4.

 の脳裏に、切れ切れのノイズが浮かぶ。


 それははじめ、意味をとらない音素の塊だった。彼の脳はすでに甚大なダメージを受けており、音素を意味あるものとして変換し理解する機能を失っていた。

 しかし、閾値を超えた脳の損傷をトリガーにして、彼の脳に寄生した生体機械群バイオマシンは起動する。それは過負荷に焼き切れた脊髄視床路と中心後回――そして前頭前野に触手を伸ばすと、死滅した脳細胞を喰らい、記録した彼自身の脳神経パターンを模倣しながら、脳の再構築を行ってゆく。それは脳話セレフォンの転送機構に擬態した、この機械群のもうひとつの……そして機能。

 やがて彼の意識の中で、音素が記憶野の情報と統合され、意味のある文脈として認識されはじめる。


「……%2#$だと? なんでいまさら……」


 声は、彼のかつての友人だった男のものだった。

 後悔にまみれた口調で、彼はひとりごちている。


「クソッ。上は何を考えてやがる。これじゃ、俺が友人を無駄死にさせただけじゃねえか」


 彼の脳内を電位が駆け巡り、やがて一つの感情が発火する。

 それは驚き。

 あれだけ残酷な仕打ちを笑顔で行っていた彼が、今更になってその行為を悔いている……その事実に対する純粋な困惑。

 だが、この男――ガビマルの言動は、事情さえ知っていれば、驚くにあたらない。

 都市管理機構の人員は、機械知性からの命令を実行する時には行為と感情とを切り離すよう動機付けされている。簡単に言えば、ガビマルは彼に真に友情を感じ、申し訳ないと思いながら、躊躇無く残酷な拷問を実行できるのだ。

 もちろん、罪悪感が本人の勤務意欲に有害なレベルと見なされれば、それは自動的に受容可能なレベルにまで制限される。情動操作に本人が気付くことはない。ガビマルにとって、自らの行いは全く無矛盾で、業務上必要なことを遂行していると感じられている。

 だが、何も知らない彼にとっては、ガビマルの言動は不気味に映るのだろう。脳のストレスが急速に増大していくのが分かった。

 やがて、彼の身体感覚が戻ってくる。

 平衡感覚が機能し、彼は自分が平板な板の上に仰向けで寝かされていることに気付く。背中越しに伝わるわずかな振動。どうやら、どこかに運ばれているようだ。手足は相変わらず縛られており、目には覆いが被せられている。しかし、頭にはあの機器――脳波を読み取り、適切な苦痛を与えるという拷問装置はつけられていない。


 ストレッチャーが停止し、足元――つまり進行方向の側で、ドアが横滑りする男が聞こえた。目隠し越しにも、うっすら光を感じる。どうやら部屋に入ったようだ。

 彼の耳元にガビマルが口を寄せ、囁いた。


「悪いことをしちまったな、キジマ。クマソの逮捕命令が取り消された。上でどういう取引があったのかは分からねえが……もうお前の拷問を続ける理由もなくなったってわけだ。ったく、もう少し早くに決めてくれりゃ、お前とメシでも食いに行けたのによぉ」


 彼の心が急速に強張った。ガビマルは、彼が既に廃人になったと思い込んでいる。それが事実ならば(事実そうなのだが)、もうこれ以上危害を加えられることはない。捜査対象から外された今、彼は単なる一市民で、管理機構の協力者なのだから。だが一方で、彼の心にはガビマルに対する芯からの恐怖が染み付いていた。ともすると、この言葉もまた、何かの罠なのかもしれない……。だから当然、彼は返事をするという愚を犯すことはなかった。

 どちらにしろ返事をするのは無理なのだが、その選択は正解だ。あれだけの拷問を受けて無事でいたことが知れたら、不審に思ったガビマルは彼を再び検査にかけ、それが生体機械群バイオマシンの仕業だとすぐに気付くだろう。そうなれば、彼は再び身柄を拘束され、今度こそ二度と出て来られまい。

 彼の緊張には気付かず、ガビマルは続ける。


「お前はあの日、『品評会』の襲撃に協力したが、警備員らに予想外の銃撃を受け、頭部に傷を負った。管理機構の技術によって外傷の修復が行われたが、記憶や経験といった高次機能の再生医療は倫理上許可されておらず、未だ意識レベルは回復していない……」


 彼の背筋が寒くなった。ガビマルが喋っているのは、カバーストーリーだ……キジマが廃人になったその経緯を歪める、広報向けの物語。


「彼は今も、病院で眠り続けている。回復の兆しはない。管理機構は彼の勇気と自己犠牲の精神に敬意を評し、彼とその親族に、第二等級市民の資格を与えるものとする。彼自身の処遇については、二つの道が用意されている。一つ、死亡したものとして、葬儀を執り行う。二つ、管理機構の標準人員の人格をインストールし、我々の一員に加わる。生前の功績により、彼にはガビマル二等管理員の補佐のポストが用意されている。もちろん、親族の意向を聞いてからの話だが……まぁ、十中八九、選ばれるのは後者だろうな」


 なぜわざわざそんな事を自分に聞かせるのだろう、と疑問に思う間にも、彼は手足の拘束を外され、軽々と持ち上げられ、ふわりと柔らかい布地の上に移される。視界を塞いでいた覆いがとられ、瞑ったままの目を眩い発光が差した。彼は思わず顔をしかめた。……その動きで意識が戻っていることがバレるのではないか。そんな恐怖を彼は咄嗟に感じたが、ガビマルは一連の動きをただの反射と受け取ったようだった。


「親御さんも、お前が都市のために働くとなれば、きっと喜ぶだろうさ。次に会うときは上司と部下……そうなることを期待してるぜ、キジマ」


 ドアが閉まる音。遠ざかる足音。

 彼の安堵が伝わってくる。ひとまずの窮地は脱したようだ。

 だが、まだ油断は出来ない。

 彼は予想する。この部屋にも、きっと監視カメラの類が仕掛けられているはず。

 通常の上級病棟であれば、余剰なカメラ、センサー類は室内から排除され、患者のプライバシーは保たれる。法外な料金を支払う富裕層に限っての話だが……。

 だが、ここはガビマルら都市管理機構が隠蔽のために用意した病室だ。逆に通常よりも多くの監視機器が設置され、彼の行動を四六時中モニターしていると考えて間違いないだろう。


『だとすれば……』


 彼は再び自問する。


『だとすれば、既に自分が意識を取り戻していることに、彼らは気付いているのではないか?』


 病室にあるのはカメラだけではない。呼吸音・体温・心拍数・血流量……ベッドを含め、ありとあらゆる部分にセンサー類が設置され、患者の身体情報を伝え続けているはずだ。何らかの異常――この場合は、彼が正常であることこそが異常なのだが――があれば、すぐに管制センターに伝わることになっている。

 彼は再び緊張し、全身の感覚を研ぎ澄ます。病院の人が駆け込んできたら、あるいはガビマルが現れたら、どうすべきか。行動のシミュレートが彼の頭を高速で駆け巡った。悲しいことに、どれも絶望的な結末に終わっていたが。

 ……予想に反し、そのまま五分が経ち、十分が経っても、何も起きなかった。彼は安心するどころか、ますます混乱する。

 一体どういうことなのだろう。本当に監視の目を外れたのか? いや、やつらがそんな手抜かりをするとは思えない。安心させておいて、泳がせたところを再拘束するつもりなのかも……。

 じりじりとした逡巡は、堂々巡りの果てに、結局「様子見」という結論に落ち着く。その間も、病室を人が訪れる気配はない。

 彼の異常が検知されないのは、生体機械群バイオマシンがそう擬装しているからだ。彼の感情は、身体情報にフィードバックされないようになっている。緊張しても彼の心拍数は増えないし、背筋が総毛だったような感覚はあっても、実際に毛穴は開いていない。思い浮かべたが身体イメージを幻覚しているだけだ。

 彼の肉体は今や、思考の容れ物にしか過ぎない。

 緊張のまま、身じろぎもせず過ごした数十分。

 そしてついに、再びドアが開く。


『来たか』


 彼は心をこわばらせる。


『たとえ無為に終わっても、やるだけやってやろう』


 そんなことを考え、神経を張り詰める。

 人影は、キイキイと音を立てる何かと共に、ベットサイドへとゆっくり近付いてくる。やがてそれはしゃがみこみ、彼に顔を寄せた。


『今だっ』


「安心してください、私は味方です」


 飛び掛ろうとしたその瞬間、男の口から思いがけない言葉が発せられた。

 男の顔を見た彼の情動が、もし肉体へとフィードバックされていたとしたら、彼の瞳孔は大きく開かれ、心拍数は跳ね上がっていたことだろう。彼の思考が一瞬空白になり、それから雑多な呟きが、まとまりきらないまま嵐になって吹き荒れて伝わってくる。

 その男の言葉が意外だったこともある。口調もだ。慇懃な口ぶりに隠されていたはずの尊大さは、綺麗に消えうせていた。


「色々と辛い思いをされたでしょう。長い間お迎えに上がれず、申し訳ありません」


 その表情も、かつてとは全く異なっていた。柔和にたるんだ頬。穏やかな目の光。どこか卑猥な気配が漂っていた顔は、今やすっかり名士と呼ばれるにふさわしくなっている。

 戸惑う彼をよそに、男は彼を抱え上げ、押してきていた車椅子に座らせる。抵抗を試みた彼は、そこではじめて、自分の体が思うように動かせないことに気が付いた。


「戸惑っているでしょうね。移動がてら、全てをご説明しますよ」


 その男、熊襲出彦は、彼の能面のような顔を見て、穏やかに微笑む。

 

 

 

「彼女ほど藝術に真摯な人はいません。いや、と言うべきでしょうか」


 自動運転の車の中。クマソは彼と後部座席に並んで座り、饒舌に話す。彼は黙ってそれを聞いていた。そもそも、体を動かすことも、口を動かすこともできない。

 自身の体に起きた異変、クマソの変貌、そして車の行き先――彼の脳裏にはいくつもの疑問が乱立していたが、クマソの口から出た「彼女」という言葉を耳にしたとたん、意識は彼の発言にフォーカスする。


「彼女はバイオ企業大手であるスナドリコーポレーションのご令嬢として生まれました。否、身代わりとして、ですかな。彼女は、若くして亡くなった社長夫人の再構成体クローンでした。もちろん、法的に許可されてはいません。だから彼女のお父上は、我々を、クマソコンツェルンを頼った。死者をそのまま復活させては怪しまれるため、便宜上娘という体裁をとっていましたが……彼女は生まれながらに、父の妻となり、子を産むことを宿命付けられていたのです」


 その話、どこかで聞いたことがある……。記憶がフラッシュバックする。そうだ。ガビマルだ。『あいつは信用できねえ』苦々しげな口調と共に語られたゴシップ。


「しかし、その願いは叶わなかった。彼女は妊娠する機能を失ったのです。思春期の頃、彼女はとある藝術運動に密かに身を投じていました。反カリス派――『人間派』。この品評会の成立前、無軌道に過激化の一途を辿っていた数々のグループ。その一つに彼女は参加していた。それは与えられた宿命をカリスになぞらえての、反抗でもあったのでしょう。ともかく、彼女は彼らに混じり、滅茶苦茶に合成された薬物を手当たり次第に使い、作品と称して自らの体を痛めつけた。そして」


 やめろ。聞きたくない。

 そう心中で叫ぶ彼の言葉は、しかし形にはならない。

 クマソの話が、容赦なくねじりこまれる。


「そして彼女は見捨てられた。今の技術を使えば、不妊を治すことは簡単です。しかし、スナドリの父はそれをよしとしなかった。身体が健康に戻っても、『穢れた』事実は変えられない。だから、こう考えた。『彼女は廃棄して、また新しく作り直そう』と。残された彼女は再び……そして以前にも増して、創作に没頭した」


 やめろ。

 彼は思い出の中に逃げ込む。彼女の黒い瞳を、思い出したような微笑を思い出す。

 だがその輪郭もまた、あやふやに融けている。


「一方で私は、『品評会』を立ち上げるべく、人間派の一派に接近していました。……貴方はきっと、我々をただの危険人物と見ているのでしょうね。しかし、考えてもみてください。我々の世界は、既に機械に支配されている。我々の行動は逐一監視され、自分たちでも気付かぬうちに、嗜好にあった商品や行動が次々に提示される。最適化という名の、制限された選択肢。ついには、治安維持の名を借りて人々を監視する、都市管理機構という組織まで成立してしまった」


 ガビマル。『市民のため』と称して平然と見知らぬ他人を殺し、同級生を拷問にかける男。最大多数の幸福のために、少数を殺す。なるほどそれは正しいのだろう。共同体を維持する上では。


「確かに、我々は幸福です。機械知性の“最適な”提案に乗っている限り。しかし、そこに人類の尊厳はあるのでしょうか? その上精神世界までカリスに奪われてしまうのなら、もはやヒトはただの家畜だ。だから私は、藝術を人類の手に取り戻そうとしました。クマソコンツェルンの――倫理の及ばない国家企業体の権力を、最大限に利用して」


 彼の脳裏には、懐かしい光景がリピートされている。それは、大学での昼下がり。円形劇場跡でのひととき。草いきれとそよ風。執拗に見る夢。そのイメージの痕跡。


「そして、我々は出会った。彼女はすぐに、誘いを受けてくれましたよ。クマソコンツェルンの庇護を受けて、彼女は一層制作に打ち込み始めます。私の思惑を超えて……。彼女は私を踏み台に、クマソコンツェルンの中枢に近付いていました。この事実は、当時の私には伏せられていましたがね」


 彼の下に行ってから、彼女の作品作りは本格的に始まった。まず作成したのが、「パイプ」……脳を強化し、観察力を高めることで、人の心情を知覚できるようになる薬物だ。それを利用して人心を掴み、秘密裏に人脈を築き上げる。全ては、作品のための下地作り。


「彼女は寡黙でありながら、実に人の心に取り入るのが上手かった。一方で、当時の私は、少なからず彼女に失望していたことを打ち明けておきます。彼女が発表した作品は、どれも期待よりも凡庸で、ありふれたものだったからです」


 どこがだ、と彼は考える。違法薬物、クローン製造、自己代謝機械の作成――違法技術のオンパレードだ。確かに他の参加者と比べれば地味な作品が多かったが、どれも法律の埒外にあるものには違いなかった。もっとも、『品評会』そのものがそうした性質を持っている以上、当然ではあったのだが。


「しかし、その失望は間違いでした。彼女は想像以上の仕掛けを施していた……作品に仕込まれた無数の分子群。それは互いにデザインの異なる受容器を持ち、結合して変容することによってまた別の受容器を構成し、あたかも自らが意思を持ったように組みあがる。それは我々の生体機械群バイオマシンを狂わせ、乗っ取り、正常であるかのように擬装しつつ、トリガーが引かれるのを待っていた。他ならぬ


 都市管理機構の突入を持ちかけたのは、他ならぬ彼女だったとクマソは言う。上層部が、悪名を高める『品評会』を疎ましく思っていたことも、都市管理機構が<プール>による犯罪を突き止めていたことも、彼女は知っていた。突入するとなれば、都市管理機構は彼女をダシに、キジマを利用するだろうことも。

 彼が引き起こした騒ぎに乗じて、クマソの脳内で組み上がった生体機械群バイオマシンに、一つの命令が下される。牙を剥いたそれらは彼の脳を破壊し、同時に別のものに置き換えた。意識の変容。脳話セレフォン受容体への刺激をトリガーにして反応を起こす一つの機械知性……生きながら『再構成』された人格。すなわち生き人形へと。

 だが、それを彼が知ることはない。


「そして私は生まれ変わりました。彼女の、いえ、彼女が目指すものの僕……生贄として。それから今に至るまで、貴方を導くべく、全てを投げ打って調整に動いていたのです」


 今の自分は、クマソコンツェルン亜細亜第七支部長ではなく、地位も資格も、あの品評会の敷地も全て失った、ただの一市民である……とクマソは言った。それら全てを取引材料に、今の一時の安寧を手に入れたのだと。


「私は今日の安寧と引き換えに、全ての罪を告白する、と上層部に伝えました。それだけでなく、他支部が抱える様々な仕事も、全て私一人が独断で行ったことにすると。コンツェルンの転覆を企み、裏社会との接点を積極的に構築していた……。そんなストーリーを自分で用意しました」


 正気の沙汰ではない、と彼は思った。


「私がおかしくなったと、そうお思いでしょう? そうでしょうね。しかし、彼女がそう命じたのです。彼女の『作品』の中で、私は導き手であり、生贄なのだと。彼女の言葉に、私は従うのみ」


 あっさりと肯くその笑顔に、彼の狼狽は加速する。


『彼女は<プール>を使ってクマソを再構成したのではないか? かつてクマソが多くの人々にそうしていたように。僕とガビマルがそうしたように』


 ……あるいは都市管理機構が、外注脳アウトソースユニットを使って、そうしているように。

 だが自らの役割を終えたクマソはそれから口を閉ざし、キジマは何一つ疑問が解決しないことに不満と焦りを覚えながらも、表情の抜け落ちた顔を正面に向けていた。

 車内を第三者が見渡したとしたら、それは奇妙な光景だっただろう。

 運転手のいない車の後部座席に、男二人が黙って乗っている。二人は笑みを交わすでも、反目するわけでも、疲れた顔で眉間を揉むわけでもなく、マネキンのように鎮座している。オートメーションで動く車と、。そこにヒトはいない。

 やがて車はハイウェイを降りる。目的地はすぐそこだった。

 もしキジマが首を巡らすことが出来たなら、懐かしさに驚いていたことだろう。

 開いたままの正門から車は静かに入り、しばらく走って、停まった。


「さあ、着きましたよ」


 スイッチが入ったかのように、クマソが明るい声で言い、先に車を降りる。トランクが開く音。それから車椅子がおろされ、組み立てられる音。

 キジマ側のドアが開く。彼は力強い手で抱き上げられ、車椅子に座らされる。


『ここは……』


 自分の意思とは無関係に正面を向いたキジマの脳内で、驚きの声が上がる。

 彼の頬を撫でる、ぬめりを帯びた夜気。冴え冴えとしたLED灯の灯があたりを照らし、その明るさによって、むしろ奥の闇を際立たせている。

 そこは、広場だ。

 擂り鉢状の広場。かつては野外劇場だったというその場所は、今も昼間は学生たちの憩いの場になっている。だが、深夜である今、人影はひとつとしてない。

 クマソはゆっくりと、車椅子を押していく。

 中心へ。

 そこには昔の名残で、小さな円形の舞台がしつらえてあった。コンクリートで出来た、ひび割れだらけの舞台。

 

 


 彼の意思が急激に膨らみ、身体の外へ出ようともがいた。彼は必死に立ち上がろうとし、喋ろうとし、名前を呼ぼうとする。だがその全ては失敗に終わった。悪態、怒り、悲しみ、無力感――一通りの試みと罵倒と自省が終わった後で、彼はついに、脳話セレフォンでわたしの名前を呼んだ。





 それが、最後のトリガー。彼の拡張された脳話セレフォンチャンネルが開かれ、。互いが互いの考えを外注アウトソースし、わたしは、彼は、キジマは、スナドリは、相互に参照しあう一つの知性となる。

 

 そして再び、わたしかれは語り出した。


 ――かつてキジマだった存在と、かつてスナドリだった存在が。

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