侵入者


侵入者


 真夜中。自室のパソコンが起動し、モニターに監視カメラの映像が映る。

 侵入者を告げる合図だ。

「どんな状況だ? 林檎」

 すぐさまハウスメイドに連絡をする。

「外部電力が切れ、システムダウン。内部電力に切り替え済みです。進入されたのは確かですが、姿が確認できません」

「動物か?」

「それは無いかと。人間でもなさそうです。かなりの手練れかと思われます」

「アンドロイドか・・・・・・傭兵関係か・・・・・・何体だと思う」

「申し訳ありません。それも把握できません。ただ、屋敷内にはまだ侵入されていないはずです」

「中には入らせるなよ」

「承知しております」

 会話中モニターを眺めていたが特に変化は見られなかった。

 庭にある迎撃装置も作動していない。

「やけに静かだな」

「念のため地下へ避難を」

 俺は椅子から立ち上がった。

 それと同時に外からモーターの回転音がする。

 モニターを見ると家等を壊す重機が猛スピードで門を破壊しながら突っ込んできた。

「マジかよ」

「マジですね」

「システム復旧して破壊しろ」

「了解しました。システム復旧まで残り三十秒」

「玄関が壊れるかどうかだな」

 会話中も重機は庭の噴水や花壇に隠れている監視カメラや迎撃システムを破壊しながら玄関に向かってくる。

「新たなエンジン音を確認」

 林檎が淡々と言う。

「今度は何だ?」

「装甲車です」

「強行突破するするきか。今回の派手な連中だな」

「システム復旧レーザーの許可を」

「許可する」

 俺の声とほぼ同時に庭が明るくなる。レーザーが重機を溶かし始める。

 しかし、重機は崩れながらも玄関を破壊しドデカい穴を開けた。

「玄関がやられたな」

「早急に地下へ避難してください」

 レーザーは未だ重機を溶かしている。

 そのタイミングを狙っていたようで装甲車が玄関目掛け飛び込んでくる。

 レーザーは重機だけでなく装甲車にも放たれた。

 装甲車は玄関前で半分になりエントランスで爆発をする。

 爆発大破した装甲車から破壊を免れた四体のアンドロイドが姿を見せる。

「侵入されました。四体です」

 林檎が報告してくる。

「見てるからわかってる。地下に降りるのは無理だな」

「別経路から避難できるはずです。私は迎撃に向かいます」

 四体は周囲を警戒するかのように見渡すと散り散りに行動を開始した。

 一体はエントランスに残っているがそこに林檎が対峙する。

 ハンドガン方のレーザーガン二丁を侵入してきたアンドロイドに向けすぐさま引き金を引いた。

 光の弾は電気エネルギーを凝縮したもので当たればその部分が高温になり溶ける。射程距離は約二十メートル。近ければ近いほどダメージは大きくなる。

 避ける事無く撃たれるアンドロイドは林檎に向かって溶けながらも突進する。

「避けろ! 自爆型だ!!」

 林檎は一歩踏み込むと、突進してきたアンドロイドを庭の噴水があった所まで蹴り飛ばし、すかさず発砲する。

 アンドロイドは動きを止めると装甲車よりも激しく爆発した。

 噴水だったものは跡形も無くなり、地面を抉り飛ばし大きな穴になった。

 中心からちょろちょろと虚しく水が沸いている。

 林檎は爆風を防いだ後に二階に向かったアンドロイドを追うためエントランスから庭に出ると窓に向かって発砲した。

 廊下にいるであろうアンドロイドに向かって撃ったようだ。

 林檎はジャンプして二階の窓を割りながら屋敷内に入る。

 発砲音が何度か鳴る。廊下が静かになると走り去る音が聞こえた。

 俺が部屋を出ると穴の開いたアンドロイドが火花を散らし転がっていた。

 アンドロイドが手に握っているのは、電子ブレードのようだ。

 近接戦闘に特化したタイプだったのだろう。

 俺はそれを手に取り電源を入れ刃を出し、動かないアンドロイドを念のため細切りにして部屋に戻った。

「部屋から出ないでください」

 林檎からの通信だ。

「あぁ、うん」

 既に出たので曖昧な返事になってしたまった。

「図書室の方へ向かったアンドロイドを片付けます」

 扉を蹴破る音と同時に発砲音がする。

「伏せてください!」

 俺が伏せると頭上に光線が走る。

「どこ撃ってる!?」

 俺は思わず叫ぶ。

「私ではありません」

 部屋の壁に次々に穴が開いていく。

 光線が止み、先ほどとは打って変って殴打するような金属音が数回響き渡ると静かになった。

「大丈夫か?」

 俺が聞いても林檎からの返事はない。

 壁にいくつも開いた穴の一つを右目で覗き見ると図書室の中に金属らしき粉が舞っている。

 その粉の中ゆっくりと立ち上がるシルエットは紛れも無くメイドの姿だった。

 林檎は俺が覗いている事に気が付いたのか、こちらに手を振ると床に穴を開け下の階へと降りた。

 林檎との通信が出来ないのは金属の粉がチャフの様な役割をしているせいなのか、穴が開くのを免れたモニターに屋敷内の通信機器にエラーが起きていると表示がある。

 離れに向かったであろうアンドロイドを探すため監視カメラ映像を切り替えると、既に林檎との戦闘が始まっていた。

 発砲する林檎に対し、何も武器を持たないアンドロイドは手で光の弾を防いでいた。

 林檎に一歩一歩近づき林檎が思い切り蹴りを入れようとするが、その足を掴まれた。

 それを狙っていたように手の塞がったアンドロイドの顔や体に発砲する。

 しかし、エネルギー弾はダメージを与える事無く触れる寸前で散り散りに消えてしまう。

 無造作に投げ飛ばされるメイドは離れからエントランスまで壁を突き抜け転がった。

 すぐさま立ち上がる林檎に回避する間も無くアンドロイドは突進し、壁に突き飛ばすと殴打した。

 俺はパソコンで庭の迎撃システムのロックをいじり直し、クローゼットから銃を取り出しエントランスに向かった。

 エントランスまでに着くまでも殴打の音が止む事はなかった。

 エントランスに着き一階を見ると片腕が?がれて力なく壁にもたれ掛かっている林檎と、それを見下ろすアンドロイドがいた。

「避難を」

 そういう林檎は立ち上がろうとしていた。

 俺は銃をアンドロイドに向けフルオートで撃つ。

 連続して火薬の弾ける音が止み耳鳴りがする。

 ハンドガン上部のスライドは後退したまま止まっていて銃口から煙が立っている。

 アンドロイドは銃など効かない。銃弾を防ぐ動作も特にせず、全弾を受けた。

 体の一部から火花を散らせているが動くことに支障をきたすほどのダメージを与えることは出来なかった。

 一歩こちらに踏み出すアンドロイド。

 動けなくならなくても良かった。

 これでダメージを与えられるはずだからだ。

 深呼吸し、俺は電子ブレードの電源を入れ刃を出し構える。

 アンドロイドは二歩目を踏み出す事無く突進の構えを取った。

 電子ブレードを振り上げるとアンドロイドは床を沈ませ突進してきた。

 俺はブレードを振り下ろす事も出来ずアンドロイドの壁の間に挟まれる。

「マスター!」

 林檎の声が静まり返ったエントランスにこだました。

 ゆっくりと立ち上がり林檎が歩き始める。

「それ以上こっちに来るなよ林檎」

 俺は覆いかぶさっているアンドロイドの上半身を退けて立ち上がりそれを林檎に向かって投げた。

 アンドロイドの上半身は空中で半分になると林檎の前に落ちた。

「不可視帯域凝縮光。見えないレーザー」

「レーザー系のダメージは・・・・・・そのための実弾ですか」

「そういうことだ」

「このご時世によく持っていましたね」

 俺はレーザーがあるであろう位置を潜り林檎に肩を貸す。

「こんなごご時世だからこそだ。レーザーを弾く装置は着いている所から少しの範囲しか未だに防げないから数箇所壊れればよかった」

「破壊できたなら不可視帯域にする必要性はなかったのでは?」

「いや、見えてたら避けられるかもしれないだろ?」

「私をマスターに向かって投げ飛ばす可能性もありましたが」

 こちらの顔を覗き込んでくる林檎。

「おぉ、すまん。その可能性は考えなかったわ。結果オーライだな。さて、地下で腕付け直してやる」

 離れの方をあごで指し移動を促す。

「マスターの腕が先です」

 俺の腕はアンドロイドの突進の勢いを殺す為に受けたダメージがあり火花が散っている。

「まぁ、動くからお前が先だな」

「私も動きますよ」

 片腕だけ動かす林檎。

「いや、片方取れてるから」

「それでも、マスターが先です」

 俺は仕方なしに頷き歩き始める。

「大きいのから小さいものまで穴だらけですね。修繕が大変です。片付けのやりがいもあります」

 やる気を出し始めるメイド。

「床に穴開けた奴が何を言うやら」

「お掃除がんばります」

 ほんの少しだけ反省の色を見せた。

「学校休もうかな」

 俺がポツリと言うと。

「学生の本分は学校に行くことです」

 と、林檎。

「そこは勉強じゃないのか?」

「マスターが真面目に勉学に励むとは思えません」

「確かにな」

 くだらない言い合いをしながら離れの戸を開いた。





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アンドロイド(仮) 二月 赤猫 @kisinnta

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