第10話 総理大臣記者会見
平成32年8月1日 桐生総理大臣記者会見より抜粋
【桐生総理冒頭発言】
国民の皆さん、伊福部総理行方不明により内閣法第九条にもとづいて内閣総理大臣となりました桐生正尚です。
まずは、先日のB―25爆撃機による爆撃の犠牲者に黙祷を捧げたいと思います。
(三分間の黙祷)。
……この度憲法九十八条、および九十九条、いわゆる「緊急事態条項」による緊急事態を宣言するにあたり、国民の皆様に詳細を説明させていただくべく、このような記者会見を設けさせていただきました。
今回の爆撃機はどこから来たのか、そしていかなる意図で日本の首都である東京を襲撃したのか。政府の情報分析では――いささか信じがたいことではありますが――沖縄及び石垣島等の南西諸島を除く日本列島が昭和17年、西暦1942年、つまり日本とアメリカをはじめとする連合国が戦争状態にあった時代に転移したということであります。
つまり、日本上空に現れた爆撃機は、この時代の米軍に所属する爆撃機ということになります。これに対し、日本は憲法上も許容されうる自衛権を行使し、この爆撃機を迎撃しました。
なお、情報収集衛星撮影の写真によると、ニューギニア方面をはじめとする世界各地で旧日本軍らしき武装勢力と連合国が戦闘状態にあることが確認されております。
現在、政府はこのような戦争状態を解決すべく、あらゆる手段を通じてアメリカ合衆国政府に停戦を呼びかけております。
しかしながら、現在アメリカ側が停戦交渉に応ずる返答はありません。
(中略)
政府としましては同盟国であるアメリカと戦争をする意図はまったく無く、今後も停戦実現に全力であたる所存であります。しかしながら、今後も今回の爆撃のような攻撃が合衆国軍によって行われる可能性は否定できません。
そこで、与党総裁の立場としましては憲法9条の改正の是非を、国民に広く議論していただきたくお願いするものであります。
憲法9条を保持したまま大国アメリカと戦うのは、両手を縛られたままで暴漢に立ち向かうようなものです。
今回の爆撃を止められなかったのも、憲法9条で『国の交戦権はこれを認めない』とする条文に縛られ、国際的には常識である領空侵犯をした軍用機を撃墜するという主権国家として当然の対応が出来なかったためであります。
自衛官は持てる力を尽くして国民の負託に答えたと考えておりますが、敵に攻撃されてからはじめて正当防衛としての反撃が可能というのが実情です。
そこで、国難を乗り越え、国民の生命と財産を守るためには、時代に合わない憲法条項は改憲されるべきなのであります!
(大きな拍手と怒号)
戦後まもなく制定された現行憲法には国民を国内外の脅威から守るという国家の存在理由たるべき条項がありません。唯一、憲法前文に『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』とだけあるのであります。
これは、国民の安全と生存を『平和を愛する諸国民』なる架空的存在に付託し、自分の国は自分たちで守るという、自主独立を
そのような憲法の欠陥を補う改正を行うべきは、今であります!
(再び拍手と怒号)
もちろん、日本国憲法は国連憲章と対になるかたちで形成されたものであり、国際法に認められる自衛のための戦闘は「国権の発動たる戦争」に含まれないというのが政府による憲法解釈であります。
ただし、その解釈は未だ国民に定着したものとはいえません。
やはり憲法典の文言を誰にとっても分かりやすく、また誤読のしようのないシンプルな条文に改正すべきなのであります。
今後は与党内で速やかに議論を行った後、国会に憲法9条の改正案をただちに提出。この国難を乗り切る所存でございます。
本来時間をかけて議論せねばならない事項ではありますが、目の前に脅威が迫りつつある今、残された時間はあまりに少ないことをご理解いただきたい。
私からは以上であります。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、皆様からの質問をお受けいたします。質問をされる方は所属とお名前を明らかにされた上でお願いいたします。
最初に幹事社から質問をお受けいたします。どうぞ。
(記者)
幹事社のNHKの瀧本です。
まず、無条件降伏ならびに武装解除をすべきであるという、国民の意見をいかがお考えでしょうか。
(桐生総理)
無条件降伏というのは考えるべきではないというのが、政府の考えであります。
なぜならば、第一に日本国はいかなる侵略行為も行っておらず、無条件降伏をするべき状況にないということであります。
また第二に、先ほども申しましたように海外での日本軍と連合国との戦闘が続いており、この戦闘を停止させなければ連合国側は降伏を実体あるものと認めないであろうからであります。
第三に無条件降伏によって日本本土が占領を受けた場合に予想される被害であります。かつての占領期において連合国軍将兵が婦女暴行事件を多数起こしていることは歴史上の事実であります。
特に沖縄県におきましては、沖縄戦のさなかから無視できない数の強姦事件に関する信頼に足る証言が、ほかならぬ合衆国のメディアにおいても散見されるのであります…
(後略)
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