第58話
入試は刻々と酷に近づいていた。
テストの結果を破られてからは、母親の目線はますます厳しくなった。
そして僕の成績は右肩上がりとはならず、地平線のように変化がなかった。
このままでは地に落ちてしまう。
もう日常となってしまった胃の痛みを抱えつつ、朝の教室へ向かう。
角を曲がった先に、ちょっと前まで思いを馳せていた冬木が廊下の端で僕を脅した奴と喋っている。慌てて角に身を隠す。様子を伺うと、二人とも冬木の持っている紙に注目していた。
聞き耳をたてると、どうやらその紙は作文の用紙でこれからの夢など希望だのが綴ってあると話していた。
「自己推薦文をね、弟が頑張って書いてくれたんだ。」
「嬉しく喋るなよー。ウチまだ何も準備してなくて、やばいんだって。」
「ごめん。これは人に話すことじゃなかった。」
と紙をバッグにしまう。
おそらく話題はこれからのこと、入試のことだろう。自己推薦文はそんな時にしか使わない。
他人に書いてもらった文書を使うのか。
そしてそれは、不正入試になるのでは。
僕の胃がまた音を立てて形を変えた。
先生に言ってやろう。
僕の頭はやけに回転していた、自分の胃のわだかまりのために。
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