本当に自分で書いてないものを出そうとしているのか。」
「そういうことになります。」
ある男子生徒からの密告は担任の私には驚きでいっぱいだった。
だが数秒後に容認しなければならないという感情が遅れてやってきた。
彼女には理由がある。
だからと言って、ルール違反に近いことを平気でやらせるのもよくない。
「あの、先生?大丈夫ですか。」
生徒に言われ、ふと現実に戻る。
「あ、ああこのことは誰にも言わないでくれ。下手に他の人に知れたら誤解を生みそうだ。」
「で、どう対応するんですか?この件については。」
詰め寄る男子生徒は口角が緩みそうなのを必死に耐えている。
「彼女には...その...。
まだ詳しくはわからないが、しっかりとした対応を取るつもりだ。」
言い澱みながらも返答した答えが内容のないものとなってしまったことに苦笑いするしかない。
それを見かねた校舎がチャイムを鳴り響かせる。
「僕もう行かなきゃいけないです。」
ぎこちない笑顔で立ち上がる。
おそらく彼は首をとったような、そんな気持ちだろう。
誰かが失敗したところをみると嬉しいかもしれない。
「先生は冬木さんの味方なんですね。」
訂正できずに一礼され、彼は職員室を出て行った。
味方になんてなれないよ。
どっちとも。
もじのおはなし、いとおかし ゆまみ @yumami
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